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第二章 西端半島戦役
第三話 ブリーフィング
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「作戦はこうです」
佐藤は、作戦の説明を始めた。
だが、万屋の部下も特殊作戦群も関係無く、メモは取っていない。
自衛隊では、そう決まっているのだ。
多少無理をしてでも記録には残さず、頭に叩き込むのである。
これは第二次世界大戦の折り、戦死した兵士のメモを敵が作戦の推測に、活用したという歴史が理由であった。
自衛隊内では、日本人が初めて体感した総力戦で用いられた、そのえげつない手段に若干引いてはいたものの、きちんと教訓を活かしていた。
この様に第二次世界大戦は、自衛隊を中心に重要な機密を扱う一部の省庁等で、防諜意識が高まる要因となっているのだった。
決して暗号が破られた件や、対潜能力の不備ばかりが重視された訳では無い。
だが、それはあくまでも自衛隊や警察等、国防や治安に関わる部署に、限られたの話である。
また、法整備に関してはむしろ、諸外国よりも遅れていた程であった。
一般にまで防諜意識が広まり、さらに法律が整備される様になるには、二千十年代まで待たなければならなかったのだ。
日本全体での防諜意識はこの時代に急速に高まり、制度と言う観点から観ると二千二十年の、スパイ防止法成立と共に最盛期に達した、と考えられている。
少なくともこれ以降の日本は、スパイ天国という汚名を返上するのであった。
さて、現状では日本語を読み書き可能な敵は、存在しない。
それどころか諜報と言う概念すら、怪しい敵である。
しかし、だからと言って規律を緩められないのが、宮仕えの辛いところであろう。
不合理であっても、規則の改定には時間が掛かるのだ。
そして改定が終わる頃になれば、日本語を読み書き可能な外国人も増えているであろう、と推測出来る。
故に、確実に無駄になる改定が行われる事は、まず無いであろう。
どれだけ現場の負担となってもである。
何時の時代も、割りを食わされるのは定められ、規制される側なのだ。
定め、規制する側に不都合は少ない。
そんな事情から、佐藤の説明を聞く隊員達の表情は真剣である。
人命に関わる事なので、真剣になるのは当然であるが、自衛隊にはメモが取れないと言う、それ以上の理由があるのだ。
「さてその前に、昨夜から始動しました、GPSに替わる我が国独自の測位システム、正式名称『天照システム』の話をしましょう。
細かい話は省きますが、このシステムは偵察にも利用可能です。
使用する衛星は、民間企業である八百万組の打ち上げたものですし、システムそのものを開発したのも彼等ですが、予算の一部を機密費から負担しました。
現在、我々が外部協力の下に、独占して利用中です。
ああ、世間には起動準備中と発表されていますので、当然機密情報ですよ。
こんな状況下でも、野党は煩いですからね。
その辺りはお忘れなく。
公式発表とは異なり、実際はシステム全体が何の問題も無く稼働中ですが、現時点でそれを扱える人材を、協力要請と言う名の下我々特戦群で押さえている、ともなれば挙国一致体制等、一瞬で瓦解します。
無論、拉致被害者救出作戦の為、捜索に利用したのですが、野党にとっては関係無い事でしょうから。
残念ながら、海自の哨戒機に先を越された事も、非難される点でしょう」
先を越されたのは、無理も無い話であった。
如何に最新のシステムであっても、操作するのは人間である。
八百万組が社運を賭けて開発した、と言われる最新システムでも、使用者の熟練度と無関係ではいられない。
ましてや、偵察にも利用可能とは言っても、軍事的には素人が動かしたのでは、無理があって当然であろう。
今回の作戦が終わった後に、協力者達からノウハウを吸収して、初めて軍事利用が可能と言える。
「ともかく、それによって作戦目標の大まかな位置が確認出来た今、目標の港町周辺は我々の監視下にあります。
そして精密に観測した結果、拉致被害者の閉じ込められた建物を、特定する事に成功しました」
万屋とその部下は動揺したが、どよめきは起こらない。
流石に規律のしっかりした組織であり、その辺りはしっかりしている。
特戦群の方は、事前に知らされていたのか、動揺すら見せなかった。
佐藤は、どよめきを期待していたのか、少し傷付いた様な顔を見せるが、そのまま説明を続ける。
「え??、次に敵の技術力ですが、これは万屋小隊の方がよくご存知でしょう。
特に我々は、照明に関する技術格差に、注目しました。
目標の港町には、街灯の類いが見当たりません。
電気照明はおろか、ガス灯すら無い様です」
そう言って佐藤は、部屋の入り口に居た部下に、部屋の照明を消させる。
そして、予め出してあったスクリーンに、画像を写し出した。
「拉致被害者らしき集団が、連れられて押し込まれた建物がここです。
幸いにも港から、百メートル程の位置でした。
港に近い理由は、おそらく奴隷として出荷する為、と思われます。
捕虜収容所の様な建物でしょう」
そう言って佐藤は、レーザーポインターを使い、一つの建物を指し示す。
それは、石造りの頑強そうな建物であった。
港の近くという立地であり、周囲にも石造りの建物は多いが、それとは異なる造りだ。
周囲の建物は飾り気が無く、倉庫である事が察せられる。
しかし、同じ石造りでも佐藤の指し示した建物は、明らかに煉瓦を組み合わせているのだ。
それは、他の建物と較べて、身分の高い人間の出入りする傾向がある、という事を示している。
そういう観点からも、佐藤の情報は間違いが無いであろう。
万屋は、感心した。
「こうなれば、話は非常に簡単です」
万屋は、佐藤の言いたい事を察した。
松明程度の灯りしかない町に、赤外線暗視装置を装備した部隊が侵入すれば、結果は見えたも同然である。
市民の誘導は少しばかり困難であるが、建物から解放した後は灯りを灯しても構わない。
要は、気付かれない様に接近して、拉致被害者を人質に取られなければ、問題無いのだ。
建物から解放した後は、火力で押し切る作戦である。
「まず、我々が建物に侵入し、拉致被害者を解放します。
その後万屋小隊は、我々と市民の撤退を援護してください。
目立って構いませんので、火力を持って抑え付けてもらえれば、幸いです。
シンプルでしょう?」
佐藤の考えは万屋の予想通りであった。
本来ならば殿と言う、面倒な仕事を押し付けられた立場であり、万屋は怒っても良いのであるが、佐藤の言葉の最後に空気は弛緩している。
これも、一種の交渉術なのであろう。
「来賓を戦場に連れ回すなんて、無茶苦茶をしているんです。
我々は、囮でも構わないのでは?」
山田が、そんな意見を言う。
実際、それも有効な手だ。
少数の部隊で一撃離脱をすれば、敵を誘引する事は簡単であろう。
写真の一つでもあれば、撤退して来た部隊の証言と合わせて、自衛隊の戦力を予想する事も不可能では無い。
しかし、証言だけで敵を測るのは、非常に困難である。
リアルタイムの、それも動画で確認を可能とする現代ですら、誤認から齟齬が生じる事はあるのだ。
さらに言えば、彼等にとっては未知の戦力であり、対応策を練るだけでも非常に難しい。
そして、小笠原事変があったとは言え、敵は情報が不足している。
故に、少数の部隊が相手でも注意を引く事は可能であるし、少数の部隊ならば威力偵察程度に追撃しようと考える可能性も、高いだろう。
メリットはそれだけでは無い。
囮であれば、エルフ達来賓一行を危険に曝す可能性も、格段に減るのだ。
少なくとも、撤退の支援と言う名の殿よりは、大分安全である。
「成る程。
それも良い手だ。
やはり山田は頼りになるな」
佐藤は面子を潰される形となっても、不快感を現さなかった。
むしろ、当然の様に頷いている程だ。
佐藤の発言からは、顔見知りである事も察せられる。
こうなると、山田が特戦群の一員である事は明らかであろう。
少なくとも、万屋はそう確信した。
しかし、だからと言ってどうこう言うつもり等、万屋には無い。
正体を隠していた事に、不満が無いと言えば嘘になるが、事情を理解する事は容易いのだ。
理解はしても納得はしていない様であるが、それでも何かを言うつもりは無い。
「ん?
山さん、どうかしたかい?」
万屋が気にしなくとも、山田の方は気になったのであろう。
山田が、気不味そうな顔を見せた。
「あ??、万屋さん。
おそらく、貴方の考えている事は事実です。
ああ、質問されても直接的な回答は出来ませんよ。
それも含めて、不愉快に思われるでしょうが、山田を責めないでやってください。
我々も気不味いのですが、宮仕えである以上仕方が無いんです」
空気を読んだのであろうか。
佐藤が、山田をフォローする。
「大丈夫ですよ。
宮仕えはお互い様ですので、理解はしています。
山田の実力から、薄々察していましたしね。
受け入れるのに、少し時間が欲しいところですが、そうも言っていられません」
万屋は正直に答えた。
妙に取り繕って、逆にギクシャクする事を恐れたのだ。
「そう言っていただくと、ありがたいです。
山田も、後で正式にお礼を言っておけ。
こんな風に言ってくださる方は貴重だぞ」
佐藤はそう言って、山田の背中を叩いた。
山田は頷きながら、涙ぐんでいる。
(それ死亡フラグじゃないのか?)
万屋は、心の中でそう突っ込んだ。
一応感動のシーンなので、水を差す様な事はしないが、気を抜いてしまったのかジト目になるのを、避けれれていない。
「では、今回の作戦はこれを記念して、山田の意見を採用します」
冷めた万屋の耳に、佐藤のとんでもない意見が聞こえた。
「いくらなんでも、それは無いでしょう!?」
一瞬、何を言われたのか理解出来無いでいた万屋は、数秒間の間を空けてからそう突っ込む。
明らかにその場のノリで、作戦を立てられそうになっているのだ。
流石に、空気を読むどころでは無い。
「いえいえ、山田の意見が有効な手である事も、事実ですから。
流石に、ノリで決めたりはしませんよ」
佐藤は、万屋の心を読んだかの様に、そう言った。
「ハハハハハハハハ」
見透かされた万屋は、乾いた笑い声を出す。
(俺は顔に出やすいのか?)
そして内心そう思って落ち込むのだった。
そんな緩やかな雰囲気もあって、ブリーフィングは和やかに進んだ。
万屋の通訳が追い付かず、エルフ達が戸惑う事もあったが、徐々に細部まで決まっていく。
「まあ、こちらは囮ですからね。
特戦群さんよりは、ずっと楽でしょう」
作戦が決まり、和やかにお茶を飲みながら、万屋はそう言った。
「ええと、万屋さんには我々に同行してもらう事が、前提となっていますが、お伝えしませんでしたかね?」
すると、佐藤が困惑した様な表情で、爆弾を落とした。
「ブフォオ!?
エホッゲホッペッ」
万屋は見事にお茶を噴いた。
今になって言われた事で、不意討ちになったのだ。
「そんな無茶苦茶な話、聞いていませんよ!?
だいたい、部下の指揮はどうするんです!?
殿下方の護衛は!?」
万屋が叫ぶのは、正当な権利であろう。
散々相談した上で決まった予定が、覆された様なものである。
誤解とは言え、これは酷い話だ。
「山田が、それなりに話せる様になった、と聞きますが?
指揮も、山田なら大丈夫でしょう?」
佐藤は、万屋の質問に質問を返した。
(さっきの話の後だと、断り辛いな………
つまり嵌められたのか………)
ここで断れば、山田を信用していないかの様な話になってしまう。
万屋としても、様々な問題で山田に頼り切りな以上、禍根を残す様な事では困るのだ。
「大丈夫ですかねぇ?
自分は山田を信頼していますが、部下達は不安になるかもしれませんよ。
もっと前の通達ならともかく、直前ですからねぇ。
囮とは言え、そんな状態で重要な任務に出すのは、如何なものでしょうかねぇ?」
万屋は、隊の士気低下を理由に挙げた。
「ああ、それなら大丈夫です。
ブリーフィングの前に、全員のいる場所で伝えておきましたから」
そう言ったのは、山田である。
先程までの様な、湿っぽい空気は微塵も感じさせない、どこか笑いを堪える様な表情だ。
茶番に気付いた万屋は、放心した様な表情でそのまま力無く頷くのであった。
佐藤は、作戦の説明を始めた。
だが、万屋の部下も特殊作戦群も関係無く、メモは取っていない。
自衛隊では、そう決まっているのだ。
多少無理をしてでも記録には残さず、頭に叩き込むのである。
これは第二次世界大戦の折り、戦死した兵士のメモを敵が作戦の推測に、活用したという歴史が理由であった。
自衛隊内では、日本人が初めて体感した総力戦で用いられた、そのえげつない手段に若干引いてはいたものの、きちんと教訓を活かしていた。
この様に第二次世界大戦は、自衛隊を中心に重要な機密を扱う一部の省庁等で、防諜意識が高まる要因となっているのだった。
決して暗号が破られた件や、対潜能力の不備ばかりが重視された訳では無い。
だが、それはあくまでも自衛隊や警察等、国防や治安に関わる部署に、限られたの話である。
また、法整備に関してはむしろ、諸外国よりも遅れていた程であった。
一般にまで防諜意識が広まり、さらに法律が整備される様になるには、二千十年代まで待たなければならなかったのだ。
日本全体での防諜意識はこの時代に急速に高まり、制度と言う観点から観ると二千二十年の、スパイ防止法成立と共に最盛期に達した、と考えられている。
少なくともこれ以降の日本は、スパイ天国という汚名を返上するのであった。
さて、現状では日本語を読み書き可能な敵は、存在しない。
それどころか諜報と言う概念すら、怪しい敵である。
しかし、だからと言って規律を緩められないのが、宮仕えの辛いところであろう。
不合理であっても、規則の改定には時間が掛かるのだ。
そして改定が終わる頃になれば、日本語を読み書き可能な外国人も増えているであろう、と推測出来る。
故に、確実に無駄になる改定が行われる事は、まず無いであろう。
どれだけ現場の負担となってもである。
何時の時代も、割りを食わされるのは定められ、規制される側なのだ。
定め、規制する側に不都合は少ない。
そんな事情から、佐藤の説明を聞く隊員達の表情は真剣である。
人命に関わる事なので、真剣になるのは当然であるが、自衛隊にはメモが取れないと言う、それ以上の理由があるのだ。
「さてその前に、昨夜から始動しました、GPSに替わる我が国独自の測位システム、正式名称『天照システム』の話をしましょう。
細かい話は省きますが、このシステムは偵察にも利用可能です。
使用する衛星は、民間企業である八百万組の打ち上げたものですし、システムそのものを開発したのも彼等ですが、予算の一部を機密費から負担しました。
現在、我々が外部協力の下に、独占して利用中です。
ああ、世間には起動準備中と発表されていますので、当然機密情報ですよ。
こんな状況下でも、野党は煩いですからね。
その辺りはお忘れなく。
公式発表とは異なり、実際はシステム全体が何の問題も無く稼働中ですが、現時点でそれを扱える人材を、協力要請と言う名の下我々特戦群で押さえている、ともなれば挙国一致体制等、一瞬で瓦解します。
無論、拉致被害者救出作戦の為、捜索に利用したのですが、野党にとっては関係無い事でしょうから。
残念ながら、海自の哨戒機に先を越された事も、非難される点でしょう」
先を越されたのは、無理も無い話であった。
如何に最新のシステムであっても、操作するのは人間である。
八百万組が社運を賭けて開発した、と言われる最新システムでも、使用者の熟練度と無関係ではいられない。
ましてや、偵察にも利用可能とは言っても、軍事的には素人が動かしたのでは、無理があって当然であろう。
今回の作戦が終わった後に、協力者達からノウハウを吸収して、初めて軍事利用が可能と言える。
「ともかく、それによって作戦目標の大まかな位置が確認出来た今、目標の港町周辺は我々の監視下にあります。
そして精密に観測した結果、拉致被害者の閉じ込められた建物を、特定する事に成功しました」
万屋とその部下は動揺したが、どよめきは起こらない。
流石に規律のしっかりした組織であり、その辺りはしっかりしている。
特戦群の方は、事前に知らされていたのか、動揺すら見せなかった。
佐藤は、どよめきを期待していたのか、少し傷付いた様な顔を見せるが、そのまま説明を続ける。
「え??、次に敵の技術力ですが、これは万屋小隊の方がよくご存知でしょう。
特に我々は、照明に関する技術格差に、注目しました。
目標の港町には、街灯の類いが見当たりません。
電気照明はおろか、ガス灯すら無い様です」
そう言って佐藤は、部屋の入り口に居た部下に、部屋の照明を消させる。
そして、予め出してあったスクリーンに、画像を写し出した。
「拉致被害者らしき集団が、連れられて押し込まれた建物がここです。
幸いにも港から、百メートル程の位置でした。
港に近い理由は、おそらく奴隷として出荷する為、と思われます。
捕虜収容所の様な建物でしょう」
そう言って佐藤は、レーザーポインターを使い、一つの建物を指し示す。
それは、石造りの頑強そうな建物であった。
港の近くという立地であり、周囲にも石造りの建物は多いが、それとは異なる造りだ。
周囲の建物は飾り気が無く、倉庫である事が察せられる。
しかし、同じ石造りでも佐藤の指し示した建物は、明らかに煉瓦を組み合わせているのだ。
それは、他の建物と較べて、身分の高い人間の出入りする傾向がある、という事を示している。
そういう観点からも、佐藤の情報は間違いが無いであろう。
万屋は、感心した。
「こうなれば、話は非常に簡単です」
万屋は、佐藤の言いたい事を察した。
松明程度の灯りしかない町に、赤外線暗視装置を装備した部隊が侵入すれば、結果は見えたも同然である。
市民の誘導は少しばかり困難であるが、建物から解放した後は灯りを灯しても構わない。
要は、気付かれない様に接近して、拉致被害者を人質に取られなければ、問題無いのだ。
建物から解放した後は、火力で押し切る作戦である。
「まず、我々が建物に侵入し、拉致被害者を解放します。
その後万屋小隊は、我々と市民の撤退を援護してください。
目立って構いませんので、火力を持って抑え付けてもらえれば、幸いです。
シンプルでしょう?」
佐藤の考えは万屋の予想通りであった。
本来ならば殿と言う、面倒な仕事を押し付けられた立場であり、万屋は怒っても良いのであるが、佐藤の言葉の最後に空気は弛緩している。
これも、一種の交渉術なのであろう。
「来賓を戦場に連れ回すなんて、無茶苦茶をしているんです。
我々は、囮でも構わないのでは?」
山田が、そんな意見を言う。
実際、それも有効な手だ。
少数の部隊で一撃離脱をすれば、敵を誘引する事は簡単であろう。
写真の一つでもあれば、撤退して来た部隊の証言と合わせて、自衛隊の戦力を予想する事も不可能では無い。
しかし、証言だけで敵を測るのは、非常に困難である。
リアルタイムの、それも動画で確認を可能とする現代ですら、誤認から齟齬が生じる事はあるのだ。
さらに言えば、彼等にとっては未知の戦力であり、対応策を練るだけでも非常に難しい。
そして、小笠原事変があったとは言え、敵は情報が不足している。
故に、少数の部隊が相手でも注意を引く事は可能であるし、少数の部隊ならば威力偵察程度に追撃しようと考える可能性も、高いだろう。
メリットはそれだけでは無い。
囮であれば、エルフ達来賓一行を危険に曝す可能性も、格段に減るのだ。
少なくとも、撤退の支援と言う名の殿よりは、大分安全である。
「成る程。
それも良い手だ。
やはり山田は頼りになるな」
佐藤は面子を潰される形となっても、不快感を現さなかった。
むしろ、当然の様に頷いている程だ。
佐藤の発言からは、顔見知りである事も察せられる。
こうなると、山田が特戦群の一員である事は明らかであろう。
少なくとも、万屋はそう確信した。
しかし、だからと言ってどうこう言うつもり等、万屋には無い。
正体を隠していた事に、不満が無いと言えば嘘になるが、事情を理解する事は容易いのだ。
理解はしても納得はしていない様であるが、それでも何かを言うつもりは無い。
「ん?
山さん、どうかしたかい?」
万屋が気にしなくとも、山田の方は気になったのであろう。
山田が、気不味そうな顔を見せた。
「あ??、万屋さん。
おそらく、貴方の考えている事は事実です。
ああ、質問されても直接的な回答は出来ませんよ。
それも含めて、不愉快に思われるでしょうが、山田を責めないでやってください。
我々も気不味いのですが、宮仕えである以上仕方が無いんです」
空気を読んだのであろうか。
佐藤が、山田をフォローする。
「大丈夫ですよ。
宮仕えはお互い様ですので、理解はしています。
山田の実力から、薄々察していましたしね。
受け入れるのに、少し時間が欲しいところですが、そうも言っていられません」
万屋は正直に答えた。
妙に取り繕って、逆にギクシャクする事を恐れたのだ。
「そう言っていただくと、ありがたいです。
山田も、後で正式にお礼を言っておけ。
こんな風に言ってくださる方は貴重だぞ」
佐藤はそう言って、山田の背中を叩いた。
山田は頷きながら、涙ぐんでいる。
(それ死亡フラグじゃないのか?)
万屋は、心の中でそう突っ込んだ。
一応感動のシーンなので、水を差す様な事はしないが、気を抜いてしまったのかジト目になるのを、避けれれていない。
「では、今回の作戦はこれを記念して、山田の意見を採用します」
冷めた万屋の耳に、佐藤のとんでもない意見が聞こえた。
「いくらなんでも、それは無いでしょう!?」
一瞬、何を言われたのか理解出来無いでいた万屋は、数秒間の間を空けてからそう突っ込む。
明らかにその場のノリで、作戦を立てられそうになっているのだ。
流石に、空気を読むどころでは無い。
「いえいえ、山田の意見が有効な手である事も、事実ですから。
流石に、ノリで決めたりはしませんよ」
佐藤は、万屋の心を読んだかの様に、そう言った。
「ハハハハハハハハ」
見透かされた万屋は、乾いた笑い声を出す。
(俺は顔に出やすいのか?)
そして内心そう思って落ち込むのだった。
そんな緩やかな雰囲気もあって、ブリーフィングは和やかに進んだ。
万屋の通訳が追い付かず、エルフ達が戸惑う事もあったが、徐々に細部まで決まっていく。
「まあ、こちらは囮ですからね。
特戦群さんよりは、ずっと楽でしょう」
作戦が決まり、和やかにお茶を飲みながら、万屋はそう言った。
「ええと、万屋さんには我々に同行してもらう事が、前提となっていますが、お伝えしませんでしたかね?」
すると、佐藤が困惑した様な表情で、爆弾を落とした。
「ブフォオ!?
エホッゲホッペッ」
万屋は見事にお茶を噴いた。
今になって言われた事で、不意討ちになったのだ。
「そんな無茶苦茶な話、聞いていませんよ!?
だいたい、部下の指揮はどうするんです!?
殿下方の護衛は!?」
万屋が叫ぶのは、正当な権利であろう。
散々相談した上で決まった予定が、覆された様なものである。
誤解とは言え、これは酷い話だ。
「山田が、それなりに話せる様になった、と聞きますが?
指揮も、山田なら大丈夫でしょう?」
佐藤は、万屋の質問に質問を返した。
(さっきの話の後だと、断り辛いな………
つまり嵌められたのか………)
ここで断れば、山田を信用していないかの様な話になってしまう。
万屋としても、様々な問題で山田に頼り切りな以上、禍根を残す様な事では困るのだ。
「大丈夫ですかねぇ?
自分は山田を信頼していますが、部下達は不安になるかもしれませんよ。
もっと前の通達ならともかく、直前ですからねぇ。
囮とは言え、そんな状態で重要な任務に出すのは、如何なものでしょうかねぇ?」
万屋は、隊の士気低下を理由に挙げた。
「ああ、それなら大丈夫です。
ブリーフィングの前に、全員のいる場所で伝えておきましたから」
そう言ったのは、山田である。
先程までの様な、湿っぽい空気は微塵も感じさせない、どこか笑いを堪える様な表情だ。
茶番に気付いた万屋は、放心した様な表情でそのまま力無く頷くのであった。
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つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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