龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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初めての経験

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父さんを魔法で攻撃した日から、

“あの魔法を使えなかった日々は何だったのだ?”

と言う様に、僕は最も簡単に魔法が使える様になった。

父さんの話によると、
僕は赤ちゃんの時には回復魔法が使えていたらしい。

使った回数は数回程だったらしいけど、
父さんが人に変化する様になって以来、
それまで使えていた魔法が嘘の様に使えなくなったそうだ。

まあ赤ちゃんの頃だったから
僕自身は全く覚えてないのだけど、
本当の父親が最高神官で上級回復師だと聞くと、
僕が回復魔法が使えるのも納得してしまう。

その反面、母さんは何の魔法も使え無かった様だ。

父さんは殆ど両親の事は話してくれないけど、
僕が両親の事を尋ねる度に僕に見せる表情を考えると、
何時もそれ以上は聞けなくなってしまう。

きっと父さんは彼らの事を
心から愛していたのだろう。

僕を引き取るまでは人の姿になれなかったと言う父さんは、
僕の両親とは人と龍の付き合いになる。

そんな彼らの関係もすごく興味があるけど、
何時も悲しそうな顔をする父さんの気持ちも汲んで、
今は未だそっとしておくことに決めた。

父さんが本当の父親では無いと知った時は
とてもショックだったけれでも、
父さんは相変わらず僕の父さんで、
僕の父親という事に変わり無かったので、
僕達の関係が崩れる事はなかった。

彼は変わらず僕を愛してくれて、
僕も父さんが大好きだった。

僕がもう直ぐ12歳になろうとする頃
その感情は突然にやって来た。



僕が見ていたあの何とも言えない不思議な夢は
12歳になろうとする頃もずっと続いていた。

朝起きて覚えてることもあれば、
全く覚えていない事もある。

大体は同じ様な夢の繰り返しだった。

でもその夜の夢はいつもと違った。

きっと昼間起こった事のせいだろう。

僕の魔法は回復魔法に特化した物だとずっと思っていたけど、
僕が使えた魔法は回復魔法だけでは無かった。

突然起こってしまった魔法の混合は、
僕の髪を茶色とも金色とも言えない色に染めてしまったのだ。



その日の朝も、僕はいつものルーティンの様に
魔力を流す練習をしていた。

でもその日の朝は魔法の練習をしながらいつになく上の空だった。

使える魔法は回復魔法だけだし、
父さんからはアンデッド以外の生き物を
傷つける事はできないと聞いていたので、
はっきり言って魔法の練習を甘く見ていた。

僕は何時もの様に掌に魔力を抽出してそれを空中に向けて放っていた。

魔法を掛けるのに詠唱のいらない僕は、
無意識のうちに魔法を発動させる事ができる。

実際今までも、退屈だと思いながら、
何気なくやっていた時もある。

でもその日の朝は何かが違った。

早くその事に気付くべきだった。

余りにも呆けていた僕は、
コントロールを間違い魔法が暴走してしまったのだ。

暴走した魔法は空中で混じり合い、
僕の頭上にだけ黒い雨を降らせた。



何故その日の朝は上の空だったのかと言うと、
朝起きた時に目の前にあった父さんの寝顔にドギマギとしたからだ。

これ迄の11年間、もう直ぐ12年目に入ろうと言うのに、
父さんの寝顔をあんなに近くで見たのは初めてかもしれない。

いや、僕が未だ小さかった頃はあったのかもしれないけど、
気にしていなかったせいか、覚えていない。

僕が5歳になった頃から父さんは、
何時も僕が起きる夜明け前には狩りに出てしまっていた。

だから僕が起きる時には殆ど此処には居ないのだ。

でも今朝はどう言うことか未だ眠っていた。

そしてフッと思ったのが、

”あれ? そう言えば父さん……

寝る時は何時も龍の姿なのに何故今朝は人の姿だったんだろう?“

と言う事だった。

その頃の僕には龍である父さんについて、
未だ分かっていない事があった。

僕が父さんの寝顔を覗き込んでいると、
父さんはトロンとした様な顔をして起き出して来た。

「今朝は遅いね?

今日は狩りには行かないの?」

未だトロンとしている父さんにそう尋ねると、

「いや、今朝早くに少し水浴びに……」

と、急にいつもとは違う事を言われ、

「へ? 水浴び? 一人で? 朝早くから?」

そう尋ねると、父さんは欠伸をしながら、

「ああ、水が冷たくて気持ち良かったぞ」

そう言って伸びをした。

「水浴び……僕だって未だやった事ないのに!

僕も連れてって! 連れてって!」

そう言って父さんの肩を揺さぶると、
父さんは起き出して来た。

「う~ん、また今度な」

そう言ってウダウダと返す父さんと、
地面に手をつけて話していた僕は
丁度目の前に立ち上がった父さんの股間を見て度肝を抜いた。

“ヒイッ!? 何だあれは?!

父さん、股間に何か隠してるのか?!

いや、龍だから人になっても規格外サイズなのか?!

え? え? 本当に?!”

ビックリして少し肩を後ろにずらしそり返ると、
父さんは

“何をしているんだ?”

と言う様な顔をしてスタスタと外に出ていった。

そう、僕は未だかつて人である時の父さんの裸を見た事がない。

まあ、龍の時は裸同然なんだろうけど、
何が何だかよくわからないし、
意識した事もない。

途端、僕の頭の中は、
父さんのパンツの中にある物の事でいっぱいになった。

外に出て行く父さんを唖然としてみていると、
父さんはクルッと振り返って、

「翠! 朝食は未だだろう?!

昨夜の残りでいいか?」

そう言ってニコッと微笑んだ。

呆けて見ていた父さんのその問いに、
僕はただコクコクコクと頷くしか無かった。

僕にとっては初めてのぎこちない朝食だったけど、
父さんは朝食が終わるや否や遅い狩へ出掛けていった。

そして僕は今に至る。

今朝の事をなん度もなん度も繰り返し思い出していた僕は
感情が昂り、気付いたら魔法が暴走し、
僕の周りの砂埃や小岩が砕けて僕を取り巻く空気と共に上昇して舞い上がり、
その土埃は僕の指先から飛び出した火に焼かれ真っ黒な粉になり、
その後飛び出した水と混ざり合って真っ黒な雨となって僕に降り注いだのだ。

思いもしなかった状況にまた唖然として固まった僕は、
思いっきりその黒い雨をこの身に受けてしまったのだ。

「うえっ、ペッ、ペッ」

と口に入った泥水を吐き出し、
体についた真っ黒な水滴を手で払っていると、
父さんが早くも狩りから帰って来た。

“ゲッ! 父さんが帰って来た!”

僕は急いで身繕いをしたけど、
真っ黒な雨に降られた僕が、
少し身繕いをしたくらいでそれを隠せるはずがない。

父さんは僕の前に降り立つと、
グチャグチャのドロドロになった僕を見て、

「一体何が起こったんだ?!」

とビックリしていたけど、状況を把握したのか、
その後は僕を見て大声で笑い出した。

「ハッ! そうか、そうか、やっと思い出したか!」

そう言うと、僕の頬を流れていく水を手で拭きながら、

「もうそろそろだとは思っていたんだ!」

そう言うと、

「酷い形だな。

お前も水浴びに行くか?

今だと誰かに会ってもお前だとは気付かれないだろう」

そう言われて、

“?”

と言う様な顔をすると、

「さあ、私の背に乗りなさい」

そう言って又龍の姿になった。

僕が父さんの背に飛び乗ると、
父さんは勢いよく空中に飛び上がった。

『しっかり掴まっていろよ!

ゆっくり行くが、風が強ければ教えるんだ』

父さんはそう言うと、ゆっくりとスピードを上げ始めた。

“何処まで水浴びに行くんだろう?

この辺に水浴び出来るところがあるんだろうか?

それにしても見渡す限り岩場ばかりだな……”

そんな事を考えながらも、
少しワクワクとした気持ちになった。

何と言っても、水浴びなんて初めてのことだ。

それに父さんの背に乗るのも久しぶりだ。

父さんは僕が苦しくならない様に低めの高度で飛んでくれた。

僕は少し身を乗り出してその行先を見た。

父さんの進む方向にはキラキラと何かが光っていた。

“アレは!!”

そのキラキラを見た時、
もしやと心が躍った。

父さんがそのまま南へ下ると、
そこには壮大な海が広がっていた。


”やっぱり海だ!!

これが父さんが教えてくれた海なんだ!

あ~ 本当に独特の香りがする……

これが潮の香りというものなんだ……“

海を見るのも初めてだった。

僕は潮の香りを胸いっぱいに吸った。

“凄い! まるで夢を見てるみたいだ!

何て深い青い色の海なんだ……

綺麗だ…… この景色は綺麗すぎる……”

僕は涙が出る様な思いだった。

顔を風に晒すと、
潮風が顔に当たりとても気持ち良かった。

岩場ばかりの家から出たのは、
ショウの屋敷へ行った時を除くと今日が初めての事だった。

ショウの屋敷へ行った時のことはもうほとんど覚えていない。

行く時は意識が朦朧としていたし、
帰る時は暗い夜だった。

初めての経験に僕は胸躍る気持ちだった。

顔に当たる潮風を楽しんでいると、
父さんは進行方向を北へと変えた。

“あ、海から離れて行く……”

僕は後ろを振り返りながら
見えなくなって行く海を最後まで楽しんだ。

海が見えなくなると、
今度は緑の絨毯が見えた。

“凄い! 緑が広がっている!

これが森と言うものなんだろうか?!“

緑の森を見るのも初めてだ。

僕は此処でも息を思いっきり吸い込んだ。

“あ~ これが自然の匂いという物なんだろうか?

爽やかな香りだ……

海の香りとは全然違う!”

何もかもが初めてのことで、
僕は胸躍る気持ちだった。

でも直ぐに緑の絨毯はなくなり、
景色は岩に覆われた山に変わり、
そしてそのまま父さんは、
今僕たちの住む場所と同じ様な風景のところへ舞い降りた。

「翠、着いたぞ」

父さんがそういうと、
僕はスルッと父さんの背から滑り降りた。

周りを見回しながら、

「え? 此処で水浴びをするの?!

父さん、此処は何処……?」

そう尋ねる先を見ると、
今僕たちが住んでいる様な同じ洞窟を見つけた。

「父さん見て!

此処にも洞窟があるよ!」

そう言って駆け寄ると、
中には人が住んでいる様な形跡があった。

僕がそこで立ち止まり父さんの方を振り向くと、
人に戻った彼は僕を越してスタスタと中へと入っていった。

「と、父さん!

此処、誰かの家だよ!

人が帰って来たらヤバいよ!」

慌ててそう言ったけど、
父さんは僕のセリフを気にしない様に奥に進むと、
奥にあった箱の中をゴソゴソとし始めた。

「父さん!

な……何してるの?!

人の物は触っちゃダメなんでしょ?!

ほら、なんて言ってたっけ?

アレになるんでしょ?

え~っと……ど……ドロボウ……

そう! 人の物を取っちゃうと泥棒になるんだよ!」

慌ててそう言うと、
父さんはクルッと振り返って手を差し出した。

彼の掌には一つのブロックの様な塊があった。

「父さん!

人の物取ったらダメだよ!

誰か帰ってくる前に早く元に戻して!」

そう言うと、彼はフッと微笑んで、

「大丈夫だ。

此処は私の家だ」

そう言うので、僕は

「うへっ? え? 家? 父さんの? 

え~~~っっっ!!!」

と叫んで一歩退いた。

父さんはクスッと小さく笑うと、

「私に着いて来なさい」

そう言って外に出た。

僕は洞窟を振り返り、振り返り父さんの後を着いていくと、

「翠、此処は私がお前の両親と住んでいた場所だ」

そう話し始めた。
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