転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

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* 死神生活一年目 *

第24話 死神ちゃんとご主人様

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 お昼寝も終わって本日の業務もラストスパートという頃、〈担当のパーティーターゲット〉の存在を確認した死神ちゃんは思わず呆然とした。彼らはダンジョン内だというにもかかわらず、ティータイムを楽しんでいたからだ。
 どこから持ってきたのか、椅子とテーブルがセッティングされており、テーブルには白いクロスもきちんと掛けられていた。高品質のダージリンの香りを漂わせ、うやうやしくスコーンを口に運ぶ君主。君主の口の端についた食べかすを、すかさず拭きとりお茶のお代わりを勧めるメイド。ここが四季折々の花々が咲き乱れる庭園だったら、とてもしっくりとくる絵柄だっただろうが、生憎ここはダンジョンの中だ。しっくりくるどころか、違和感しか無かった。

 死神ちゃんが様子を伺っていると、香りに釣られたのか、コボルトが数匹、彼らの元へと近づいていった。それでも君主は動じることもなくティーカップに口をつけ、スコーンを黙々と食べ続けている。そんな君主めがけてコボルトが飛びかかり、あわや大惨事となるかと思いきや、メイドが目にも留まらぬ速さで魔法を繰り出し、コボルトどもを焼き払った。


「お怪我はございませんか? ご主人様」

「うむ。しかし、今の衝撃で紅茶が少しこぼれてしまった」

「あら、それは申し訳ございませんでした。以後、気をつけます。――お茶のお代わりはどうなさいますか?」

「うむ、頂こう」

「まだお茶するのかよ! ここは秘密の花園じゃあねえんだよ!」


 思わず、死神ちゃんはツッコミを入れた。すると、君主はにこやかな笑顔を浮かべて死神ちゃんを手招きした。


「こんなダンジョン内に子供がいるとは。それとも、小人族コビートの者かな? ここで会ったのも何かの縁。ささ、どうぞ、一杯飲んでいきなさい」


 死神ちゃんは面倒臭そうに溜め息をつくと、君主の元へと歩いて行った。カップの予備はあるものの、さすがに椅子はないのか、「立ち飲みさせて申し訳ない」と謝罪しながらメイドが紅茶を差し出してきた。お礼を言いながらメイドを見上げた死神ちゃんが驚いた表情を浮かべていると、君主が得意気に鼻を鳴らした。


「エルフがメイドをしていて、驚いたのだろう? 元来、エルフは誇り高い種族だからな。そんなエルフが人間ヒューマンの下僕として働いているのだから、君が驚くのも無理は無い。しかし、エルフとて貧しい家の出であれば奉公だってするものなのだ。ただやはり、エルフのプライドが許さぬのか、彼らの主人となれるのは、この私のような高貴な家の出の者だけなのだよ」

「何でそんな高貴な家の出の者が、こんなダンジョンなんかにいるんだよ」


 紅茶をひとすすりしながら死神ちゃんが首を傾げると、君主が表情を曇らせた。


「それは君、宝珠を破壊したら王家にかけられた呪いが解けるだろう? 普通の冒険者であれば、褒美を貰って終わりにするだろう。しかし、やりようによっては、それをダシに権威を譲り受けることだって出来るはずだ。しかも、私の家のように元から力のあるところであれば、それも容易たやすかろう。その考えには、私も同意する。同意するのだが……。――何故、私なのだ。三男は、死んでもよいということなのか」

「何ていうか、大変だな……」


 死神ちゃんが無表情でそう言うと、君主は〈この気持、分かってくれるのか〉とでも言うかのようにウンウンと頷いた。そしてスコーンを勧めながら、死神ちゃんの頭をポンポンと撫でた。死神ちゃんは顔をしかめると、君主の腕輪を見つめて首を傾げた。


「何だ、どうしたんだね」

「いや、その……。何故、ステータス妖精が出てこないのかなと思って」

「どういうことだね」

「複数人パーティーだと、いつも出てきたから。〈信頼度が下がったよ!〉とか言いながら」


 ああそれは、と言いながら、君主はメイドを呼びつけた。メイドの腕にも腕輪が嵌められていたのだが、君主や他の冒険者のそれとは違う色の腕輪だった。


「彼女は傭兵なのだよ。他の冒険者とパーティーを組む可能性も、無いとは言えないからな。パーティー枠を常に空けておきつつ戦力を確保するには、これが一番なのだよ」


 何でも、〈ギルドに冒険者として登録してはいない者を、傭兵としてダンジョンへと連れて行けるという制度〉があるのだそうだ。冒険者一人につき傭兵一人という制限があるものの、パーティーメンバーとは別口で連れて行けるから、かなりの戦力補強が見込めるそうだ。
 ただ、かかる金額も莫大で、そのためにほとんどの冒険者はこの制度を利用できないし、利用者がほぼいないに等しいから制度自体が忘れられている節があるという。実際、まだ新入りの域を出ない死神ちゃんも、そんなものがあるということを今初めて知ったくらいだ。


「そんなわけだから、私は実質、ソロパーティーなのだ。――いや、ちょっと待て。妖精が信頼度の低下を知らせると言ったな? もしかして、君は、死神なのか!」

「ああ、そうだけど」


 君主は死神ちゃんの返答を聞いて絶叫した。頭を抱え、名折れだ何だと、どこかで聞いたようなセリフを繰り返す君主に、メイドが顔色一つ変えることなく言った。


「ご主人様、そろそろお時間なのですが、本日はいかが致しますか? 緊急事態ですし、やめておきますか?」

「時間? まだ早い気がするのだが」

「本日は祝日です。つまり、ダンジョン外はホリデーですから」

「ああ、そうか。――不測のときこそ、平常通りに過ごせば精神は落ち着いてくるというしな。頼む」

「かしこまりました」


 メイドは頷くと、何やら呪文を唱え始めた。すると、かっちりとまとめ上げられていた長髪がバサリとたなびき、質素なメイド服は黒のボンテージに変化し、ブーツのかかと部分は動きやすそうな低いものからピンヒールへと形を変えた。手には皮の鞭を持っていて、まるでどこぞの業界の女王様のような出で立ちだった。
 死神ちゃんがメイドの変わり果てた姿に呆然としていると、彼女が鞭をピシリと一振りし、髪を掻き上げた。


「ほら、お前。お前だよ、そこの雄ブタ! 茶会はお開きにして、とっとと片付けな!」

「はいぃ、ご主人様~!」

「遅い、遅いよ! あたいはグズは嫌いなんだよ、さっさとおし!」

「はい、すみません、ご主人様~!」


 使用人であるはずのメイドに鞭で打たれ、主人であるはずの君主が嬉しそうに嬌声きょうせいを上げた。死神ちゃんがドン引いて何も言えずにいると、それに気づいたメイドが口を開いた。


「あたい、夜になるとエルフやめてエロフになるのさ」

「は? エロフ? ていうか、まだ夜じゃない――」

「ホリデーは、居酒屋だって十五時から開店するだろ? ――つまり、そういうことさ」

「はあ、そう……。ていうか、エロフ……?」

「あたいは、誇り高きエルフ族。だから、依頼された仕事は遂行する。このグズは、貴族の誇りを捨てて這いずり回り、鞭で打たれるのがストレス発散になるのさ。だから、これは仕方のないことなのさ。依頼された以上、投げ出すというのは、あたいのプライドが許さないのさ……」


 言いながら、メイドの瞳に影が差した。心なしか、身体もふるふると震えている。死神ちゃんは顔をしかめると、ポツリと呟くように言った。


「そこは、断ってもいいんじゃあないかな。プライドのためにプライド捨てて、あんた、辛くないのか?」


 メイドは一瞬ぐっと息を詰まらせると、何事も無かったと取り繕うかのように主人である君主へと怒号を飛ばした。


「お前、本当にグズだね! お仕置きが必要なのかい? でも、死神にとり憑かれたんじゃあ、打つのも焼くのも手加減しなくちゃいけないね。あたいにそんな気を遣わせるだなんて、本当にグズ!!」

「はい、ご主人様、申し訳ございま――」


 君主が土下座をし、メイドに許しを乞うていたはずだった。しかし、そこに存在するのは、無様な雄ブタではなく円錐形の灰だった。
 そして、遠くの方から聞き慣れた明るい声が聞こえてきた。





* 侍の 属性が 正から悪へと 変わったよ! *


「妖精よ! 俺はッ! 尖り耳のためならッ! いくらでも悪事に手を染めるし、プライドだって捨てるぞおおおおおおッ!」


 声のするほうを、死神ちゃんはげっそりとした顔で見つめた。しかし、そこにはもう誰もおらず、例のアイツ・・・・・は既にメイドの足元に擦り寄っていた。


「さあ、尖り耳よッ! 俺なら、いくらなぶろうとも灰になどならんぞッ! 嬲りたい放題だぞッ! さあ、嬲れッ! 早く俺を嬲ってくれえええええッ!」

「いやああああ! 何なのよ、こいつ!!」





 死神ちゃんは問答無用で鎌を振り、〈尖り耳狂〉をメイドの代わりに嬲ってやった。〈尖り耳狂〉は口惜しそうに死神ちゃんを振り返り、お前じゃないと言って倒れ伏した。


「嬢ちゃん、今のうちにくにへ帰んな。これは逃げじゃない。プライドを守るためだ」


 死神ちゃんがそう言うと、メイドは必死に頷いた。そして魔法で動きやすい服装に装いを変えると、慌ててその場から去って行った。彼女の背中が見えなくなるのを見届けると、死神ちゃんは壁の中へと消えていったのだった。




 ――――〈誇り〉というものは、何とも扱いが難しいものなのDEATH。
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