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第二章 西端半島戦役
第五話 待機時間のトランプ
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ブリーフィングが無事に終わり、万屋小隊は待機時間となった。
待機時間と言っても、大したものでは無い。
即応性さえ保っていれば、良いのだ。
極端な話、全く酔わない体質の者が酒を呑んでいても、いざという時に即応出来れば、問題無いのである。
もちろん、自衛隊内での飲酒は禁止されている為、現実にはあり得ないものの、この時代に於ける待機時間とは、そんなものであった。
特戦群の面子は、ブリーフィングが終わって直ぐ、慌てた様に部屋を後にしたので、部屋にはブリーフィングに参加していた万屋小隊の一部と、エルフ達のみだ。
特に今回の隊長格である佐藤は、伯爵から得た情報を、上に報告するのであろう。
他の特戦群とは、慌て方が違っていた。
少し遅れて、ブリーフィングに参加していた、万屋小隊の各分隊長達が出ていく。
彼等は、ここで決まった作戦内容の説明と、待機命令を部下に伝えるのだ。
待機とは言っても一般の隊員とは異なり、万屋には接待任務が残っているのであるが、それはそれで待機も同然であった。
何せ、話せる範囲で世間話をするだけなのだ。
エルフ達は国費扱いなので(本来、そんな外国の要人を戦場に引き摺り回している時点で、かなりの大問題なのであるが)、気分を害さない様に気を使うものの、当然普段よりは楽な任務である。
ただし、お互いに異質過ぎる文明である為、話が弾んでも進みは遅い。
一部の単語や固有名詞で、一々説明を必要とする場合が多かったのだ。
万屋はさらに、説明の言葉自体も慎重に選んでいた。
情報管理を徹底している点は、自衛官の鑑と言っても良いが、本人としては仕事が増えるだけなので、不本意そうにしている。
(微妙な翻訳能力なのに、仕事は増えるのか………
損な役回りだな)
万屋はそんな不満を抱きつつも、エルフ達への応接はにこやかに、接していた。
しかし、そんな作った表情とは裏腹に、内心は不満だらけである。
グイグイと押して来るベアトリクスに、それを快く思わないアンジェリカの刺す様な視線。
そして、アンジェリカの事をたしなめるものの、ベアトリクスの振る舞いについては、何を考えているのか分からない伯爵に、面白がっている侍女エルフ達と、四者四様なのだ。
侍女はともかく、他の三者については無理にでも慣れる必要がある。
そうでなければ、先に胃が持たなくなるであろう。
万屋の精神は、少しずつ追い詰められていた。
(いっそ、退官したい)
それが万屋の、嘘偽り無い本音であった。
美人に迫られて役得といった考えは、当初から無い。
アンジェリカさえ居なければともかく、彼女の視線はそれ程痛いものなのだ。
その上、ベアトリクスは相も変わらず、万屋自身を見ていない。
常に、万屋の周囲を見ているのだ。
それでは、役得感が薄いのも当然であろう。
少なくとも万屋は、とても役得とは思えなかった。
「隊長、失礼しまッス」
そんなところに入って来たのは、霧谷である。
霧谷は幹部では無いので、ブリーフィングの場には居なかったものの、有能な狙撃手であり気も利く為、万屋や山田に可愛がられている隊員であった。
そのせいか、少しばかり親しげに過ぎるのが、欠点である。
「異世界交流の記念に、トランプしましょうよ」
霧谷は、部屋に入るなりそう言った。
もちろん、万屋に気を使っての事である。
(何バカな事言ってんだ、こいつは?)
万屋は、一瞬そう思ったものの、直ぐに考えを改めた。
ババ抜きや神経衰弱であれば、数字が読めなくとも絵柄を覚えるだけで、簡単に遊べる筈である。
微妙な時間しか無い今、交流を深めるのには最適であろう。
「霧谷。
お前も、いろいろ考えられる様になったな」
万屋はそう言って、霧谷を褒める。
目には泪を浮かべていた。
もっとも霧谷は、そこまで考えがある男では無い。
ただ単純に、待機時間の暇潰しに来ただけである。
「褒められてる気がしないッスよ」
霧谷は、冷めた目でそう返す。
冷めている方が考え無し、というのも不思議な話ではあるが、とにかく二人の温度差は大きかった。
万屋は霧谷の文句を無視して、ベアトリクスの方に向き直る。
「殿下。
余り長い待機時間ではございません。
軽く、ゲームでもいかがですか?」
そんな事を言われたベアトリクスも、最初は万屋と同じ事を思った。
(この人は何を言っているのでしょう?)
だが、実際問題会話の進みは遅く、短い時間で真面目な話は出来ない事は、理解していた様である。
「時間が短いのであれば、それも良いかもしれませんね」
ベアトリクスは、自らの右側に座る伯爵と、左側に座るアンジェリカを交互に見て、不満気が無い事を確認してから、そう答えた。
(能天気なのは、アンも同じですしね)
平静を取り繕ってはいるものの、子供の様に目を輝かせているアンジェリカを見て、ベアトリクスは溜め息を吐く。
伯爵の方は、目が死んでいる。
アンジェリカの失態が続き、叱責を繰り返していたものの、遂に心が折れたのであろう。
その場に居る、アンジェリカ以外の全員が同情の視線を送るが、声を掛ける者はいない。
同情しているからこそ、慰めは逆効果である事を、理解しているのだ。
(気の毒になぁ)
当然万屋も、思うだけである。
「先ずは単純に、ババ抜きでもやってみましょう」
そう言って、万屋はカードを配りつつ、説明を始めた。
「配った札は、自分だけが見える様にしてください。
カードの模様は赤が二種類と、青が二種類の合計四種類です。
それ以外に描いてあるのが、数字です。
同じ数字が二枚あれば、先に手放してください」
一人だけ混ざっているアホの娘にも解る様に、丁寧な説明だ。
「何を言っているのだ?」
だが、万屋の丁寧な説明は、アホの娘に通じない。
万屋は、いくらなんでも最初の説明で躓くとは、微塵も思っておらず、マンガの如く盛大にずっこけた。
「万屋さん。
アンの事は、私に任せてください」
そう言ってベアトリクスは、アンジェリカの札を覗き込む。
「ま、まあ最初は練習ですね」
万屋はアンジェリカの惨状に、そう言うのが精一杯であった。
(腕っぷしが強いらしいけど、日本製の武器が出回ったりしたら、この娘はどうなるんだろうな)
万屋は、アンジェリカの将来を危ぶんだ。
もちろん、伯爵とは違い安全圏からの、他人事である。
伯爵の場合は、血縁上逃れられないのだ。
万屋の知らない話ではあるが、西方大陸に於ける家という概念は、制度化されつつある。
そして、厳格なその制度化には勘当や縁切り、といった仕組みが存在しない。
あまりにも不出来な身内や、不祥事を起こした身内を切り捨てる、という考えが無いのだ。
仕組みだけでなく、文化的にも習慣としても存在しないので、身内が何かをやらかせば一族全体で、フォローする様になっている。
故に、当然ながら派閥抗争ともなれば、不出来な身内が狙われるのだ。
だからこそ伯爵は、アンジェリカと行動を共にしていた。
ベアトリクスは、主従関係を逆にしたかの様に、アンジェリカの世話を焼いた。
(これなら大丈夫そうだな)
その手際は、万屋が感心する程である。
いろいろと思う事もあるのだが、それは頭の隅に追いやった。
これ程慣れているという事は、普段からこんな事があると見て、間違い無いであろう。
もしそうなら、大問題である。
しかし、若い美人二人が心底楽しそうにしているので、どうしても微笑ましく思えてしまうのだ。
(美人は特だよなぁ………)
多少どころか、結構な問題であっても微笑ましく思えてしまう。
万屋は、そんな一種の才能を羨んだ。
もちろん、その部分だけであり、アンジェリカの様になりたい、といった様な願望は皆無である。
そんな長所があったところで、アンジェリカが残念である事に、変わりは無いのだから当然であろう。
「成る程。
流石は姫様です。
どこぞの地味顔とは、大違いですね」
ベアトリクスから教わると、モチベーションも違うのであろう。
アンジェリカは、直ぐに覚える。
「そ、それは宜しゅうございましたね」
万屋は、震え声でそう言った。
声が震えているのは、もちろん怒りを押し殺している為である。
「アンジェリカ、そんな事を言ってはいけませんよ」
ベアトリクスは、そう言ってアンジェリカをたしなめたが、笑いを堪えている様な表情だ。
「申し訳ありません、万屋さん。
アンジェリカも、普段はもっと大人しいのです。
ですが、万屋さん相手ですと、妙に子供染みた振る舞いが多くて…………
もう少し、大人しくしていて欲しいのですが…………」
万屋の冷たい視線に気付いたのか、ベアトリクスはそう弁解した。
「まあ、構いませんがね。
次に、札を見せないままにして、左側の方に一枚選ばせて、渡してください。
そして、同じ数字が二枚被ったら、最初と同じ場所に手放します。
それを繰り返してください。
最初に、全ての札を手放せば勝ちです。
一枚だけ余る札がありますので、それを最後まで持っていると負けです。
単純でしょう?」
万屋は、気にしない事として説明を終わらせる。
切りが無いという事を思い出したのだ。
それでも、アンジェリカだけはやはり分からない様で、ベアトリクスに確認してるが、それ以外のエルフ達は理解出来ている様子であった。
侍女達は、王族と遊ぶ事に若干戸惑っているものの、興味はあるのであろう。
そわそわと、落ち着かない様子である。
ベアトリクスの方は、元々権威というものに無頓着な性格なのか、気にした様子は無い。
むしろ、楽しみにしている様子である。
「木札ではありませんな。
ふむ………」
伯爵は、こんな緩やかな交流でも変わらず、興味の方向性が違っていた。
ちなみに、霧谷の用意したトランプは、プラスチック製である。
(そりゃ分かる訳無いよな)
万屋は、伯爵の鋭さには感心したものの、分かる筈も無いと考え直した。
いくら方向性は鋭くとも、中世世界のエルフである。
分かったらむしろ怖い話の部類だ。
万屋は、そんな当然の事に安心した。
何故なら、伯爵の鋭さに圧倒されていたのである。
(考えてみれば、都心の町並みを見て気絶しているよな。
そう考えると、普通のじいさんなんだけど、妙に凄みがあると言うか…………
経験の差なのか?)
万屋は安心すると同時に、伯爵へ無意識の畏れを感じていると自覚した。
「万屋さん。
アンも分かった様です」
だがそれについて、もっと深く考察しようとする直前に、ベアトリクスに声を掛けられ、万屋の思考は中断される。
「では、始めてみましょう」
万屋は、そう言いながら札を回収し、切り始めた。
まだ気にはなっているものの、気にしても仕方の無い事と、割り切るつもりの様である。
「隊長、俺の札が無いッスよ?」
万屋が配り始めて直ぐに、霧谷がそう言った。
「お前、本気だったの?」
万屋は、呆れた様にそう答える。
どうやら、霧谷は気を利かせた訳でも無く、本気で遊びに来た様であった。
(アホはうちにもいたのか…………
同情してる余裕なんか、無かったな)
万屋は、溜め息を吐きながらそう思った。
そして、どうすればアホに状況を理解させる事が出来るかを、考え始める。
「あ??、その、なんだ…………
お前、皇太子殿下相手にトランプ出来るの?」
万屋は、散々迷った上で暈した言い回しをした。
霧谷に敬意の欠片も無い事がバレると、もう一人のアホが反応する為である。
「?
トランプなら何でも出来るッスよ?」
遠回しな言い方では通じないという事実に、万屋は先程よりも深く、溜め息を吐くのであった。
待機時間と言っても、大したものでは無い。
即応性さえ保っていれば、良いのだ。
極端な話、全く酔わない体質の者が酒を呑んでいても、いざという時に即応出来れば、問題無いのである。
もちろん、自衛隊内での飲酒は禁止されている為、現実にはあり得ないものの、この時代に於ける待機時間とは、そんなものであった。
特戦群の面子は、ブリーフィングが終わって直ぐ、慌てた様に部屋を後にしたので、部屋にはブリーフィングに参加していた万屋小隊の一部と、エルフ達のみだ。
特に今回の隊長格である佐藤は、伯爵から得た情報を、上に報告するのであろう。
他の特戦群とは、慌て方が違っていた。
少し遅れて、ブリーフィングに参加していた、万屋小隊の各分隊長達が出ていく。
彼等は、ここで決まった作戦内容の説明と、待機命令を部下に伝えるのだ。
待機とは言っても一般の隊員とは異なり、万屋には接待任務が残っているのであるが、それはそれで待機も同然であった。
何せ、話せる範囲で世間話をするだけなのだ。
エルフ達は国費扱いなので(本来、そんな外国の要人を戦場に引き摺り回している時点で、かなりの大問題なのであるが)、気分を害さない様に気を使うものの、当然普段よりは楽な任務である。
ただし、お互いに異質過ぎる文明である為、話が弾んでも進みは遅い。
一部の単語や固有名詞で、一々説明を必要とする場合が多かったのだ。
万屋はさらに、説明の言葉自体も慎重に選んでいた。
情報管理を徹底している点は、自衛官の鑑と言っても良いが、本人としては仕事が増えるだけなので、不本意そうにしている。
(微妙な翻訳能力なのに、仕事は増えるのか………
損な役回りだな)
万屋はそんな不満を抱きつつも、エルフ達への応接はにこやかに、接していた。
しかし、そんな作った表情とは裏腹に、内心は不満だらけである。
グイグイと押して来るベアトリクスに、それを快く思わないアンジェリカの刺す様な視線。
そして、アンジェリカの事をたしなめるものの、ベアトリクスの振る舞いについては、何を考えているのか分からない伯爵に、面白がっている侍女エルフ達と、四者四様なのだ。
侍女はともかく、他の三者については無理にでも慣れる必要がある。
そうでなければ、先に胃が持たなくなるであろう。
万屋の精神は、少しずつ追い詰められていた。
(いっそ、退官したい)
それが万屋の、嘘偽り無い本音であった。
美人に迫られて役得といった考えは、当初から無い。
アンジェリカさえ居なければともかく、彼女の視線はそれ程痛いものなのだ。
その上、ベアトリクスは相も変わらず、万屋自身を見ていない。
常に、万屋の周囲を見ているのだ。
それでは、役得感が薄いのも当然であろう。
少なくとも万屋は、とても役得とは思えなかった。
「隊長、失礼しまッス」
そんなところに入って来たのは、霧谷である。
霧谷は幹部では無いので、ブリーフィングの場には居なかったものの、有能な狙撃手であり気も利く為、万屋や山田に可愛がられている隊員であった。
そのせいか、少しばかり親しげに過ぎるのが、欠点である。
「異世界交流の記念に、トランプしましょうよ」
霧谷は、部屋に入るなりそう言った。
もちろん、万屋に気を使っての事である。
(何バカな事言ってんだ、こいつは?)
万屋は、一瞬そう思ったものの、直ぐに考えを改めた。
ババ抜きや神経衰弱であれば、数字が読めなくとも絵柄を覚えるだけで、簡単に遊べる筈である。
微妙な時間しか無い今、交流を深めるのには最適であろう。
「霧谷。
お前も、いろいろ考えられる様になったな」
万屋はそう言って、霧谷を褒める。
目には泪を浮かべていた。
もっとも霧谷は、そこまで考えがある男では無い。
ただ単純に、待機時間の暇潰しに来ただけである。
「褒められてる気がしないッスよ」
霧谷は、冷めた目でそう返す。
冷めている方が考え無し、というのも不思議な話ではあるが、とにかく二人の温度差は大きかった。
万屋は霧谷の文句を無視して、ベアトリクスの方に向き直る。
「殿下。
余り長い待機時間ではございません。
軽く、ゲームでもいかがですか?」
そんな事を言われたベアトリクスも、最初は万屋と同じ事を思った。
(この人は何を言っているのでしょう?)
だが、実際問題会話の進みは遅く、短い時間で真面目な話は出来ない事は、理解していた様である。
「時間が短いのであれば、それも良いかもしれませんね」
ベアトリクスは、自らの右側に座る伯爵と、左側に座るアンジェリカを交互に見て、不満気が無い事を確認してから、そう答えた。
(能天気なのは、アンも同じですしね)
平静を取り繕ってはいるものの、子供の様に目を輝かせているアンジェリカを見て、ベアトリクスは溜め息を吐く。
伯爵の方は、目が死んでいる。
アンジェリカの失態が続き、叱責を繰り返していたものの、遂に心が折れたのであろう。
その場に居る、アンジェリカ以外の全員が同情の視線を送るが、声を掛ける者はいない。
同情しているからこそ、慰めは逆効果である事を、理解しているのだ。
(気の毒になぁ)
当然万屋も、思うだけである。
「先ずは単純に、ババ抜きでもやってみましょう」
そう言って、万屋はカードを配りつつ、説明を始めた。
「配った札は、自分だけが見える様にしてください。
カードの模様は赤が二種類と、青が二種類の合計四種類です。
それ以外に描いてあるのが、数字です。
同じ数字が二枚あれば、先に手放してください」
一人だけ混ざっているアホの娘にも解る様に、丁寧な説明だ。
「何を言っているのだ?」
だが、万屋の丁寧な説明は、アホの娘に通じない。
万屋は、いくらなんでも最初の説明で躓くとは、微塵も思っておらず、マンガの如く盛大にずっこけた。
「万屋さん。
アンの事は、私に任せてください」
そう言ってベアトリクスは、アンジェリカの札を覗き込む。
「ま、まあ最初は練習ですね」
万屋はアンジェリカの惨状に、そう言うのが精一杯であった。
(腕っぷしが強いらしいけど、日本製の武器が出回ったりしたら、この娘はどうなるんだろうな)
万屋は、アンジェリカの将来を危ぶんだ。
もちろん、伯爵とは違い安全圏からの、他人事である。
伯爵の場合は、血縁上逃れられないのだ。
万屋の知らない話ではあるが、西方大陸に於ける家という概念は、制度化されつつある。
そして、厳格なその制度化には勘当や縁切り、といった仕組みが存在しない。
あまりにも不出来な身内や、不祥事を起こした身内を切り捨てる、という考えが無いのだ。
仕組みだけでなく、文化的にも習慣としても存在しないので、身内が何かをやらかせば一族全体で、フォローする様になっている。
故に、当然ながら派閥抗争ともなれば、不出来な身内が狙われるのだ。
だからこそ伯爵は、アンジェリカと行動を共にしていた。
ベアトリクスは、主従関係を逆にしたかの様に、アンジェリカの世話を焼いた。
(これなら大丈夫そうだな)
その手際は、万屋が感心する程である。
いろいろと思う事もあるのだが、それは頭の隅に追いやった。
これ程慣れているという事は、普段からこんな事があると見て、間違い無いであろう。
もしそうなら、大問題である。
しかし、若い美人二人が心底楽しそうにしているので、どうしても微笑ましく思えてしまうのだ。
(美人は特だよなぁ………)
多少どころか、結構な問題であっても微笑ましく思えてしまう。
万屋は、そんな一種の才能を羨んだ。
もちろん、その部分だけであり、アンジェリカの様になりたい、といった様な願望は皆無である。
そんな長所があったところで、アンジェリカが残念である事に、変わりは無いのだから当然であろう。
「成る程。
流石は姫様です。
どこぞの地味顔とは、大違いですね」
ベアトリクスから教わると、モチベーションも違うのであろう。
アンジェリカは、直ぐに覚える。
「そ、それは宜しゅうございましたね」
万屋は、震え声でそう言った。
声が震えているのは、もちろん怒りを押し殺している為である。
「アンジェリカ、そんな事を言ってはいけませんよ」
ベアトリクスは、そう言ってアンジェリカをたしなめたが、笑いを堪えている様な表情だ。
「申し訳ありません、万屋さん。
アンジェリカも、普段はもっと大人しいのです。
ですが、万屋さん相手ですと、妙に子供染みた振る舞いが多くて…………
もう少し、大人しくしていて欲しいのですが…………」
万屋の冷たい視線に気付いたのか、ベアトリクスはそう弁解した。
「まあ、構いませんがね。
次に、札を見せないままにして、左側の方に一枚選ばせて、渡してください。
そして、同じ数字が二枚被ったら、最初と同じ場所に手放します。
それを繰り返してください。
最初に、全ての札を手放せば勝ちです。
一枚だけ余る札がありますので、それを最後まで持っていると負けです。
単純でしょう?」
万屋は、気にしない事として説明を終わらせる。
切りが無いという事を思い出したのだ。
それでも、アンジェリカだけはやはり分からない様で、ベアトリクスに確認してるが、それ以外のエルフ達は理解出来ている様子であった。
侍女達は、王族と遊ぶ事に若干戸惑っているものの、興味はあるのであろう。
そわそわと、落ち着かない様子である。
ベアトリクスの方は、元々権威というものに無頓着な性格なのか、気にした様子は無い。
むしろ、楽しみにしている様子である。
「木札ではありませんな。
ふむ………」
伯爵は、こんな緩やかな交流でも変わらず、興味の方向性が違っていた。
ちなみに、霧谷の用意したトランプは、プラスチック製である。
(そりゃ分かる訳無いよな)
万屋は、伯爵の鋭さには感心したものの、分かる筈も無いと考え直した。
いくら方向性は鋭くとも、中世世界のエルフである。
分かったらむしろ怖い話の部類だ。
万屋は、そんな当然の事に安心した。
何故なら、伯爵の鋭さに圧倒されていたのである。
(考えてみれば、都心の町並みを見て気絶しているよな。
そう考えると、普通のじいさんなんだけど、妙に凄みがあると言うか…………
経験の差なのか?)
万屋は安心すると同時に、伯爵へ無意識の畏れを感じていると自覚した。
「万屋さん。
アンも分かった様です」
だがそれについて、もっと深く考察しようとする直前に、ベアトリクスに声を掛けられ、万屋の思考は中断される。
「では、始めてみましょう」
万屋は、そう言いながら札を回収し、切り始めた。
まだ気にはなっているものの、気にしても仕方の無い事と、割り切るつもりの様である。
「隊長、俺の札が無いッスよ?」
万屋が配り始めて直ぐに、霧谷がそう言った。
「お前、本気だったの?」
万屋は、呆れた様にそう答える。
どうやら、霧谷は気を利かせた訳でも無く、本気で遊びに来た様であった。
(アホはうちにもいたのか…………
同情してる余裕なんか、無かったな)
万屋は、溜め息を吐きながらそう思った。
そして、どうすればアホに状況を理解させる事が出来るかを、考え始める。
「あ??、その、なんだ…………
お前、皇太子殿下相手にトランプ出来るの?」
万屋は、散々迷った上で暈した言い回しをした。
霧谷に敬意の欠片も無い事がバレると、もう一人のアホが反応する為である。
「?
トランプなら何でも出来るッスよ?」
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
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