セピア色の秘め事

樹木緑

文字の大きさ
上 下
36 / 52

第36話 やって来たスティーブ

しおりを挟む
まさか日本でスティーブに会うとは思っていなかった。

「ドクターに会いに来たんですよ!

もう、本当に急に日本なんかへ行くから!

今アメリカの研究所はドクターに抜けられて大変なんですよ!

僕、耐えられなくて書き置きだけ残してきちゃった……

どうしよう~

何も考えなしで飛び出してきたから泊まるところも決まってなくて~

ねえ、ドクターのところに2、3日泊まれませんか?」

そう尋ねるスティーブを横目に、
辺りに気を配った。

顔で愛想笑いをすると、
目だけを動かして辺りを見回した。

“ああ、神様……

ボディーガードは?

いつも僕のそばにいるんじゃ無いの?!

どこ?!

ちゃんと居るの?!”

僕は祈る様な気持ちで辺りを見回したけど、
それらしき人はいない。

“カブちゃんの嘘つき!!

ちゃんと僕にはボディーガードが付くって言ったくせに!!”

スティーブは一人でブツブツという僕を見ると、
クスッと小さく笑った。

その表情までが、

“捕まえたぞ”

と言って、せせら笑っている様で、
少し身震いがした。

“どうしよう……

ここでスティーブに会ったのは本当に偶然?

本当にスティーブが言う様に
只僕を追ってきただけ?”

段々血の気が引いていく様な感覚に見舞われ、
僕は少し眩暈がした。

スティーブは直ぐに僕を支えると、

「ドクター! 大丈夫ですか?!

どこかで少し休みますか?」

そう尋ねるスティーブの手を押し退けると、

「ごめん、僕は大丈夫だよ」

そう言って背筋をシャキッとした。

「ドクター? どうしたんですか?

顔色どころか、様子も変ですよ?

僕の突然のサプライズの訪問にビックリしたとか?!」

そうジョークの様に言われても、
ドクン、ドクンと心臓が激しく脈打つだけで全然笑えなかった。

スティーブは少し怪訝な顔をすると直ぐに辺りを見回しながら、

「それにしても東京って凄いですね。

僕の想像していた所とはちょっと違いました~

ネットで見ただけでは分からないもんですね~

日本は狭い所に
人が寿司詰め状態で動いてるのかなと思ってたんですが、
そんな事全然ありませんね~

でも不思議な街ですね!

ドクターはもう東京での生活には慣れましたか?!」

スティーブのそんな質問攻めにあっていると、

「あ、サムめっけ~!」

そう言って陽向が向こうから走ってやて来た。
しおりを挟む

処理中です...