白姫さまの征服譚。

潤ナナ

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第二章 三節。

第73話 遊ぶ外交使節団。

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◇◇◇

 安息日、神殿での炊き出しと聖女様の癒しを行う日です。

 で、「謁見は後回しでも良いか?」と言うミセリコルディア側からの要望で、使節は謁見を延期されていた。
 実際使節団20名には、交渉の余地も無く、シルヴァニア王国は事実上、帝国に屈服する形になるのであるっぽい。

 であるのならばと、帝国の暮らしを満喫する方向へ舵を切った使節団であった。護衛の8名と12名は、事務官が殆どであり、最高位の貴族でも伯爵位であった。
 そのフロコン伯爵も、「遊ぼうよ。」と言うのだから、遊ぶことにした。そこで先ず、『一日乗車券』を購入した。乗り放題で大銅貨一枚だ。
 だって『輝・タンポポ特急』は、サジェスドゥクッワー公国ジャノから聖リュンヌを通り、エスカリエ迄、一日で金貨一枚である。そう考えると一日中乗っていて大銅貨一枚とは随分お得である。

「最初は、竜の営巣地前ってどう?」
「いいね。行こう。」
「つか、営巣地って本物?」
「跡地、とかじゃね?」
「汽車、静かに走るよね。」
暫く進むと、
『大使館前ぇー大使館前ぇー。各国大使館をご利用のお客様はお降り下さい。また、貴族街にお越しの方もお降り下さい。』

「ほら凄い壁だ!」
「「「ホントだー」」高いな50メートルはありそう。」
 切り立つ旧城壁に感動しつつ、路面汽車は豪奢なお屋敷を眺め、一行は、終点『竜の営巣地前駅』で降りた。

「歩いて、十分。ってるるb……案内書パンフレットにあるが………」
―――――ンギャーキョォォォーガゴォォォーーーギャー。。。

「おい、おいおい、本物だよぉ、大丈夫だろうな?いきなり、パクッっとか嫌だぞぉ。」
「大丈夫じゃないですか?ほら、親子連れだっていらっしゃいますし、」
「――――着いた。」
「「「「「スッゲー!竜だぁ。」」」」」
『それは、圧巻であった。』と、使節団の一人は後、手記に書き綴っている。

 実際、30頭近い竜、………全て飛竜なのだ、その営巣地だ。赤や青い竜もいる。ふと、見ると小さな子どもが二人、営巣地の中へと・・・と、入って行った。と言うか、「あ、危ないっ!」っと、団の一人が叫ぶ。
 が、二人は小降り、と言っても体調五メートルはありそうな灰竜の背に乗り、飛んで行った。

「なんだったんでしょう?」
「一人は白い修道服っぽかったですね。」
「ああ、じゃあクロエとか言う聖女か?」
―――――キャゥゥゥーーー。。。

「あー赤竜だよ。デカい!」

「ポチ、ありがとッス。また後で。」
 赤竜の背中から跳び降りたエルフの美少女。捲れたスカートから白い下着を拝めたことは、気にしない振りを決め込もう。

「あ、こんにちは。っとアデルハイト嬢。」
「どぉーもッスぅ。使節の皆さん。」

「………それ、は?」
「マグロッスよ!旨いんですよ。今夜の食材にして貰おうと、ポチと漁って来たッス。夕ごはん楽しみにしていいんスよー。フフーン!」
 陽気なエルフの娘さんは、走ってお城に行って仕舞った。誰かが、「晩餐、楽しみですね!」っと言ったが、

(驚愕だ!なんってこったぁー。自由自在に竜を操れる人間が、陛下にあきたらず、複数人居る事実。これは王国の存亡の問題では無く滅亡問題と捉えるべきであろう。。。とは言え、そんなこと今更どーでもいいわぁー。)
 楽しい時は楽しもう。さて、次は何処へ行きましょう。市場マルシェ。これは外せない。



「………おい、マルシェじゃ無いじゃん。」
「お、おう。。。間違えて降りたな。」
 『一日乗車券』に付属した券を利用し、辻馬車で移動した使節団であった。
 だが、慣れない物事と言うのは失敗も多い。で、失敗した。賑わう街の風景を観ているウチに、行き過ぎた。

「何処?」
「南、門かな?案内書によると。」
「お、おい、あれあれ、あれミセリコルディア陛下じゃ無い!?」
「「「「ホントだ!」」」」
「台車引いて、門兵に身分証見せてる?よね。」
 革の胸当て、革小手、左に灰色の剣、左上腕に巻き付く黒剣。まるっきり冒険者の格好である。髪色は薄茶ではあったが………。
 荷車を引き、そのまま建物へ。見ると『冒険者組合ギルド』と言う看板。

 暫くして、陛下は(おそらく、報償金の入った)巾着袋を片手に満面の笑みで、露店に駆け込む。

「おじ様、肉串二本!ええと、今日はタレでっ。」
「あいよぉ。待ってな――――はい。銅貨4枚でいいや!サービス。」

「え?いいの。六枚でしょう?」
「嬢ちゃんの笑顔が二枚分ってもんだぜ?今日は随分ご機嫌だねぇ?」

「うん、討伐依頼こなせた。グランディスボア。」
「うええぇ!あれ旨いんだよぉー。食いてえわおっちゃんはっ!」
「え!?そんなに?このお肉よりも?」

「ああ、稀物だしな!」
「こ、こんど狩れたら、持って来ようか?」
「………んんーいや、いい。ああ言う食材はお貴族様が、パーティーとかで出すんだ。ちゃんとした料理人にこさえて貰うのが一番さぁー。」
「そぉ。」「あああ、徐下無いで下せぇ。おっちゃん、嬢ちゃんの気持ちだけで嬉しんで。。。まぁ、また買いに来てくんな。」
 明らかにミセリコルディアな陛下は、露店を後にすると、

「おば様、じゃがバター下さい。」
 と、じゃがバターの露店で買い食いを始めるのであった。


「主人。」
 先の肉串屋の店主に訊いた。

「ぁ、いらっしゃい。」
「あの、あれ陛下。ですよね?」

「ああ、白ちゃんだ。」
「え!?」
「陛下じゃない白ちゃん、的な?」
「ええと。。。」

「あんた、街の人じゃあねえのか、なら無理も無ねぇ。あの子は、街娘の白ちゃん。これ商店街の常識。。。まあ、ご本人様は上手に変装しているつもり、なんで、オレらは知らぬ存ぜぬ、で通してる。ってな感じ?だぁーな。」
「なる程、このように市井の動向に目を光らせて………」
 「んんなんじゃなえーよ」あの笑顔見ろ。普通の女の子が普通に楽しんでいる。結局、陛下だ聖女だと言っても子どもなのだ。だから、そうとしているのだ。と。


 と、言う訳で皇帝陛下の動向を探ることにした。なんか面白そう。
 懐中時計が正解ならばだが、時刻は目安程度に留めて欲しい。


『午後12:30、じゃがバター満喫後、路地裏へ。
    同:40、民家へ入り、その家の母親?に癒し。
    1:00、事案発生、10歳前後の少女拐かし中の三人組を切る。現れたローズ嬢に警吏への連絡を指示。
    同:45、『黒パンとチーズ亭』にてシャケ定食を堪能。店主夫妻と歓談。
    2:50、路地裏でしゃがんで居る。猫と遊んでいた。
    3:05、他の路地裏でしゃがんで居る。猫と遊んでいた。
    同:15、別の路地裏でしゃがんで居る。猫と遊んでいた。ローズ嬢も遊んでいた。
    同:30、マルシェの雑貨屋で、買い物。インクと蝋を購入。お茶を頂いて店員と歓談。
    4:00、慌てた様子で、城へ帰還。が、入ったのは、城一階のボイラー室。
    同:10、ボイラー室にて修道服に、走って神殿へ。

「ああ、夕方の礼拝の時間だったんだ。」
「店員と話し込み過ぎて時間忘れてた。ってことか。」
    同:15、仔猫を拾う。数分悩んだ様子、神殿に入る。』


「………陛下、どんだけ猫好きなの。。。」


◇◇◇

 晩餐。。。

「観様、今日一日楽しまれまして?」
「はい、有意義な一日でした。」

「辻馬車券が余って仕舞って……」
「そう言うものらしいです。お気になさらない方がいいですよ。」
「さ。食べるッス。」
「…ですね。――――天にますます我らの神よ今日の糧を賜り我らは…………ゴニョゴニョ…………頂きます。わぁ、マグロ?のカルパッチョ。」
「そぉッス。ポチと漁って来たッス。」
「「「「「うっ、旨ぁーい!」」」」」
 マナー云々よりも楽しめる食卓が良いと言う陛下の意向で、はしたないかもだが、会話を楽しみ、食も楽しく過ごす。

 本日のメイン、と言うのがマグロとボアのステーキであった。
 マグロも旨い。ボアも美味しい。だが、ミセリコルディアの顔から笑みは消え、悲しみを堪えている、そんな顔になっていた。

 グランディスボアのステーキは、油の良く乗った最高級なのである。
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