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第12話ーヘルハウンドの群れ①
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リリアンが公爵邸に来てから1ヶ月が経った。
決まった時間に騎士団を訪れ、怪我人が出てないか確認し、合間の時間で薬草を作ったり、街の診療所へ手伝いに出向いたりして過ごしていた。
「リリアンさんが来てからとても助かっているよ」
街の診療所の治癒師、カザンは穏やかに言った。
「私も勉強になります。騎士団の方たちは鍛えているので、大きな怪我はしないから」
リリアンは持ってきた薬草を分けながら言った。
もともと魔力さえあれば治癒魔法が使えるこの世界で、治癒師の存在はそこまで重要視されていない。
そのため診療所を訪れる者は多くない。
助手で妹のカナリアが呆れて言う。
「もともと忙しくないでしょ。兄さんが嬉しいのはリリアンさんに会えるからじゃない」
カザンは慌てて話題を変えた。
「そういえば最近東の森に魔物が頻繁に目撃されてるらしい。昨日も行商人の人が襲われてうちへ来たんだ」
「そうみたいですね。騎士団でも話題に上がっていました。近い内に討伐隊が組まれるかもしれません」
護衛で付いてきたエドガーが言った。
「エドガー卿も行くことになるの?」
「はい。ただ閣下が領地の視察から戻られてからになります。数日中にはお戻りになるので」
そうなのだ。ロヴェルはこの1ヶ月、ほぼ邸にいなかった。皇城から戻った次の日には視察に出発した。ということは、視察から戻ったら次は討伐に行くということだ。
(本当に忙しい人なのね)
あの日渡したお土産は、置いた台からなくなっていたので、食べてくれたのだと思っている。
2人と少し話をして、お茶をした。
診察に来た、腰が痛いというお婆さんに貼り薬を渡したくらいで、患者さんはあまり来なかった。
(今日も平和ね)
良いことだ。
「お嬢様、そろそろ帰りましょう。日が暮れます」
「そうね。カザンさん、カナリアさんまた――······」
――バタンッ!!!
リリアンが帰ろうと立ち上がった時、勢いよく診療所のドアが開いた。
「カザンさん!大変だ!魔物の群れに襲われた!怪我人が居るから来てくれ!」
真っ青な顔で駆け込んできたその人も、顔に怪我を負っている。
外がざわつきはじめた。
「カザンさんはその方を治癒してください!私が行きます!どこですか?」
「東の街道だ!ーしかしあんたは?」
「私も治癒師です!エドガー卿行きましょう!」
しかしエドガーがリリアンの前に立ち塞がった。
「エドガー卿?」
「私は閣下よりお嬢様の護衛を任されております。お嬢様は邸へお戻りください。私がいきます」
「私は治癒師です!ロヴェルは私に自由に治癒をしていいと言いました」
エドガーは少し怯んだ。
「エドガー卿、公爵領民が危ないのですよ!」
リリアンはエドガーの横をすり抜けて走った。
「·····っ」
エドガーは葛藤している。しかしエドガーが止めようと思えばリリアンなんてすぐに静止できる。止められてないということは、そういうことなのだ。
「危ないと思ったらすぐに引き返してください!いいですね!」
条件を伝えながらエドガーはリリアンと一緒に街道へ向かった。
街道に着くと、すでに日が沈みかけていた。暗くなると魔物はさらに活発になる。
街道に着くと、先に駆けつけた騎士団が魔物と戦っていた。思ったより数が多い。
「ヘルハウンドか!こんなところまで······お嬢様はこちらで待機してください」
エドガーはそう言うと、騎士の1人にリリアンを預けて魔物の群れに向かった。
「負傷者はいませんか?私は治癒師です」
リリアンは騎士団に案内してもらい、怪我人の所へ向かった。
5、6人の怪我人が集まっていた。みんな噛まれたり、爪で攻撃されて裂傷したりしていたが、命に別状のあるものはいない。
「みなさん、すいませんがここにかたまってください」
リリアンが言うと、怪我人たちは騒ぎ始めた。街の外から来た人が多く、突然来た自分より若輩な者の言い分を聞くのは難しい。
「怪我人に何を言うんだ」
「早く治癒師を連れてきてちょうだい」
リリアンは仕方なく範囲を広げた。
(このくらいなら大丈夫だわ)
「エリア・ヒール」
リリアンを中止に、白い光の輪が出来た。輪は球体に変化し、光が収まると中に居た者の治癒は終わっていた。
そこに居た人たちは、怪我人もそうでない人も呆気にとられ、一瞬の静寂が起こった。
リリアンが立ち上がると、皆我に返り口々にお礼を言った。
「なんて高度な光魔法なんだ」
「初めて見たわ」
「痛くない!ありがとうございます!」
リリアンはにこりと微笑ってその場から離れた。
(ヘルハウンドなら、群れはひとつじゃないわ。エドガー卿は無事かしら)
「お嬢様!」
正面から駆けてきたエドガーに、リリアンはホッとして言った。
「魔物は?」
「片付けました。お嬢様、邸へ戻りましょう。またすぐ群れが来る可能性があります」
グルルルるる·······
言ったそばから、重低音の唸り声が聞こえた。藪の中から5、6匹のヘルハウンドが現れた。
エドガーが剣を構える。
すると、右側の方からもヘルハウンドの群れが現れた。
「なっ」
エドガーは思わず声を漏らした。
「多いな······」
恐らく、エドガー1人ならば問題ないのだろう。リリアンがいることが問題なのだ。
「お嬢様、攻撃魔法や、バリアなどは張れますか?」
「――うん」
間を開けてしまった。気づかれただろうか。
「では、私が前方の群れに斬りかかるので、すぐにバリアを張ってください」
気づかれていない。リリアンは治癒魔法以外はからっきしである。
だがここで出来ないとなると、エドガーが困る。魔力だけはあるのだ。やれば出来る。リリアンは自分に言い聞かせて頷いた。
決まった時間に騎士団を訪れ、怪我人が出てないか確認し、合間の時間で薬草を作ったり、街の診療所へ手伝いに出向いたりして過ごしていた。
「リリアンさんが来てからとても助かっているよ」
街の診療所の治癒師、カザンは穏やかに言った。
「私も勉強になります。騎士団の方たちは鍛えているので、大きな怪我はしないから」
リリアンは持ってきた薬草を分けながら言った。
もともと魔力さえあれば治癒魔法が使えるこの世界で、治癒師の存在はそこまで重要視されていない。
そのため診療所を訪れる者は多くない。
助手で妹のカナリアが呆れて言う。
「もともと忙しくないでしょ。兄さんが嬉しいのはリリアンさんに会えるからじゃない」
カザンは慌てて話題を変えた。
「そういえば最近東の森に魔物が頻繁に目撃されてるらしい。昨日も行商人の人が襲われてうちへ来たんだ」
「そうみたいですね。騎士団でも話題に上がっていました。近い内に討伐隊が組まれるかもしれません」
護衛で付いてきたエドガーが言った。
「エドガー卿も行くことになるの?」
「はい。ただ閣下が領地の視察から戻られてからになります。数日中にはお戻りになるので」
そうなのだ。ロヴェルはこの1ヶ月、ほぼ邸にいなかった。皇城から戻った次の日には視察に出発した。ということは、視察から戻ったら次は討伐に行くということだ。
(本当に忙しい人なのね)
あの日渡したお土産は、置いた台からなくなっていたので、食べてくれたのだと思っている。
2人と少し話をして、お茶をした。
診察に来た、腰が痛いというお婆さんに貼り薬を渡したくらいで、患者さんはあまり来なかった。
(今日も平和ね)
良いことだ。
「お嬢様、そろそろ帰りましょう。日が暮れます」
「そうね。カザンさん、カナリアさんまた――······」
――バタンッ!!!
リリアンが帰ろうと立ち上がった時、勢いよく診療所のドアが開いた。
「カザンさん!大変だ!魔物の群れに襲われた!怪我人が居るから来てくれ!」
真っ青な顔で駆け込んできたその人も、顔に怪我を負っている。
外がざわつきはじめた。
「カザンさんはその方を治癒してください!私が行きます!どこですか?」
「東の街道だ!ーしかしあんたは?」
「私も治癒師です!エドガー卿行きましょう!」
しかしエドガーがリリアンの前に立ち塞がった。
「エドガー卿?」
「私は閣下よりお嬢様の護衛を任されております。お嬢様は邸へお戻りください。私がいきます」
「私は治癒師です!ロヴェルは私に自由に治癒をしていいと言いました」
エドガーは少し怯んだ。
「エドガー卿、公爵領民が危ないのですよ!」
リリアンはエドガーの横をすり抜けて走った。
「·····っ」
エドガーは葛藤している。しかしエドガーが止めようと思えばリリアンなんてすぐに静止できる。止められてないということは、そういうことなのだ。
「危ないと思ったらすぐに引き返してください!いいですね!」
条件を伝えながらエドガーはリリアンと一緒に街道へ向かった。
街道に着くと、すでに日が沈みかけていた。暗くなると魔物はさらに活発になる。
街道に着くと、先に駆けつけた騎士団が魔物と戦っていた。思ったより数が多い。
「ヘルハウンドか!こんなところまで······お嬢様はこちらで待機してください」
エドガーはそう言うと、騎士の1人にリリアンを預けて魔物の群れに向かった。
「負傷者はいませんか?私は治癒師です」
リリアンは騎士団に案内してもらい、怪我人の所へ向かった。
5、6人の怪我人が集まっていた。みんな噛まれたり、爪で攻撃されて裂傷したりしていたが、命に別状のあるものはいない。
「みなさん、すいませんがここにかたまってください」
リリアンが言うと、怪我人たちは騒ぎ始めた。街の外から来た人が多く、突然来た自分より若輩な者の言い分を聞くのは難しい。
「怪我人に何を言うんだ」
「早く治癒師を連れてきてちょうだい」
リリアンは仕方なく範囲を広げた。
(このくらいなら大丈夫だわ)
「エリア・ヒール」
リリアンを中止に、白い光の輪が出来た。輪は球体に変化し、光が収まると中に居た者の治癒は終わっていた。
そこに居た人たちは、怪我人もそうでない人も呆気にとられ、一瞬の静寂が起こった。
リリアンが立ち上がると、皆我に返り口々にお礼を言った。
「なんて高度な光魔法なんだ」
「初めて見たわ」
「痛くない!ありがとうございます!」
リリアンはにこりと微笑ってその場から離れた。
(ヘルハウンドなら、群れはひとつじゃないわ。エドガー卿は無事かしら)
「お嬢様!」
正面から駆けてきたエドガーに、リリアンはホッとして言った。
「魔物は?」
「片付けました。お嬢様、邸へ戻りましょう。またすぐ群れが来る可能性があります」
グルルルるる·······
言ったそばから、重低音の唸り声が聞こえた。藪の中から5、6匹のヘルハウンドが現れた。
エドガーが剣を構える。
すると、右側の方からもヘルハウンドの群れが現れた。
「なっ」
エドガーは思わず声を漏らした。
「多いな······」
恐らく、エドガー1人ならば問題ないのだろう。リリアンがいることが問題なのだ。
「お嬢様、攻撃魔法や、バリアなどは張れますか?」
「――うん」
間を開けてしまった。気づかれただろうか。
「では、私が前方の群れに斬りかかるので、すぐにバリアを張ってください」
気づかれていない。リリアンは治癒魔法以外はからっきしである。
だがここで出来ないとなると、エドガーが困る。魔力だけはあるのだ。やれば出来る。リリアンは自分に言い聞かせて頷いた。
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