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第二章 西端半島戦役
第四話 リース港の情報
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休憩も終わり、ブリーフィングは再開された。
「皆さんは、この港町の情報をご存知ですか?」
万屋は、エルフ達に確認する。
「存じません」
ベアトリクスの反応は、どこか冷ややかであった。
エルフ達は、暫くの間空気だったので、不貞腐れているのであろうか。
明らかに刺のある声だ。
「姫様がご存知無いのも、無理はありません。
リースは、戦略的な価値の低い港ですからな」
伯爵がそう言って、ベアトリクスをフォローした。
何らかの、情報を持っている様な言い回しである。
「リースと言うのですか?」
「名前を聞いた事ぐらいはあります」
万屋とベアトリクスは、それぞれ反応した。
後者は明らかに不満そうである。
「ええ、そうです。
比較的最近拓けた港でしてな。
町としての規模は、それなりに大きくなっておりますが、港として発展する余地が無いのです。
艦隊の入港は、まず不可能でしょうな。
港の規模だけで無く船大工の数も、最低限の数しかおりません。
船の修復すら非常に困難なのですから、余程の事が無ければ軍船の入港など、考えられぬ話です」
伯爵の話を聞いた佐藤は、周辺を含めたサイズの画像を、スクリーンに出した。
地形に関しては、その通りである。
港は北に面しているが、その東西の沿岸は崖であった。
港の周辺のみが、海に接した高さとなっている。
これでは、発展の余地が無いというのも、納得の話だ。
港の設備が整っていないという話も、間違い無いであろう。
そして、軍船が入港する必要があるという、余程の事態というのも納得出来る。
言うまでも無く、神聖軍の壊滅であろう。
「どうして、こんな場所に港を拓いたのでしょう?」
ベアトリクスが伯爵に問う。
「さてはて、皆目検討も付きませんな。
未確認ですが、政治的な事情があるという話もあります。
この辺りは、帝国直轄領どころでは無く、属国の領土であった筈です。
町一つ拓くのにも、帝国の許可が必要でしょう。
無断で行っては、叛意を疑われる規模です。
某は、密貿易に使うものかと思いましたが、それ以外の可能性も充分にありますからな」
伯爵は入手していた情報と、自身の推論を返答の代わりとする。
要は何も分かっていない、という事だ。
「成程。
伯爵が密貿易と言うので、魔族領域相手の話かと思いましたけど、それなら理解出来ます。
魔族領域相手の場合、西端半島以北で行う事など考えられませんが、たしかにタルターニャや西天津国相手の密貿易であれば、納得は出来ますね」
ベアトリクスは、納得した様にそう言って頷いた。
「属国の拓いた、密貿易の拠点ですか………
しかし、そんなところに軍船が入港しますかね?
存在すら知らないのでは?」
佐藤が、伯爵に向けてそんな質問をする。
あまり信用していない様な口振りだ。
「密貿易と申しましても、帝国政府は黙認しておりましょう。
むしろ、国策やもしれませんな。
帝国領では貴金属が採れない為か、彼の国は初代よりそういった策略を、躊躇無く使います。
それを鋳潰して、自国の貨幣を発行するのですから、大したものですな。
相手に製法が伝わり難く、その上で売れる品があれば、どの様な物でも売るでしょう」
伯爵は、とんでもない事を口にした。
それが事実なら、れっきとした経済戦争である。
阿片戦争の原因となった様な、三角交易では無いものの、一方的な経済的収奪と言えるであろう。
(密貿易で、経済戦争もするのか?
差別主義の、宗教狂いが?
実は宗教狂いなんかじゃ無くて、纏まる為の方便なのか?
明らかに時代が違うぞ)
万屋は驚き以上に、気の滅入る話として受け止める。
経済を武器に使う相手では、貿易によって世界の主導権を握るという、日本側の大戦略が挫折してしまう可能性が高い。
高い関税を課せられた場合、帝国内に於ける交易はそれで終わりである。
その場合、密貿易という最終手段も考えられるが、それには困難が伴う。
隔絶した技術を使った商品が、目立たない訳が無い。
見付かってしまったその商品は、林則除に押収された阿片の如く扱われても、不思議では無いのだ。
密貿易である以上、積み荷を処分されても文句は言えない。
だが、そうなれば阿片戦争という、大義名分の立たない戦争の二の舞であろう。
苦渋の決断の末に密貿易を行った上で、商品を処分されるのだ。
何もしない訳にはいかないであろう。
その上、密貿易の場合はインフラの輸出が、不可能である。
そしてなによりも、国民が大義無き戦争を肯定するとは、とても思えない。
密貿易そのものですら、反対意見は出る筈だ。
戦争を肯定せざるを得ない状況は、考えたくも無い程経済的に、追い詰められた時だけであろう。
しかし、今ならば拉致被害や小笠原事変の報復という、大義名分があるのだ。
帝国の皇女が、亡命しているという情報もある。
幸いと言って良いのか、万屋の翻訳を聞いて山田や佐藤も、事の重大さを理解したらしい。
顔を真っ青にしている。
無理も無いだろう。
今の情報で、国家戦略が前提から覆されたのだ。
特に佐藤の場合は、政府首脳部の狂乱っぷりを耳にしている。
貿易摩擦の末に全面戦争という、悪夢が這い寄って来る様な恐怖を、実感を持って感じているのか、山田よりも大分青い顔となっていた。
その点、仕事が増えるであろう事に、嫌気が差しているだけの万屋や、政府の混乱を推測しているだけの山田とは、立場が大いに異なっている。
佐藤にとっては、洒落にならない情報なのだ。
「どうかなさいましたかな?」
伯爵が万屋に訊ねた。
「なかなか一筋縄では、いかなそうですからね。
みんな、うんざりしているんですよ」
万屋は正直に答える。
(本音の様だな。
弱味を見せたのかと思ったが、つまらん話だったか)
伯爵の訊ねた相手が万屋であった事は、日本にとっての幸運であった。
老獪な伯爵に対して、誤魔化しが利く事は無い。
いくら山田が優秀であっても、動揺している時に鋭い質問をされては、誤魔化し切れなかったであろう。
佐藤であれば、誤魔化し切れたであろうが、佐藤は山田程語学に長けてはいないのだ。
「国難ですからな。
お察しいたします」
伯爵は万屋の返答を聞いて、興味を失ったのであろう。
それだけを言った。
「しかし、そうなりますと帝国の商品が、何処かに流れつつあるのでは?」
ベアトリクスが、そんな疑問を口に出した。
「姫様。
帝国が何を売ろうとしたところで、日本製品の方が上だと思いませんかな?」
伯爵の返答は単純であった。
万屋が、ビクリと体を震わせる。
佐藤や山田は無表情を保てたが、その道のプロ達とは違い、そういった訓練を受けていない万屋には、無理であったのだ。
万屋を見た伯爵は、ニヤリと笑う。
伯爵としても、日本製品の席巻は予想していた。
だからこそ、牽制球を放ったのである。
日本の思惑を知っているという事を、然り気無く示して見せたのだ。
そして、それにはもう一つの意味が含まれていた。
伯爵は、日本と帝国の間に大きな火種が転がっている事を、示唆しているのだ。
現状では両者が相容れ無いという事を示し、焚き付けているのであろう。
そして、現時点で入手している情報を考慮すれば、日本は伯爵の思惑に乗るしかない。
すなわち、参戦である。
関税等課せられない様な、従属関係を強いれば、問題は解決するであろう。
(だが、それは南半球交易が不可能な場合だな。
南半球交易さえ可能なら、帝国を経済封鎖する事も可能だ)
山田は、即座にそんな事を思い付く。
自衛隊は幹部から隊員まで、政治に関わるべきでは無いが、理解しないというのはまた別の話だ。
山田はその優秀な頭脳で、外交政治を観測していた。
その予想も、決して的外れな考えでは無いであろう。
伯爵は、西方大陸の常識で物事を量っているが、それは物理法則でも何でも無いのだ。
あくまでも外交的な対立である。
その証拠が密貿易であろう。
魔族領域との密貿易が可能なら、通常の交易も可能と言って良い筈だ。
しがらみの無い日本人の立場ならば、他の人類領域諸国よりも、容易に交易がであろう。
山田だけでなく、佐藤も気付いたのであろうか。
二人の緊張は、一瞬で解けた。
万屋ばかりが、自らの失態に怯えて顔色を悪くしている。
「我々と致しましては、リースを破壊していただけると、好都合なのですがな
そちらちしては、如何ですか?」
万屋はともかく、二人が焦りを見せない事に、苛立ったのであろう。
伯爵が、そう言った。
普段であれば、老獪な伯爵が焦れる事など、あり得ない話である。
しかし、会談前に卒倒する様な、普段とは大きく異なる精神状態の伯爵には、待つという事が困難になっていたのだ。
そして、本人にはその自覚が無かった。
新しい事柄に適応し難い、老人特有の失態である。
(成程。
それが本音か)
山田は伯爵の本音に気付いた。
伯爵としては、帝国へ無駄に貴金属が流出する事が、なによりも恐ろしいのだ。
日本の出現以前ならば、密貿易であっても黙認していたであろう。
入って来た商品を研究し、模倣するのである。
しかし、今となっては帝国商品の流入と、貴金属の流出は困るのだ。
どの様に優れた帝国商品であろうとも、それより確実に優れているであろう、日本製品が取って代わる事は、明白である。
貴金属の流出は将来への投資から、無駄な出費へと成り下がるのだ。
それを知って、尚も密貿易を黙認するつもりは無い。
どうせなら、日本によって帝国の密貿易拠点が潰されれば良い。
その上で、帝国の敵意を日本に向ける事が出来れば、日本を戦争に引き込む事に繋がる。
それが伯爵の考えであった。
ここで重要な点は、伯爵の考え方の傾向である。
伯爵としては、日本の経済的覇権を、阻止しようというつもりが無い。
自身の経験から、時代の流れが変わる事を、予期しているのだ。
自身は付いて行けない。
それは気絶した際見に染みていた。
だからと言って、その流れを戻す事は出来ない。
その事も、伯爵は理解していた。
故に、帝国よりは随分とましであろう、日本の経済的覇権に貢献する道を、選択しようと考えたのである。
もちろん、それは属国の様な意識では無い。
高度な技術を持っているとは言え、この世界の右も左も分からないのが、日本の現状なのだ。
そこに貸しを作ろうというのは、至極真っ当な考えであろう。
「それは難しいでしょうね。
港を爆破して、民間人でも巻き込んだら最後です。
政府は、国民の非難を浴びる事になるでしょう。
それも政権が吹き飛ぶ勢いが、予想されます。
現状、国内で争っている余裕はありませんよ」
佐藤がそう言って、やんわりと断った。
伯爵の思惑は、民主主義国家の欠点によって阻まれた、と言えるのだろう。
「……………………」
その理由に、伯爵は驚愕している。
あまりの驚きに、声も出ない様子だ。
無理も無い事であろう。
この世界では、封建体制から中央集権体制が主流なのだ。
そこで、国民の反発を政府が恐れるという話をしても、予想など出来ない。
驚かない方がおかしいであろう。
「はあ、そうですか」
だがその割には、驚きの小さい者も居た。
ベアトリクスである。
老獪な伯爵とは逆に、ベアトリクスの方は若い事もあるのだろう。
佐藤の言い分を受け入れてる様に、見受けられる。
この違いが年齢差によるものなのか、それとも頭の柔軟さが違うのか。
それは分からない。
だが、その場に居た日本人の何割かは、伯爵への警戒心だけで無くベアトリクスにも、警戒感を持つ様になった。
「皆さんは、この港町の情報をご存知ですか?」
万屋は、エルフ達に確認する。
「存じません」
ベアトリクスの反応は、どこか冷ややかであった。
エルフ達は、暫くの間空気だったので、不貞腐れているのであろうか。
明らかに刺のある声だ。
「姫様がご存知無いのも、無理はありません。
リースは、戦略的な価値の低い港ですからな」
伯爵がそう言って、ベアトリクスをフォローした。
何らかの、情報を持っている様な言い回しである。
「リースと言うのですか?」
「名前を聞いた事ぐらいはあります」
万屋とベアトリクスは、それぞれ反応した。
後者は明らかに不満そうである。
「ええ、そうです。
比較的最近拓けた港でしてな。
町としての規模は、それなりに大きくなっておりますが、港として発展する余地が無いのです。
艦隊の入港は、まず不可能でしょうな。
港の規模だけで無く船大工の数も、最低限の数しかおりません。
船の修復すら非常に困難なのですから、余程の事が無ければ軍船の入港など、考えられぬ話です」
伯爵の話を聞いた佐藤は、周辺を含めたサイズの画像を、スクリーンに出した。
地形に関しては、その通りである。
港は北に面しているが、その東西の沿岸は崖であった。
港の周辺のみが、海に接した高さとなっている。
これでは、発展の余地が無いというのも、納得の話だ。
港の設備が整っていないという話も、間違い無いであろう。
そして、軍船が入港する必要があるという、余程の事態というのも納得出来る。
言うまでも無く、神聖軍の壊滅であろう。
「どうして、こんな場所に港を拓いたのでしょう?」
ベアトリクスが伯爵に問う。
「さてはて、皆目検討も付きませんな。
未確認ですが、政治的な事情があるという話もあります。
この辺りは、帝国直轄領どころでは無く、属国の領土であった筈です。
町一つ拓くのにも、帝国の許可が必要でしょう。
無断で行っては、叛意を疑われる規模です。
某は、密貿易に使うものかと思いましたが、それ以外の可能性も充分にありますからな」
伯爵は入手していた情報と、自身の推論を返答の代わりとする。
要は何も分かっていない、という事だ。
「成程。
伯爵が密貿易と言うので、魔族領域相手の話かと思いましたけど、それなら理解出来ます。
魔族領域相手の場合、西端半島以北で行う事など考えられませんが、たしかにタルターニャや西天津国相手の密貿易であれば、納得は出来ますね」
ベアトリクスは、納得した様にそう言って頷いた。
「属国の拓いた、密貿易の拠点ですか………
しかし、そんなところに軍船が入港しますかね?
存在すら知らないのでは?」
佐藤が、伯爵に向けてそんな質問をする。
あまり信用していない様な口振りだ。
「密貿易と申しましても、帝国政府は黙認しておりましょう。
むしろ、国策やもしれませんな。
帝国領では貴金属が採れない為か、彼の国は初代よりそういった策略を、躊躇無く使います。
それを鋳潰して、自国の貨幣を発行するのですから、大したものですな。
相手に製法が伝わり難く、その上で売れる品があれば、どの様な物でも売るでしょう」
伯爵は、とんでもない事を口にした。
それが事実なら、れっきとした経済戦争である。
阿片戦争の原因となった様な、三角交易では無いものの、一方的な経済的収奪と言えるであろう。
(密貿易で、経済戦争もするのか?
差別主義の、宗教狂いが?
実は宗教狂いなんかじゃ無くて、纏まる為の方便なのか?
明らかに時代が違うぞ)
万屋は驚き以上に、気の滅入る話として受け止める。
経済を武器に使う相手では、貿易によって世界の主導権を握るという、日本側の大戦略が挫折してしまう可能性が高い。
高い関税を課せられた場合、帝国内に於ける交易はそれで終わりである。
その場合、密貿易という最終手段も考えられるが、それには困難が伴う。
隔絶した技術を使った商品が、目立たない訳が無い。
見付かってしまったその商品は、林則除に押収された阿片の如く扱われても、不思議では無いのだ。
密貿易である以上、積み荷を処分されても文句は言えない。
だが、そうなれば阿片戦争という、大義名分の立たない戦争の二の舞であろう。
苦渋の決断の末に密貿易を行った上で、商品を処分されるのだ。
何もしない訳にはいかないであろう。
その上、密貿易の場合はインフラの輸出が、不可能である。
そしてなによりも、国民が大義無き戦争を肯定するとは、とても思えない。
密貿易そのものですら、反対意見は出る筈だ。
戦争を肯定せざるを得ない状況は、考えたくも無い程経済的に、追い詰められた時だけであろう。
しかし、今ならば拉致被害や小笠原事変の報復という、大義名分があるのだ。
帝国の皇女が、亡命しているという情報もある。
幸いと言って良いのか、万屋の翻訳を聞いて山田や佐藤も、事の重大さを理解したらしい。
顔を真っ青にしている。
無理も無いだろう。
今の情報で、国家戦略が前提から覆されたのだ。
特に佐藤の場合は、政府首脳部の狂乱っぷりを耳にしている。
貿易摩擦の末に全面戦争という、悪夢が這い寄って来る様な恐怖を、実感を持って感じているのか、山田よりも大分青い顔となっていた。
その点、仕事が増えるであろう事に、嫌気が差しているだけの万屋や、政府の混乱を推測しているだけの山田とは、立場が大いに異なっている。
佐藤にとっては、洒落にならない情報なのだ。
「どうかなさいましたかな?」
伯爵が万屋に訊ねた。
「なかなか一筋縄では、いかなそうですからね。
みんな、うんざりしているんですよ」
万屋は正直に答える。
(本音の様だな。
弱味を見せたのかと思ったが、つまらん話だったか)
伯爵の訊ねた相手が万屋であった事は、日本にとっての幸運であった。
老獪な伯爵に対して、誤魔化しが利く事は無い。
いくら山田が優秀であっても、動揺している時に鋭い質問をされては、誤魔化し切れなかったであろう。
佐藤であれば、誤魔化し切れたであろうが、佐藤は山田程語学に長けてはいないのだ。
「国難ですからな。
お察しいたします」
伯爵は万屋の返答を聞いて、興味を失ったのであろう。
それだけを言った。
「しかし、そうなりますと帝国の商品が、何処かに流れつつあるのでは?」
ベアトリクスが、そんな疑問を口に出した。
「姫様。
帝国が何を売ろうとしたところで、日本製品の方が上だと思いませんかな?」
伯爵の返答は単純であった。
万屋が、ビクリと体を震わせる。
佐藤や山田は無表情を保てたが、その道のプロ達とは違い、そういった訓練を受けていない万屋には、無理であったのだ。
万屋を見た伯爵は、ニヤリと笑う。
伯爵としても、日本製品の席巻は予想していた。
だからこそ、牽制球を放ったのである。
日本の思惑を知っているという事を、然り気無く示して見せたのだ。
そして、それにはもう一つの意味が含まれていた。
伯爵は、日本と帝国の間に大きな火種が転がっている事を、示唆しているのだ。
現状では両者が相容れ無いという事を示し、焚き付けているのであろう。
そして、現時点で入手している情報を考慮すれば、日本は伯爵の思惑に乗るしかない。
すなわち、参戦である。
関税等課せられない様な、従属関係を強いれば、問題は解決するであろう。
(だが、それは南半球交易が不可能な場合だな。
南半球交易さえ可能なら、帝国を経済封鎖する事も可能だ)
山田は、即座にそんな事を思い付く。
自衛隊は幹部から隊員まで、政治に関わるべきでは無いが、理解しないというのはまた別の話だ。
山田はその優秀な頭脳で、外交政治を観測していた。
その予想も、決して的外れな考えでは無いであろう。
伯爵は、西方大陸の常識で物事を量っているが、それは物理法則でも何でも無いのだ。
あくまでも外交的な対立である。
その証拠が密貿易であろう。
魔族領域との密貿易が可能なら、通常の交易も可能と言って良い筈だ。
しがらみの無い日本人の立場ならば、他の人類領域諸国よりも、容易に交易がであろう。
山田だけでなく、佐藤も気付いたのであろうか。
二人の緊張は、一瞬で解けた。
万屋ばかりが、自らの失態に怯えて顔色を悪くしている。
「我々と致しましては、リースを破壊していただけると、好都合なのですがな
そちらちしては、如何ですか?」
万屋はともかく、二人が焦りを見せない事に、苛立ったのであろう。
伯爵が、そう言った。
普段であれば、老獪な伯爵が焦れる事など、あり得ない話である。
しかし、会談前に卒倒する様な、普段とは大きく異なる精神状態の伯爵には、待つという事が困難になっていたのだ。
そして、本人にはその自覚が無かった。
新しい事柄に適応し難い、老人特有の失態である。
(成程。
それが本音か)
山田は伯爵の本音に気付いた。
伯爵としては、帝国へ無駄に貴金属が流出する事が、なによりも恐ろしいのだ。
日本の出現以前ならば、密貿易であっても黙認していたであろう。
入って来た商品を研究し、模倣するのである。
しかし、今となっては帝国商品の流入と、貴金属の流出は困るのだ。
どの様に優れた帝国商品であろうとも、それより確実に優れているであろう、日本製品が取って代わる事は、明白である。
貴金属の流出は将来への投資から、無駄な出費へと成り下がるのだ。
それを知って、尚も密貿易を黙認するつもりは無い。
どうせなら、日本によって帝国の密貿易拠点が潰されれば良い。
その上で、帝国の敵意を日本に向ける事が出来れば、日本を戦争に引き込む事に繋がる。
それが伯爵の考えであった。
ここで重要な点は、伯爵の考え方の傾向である。
伯爵としては、日本の経済的覇権を、阻止しようというつもりが無い。
自身の経験から、時代の流れが変わる事を、予期しているのだ。
自身は付いて行けない。
それは気絶した際見に染みていた。
だからと言って、その流れを戻す事は出来ない。
その事も、伯爵は理解していた。
故に、帝国よりは随分とましであろう、日本の経済的覇権に貢献する道を、選択しようと考えたのである。
もちろん、それは属国の様な意識では無い。
高度な技術を持っているとは言え、この世界の右も左も分からないのが、日本の現状なのだ。
そこに貸しを作ろうというのは、至極真っ当な考えであろう。
「それは難しいでしょうね。
港を爆破して、民間人でも巻き込んだら最後です。
政府は、国民の非難を浴びる事になるでしょう。
それも政権が吹き飛ぶ勢いが、予想されます。
現状、国内で争っている余裕はありませんよ」
佐藤がそう言って、やんわりと断った。
伯爵の思惑は、民主主義国家の欠点によって阻まれた、と言えるのだろう。
「……………………」
その理由に、伯爵は驚愕している。
あまりの驚きに、声も出ない様子だ。
無理も無い事であろう。
この世界では、封建体制から中央集権体制が主流なのだ。
そこで、国民の反発を政府が恐れるという話をしても、予想など出来ない。
驚かない方がおかしいであろう。
「はあ、そうですか」
だがその割には、驚きの小さい者も居た。
ベアトリクスである。
老獪な伯爵とは逆に、ベアトリクスの方は若い事もあるのだろう。
佐藤の言い分を受け入れてる様に、見受けられる。
この違いが年齢差によるものなのか、それとも頭の柔軟さが違うのか。
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だが、その場に居た日本人の何割かは、伯爵への警戒心だけで無くベアトリクスにも、警戒感を持つ様になった。
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想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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