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第19話ーエリアルとエドウィン
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王太子、エドウィン・ド・イゾルテ。
彼に会うのは3年ぶりくらいだろうか。
前回の生では何度か会う機会はあったが、今生では数えるくらいしか会ったことがない。
エドウィンがあまり王宮から出ることがなかったからだ。
エリアルとエドウィンは、クライス邸の一室で二人で向かい合っていた。
「さて、何から話そうか。····それにしても、君は以前会った時の印象とだいぶ変わったな?」
そう言われて、エリアルはルシャナ先生の礼服を借りていることを思い出した。
高位貴族が催すパーティーにはとても着ていかれない、礼服と言ってもカジュアルで斬新なスーツだ。
「これは、知人に借りているのです。殿下、先ほど"繰り返している"と言いましたね。殿下もなのですか?」
「そうだ。私は前回と、同じ人生を今送っている。前回の人生がとてもー···後悔するものだったんだ。今回はそうならないよう努力しているのだが、あまり上手くいかないみたいだ」
エリアルは危うく涙が出そうになった。自分の、誰にも言えない事象を共有できる人がいる。王太子でなければ抱きつきたいところだ。不敬なので絶対にしないが。
「聖女が王宮に滞在しているのは知っているな?」
「ええ。殿下と頻繁にお会いしていると聞いています」
「そうだ。何度も訪問してくるから辟易していたんだ。しかし今日の聖女は様子が違っていた。私がなびかないことに焦りを感じでいるようだった」
エドウィンは苦々しくため息をついた。
「私は前回の生で、ルナマリアを失った。原因は聖女の魅了によるものだ。過ちを繰り返さないため、今回の生では聖女に極力近づかないようにしていたんだ」
エリアルは違和感を感じた。エリアルの前回の生の記憶では、ルナマリアに何か起こった記憶はない。
「聖女は、このパーティーでルナマリアに宿るはずのない闇属性の魔力が移ると言った。属性のない彼女では耐えられないだろうと····笑いながら」
エドウィンは拳に力を入れていた。怒りを抑えようとしているようだ。
「なるほど。だからジュナを頼りにいらしたのですね」
「ああ。前回の生で彼女が闇の狼を操るのを見た。彼女の属性は闇だろう?まだ覚醒していないようだが」
(狼を操る?僕は見たことがない)
「殿下、彼女には属性の事を言わないでほしいのです。私は今回で3度目の生を送っています。私ももうジュナを失いたくないのです」
エドウィンは怪訝な顔をしてエリアルを見た。
「···?ジュナ嬢も危険な身に?前回ではそんなことは···」
エリアルはエドウィンの視線を受け止めた。
「殿下、どうやら私たちは違う人生を経験したようです」
「そのようだな。クライス令嬢も私が知っている人物とは見た目も性格も異なっている。どういうことなんだ」
「殿下がご存知なクライス令嬢はどのような人物だったのです?」
エドウィンは言いにくそうに口を開いた。
「婚約者の君の前で言うのは憚られるが、なんというか、高慢で自分勝手な、圧の強い令嬢だったな」
エリアルは自分の知っているジュナとの差に、ぽかんとして、苦笑して間違いを正した。
「それは今のクライス嬢とは全く違いますね。それと、私とジュナは婚約関係にはありません」
「そのようだな。君も彼女を煙たがっていたし、今世では婚約しなかったのか?」
「煙たがる?僕がジュナを?」
予想だにしてなかった返答に、お互いに驚いている。
「はははっ。こんなに認識が違うとは」
エドウィンは屈託なく笑った。
「その様子では、ジュナ嬢がとても大事なようだな」
「その通りです。なので殿下、私と協力しましょう」
「いいだろう。」
エリアルとエドウィンはそれぞれの前回の生と、今生での情報を交換するために夜明けまで語り合い、エドウィンは王宮に戻って行った。
ジュナはまた夢を見ていた。
自分の意思で動かない口から、闇魔法の呪文が唱えられた。
使ったこともないのに、理解が出来た。
これは聖女を呪う魔法だ。命を脅かすほどの強力な呪い。
ジュナがその呪文を唱えると、かざした手から禍々しい獣が現れた。
そして少し先にいる聖女に一直線に向かって行く。
少し離れた場所に王太子、そしてエリアルがいる。
ジュナの放った獣は、聖女に襲いかかる前に王太子の炎と、エリアルの風によって防がれた。
エリアルの鋭い眼がジュナを射抜くー。
(いやだ。エリアル、そんな眼で見ないで)
「ーナ、ジュナ!」
激しく揺さぶられてジュナは目を覚ました。涙が頬を伝って流れる。
「ルナ···」
ジュナはボーッとしていたが、我に返ってルナマリアの肩をつかんだ。
「ルナ!どこか痛い所はない?大丈夫なの?」
「大丈夫よ。心配かけてしまってごめんなさい。」
ジュナは心底ホッとして、掴んだ肩をはなした。
「どうしてあんな所にいたの?1人で危ないじゃない」
「侍女から、貴方が庭で待っていると言伝を受けたのよ」
ジュナは血の気が引いた。
(なんてこと!うちの警備が緩かったのだわ。もっと警戒しておくべきだった···)
「どんな侍女だったか分かる?」
「顔は覚えていないわ。黒髪の、若い侍女だったけれど」
「うちに黒髪で若い侍女はいないわ。本当にごめんなさい。お父様に言っておかなければ」
「いいのよ。私も迂闊だったわ。リリアンかノアを連れて行けば良かったのに」
そんな考えが及ばないほど、ルナマリアはクライス家を信頼してくれていたのだ。ジュナは悔しかった。
「庭に着くとすぐに、獣が来たの。真っ黒な」
ジュナはビクっとした。知らず知らずに握りしめた手に汗がにじむ。
ルナマリアはジュナに安心させるように微笑んだ。
「美しい獣だったわ。ジュナ、わたくしは最近よく夢を見るのよ」
「夢?」
「ええ。ジュナがあの美しい獣を操る夢。ジュナの属性は闇だったのね」
彼に会うのは3年ぶりくらいだろうか。
前回の生では何度か会う機会はあったが、今生では数えるくらいしか会ったことがない。
エドウィンがあまり王宮から出ることがなかったからだ。
エリアルとエドウィンは、クライス邸の一室で二人で向かい合っていた。
「さて、何から話そうか。····それにしても、君は以前会った時の印象とだいぶ変わったな?」
そう言われて、エリアルはルシャナ先生の礼服を借りていることを思い出した。
高位貴族が催すパーティーにはとても着ていかれない、礼服と言ってもカジュアルで斬新なスーツだ。
「これは、知人に借りているのです。殿下、先ほど"繰り返している"と言いましたね。殿下もなのですか?」
「そうだ。私は前回と、同じ人生を今送っている。前回の人生がとてもー···後悔するものだったんだ。今回はそうならないよう努力しているのだが、あまり上手くいかないみたいだ」
エリアルは危うく涙が出そうになった。自分の、誰にも言えない事象を共有できる人がいる。王太子でなければ抱きつきたいところだ。不敬なので絶対にしないが。
「聖女が王宮に滞在しているのは知っているな?」
「ええ。殿下と頻繁にお会いしていると聞いています」
「そうだ。何度も訪問してくるから辟易していたんだ。しかし今日の聖女は様子が違っていた。私がなびかないことに焦りを感じでいるようだった」
エドウィンは苦々しくため息をついた。
「私は前回の生で、ルナマリアを失った。原因は聖女の魅了によるものだ。過ちを繰り返さないため、今回の生では聖女に極力近づかないようにしていたんだ」
エリアルは違和感を感じた。エリアルの前回の生の記憶では、ルナマリアに何か起こった記憶はない。
「聖女は、このパーティーでルナマリアに宿るはずのない闇属性の魔力が移ると言った。属性のない彼女では耐えられないだろうと····笑いながら」
エドウィンは拳に力を入れていた。怒りを抑えようとしているようだ。
「なるほど。だからジュナを頼りにいらしたのですね」
「ああ。前回の生で彼女が闇の狼を操るのを見た。彼女の属性は闇だろう?まだ覚醒していないようだが」
(狼を操る?僕は見たことがない)
「殿下、彼女には属性の事を言わないでほしいのです。私は今回で3度目の生を送っています。私ももうジュナを失いたくないのです」
エドウィンは怪訝な顔をしてエリアルを見た。
「···?ジュナ嬢も危険な身に?前回ではそんなことは···」
エリアルはエドウィンの視線を受け止めた。
「殿下、どうやら私たちは違う人生を経験したようです」
「そのようだな。クライス令嬢も私が知っている人物とは見た目も性格も異なっている。どういうことなんだ」
「殿下がご存知なクライス令嬢はどのような人物だったのです?」
エドウィンは言いにくそうに口を開いた。
「婚約者の君の前で言うのは憚られるが、なんというか、高慢で自分勝手な、圧の強い令嬢だったな」
エリアルは自分の知っているジュナとの差に、ぽかんとして、苦笑して間違いを正した。
「それは今のクライス嬢とは全く違いますね。それと、私とジュナは婚約関係にはありません」
「そのようだな。君も彼女を煙たがっていたし、今世では婚約しなかったのか?」
「煙たがる?僕がジュナを?」
予想だにしてなかった返答に、お互いに驚いている。
「はははっ。こんなに認識が違うとは」
エドウィンは屈託なく笑った。
「その様子では、ジュナ嬢がとても大事なようだな」
「その通りです。なので殿下、私と協力しましょう」
「いいだろう。」
エリアルとエドウィンはそれぞれの前回の生と、今生での情報を交換するために夜明けまで語り合い、エドウィンは王宮に戻って行った。
ジュナはまた夢を見ていた。
自分の意思で動かない口から、闇魔法の呪文が唱えられた。
使ったこともないのに、理解が出来た。
これは聖女を呪う魔法だ。命を脅かすほどの強力な呪い。
ジュナがその呪文を唱えると、かざした手から禍々しい獣が現れた。
そして少し先にいる聖女に一直線に向かって行く。
少し離れた場所に王太子、そしてエリアルがいる。
ジュナの放った獣は、聖女に襲いかかる前に王太子の炎と、エリアルの風によって防がれた。
エリアルの鋭い眼がジュナを射抜くー。
(いやだ。エリアル、そんな眼で見ないで)
「ーナ、ジュナ!」
激しく揺さぶられてジュナは目を覚ました。涙が頬を伝って流れる。
「ルナ···」
ジュナはボーッとしていたが、我に返ってルナマリアの肩をつかんだ。
「ルナ!どこか痛い所はない?大丈夫なの?」
「大丈夫よ。心配かけてしまってごめんなさい。」
ジュナは心底ホッとして、掴んだ肩をはなした。
「どうしてあんな所にいたの?1人で危ないじゃない」
「侍女から、貴方が庭で待っていると言伝を受けたのよ」
ジュナは血の気が引いた。
(なんてこと!うちの警備が緩かったのだわ。もっと警戒しておくべきだった···)
「どんな侍女だったか分かる?」
「顔は覚えていないわ。黒髪の、若い侍女だったけれど」
「うちに黒髪で若い侍女はいないわ。本当にごめんなさい。お父様に言っておかなければ」
「いいのよ。私も迂闊だったわ。リリアンかノアを連れて行けば良かったのに」
そんな考えが及ばないほど、ルナマリアはクライス家を信頼してくれていたのだ。ジュナは悔しかった。
「庭に着くとすぐに、獣が来たの。真っ黒な」
ジュナはビクっとした。知らず知らずに握りしめた手に汗がにじむ。
ルナマリアはジュナに安心させるように微笑んだ。
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