80 / 87
第二章 三節。
第73話 遊ぶ外交使節団。
しおりを挟む◇◇◇
安息日、神殿での炊き出しと聖女様の癒しを行う日です。
で、「謁見は後回しでも良いか?」と言うミセリコルディア側からの要望で、使節は謁見を延期されていた。
実際使節団20名には、交渉の余地も無く、シルヴァニア王国は事実上、帝国に屈服する形になるのであるっぽい。
であるのならばと、帝国の暮らしを満喫する方向へ舵を切った使節団であった。護衛の8名と12名は、事務官が殆どであり、最高位の貴族でも伯爵位であった。
そのフロコン伯爵も、「遊ぼうよ。」と言うのだから、遊ぶことにした。そこで先ず、『一日乗車券』を購入した。乗り放題で大銅貨一枚だ。
だって『輝・タンポポ特急』は、サジェスドゥクッワー公国ジャノから聖リュンヌを通り、エスカリエ迄、一日で金貨一枚である。そう考えると一日中乗っていて大銅貨一枚とは随分お得である。
「最初は、竜の営巣地前ってどう?」
「いいね。行こう。」
「つか、営巣地って本物?」
「跡地、とかじゃね?」
「汽車、静かに走るよね。」
暫く進むと、
『大使館前ぇー大使館前ぇー。各国大使館をご利用のお客様はお降り下さい。また、貴族街にお越しの方もお降り下さい。』
「ほら凄い壁だ!」
「「「ホントだー」」高いな50メートルはありそう。」
切り立つ旧城壁に感動しつつ、路面汽車は豪奢なお屋敷を眺め、一行は、終点『竜の営巣地前駅』で降りた。
「歩いて、十分。ってるるb……案内書にあるが………」
―――――ンギャーキョォォォーガゴォォォーーーギャー。。。
「おい、おいおい、本物だよぉ、大丈夫だろうな?いきなり、パクッっとか嫌だぞぉ。」
「大丈夫じゃないですか?ほら、親子連れだっていらっしゃいますし、」
「――――着いた。」
「「「「「スッゲー!竜だぁ。」」」」」
『それは、圧巻であった。』と、使節団の一人は後、手記に書き綴っている。
実際、30頭近い竜、………全て飛竜なのだ、その営巣地だ。赤や青い竜もいる。ふと、見ると小さな子どもが二人、営巣地の中へとと、入って行った。と言うか、「あ、危ないっ!」っと、団の一人が叫ぶ。
が、二人は小降り、と言っても体調五メートルはありそうな灰竜の背に乗り、飛んで行った。
「なんだったんでしょう?」
「一人は白い修道服っぽかったですね。」
「ああ、じゃあクロエとか言う聖女か?」
―――――キャゥゥゥーーー。。。
「あー赤竜だよ。デカい!」
「ポチ、ありがとッス。また後で。」
赤竜の背中から跳び降りたエルフの美少女。捲れたスカートから白い下着を拝めたことは、気にしない振りを決め込もう。
「あ、こんにちは。っとアデルハイト嬢。」
「どぉーもッスぅ。使節の皆さん。」
「………それ、は?」
「マグロッスよ!旨いんですよ。今夜の食材にして貰おうと、ポチと漁って来たッス。夕ごはん楽しみにしていいんスよー。フフーン!」
陽気なエルフの娘さんは、走ってお城に行って仕舞った。誰かが、「晩餐、楽しみですね!」っと言ったが、
(驚愕だ!なんってこったぁー。自由自在に竜を操れる人間が、陛下にあきたらず、複数人居る事実。これは王国の存亡の問題では無く滅亡問題と捉えるべきであろう。。。とは言え、そんなこと今更どーでもいいわぁー。)
楽しい時は楽しもう。さて、次は何処へ行きましょう。市場。これは外せない。
「………おい、マルシェじゃ無いじゃん。」
「お、おう。。。間違えて降りたな。」
『一日乗車券』に付属した券を利用し、辻馬車で移動した使節団であった。
だが、慣れない物事と言うのは失敗も多い。で、失敗した。賑わう街の風景を観ているウチに、行き過ぎた。
「何処?」
「南、門かな?案内書によると。」
「お、おい、あれあれ、あれミセリコルディア陛下じゃ無い!?」
「「「「ホントだ!」」」」
「台車引いて、門兵に身分証見せてる?よね。」
革の胸当て、革小手、左に灰色の剣、左上腕に巻き付く黒剣。まるっきり冒険者の格好である。髪色は薄茶ではあったが………。
荷車を引き、そのまま建物へ。見ると『冒険者組合』と言う看板。
暫くして、陛下は(おそらく、報償金の入った)巾着袋を片手に満面の笑みで、露店に駆け込む。
「おじ様、肉串二本!ええと、今日はタレでっ。」
「あいよぉ。待ってな――――はい。銅貨4枚でいいや!サービス。」
「え?いいの。六枚でしょう?」
「嬢ちゃんの笑顔が二枚分ってもんだぜ?今日は随分ご機嫌だねぇ?」
「うん、討伐依頼こなせた。グランディスボア。」
「うええぇ!あれ旨いんだよぉー。食いてえわおっちゃんはっ!」
「え!?そんなに?このお肉よりも?」
「ああ、稀物だしな!」
「こ、こんど狩れたら、持って来ようか?」
「………んんーいや、いい。ああ言う食材はお貴族様が、パーティーとかで出すんだ。ちゃんとした料理人にこさえて貰うのが一番さぁー。」
「そぉ。」「あああ、徐下無いで下せぇ。おっちゃん、嬢ちゃんの気持ちだけで嬉しんで。。。まぁ、また買いに来てくんな。」
明らかにミセリコルディアな陛下は、露店を後にすると、
「おば様、じゃがバター下さい。」
と、じゃがバターの露店で買い食いを始めるのであった。
「主人。」
先の肉串屋の店主に訊いた。
「ぁ、いらっしゃい。」
「あの、あれ陛下。ですよね?」
「ああ、白ちゃんだ。」
「え!?」
「陛下じゃない白ちゃん、的な?」
「ええと。。。」
「あんた、街の人じゃあねえのか、なら無理も無ねぇ。あの子は、街娘の白ちゃん。これ商店街の常識。。。まあ、ご本人様は上手に変装しているつもり、なんで、オレらは知らぬ存ぜぬ、で通してる。ってな感じ?だぁーな。」
「なる程、このように市井の動向に目を光らせて………」
「んんなんじゃなえーよ」あの笑顔見ろ。普通の女の子が普通に楽しんでいる。結局、陛下だ聖女だと言っても子どもなのだ。だから、そうとしているのだ。と。
と、言う訳で皇帝陛下の動向を探ることにした。なんか面白そう。
懐中時計が正解ならばだが、時刻は目安程度に留めて欲しい。
『午後12:30、じゃがバター満喫後、路地裏へ。
同:40、民家へ入り、その家の母親?に癒し。
1:00、事案発生、10歳前後の少女拐かし中の三人組を切る。現れたローズ嬢に警吏への連絡を指示。
同:45、『黒パンとチーズ亭』にてシャケ定食を堪能。店主夫妻と歓談。
2:50、路地裏でしゃがんで居る。猫と遊んでいた。
3:05、他の路地裏でしゃがんで居る。猫と遊んでいた。
同:15、別の路地裏でしゃがんで居る。猫と遊んでいた。ローズ嬢も遊んでいた。
同:30、マルシェの雑貨屋で、買い物。インクと蝋を購入。お茶を頂いて店員と歓談。
4:00、慌てた様子で、城へ帰還。が、入ったのは、城一階のボイラー室。
同:10、ボイラー室にて修道服に、走って神殿へ。
「ああ、夕方の礼拝の時間だったんだ。」
「店員と話し込み過ぎて時間忘れてた。ってことか。」
同:15、仔猫を拾う。数分悩んだ様子、神殿に入る。』
「………陛下、どんだけ猫好きなの。。。」
◇◇◇
晩餐。。。
「観様、今日一日楽しまれまして?」
「はい、有意義な一日でした。」
「辻馬車券が余って仕舞って……」
「そう言うものらしいです。お気になさらない方がいいですよ。」
「さ。食べるッス。」
「…ですね。――――天にますます我らの神よ今日の糧を賜り我らは…………ゴニョゴニョ…………頂きます。わぁ、マグロ?のカルパッチョ。」
「そぉッス。ポチと漁って来たッス。」
「「「「「うっ、旨ぁーい!」」」」」
マナー云々よりも楽しめる食卓が良いと言う陛下の意向で、はしたないかもだが、会話を楽しみ、食も楽しく過ごす。
本日のメイン、と言うのがマグロとボアのステーキであった。
マグロも旨い。ボアも美味しい。だが、ミセリコルディアの顔から笑みは消え、悲しみを堪えている、そんな顔になっていた。
グランディスボアのステーキは、油の良く乗った最高級なのである。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる