龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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彼等の日々をなぞって

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父さんが急に、

”翠、此処は私がお前の両親と住んでいた場所だ”

などと言うから僕は立ち止まって後ろを振り返った。

父さんが僕の両親について話してくれる事は殆どない。

まさか僕の両親と住んでいた所に連れて来てくれるとは
夢にも思わなかった。

”この道も彼らは歩いたのだろうか?”

ふとそんな思いが頭を過った。

洞窟までの今通って来た道のりを目で追うと、
僕は不思議な気持ちに駆られて呆けたようにして洞窟の方を眺めていた。

「翠……」

父さんが不意に僕を呼んだので、僕は父さんの方を振り返った。

まだ夢の中に居るような感覚で父さんを見上げると、

「翠……ここには奴らが残していった服などが数点まだ残っている……

さっき見た時も良い状態で残っているようだから帰る時に持って帰ろう」

そう言うので、

「それは僕の本当の父さんの服だったの?」

そう尋ねると、

「いや……お前の両親と一緒に住んでいた……」

父さんがそう言いかけて洞窟の方を見た。

「僕の両親と一緒に誰かほかにも居たの?

まさか僕の兄弟では無いよね?」

そう尋ね、僕も又洞窟の方を振り返った。

父さんは何かを思い出すように洞窟を見つめると、

「いや……あと二人お前の両親と共に居たんだが、
一番若かったのが丁度今のお前の年位だったんだ」

そう言うと、少し目を伏せた。

父さんは何かを思い出すように少し目を伏せたままで
静かになると、その場に立ち尽くした。

”父さん、急に黙り込んじゃってどうしたんだろう?”

少し不安げに父さんの顔をお覗き込むと、
僕は彼の裾を掴んだ。

父さんがそれに気付き、

「あ、すまない」

そう言って覗き込んだ僕の頭をクシャッとすると、
僕はすぐさま、

「ねえ父さん、父さんが言った……
僕の両親と住んでいたその二人は今どうしてるの?」

そう尋ねると、父さんは静かにほほ笑んで、

「歩きながら話すから先へ進もう。

もう直日も暮れる……」

父さんがそう言って歩き出したので、

僕はもう一度洞窟の方を振り返り、

”彼らはあそこに居たんだ……”

そう思いながら洞窟の方を振り返り、振り返り先へ進んだ。

「ねえ父さん?」

一つの疑問が湧いてズンズン進んでいく父さんに声をかけた。

「あのさ、さっきチラッと見たんだけど、
此処は生活用品も割と揃ってるみたいだし、
今の家よりも住みやすそうなのに、
どうして此処に住まなかったの?

今の家はショウ達が近くに居るから?

ここまで飛んできた距離を考えると、
割と今住んでるところから遠いよね?」

そう尋ねてみた。

父さんは少し考えたようにすると又立ち止まって、
言葉を選ぶように

「此処は奴らに見つかる可能性がある……」

静かにそう言って僕を見た。

父さんのそのセリフにドキッとすると、
僕も父さんに合わせて立ち止まり、

「え? 奴らって……誰の事?」

そう言って父さんを見上げた。

僕の心臓は何故かドクドクと強く、早く脈打っていた。

まるで父さんがこれから言う言葉を知るかのように……

耳を塞ぎたくなるような感情を押し殺して僕は父さんを見上げた。

父さんはきっとそんな僕の感情を読み取ったのだろう。

彼は険しい顔をすると、一言一句に力を込めて、

「お前の両親を殺した奴らだ」

そう言って又歩き出した。

”え? 何? 父さんは今何と言った?!

僕の両親を殺した?!”

僕の全身の血が逆流するようだった。

「ちょ、父さん! ちょっと待って!

僕の両親って誰かに殺されたの?!

どうして今まで話してくれなかったの?!」

そう大声を上げた。

父さんは今まで両親が亡くなった経緯を話してくれた事がなかった。

予測しなかったセリフに僕が大声を上げると、
父さんはさらに険しい顔をして

「お前には、はっきりとこの話をしたことはなかったが、
私がお前を隠すのは、お前の両親を殺した奴らに見つからない様にするためだ」

そう言って進行方向をフッと向き直すと、
スタスタと早足で歩き出した。

「と……父さん、ちょっと待ってよ!

まだ上手く、話が飲み込めないんだけど!」

初めて父さんの口から聞く出来事に
僕は一言でも聞き漏らさないよう早足で駆けて父さんの横に並んだ。

そして父さんの裾を掴むと、

「ねえ……なぜ僕の両親は殺されたの?!

もしかしてこの前話してた

”駆け落ち”

が原因ではないよね?

ねえ、母さん達を殺した人達は僕のことも狙ってるの?!

だから僕は誰にも会えないの?!」

そう言って父さんの顔を見上げると、
父さんはまた立ち止まった。

父さんは僕を見つめて首を振ると、

「お前の事は分からないが、
私は完全に奴らに狙われている……」

そう言って僕の頭を撫でた。

「え? 父さんが?

何故父さんが狙われているの?

父さんが龍だから?!

でも龍ってこの世には沢山いるよね?!

どうして父さんなの?!」

そう尋ねると、

「まあ、付いて来なさい」

そう言って父さんは又歩き出した。

彼の後を早歩きで着いていくと、
急に眼の前の景色が変わった。

「父さん! 見て! あれは森って言うもの?!」

目の前に広がる緑の景色に興奮した様に尋ねると、

「いや、あれはジャングルと呼ばれる熱帯雨林地帯だ……

前に教えただろう?」

そう言って父さんは僕の方を見た。

「うん、それって暖かくて雨の多いところに生い茂る植物地帯の事だよね?!

これが父さんが僕に見せたかった所なの?

ここが父さん達と父さんが奴らと呼んでる人達に関係のある場所なの?!」

そう言うと彼はある場所を指さした。

父さんが指さした先を見つめると、
そこに盛り上がったスポットを見つけた。

“え? 石碑……?

もしかして誰かのお墓?”

土が盛り上がった所には石碑の様なものが置いてあって、
それを見た途端僕の心臓が暴れ出した。

”もしかして……

もしかして……”

僕は走ってその石碑の所に駆け寄った。

石碑の上には何かが彫ってあったけど、
とても古そうな石碑だった。

その石碑は長い年月雨風に晒されてたせいか、
薄れてもう読めなくなっていた。

僕は後からやってくる父さんの方を振り返ると、

「これはお墓?」

そう尋ねた。

父さんは頷くと、

「此処に来た理由の一つは、
お前に此処を見せたかったんだ」

そう言って石碑に積もった埃を払った。

「誰のお墓なの?」

僕はもうこれが誰の墓なのか分かっていたのにそう尋ねると、
父さんは周りに茂った草を抜きながら、

「これはお前の両親の墓だ。

奴らはこの下に眠っている」

そう言って辺りを払って墓場を綺麗にした。

僕は父さんの言ったセリフを暫く消化する時間が必要だった。

“やっぱり思った通りだ……

此処が僕の両親の墓なんだ……”

僕の頭の中でその事が暫くグルグルと回っていた。

僕は墓の前に身を乗り出すと、

「僕の母さんと本当の父さんは此処で眠っているの?」

そう尋ねると父さんは、

「ああ、私がアイツらを此処に埋葬したのだ」

そう言って両親の墓の前に跪いた。

僕も父さんの隣に跪くと、

“父さん……、母さん……、

翠だよ。 やっと会えたね”

そう言って墓の上に頬を付けた。

会ったことも、
父さんからほとんど話を聞いた事もない両親の事なのに、
何故か懐かしくて、愛しくて、涙が後から溢れて止まらなくなった。

“父さん……母さん……”

そう呟き墓にキスをすると、

『翠、愛してるわ』

そう聞こえた様な気がした。

僕はその声を追って空を見上げた。

”母さん……“

そう呟いて涙を拭くと、
反対側にも同じような墓がある事に気付いた。

僕はそっち側を指差して、

「ねえ、父さん。

あれもお墓だよね?

向こうは誰のお墓なの?

もしかして僕の両親と一緒に住んでいた
他の二人の人?

彼らも奴らに殺されたの?」

顔を上げ尋ねると、
父さんは渋い顔をした。

“どうしたんだろう?

二人のものでは無いのかな?

もしかして話したくない人なのかな?!”

そう思って又墓を見つめると、
胸が締め付けられる様な鼓動に駆られた。

そして同時に恐ろしさを感じた。

”嫌だ……あっちの墓は見たくない……”

急にそう感じた。

「ねえ、父さん……」

僕は父さんの顔を見ると、

「ねえ、早く先へ進もう。

本当の父さんと母さんにはもう挨拶したからさ!」

そう言って立ち上がった。

本当の父さんや母さんと離れるのは名残惜しかったけど、
向こうの墓の事を考えると、僕は早くここを離れたかった。

なぜそう感じたのは全く謎だけど、
どうしても向こうの墓を見るのが怖かった。

父さんは

「分かった」

そう一言いうと、先に歩き始めた。

僕はもう一度本当の父さんと母さんの墓を振り返ると、
先行く父さんの所へ走って行った。

怖くてそばに行く勇気はなかったけど、
もう一つの方の墓の方も振り返り、振り返りしながらも、
見えなくなるまで振り返って見た。

このジャングルの中は先ほどまで居た岩場ばかりの
乾燥した場所とは違い、
汗が噴き出るほど暑かった。

僕はこれまでどんなに暑くても、
こんなに汗が滴る様な感覚を覚えたことはない。

「父さん、ここは何故こんなにも
水に触れたような空気の感覚がするの?

これが湿気と言うのも?」

少し息苦しくなった感覚に囚われながらも
話し続けた。

「そうだ。

この辺りは雨も多いからその関係で空気中に沢山の水分が含まれる。

だがもう少しで目的の場所に付くはずだ」

父さんはそう言うと、先を急いだ。

ガサガサと生い茂る植物を手で掻きわけて進んでいくと、
ザーっという音が聞こえてきた。

”待って……これは何の音だ?!

この音は以前聞いた事がある……

でも……何処で?!”

ドキドキとしてきた胸に手を置くと、
体中が震えている事に気付いた。

”どうして……

どうしてこんなに緊張しているんだ!”

僕は立ち止まりその音に聞き入った。

「翠! 何をそんなところで立ち止まっているんだ!

私は先に入っているからな!」

父さんはそう叫ぶと茂みの向こうへと消えていった。

”え? 入るって何に?!”

父さんが消え行った茂みの方を見ると、
更に僕の心臓がどきどきとしてきた。

”ちょっと待って、ちょっと待って……

僕の記憶が正しければ!”

僕は恐る恐る茂みに近付き震える手を
その一枝に掛けた。

”知ってる! この感覚を知ってる!

この葉をかき分けると向こうにあるのは!”

僕はそっと葉をかき分け茂みの間から向こうを覗き見た。

ドキドキと高鳴る心臓を鎮めるように
僕はそこに広がる景色に金縛りにあった様に一歩も動けなくなった。

”ここは……

ここは……前に来たことがある!

此処に居たのは……”

その時バシャバシャとする音が聞こえ、
流れ落ちる水の向こうで水しぶきが跳ねた。

そこには裸になった父さんが落ちてくる水を体に浴びながら
何かゴソゴソとしている所だった。

その風景を見た僕は思わず、

”ダリル……”

そう呟いた。


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