新日本書紀《異世界転移後の日本と、通訳担当自衛官が往く》

橘末

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第二章 西端半島戦役

第四十話 胡散臭い連中

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「はあ?」

    万屋達が合流地点へ戻る直前、沢村は胡散臭い来客からの面会要請に戸惑っていた。

「あ??…………、済まない。
    もう一度言ってくれ」

「はい、北九重家の方と六条東家の方が総理とお目にかかりたいそうです」

    個人秘書は、自身も納得していない様な顔で言う。

(この忙しい時に何の用だ………………)

    流石に内閣総理大臣ともなると、二回も言われて困惑したままではいられない。
    沢村はどうにか起きた事実だけを認識すると、次に憤りを感じた。
    大した用事も無さそうな人間が繁忙期に訪れたのだから、迷惑極まりないと思うのは当然の事なのだろう。
    相手が相手だけに、無下にも出来ないともなれば尚更だ。

「丁重にお引き取り願う訳にはいかないだろうか?」

    沢村は怒りを抑えようとしてか、ぶっきらぼうに言う。

「それ以前に、門前払いで済ませるべきではないかね?」

「私もそうすべきかと思いました。
    ですが、総理は万屋氏と面会なさいましたので、念の為にと思いまして………………」

「っ!?」

    個人秘書の言葉に沢村はハッとする。

    沢村の認識では、八百万組と今の来訪者は同列に無いものだ。
    八百万組がいくら怪しいと言っても、彼等の営業は国益に沿っている。
    図々しいだけの来訪者とは、根本的に異なる存在だと言い切れるだろう。
    それは目に見えて明らかだ。
    少なくとも沢村はそう思っている。
    しかし、沢村の感覚は世間一般の感覚とは違っていたのだろう。
    その事は個人秘書の態度を見れば分かる。
    世間一般では、国益以前に胡散臭さが強く印象付けられていたのだ。

    個人秘書は、普通の感覚を持っていた。
    だからこそ胡散臭い連中が相手であっても、場合によっては沢村が面会に応じる可能性を考慮したのだろう。
    これでは怒る事も出来ない。
    沢村は世間一般の考える八百万組のイメージを失念していたのだ。
    自業自得である。

「どうなさいますか?」

    個人秘書は、申し訳無さそうな顔で沢村に指示を乞う。

(会わなくてもいいが、気にはなるな……………………。
    連中、どこから情報を仕入れたのか?)

「彼等は、八百万組に追従していると見てもよさそうかね?」

    起きてしまった事は仕方が無く、沢村自身にも責任はある。
    その責任を自覚しているが故にだろう。
    沢村は怒らずに冷静な口調を保っていた。

「そうですね。
    偶然にしてはタイミングが合っていますね」

    個人秘書は困惑している。
    実際問題、偶然にしては出来過ぎたタイミングだ。
    しかし、それと同時にあまりにも早過ぎるタイミングでもある。

「八百万組と示し合わせた、という事もないだろうなぁ………………」

    沢村は少ないながらも、現実的な想像を口に出した。
    しかし、内心でそれはあり得ないと考え直す。
    先程の面会で八百万組からもたらされた情報が事実であろうとなかろうと、第三者の介入など無意味なのだ。
    八百万組とて少々、特殊な事情があっても基本的には商売人である。
    事実云々は別にして、第三者が介入する事を望むとも思えない。
    同じ理由から、けしかけるという事もない筈だ。
    交渉事を無意味に引っ掻き回す様な真似はしないだろう。

「彼等に盗聴技術など無いだろうなぁ………………」

「それどころか外部に依託しての盗聴すら、金銭的な面で無理があります」

    新興とはいえ八百万組は一流企業だ。 
    並みの探偵や興信所に、盗聴は難しいだろう。
    同様の理由で、スパイの可能性も否定される。
    彼等はとにかく、落ちぶれているのだ。

「単純に、関係者が要職に就いているのかもしれないな」

    沢村は、それ以上考える事を止める。
    情報流出は、あくまでも八百万組の問題であり、沢村としてはその事実のみを教えれば、それだけで貸しを作れるのだ。
    詮索しても仕方の無い話だった。

「気にはなるな………………。
    やむを得ない、少し時間を割こう」

    そう言ってから数分後。
    沢村はその決断を後悔する事となる。

    執務室の扉をノックする音と共に、来訪者を先導していた個人秘書が入室した。
    その顔色は、どこか青ざめて見える。

「どうしたんだね。
    入室の許可を待たずに入るなんて、君らしくもない」

    沢村は慌てた様子の個人秘書をたしなめた。

「(そ、総理、とんでもない事になりました)」

    個人秘書はその言葉に一切反応せず、沢村のすぐ傍まで駆け寄ると耳打ちする。

「一体これ以上何が「大政官殿、お初に」」

    沢村が問い質そうとする声を遮って、カン高い声が響いた。
    大政官とは、総理大臣そのものではない。
    考えようによっては旧称と言えなくもないが、基本的には別物と考えるべきだろう。

「麿は北九重惟敦でおじゃる」

「麿は六条東充時でおじゃる」

「………………………………」

    沢村は無反応だった。
    厳密に言えば、彼等が入って来た時点で思考が停止している状態だ。
    呆れる事も後悔する事も出来ずに、目を丸くしている。

「(どうしたのでおじゃるか?)」

「(成り上がり者はこれだからのう)」

    沢村の態度をどう思ったのか、彼等は顔を付き合わせてひそひそと話始めた。

(そりゃ、こうなるだろうよ)

    個人秘書は心の中でぼやく。
    彼等の態度は、実際に会ってから変わらないものだ。
    それでも流石に総理大臣の前では、それなりの態度に変わってくれるだろうというのが、個人秘書の予想だった。
    仮にもいい大人なのだから、当然である。
    だが、その期待は踏みにじられた。
    これは、個人秘書のミスだろう。
    迎えに行った先で彼等の姿を確認した後、スグに踵を返すべきだったのだ。
    あるいは、電話で沢村に状況を報告した上で、面会を中止する様に進言しても良かった。
    とにかく、そのまま連れて来てしまった事が問題なのだ。

(警備は何をやってたんだ)

    個人秘書は警備や受付を恨む。
    彼等がしっかりしていれば、こんなチンドン屋ともコスプレイヤーともつかない連中を、わざわざ執務室へ通す事にはならなかっただろう。

    あながち、お門違いな恨みでもない。
    だが、警備をする側にも言い分はあった。
    エルフという動かぬ証拠があっても、それを疑う(無条件に否定的な)者はそれなりにいる。
    そういった者は決して多数派な訳ではないものの、行動力と声の大きさだけは人一倍なもので、無許可デモが頻発しているのだ。
    場合によっては、それが暴動へ発展する可能性もあり、警察はそちらへの対応を優先している。
    本来なら、首相官邸等の重要施設も優先されるべきなのだろう。
    しかし、そういった施設にはまがりなりにも門と壁が存在する。
    その為、最悪でも武器を持った人間を中に入れなければ済む。

    限られた人材を有効活用しようという目論見の結果、首相官邸の出入管理は不慣れな警察官が担当していたのだ。
    それだけならば彼等が通される事もなかっただろう。
    丁重にお引き取り願い、暴れる事があっても摘まみ出されるだけで済む筈だ。
    しかし、残念な事に出入管理をしていた警察官も、面会受付をしていた職員も八百万組を胡散臭く思っていた。

    総理大臣は胡散臭い人間とも会う。

    彼等がそういった印象を持ってしまい、来訪者の到来を連絡した事はミスだが、あまり責められるべきでもない筈だ。
    何せ、八百万組の胡散臭さは国民の大半が感じている事だった。

(いくら何だってこれはないだろう)

    改めて来訪者達の格好を見てみよう。
    服装は平安装束だ。
    文官束帯と呼ばれるもので、すそが短い事から不遜なまでに身分の高さを誇ってはいない。
    そこまではまだよかった。
    儀礼上、完全に廃れてはおらずニュース等で希に見掛けるものだ。
    問題はお歯黒だった。
    江戸時代までの感性であればともかく、今の人間はドン引きするしかない。

「まあ、良い。
    麿達は大政官殿が権威を必要としていると考えての」

「慌て参ったのでおじゃるが………………、どうかな?
    麿達を使えば箔が付くとはおもわれぬか?」

    意外にもチンドン屋達の持ち込んだ話は、見掛けによらずまともなものだった。
    沢村達は、虚を突かれた為か再び硬直する。

    彼等の売り込みは、検討違いどころか利にかなったものだ。
    実際問題、周囲には身分制度の色濃い国が無数に存在する。
    それ等の国々と対等の交渉をするには、箔が必要な事も事実だった。
    もちろん東京どころか、那覇でも旭川でも日本の地方都市を見せれば、交渉など簡単に纏まるだろう。
    纏まらなければ、臨時に総合火力演習でも開催すればよい。
    多少、手荒な手段ではあるものの実際に交戦してしまうよりは、恫喝で済ます方が遥かにマシなのだ。
    過激な意見には否定的な沢村にも、それぐらいの覚悟はあった。

    問題は、相手をどうやって連れて来るのかという点だった。
    端から格下と思われてしまえば、日本へ使者を誘致する事は難しい。
    護衛隊群を派遣するのも一つの手段だが、新潟冲油田の状況も気になる為、燃料の浪費は避けたいところだ。
    今のところ、パイプライン以外は全て平常通り稼働しているものの、転移の影響は不透明である。
    市場が封鎖されず、価格統制も指示していなければ、日本経済は再起不能だっただろう。
    そして、護衛艦一隻ではインパクトに欠ける。
    中途半端な圧力は一番危険なのだ。
    戦える程度の、抗える程度の大きな脅威と見なされるのは、如何にも不味い。
    抗えない脅威、結ぶばざるを得ない圧倒的な脅威と見なされる必要がある。

    そう考えると、交渉団の代表者に名門出を据えるという案は、それ程悪くもない。
    むしろ妙案と言えるだろう。
    交渉に於いて、軍事的な圧力をちらつかせなくとも、軟着陸が可能となるのだ。
    国内を見ても、野党は反発するだろうが国民の反発はマシなものになるだろう。
    少なくとも砲艦外交よりは、大分良い。

「(総理、どうなさいますか?)」

「(強硬的な連中に対する、一つの対案程度にはなるだろう。
    君が話を聞いて、纏めて置いてくれ)」

    沢村は個人秘書への丸投げを選択した。
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