幸せな10年でしたが、なかったことに致します。〜だから私に関わらないでください〜

織り子

文字の大きさ
16 / 17

第16話ー告白

しおりを挟む
部屋に戻ると、灯りが付いていなかった。侍女が付け忘れたのだろうか?

部屋は暗いが、バルコニーから少し明かりが入る。ふと見ると、いるはずもない人物がそこに居た。


「あ、貴方何してるの?」

彼は今は大公邸で爵位の授与をされているはずだ。

正装のまま、乱れた髪で汗だくのノクティスがバルコニーに立っていた。

ロワナは慌ててバルコニーの戸を開けてかけよる。

(な、なに?大公邸で何かおきたの?)

呆然と立ち尽くすノクティスの手には、書簡が握られている。

大公らしい正装であるものの、暗い表情のノクティスを見て、思わず昔のまま呼んだ。

「ノクス!どうしたの。何かあったの?」
「――姫、やはり駄目なのですか?」
「え?」

「私の望みが得られないのでしたら、大公位にはなんの価値もありません」
下を向き、小さな声で言うのでよく聞こえない。

ロワナはノクティスの両頬を掴み、前を向かせた。
「はっきり言いなさい」

ノクティスの赤銅色の瞳が、ロワナを映した。
「これです。婚姻の申込を拒否すると、陛下からの書簡が届きました」

(申込?大臣たちからの提案ではなく?)

「ええ。貴方もせっかく大公にまで上り詰めたのだから、望まない婚姻など結ばなくて良いのよ」
「望まない?」
揺れていた赤銅色の瞳に、熱が籠もった。ノクティスは自分の頬にある手を握り、口元へ寄せた。

「――いえ、姫。これは私の回帰前からの悲願です。この婚姻は私から陛下へ申し上げたもの」

ロワナは目を見開いた。
「でも、今世では貴方は私の護衛騎士すら嫌だったのではないの?」

「護衛騎士では貴方と一緒になれないことを学びましたから」

突然の告白に、ロワナは頭が真っ白になった。
ノクティスの言い分では、まるで自分と結婚したいと言うように聞こえる。自分が都合の良い解釈をしているのだろうか。

「ノクスは、私と結婚したいの?」
「はい」

身体は硬直しているのに、目が熱くなった。頬を涙がつたう感触がする。

「わ、私は回帰する前からも、してからも、貴方がずっと好きだったのよ?」
ロワナがずっと胸に閉まっていた言葉を口から出すと、ノクティスが口を開いて顔を近づけた。

「······」
口が重なる寸前で、ノクティスが止まる。至近距離で、相手の片目しか見えない。

「うぅっ」
たまらずロワナが声を出して泣き始めると、ノクティスはロワナの口を塞いだ。

口に感じた暖かさが胸にじんわりと広がり、ロワナはノクティスの背中に手を伸ばした。
ノクティスもロワナを抱きしめる。あまりに力が強く、ロワナはしばらくすると呻いた。
「ノクス、くるしい」

ビクッと身体を震わせ、ノクティスは少し力を緩めた。だが、まだくるしい。

「も、申し訳ありません。気が昂りすぎて力の制御が出来ません」
ノクティスはロワナの肩に顔を埋めたまま弁明した。

「――姫、私を押しのけてください」
(そんな無茶な)
がっちり腕の中にいるロワナは、ノクティスの要望に応えようと、とりあえず腕を動かして抵抗しようとした。

ロワナが身動ぎをすると、ますますノクティスの腕に力がこめられる。

(――う、嬉しいけどこれ以上は)
ノクティスが顔を埋めたまま、吐息と共に口が首に触れる。

「ノ、ノクス···」

パッと唐突に腕が離れた。
あまりに突然離れたので、ロワナの身体が後ろに傾く。
ノクティスがすぐに腕を腰にまわして支えてくれた。

ノクティスの顔は赤くなり、怒っているような、何かを耐えているような、そんな表情だ。ロワナはそっと頬に触れようと手を伸ばした。―が、その手はノクティスによって阻まれた。

「――姫、私は自分が自制心が強くないことをたった今知りました。その手はお下げください」

スッと赤かった顔が正常の色に戻り、(なんなら青くなった?)眼にあった熱も消えている。

「それで、姫。婚姻の申込は受けていただけるのですか?」
腰に周った手に力が入った。

ロワナは微笑んで言った。
「はい」

赤銅色の眼から、ぽろりと雫が落ちた。落とした本人は驚いてさらに目を丸くする。
ロワナは伝った涙に口を近づけてキスをした。

恥ずかしくて、パッと顔を話してノクティスの顔をのぞくと、ワナワナと震えて驚愕の表情をしている。

「お、怒ったの?愛しさが溢れてつい」
ノクティスの口から「ギリ」と食いしばる音が聞こえた。
(そんなに怒らなくても)
ロワナは身の危険を感じ離れようとしたが、ノクティスの腕にまた力が入り離れることができない。

「――姫、警告したのに相変わらず度胸がおありですね」
ノクティスが冷ました瞳に、一気に熱が戻りロワナは目を閉じた。

「わ」
ノクティスはロワナを抱き上げ、そのまま深くキスをした。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ラノベでリアルに婚約破棄を描いてみたら、王家が傾いた

鷹 綾
恋愛
王太子から一方的に告げられた、婚約破棄。 理由は――「真実の愛を見つけたから」。 相手は、清楚で心優しいと評判の男爵令嬢。 誰もが、ありがちな恋愛沙汰だと思った。 だがその婚約は、恋ではなかった。 王家と公爵家、そして教会が関与する国家条約だったのだ。 公爵令嬢イザベル・ド・エノーは、泣き叫ぶことも、復讐を誓うこともしない。 ただ静かに問い返す。 ――その婚約破棄が、何を意味するのか理解しているのですか? 一方的な破棄は、名誉の侵害であり、契約違反であり、 時に戦争すら正当化する行為となる。 王太子の愚かな選択は、王家、公爵家、教会を巻き込み、国を内戦寸前へと追い込んでいく。 裁かれるのは、恋に溺れた王太子か。 それとも、彼を誤導した「善良な令嬢」か。 そして、責任を負うべきは誰なのか。 これは、 「ざまぁ」のための物語ではない。 中世ヨーロッパをモデルに、婚約破棄を“現実の政治”として描いた物語である。 恋は自由だ。 だが、契約を壊す覚悟のない者が、国家の前でそれを口にしていいはずがない。 ――ラノベで、リアルな婚約破棄を描いてみた結果。

さようなら、白い結婚。私は自由になります。

Ame
恋愛
一年間の白い結婚で心を失いかけたリディア。 離縁を決意し実家へ戻った彼女を迎えたのは、誠実な騎士団長ユリウスの温かなまなざしだった。 そして、遅すぎる後悔と向き合う元夫アラン。 『役割としての妻』をやめたとき、 リディアは初めて「愛される」という意味を知る――。

妹の初恋は私の婚約者

あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、第一王子から婚約破棄を宣言されたカミーユ。王子が選んだのは、カミーユの妹ジョフロアだった。だが、ジョフロアには王子との婚約が許されない秘密があった。

『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。 だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。 「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」 王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、 干渉しない・依存しない・無理をしない ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。 一方、王となったアルベルトもまた、 彼女に頼らないことを選び、 「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。 復縁もしない。 恋にすがらない。 それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。 これは、 交わらないことを選んだ二人が、 それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。 派手なざまぁも、甘い溺愛もない。 けれど、静かに積み重なる判断と選択が、 やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー

もう戻りません。~偽聖女の烙印を押された私と、不器用な辺境伯の話

たくわん
恋愛
「お前との婚約を破棄する」――夜会の満座の中、王太子ユリウスに"偽聖女"の烙印を押され、すべてを失った伯爵令嬢リーゼル。護衛もなく送られた辺境の地で待っていたのは、痩せた大地と、冷徹と噂される辺境伯アレクだった。けれど絶望の底で目覚めたのは、枯れた大地を蘇らせ、涸れた井戸から水を湧かせる――千年に一度の"真の聖女"の力。無愛想ながら夜通し看病してくれる辺境伯と、不器用に差し出される野花。荒野に緑が戻るたび、リーゼルの凍えた心も溶けていく。一方、本物の聖女を失った王都では結界が崩れ、偽聖女の化けの皮が剥がれ始め――

妹の事だけを偏愛されている伯爵様。ならもう私はいらないのですね?

睡蓮
恋愛
ロゼック伯爵はスフィーとの婚約関係を結んでいたものの、彼が優先するのは常に自身の妹であるフラナだった。その愛情は非常に偏っており、偏愛と呼ぶにふさわしかった。ある日の事、フラナはスフィーの事が気に入らないためにありもしない嫌がらせを受けたとロゼックに訴え、彼女の事をすべて信頼するロゼックはその言葉のままにスフィーの事を婚約破棄してしまう。自分の思惑通りになったことで有頂天になるフラナだったものの、その後スフィーの過去を知った時、取り返しの使いことをしてしまったと深く後悔することとなるのだった…。

【完結】婚約破棄された令嬢リリアナのお菓子革命

猫燕
恋愛
アルテア王国の貴族令嬢リリアナ・フォン・エルザートは、第二王子カルディスとの婚約を舞踏会で一方的に破棄され、「魔力がない無能」と嘲笑される屈辱を味わう。絶望の中、彼女は幼い頃の思い出を頼りにスイーツ作りに逃避し、「癒しのレモンタルト」を完成させる。不思議なことに、そのタルトは食べた者を癒し、心を軽くする力を持っていた。リリアナは小さな領地で「菓子工房リリー」を開き、「勇気のチョコレートケーキ」や「希望のストロベリームース」を通じて領民を笑顔にしていく。

眠り姫は十年後、元婚約者の隣に別の令嬢を見つけました

鍛高譚
恋愛
幼い頃、事故に遭い10年間も眠り続けていた伯爵令嬢アーシア。目を覚ますと、そこは見知らぬ大人の世界。成長した自分の身体に戸惑い、周囲の変化に困惑する日々が始まる。 そんな彼女を支えるのは、10年前に婚約していた幼馴染のレオン。しかし、目覚めたアーシアに突きつけられたのは、彼がすでに新しい婚約者・リリアナと共に未来を築こうとしている現実だった――。 「本当に彼なの?」 目の前のレオンは、あの頃の優しい少年ではなく、立派な青年へと成長していた。 彼の隣には、才色兼備で知的な令嬢リリアナが寄り添い、二人の関係は既に「当然のもの」となっている。 アーシアは過去の婚約に縋るべきではないと分かりつつも、彼の姿を目にするたびに心がざわめく。 一方でレオンもまた、アーシアへの想いを完全に断ち切れてはいなかった。 幼い頃の約束と、10年間支え続けてくれたリリアナへの誠意――揺れ動く気持ちの狭間で、彼はどんな未来を選ぶのか。 「私の婚約者は、もう私のものではないの?」 「それでも私は……まだ、あなたを――」 10年間の空白が引き裂いた二人の関係。 心は10歳のまま、だけど身体は大人になったアーシアが、新たな愛を見つけるまでの物語。 運命の婚約者との再会は、果たして幸福をもたらすのか――? 涙と葛藤の三角関係ラブストーリー、ここに開幕!

処理中です...