転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

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* 死神生活一年目 *

第4話 死神ちゃんとお姉ちゃん

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「ああ、クソ、逃げられた!」


 死神ちゃんはダンジョン内を彷徨さまよい、悪態をついた。しかし、手にしている魂刈たまかりの色は先日まで使用していた金色のものではなく、銀色だった。――本日、死神ちゃは〈霊界〉での業務研修を受けていた。

 先日めでたく〈金の魂刈研修〉を終えた死神ちゃんは、研修の最終段階である〈銀の魂刈研修〉を受けることとなった。最終段階と言ってもそう難しいことはなく、銀の魂刈を持って勤務時間中ずっと、決められた階の決められた区画をうろうろとするだけだった。
 銀の魂刈を持っていると、生者からは姿が見えなくなる。代わりに、死者に姿が見えるようになるのだ。銀勤務の時はその〈死者〉を刈るのが仕事で、金の時のように〈担当として割り振られたパーティーのダンジョン滞在時間が一定時間経過したら出動する〉のではなく、割り当てられた区画をひたすら彷徨い、自分の区画に冒険者の魂が紛れ込んだら追い掛け回す。そして、その魂を刈るのだ。

 金勤務時は冒険者がダンジョン外へと出るなどして〈担当のパーティーターゲットを追う理由〉がなくなったり、とり憑き後に死亡して灰化したりなどすれば、死神は役目を終えて壁の中へと姿を消す。そして、待機室へ戻って次のターゲットが割り振られるのを待つこととなる。その待機している合間に、死神達は適宜休憩を取っていた。
 銀勤務が金と違うのは、隣り合う〈他の死神の担当区画〉分くらいまでは追いかけていくのだが、それを過ぎれば自分の区画へと戻り再び彷徨うし、魂を刈ったあともやはりそれは変わらない。裏へと戻るのは、ご飯休憩時と退勤時くらいである。だから、休憩は近隣区画の同僚達と都合をつけ合いながら、各自のペースで適度に取るようにとされていた。

 死神ちゃんは持ち場に戻りながら、金勤務の研修について思い出していた。その途端に、死神ちゃんの頬はげっそりとけた。――死神ちゃんは初のお相手である幼女好き戦士の次も、そのまた次も、金勤務研修の最終日までずっと、変人や変態ばかり割り振られたのである。他の死神と違って可愛らしい見た目を有し、さらには会話も可能だからということで〈まさか自分は、クレーム担当のような扱いをされているのでは〉と、死神ちゃんは訝しがらざるを得なかった。


(ここ数日、本当にひどい目に遭った……。それに比べて、銀勤務はのんびりしていていいなあ)


 そんなことを思いながらあくびをひとつすると、死神ちゃんは近隣区画の担当者に休憩する旨を無線連絡を入れ、とある部屋の隅へとやって来た。そして眠たい目を擦りながら、腰の辺りに付けていた緑色のポーチの中をゴソゴソと探った。これはマッコイが〈金勤務研修明け祝いに〉とくれたもので、八種類までならどんなサイズの物でも収納出来るという中型サイズの魔法のポーチだ。そしてその中には、同じく彼から貰った天蓋付きベッドのミニチュアが入っていた。――幼児よろしくお昼寝が必須な死神ちゃんのために、彼が特別に用意してくれたものだ。
 死神ちゃんはミニチュアをポーチから取り出すと、付属のネジをカチリカチリと回してポイッと投げた。するとミニチュアはポンと音を立て、死神ちゃんが悠々と寝転べるサイズの大きさへと変化した。
 もぞもぞとベッドに上がると、ご丁寧に洋服が白のネグリジェへと変化した。死神ちゃんはそんなことを気にする余裕もなく、布団の中へと潜り込んですぐに寝息を立て始めた。

 しばらくして、死神ちゃんはまんじゅうオバケにのしかかられる夢を見た。なんとか退治してやろうと、死神ちゃんはまんじゅうオバケと死闘を繰り広げた。とてもハードボイルドかつ、エキサイティングな戦いだった。そしてとうとう、死神ちゃんはまんじゅうオバケを追い詰めて、むんずと掴みかかった。すると、まんじゅうオバケは見た目にそぐわぬ「あんっ」という可愛らしい声で鳴いた。


「餡?」


 そう言いながら目を覚ました死神ちゃんの目の前にあったのは誰かの鎖骨で、両手でわっしと掴んでいたのは〈餡まんじゅう〉ではなく、とても立派な〈肉まんじゅう〉だった。死神ちゃんは驚いて飛び起きようとしたが、羽交い締めにされて身動きが取れなくなった。


「えっ? えっ!? 何!? 何だこりゃあ!?」

「……あら、起きたの?」


 死神ちゃんがジタバタともがいていると、色気のあるまどろみ声がした。そして美しくて若い女が、死神ちゃんの顔を覗き込んできた。ニコニコと微笑みながら死神ちゃんの頭を撫でる女の手を振り解くと、死神ちゃんは掛け布団を勢い良く捲り上げた。そして、思わず叫んだ。


「はあ!? お前、生きてんのかよ!! ていうか、何で生者が俺を見て触れるんだよ!?」


 死者だと、膝から下が透明化している。しかし、この女の脚はしっかりと存在していた。つまり、彼女は生きているのだ。


「まあまあ、そんなことはどうでもいいわ。さ、まだお昼寝の時間は終わってないでしょう? お姉ちゃんと一緒に、もう少しだけ寝ましょうね」

「いやいやいや! お前、何なんだよ! 何者だよ!」


 女は少しデレデレとしたような微笑みを浮かべて、死神ちゃんを抱き寄せた。しかし、死神ちゃんは慌ててそれを振り払い、ベッドから飛び降りた。すると、死神ちゃんの格好は元の〈黒ずきんちゃん〉に戻り、ボフンという音を立ててベッドがミニチュアへと変化した。
 死神ちゃんは女を警戒しつつ、ミニチュアを拾ってポーチの中にしまい込んだ。その様子を見ていた女は、我に返ったとでもいうかのようにハッと息をのんだ。そして、愕然とした面持ちでワナワナと震え出した。


「ああ、またやってしまった……。私ってば、うっかりソフィア界にトリップしていたわ……」

「ソフィア界って何だよ、ソフィア界って!」


 死神ちゃんは思わずそう叫ぶと、怖いものを見たとでも言いたげな表情で少しだけ女から離れた。そしてうっかり、頬を赤くした。というのも、この女が何というかまあ、破廉恥な格好をしていたのである。


「ダンジョン内でマイクロビキニって、凄いな……」

「ああ、これ? 私、踊り子だからね。このくらい、普通普通」

「ていうか、何で生きた踊り子に霊界の死神が見えているんだよ」

「えっ? あなた、死神だったの!?」


 踊り子が言うには、彼女の家系は代々神職に就いているそうで、彼女も神殿で巫女として仕えていたそうだ。そして、神前に奉納する舞を舞っているうちに、いつしかそれが快感となり、神に仕えるよりも踊りを極める道を選んだのだとか。


「普通はね、冒険者が有する技能って、転職すると前職の技能が引き継げなかったり、引き継げたとしても制限があったりするんだけど。私の場合は先天的なものだから、その限りではないのよね」

 死神ちゃんが相槌を打つと、踊り子の表情が少しずつ恍惚としたものへと変化していった。何となく不安な気持ちになった死神ちゃんは、眉間に皺を寄せた。すると、微笑んだ彼女が死神ちゃんの両肩へと手を置いてきた。


「そんなことよりも。お昼寝して寝汗かいちゃったでしょ? 水浴び、しましょうね。お姉ちゃんがお背中流してあげるから」

「は?」

「さ、たしか近くに水辺があったから。お姉ちゃんと一緒に、ゆっくり浸かりましょうね」

「いやいやいやいや、待て待て待て待て」


 そのまま抱き寄せて頬ずりし始めた彼女を、死神ちゃんは一生懸命引っぺがした。すると、彼女はまたハッと我に返って打ちひしがれた。


「また……ソフィア界にトリップしてしまった……」

「だから、ソフィア界ってなんなんだよ!」

「あなたが姪っ子のソフィアに背丈・年代がそっくりだからいけないのよ!!」

「ただの姪バカかよ!!」


 死神ちゃん渾身のツッコミを、踊り子はまるで何も無かったかのように無視した。そしてまたうっとりとした表情を浮かべると、熱の篭った溜め息を漏らした。


「ああでも、本当に、ソフィアを思い出すわ……。――さ、お姉ちゃんと水浴び行きましょうね~」

「おいこら、戻ってこいよ、ソフィア界から! な? なっ!?」


 完全に旅立って・・・・しまった彼女の耳には、死神ちゃんの声は届かなかった。彼女は死神ちゃんを抱きかかえ、幸せそうな笑い声を不気味に漏らしながら、時折遭遇するモンスターをグーパン一つで蹴散らした。本来踊り子はそこまで強くは無いはずなのだが、どうやらソフィア界トリップ中の彼女は史上最強となれるようだ。
 巫女の能力もいまだ兼ね備えているらしい彼女に逆らったら、子守唄と称して昇天させられかねない。そう思うと、死神ちゃんは為す術もなく震えることしかできなかった。

 水場に着くと、彼女は鼻歌を歌いながら喜々として死神ちゃんの洋服を脱がしにかかった。その目は完全にトリップしており、死神ちゃんは一抹の不安と恐怖を覚えた。そして――


「ぎゃあああああああ!!」


 死神ちゃんの目の前で、踊り子がザアアアと音を立てて崩れ落ちた。幸せそうに灰化していく彼女に驚いて、死神ちゃんは思わず絶叫した。彼女はどうやら、水場へと移動する間に死神にとり憑かれていたようだ。そして目の前の偽ソフィアに夢中でそれに気づかなかった彼女は、モンスターに忍び寄られていることにも気づかなかったらしい。そして偽ソフィア――死神ちゃんのほうもまた、自身の身を案じることに夢中で同僚がいることに全く気づいていなかった。
 同僚は死神ちゃんと目が合うと、あからさまに笑いを堪えて顎をカタカタ揺らした。そしてそのまま、何も言わずに去っていった。





 馬鹿にされたと愕然とする死神ちゃんのその横で、灰から抜け出た踊り子の魂が自身の成れの果てを見てギョッとしていた。


「あれっ!? 私、盛塩になってる!!」


 一部の冒険者は灰化した状態を、その円錐形の見た目から〈盛塩〉と呼んでいるらしい。しかし、死神ちゃんにとって、そんな豆知識が増えたことなどどうでもよかった。
 死神ちゃんは、彼女に近づくと鎌を振った。問答無用で振った。そして悔しそうに下唇をギュッと噛むと、死神ちゃんは自分の担当区画へと一目散に走り去ったのだった。




 ――――こうして、死神ちゃんの業務研修は無事、一通り終了したのDEATH。
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