セピア色の秘め事

樹木緑

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第3話 辞令

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「サム! ここにいたのか!」

噂をすれば何とやらだ。
所長が目ざとく僕を見つけて、
スタスタと歩み寄って来た。

所長の顔には少しの焦りが見える。

恐らく、

“あの事”

を理事長に聞いたのだろう。

「所長、僕の事探してたんですよね?

今、スティーブにそう聞いたところだったんです」

僕がそう言ったのと同時に、

「サム、君、日本へ行くそうだね」

と来たので、

“やっぱり!”

と思った通りだった。

「今、上の方から通達があったんだ。

嫌に急だね。

今君に抜けられると困るんだけど……

日本行は君が希望したのかい?

僕の方には全然そう言った話は出ていなかったんだが……

所長の僕の許可なしに、
研究員を移動させるのはいかがなものかと思うんだが……

全く上は何を考えてるんだか……

現在進行中の研究もあるのに、
まったくどうしてくれるんだよ!

この研究にはサムが要るんだよー!」

そう言って所長が僕の肩に頭を垂れた。

スティーブも寝耳に水だったようで、
自分も日本へ行くと駄々をこねだした。

「ドクター・ディキンズが日本へ行くんだら、
私も行きます!」

そうきたので、僕は咄嗟に、

「は? 何言ってるの?

そんなことできる訳無いでしょ?」

と答えていた。

出来なくないわけではないだろうけど、
今回の僕の日本行は少し訳アリだった。

勿論そんなことはこの研究所の中には誰一人いない。

でも、スティーブも引き下がらない。

「ドクターが行けるんだったら、
私だって行けますよね?」

「あのね、これは遊びじゃなくて仕事だから!」

「じゃあ、私は仕事を辞めてドクターに付いて行きます!」

「それこそ、何でー?!だよ? 
どうしてそんなに日本へ行くことにこだわるの?」

「日本へ行くことじゃなく、
私はドクター・ディキンズと仕事がしたいんです!

私はドクターから色々と学びたいんです!」

「いや、慕ってくれるのは嬉しいけど、
此処にも沢山素晴らしい人はいるよ?」

「でも…… でも……」

スティーブのそんな終わりのない言い訳のループに
僕の事を気の毒に思ったのか、

「ほら、スティーブ、お前は俺と一緒に来い!」

そう言って所長は嫌がるスティーブを、
なんとか引っ張って連れて行ってくれた。

そして数歩、歩いたところで思い出したように、

「そう言えば、理事長がサムの事を探してたぞ!」

そう言って今だ僕の名を叫んでいるスティーブの頭を叩くと、
今度は耳を掴んで引っ張って行ってしまった。

角を曲がって姿が見えなくなってしまっでも、
スティーブの僕を呼ぶ声は、
まだ小さく木霊していた。

僕はくすっと小さく笑うと、
真剣な面持ちに切り替え、
ギュッと拳を握り締めると、
辺りを見回して誰もいないのを確認して、
理事長室へと早足で歩いて行った。



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