転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

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* 死神生活一年目 *

第42話 死神ちゃんと司書

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 〈四階へ〉という指示でダンジョンに降り立った死神ちゃんは、地図を見て思わず苦笑した。何故なら、〈担当のパーティーターゲット〉が同じ場所でぐるぐると回っていたからだ。今ターゲットがいる場所は広大な暗闇エリアで、ここは迷路のように入り組んでいる。遭難者が出るのが日常茶飯事の場所だ。きっと、このターゲットもご多分に漏れず迷子になっているのだろう。
 死神ちゃんが現場に着いてみると、案の定ターゲットは壁に手をつき、困り顔でゆっくりと歩を進めていた。死神ちゃんがゆっくりと近づいて肩をポンと触ると、冒険者は金切声を上げて飛び上がった。

 ターゲットはソロパーティーで、エルフの女侍だった。彼女は手探りで死神ちゃんの姿を確認すると、ホッと胸を撫で下ろした。


「何だ、子供じゃない。よかったあ……」

「どっこい、それは姿形だけで、死神なんだな、実は」


 死神ちゃんが意地悪にそう言っても、彼女が動じることはなかった。それどころか、それよりも恐ろしいものでもあるとでも言いたげに、彼女は依然辺りの様子を一生懸命探っていた。そのことを不審に思った死神ちゃんが理由を尋ねると、彼女は〈気味が悪い〉という表情で「ねっとりとした気配を感じるのよ」と言った。それ・・に思い当たるものがあった死神ちゃんは、思わずげっそりとした表情を浮かべた。
 死神ちゃんがそのまま押し黙っていると、彼女はブツブツと話を続けた。


「私、普段は王都の図書館で司書として働いていて、まとまった休みが取れるたびにダンジョンに来ては、噂に聞く〈暗闇の図書館〉を探してるのだけど。休みもそこまで長くはないから、ホント、邪魔が入るのだけはごめんなのよ。何なのかしら、あの気配。単なる思い違いだったらいいのだけど」


 先日モップお化けも話題にしていたが、このダンジョンには図書館がある。だが、そこに到達できた者がほとんどいない。何故なら、入口はこの広い暗闇エリアの壁に隠されており、しかも難解な仕掛けが施されているのだ。そのため〈ダンジョン攻略の鍵となるのではないか〉と図書館を目指す冒険者もいるのだが、あまりに見つからないために幻のものとされていた。
 彼女の口ぶりは、一般の冒険者のそれとは違う目的があるような感じだった。死神ちゃんは怪訝な表情を浮かべると、不思議そうに尋ねた。


「何でまた、図書館なんかに用があるんだよ。普段も図書館で働いてるんだったら、わざわざこんなところまで来る必要もないだろうに」

「分かってないわね。いい? 〈暗闇の図書館〉はね、こことは別の異空間に繋がっていて〈あらゆる世界の本〉が取り揃えてあるという噂なのよ? これは、読書好きにはたまらない、夢のような世界なわけよ。分かる? 本が好きすぎて司書となった私としては何としてでも辿り着きたいし、可能であればそのままそこで働かせてもらいたいし、むしろ住んでいいなら住み着きたいのよ!」

「はあ、そう……。ていうか、それなら何で〈侍〉なんだ? そんなに本と離れられないなら、司教とか精霊師とか召喚士とか、常に本を抱えているような冒険者職に就けばよかったものを」


 死神ちゃんが首を傾げると、司書はまた〈分かってない〉とでも言いたげに溜め息をついた。そして拳を握ると、熱く捲し立てた。


「ご利用者様に呼ばれたらすぐさま駆けつけるための瞬発力は、侍の〈瞬時に間合いを詰めて、敵の懐に飛び込む技・縮地〉に通じるものがあるし! ご利用者様の中には稀にナイフ持ってフラフラしてるような危険な方もいらっしゃるから、それに太刀打ちするのにぴったりだし! もう修復困難な本を一思いに一刀両断してリサイクルに回すのも容易いし!」


 司書の熱弁を、死神ちゃんは興味なさげに聞き流していた。すると、背後から地鳴りのような音が聞こえてきた。よくよく聞いてみるとそれは笑い声で、死神ちゃんはその聞き覚えのある声にげっそりと肩を落とした。


「臭うぞ臭うぞ、尖り耳の芳しい香りがッ! 聞こえるぞ聞こえるぞ、尖り耳の麗しい声がッ! 暗闇で何も見えずとも、俺には分かるッ! だって、尖り耳は尊いんだもの!」


 突然の男の声に驚いた司書は口を噤むと、刀に手をかけた。しかし、彼女が刀を抜くよりも早くヤツ――尖り耳狂は間合いを詰めて彼女の懐に飛び込み、彼女の耳の端を愛情込めてそっと握った。司書は悲鳴を上げると、竜巻を身にまとって尖り耳狂を弾き飛ばした。


「まさか、本を傷つけずにお掃除する用にと、侍になる前に学んでおいた風魔法がこんなところで役立つなんて……」

「お前、どこまでも〈本ありき〉なんだな……」

「当たり前でしょう!? 本の中には夢がいっぱい詰まっていてね――」

「愛しき尖り耳よ! 本ならここにもあるぞーッ!」

「きゃあああああああ!!」


 弾き飛ばしていなくなったと思っていた尖り耳狂が簡単に復活して、司書は叫ぶとともに瞳を涙で潤ませた。尖り耳狂は司書の肩を抱き片手を取ると、司書に頬ずりしながら言った。


「俺がしたためた本だッ! 尖り耳への夢も、愛も、いっぱい詰まっているぞッ! どうだ、俺に惚れたか? 惚れただろう! 是非とも読んで、俺に惚れろッ! 今すぐッ! 今すぐにだッ! そして、同じ侍同士で気も合うだろうし、このまま俺と結婚しろッ! さあ、そのためにも、暗闇ゾーンから一度出るぞッ!」

「いやあああああああ!!」


 司書は再び竜巻を身にまとい、尖り耳狂を吹き飛ばした。醜い唸り声を小さく上げて吹き飛んだ彼だったが、尖り耳への愛か執念か、再びやすやすと立ち上がった。
 司書の方から抜刀音が聞こえてきて、尖り耳狂もそれに応じて抜刀した。司書は自分の身を守るために必死で刀を振るっていたが、尖り耳狂的には〈恋人同士のお戯れ〉のつもりなのだろう、つばり合いの音に混じって彼の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

 尖り耳狂は司書が傷つかないように配慮するべく、彼女の気配を探りながら応戦していたようだったが、この緊急事態のせいで気が触れてしまった司書は〈気配を探って間合いをとる〉ということもせずに突っ込んでいっていた。そのため、彼女はかなりの深手を負っていた。





 気配でそれに気付いた尖り耳狂は焦って刀を納め、彼女に落ち着くよう説得をし始めた。しかし、頭に血の上った司書は聞く耳を持たず刀を振り続け、結果、この一方的な求愛バトルは相打ちで幕を閉じた。

 しかしながら、霊界に降り立った尖り耳狂は第二ラウンドを始める気満々のようで、辺りに死神の気配がないのをいいことに、三階の祝福の像を目指そうともせずに司書に詰め寄った。司書は霊界に降り立ったことでようやく目の当たりに出来た彼に最大級の拒絶の表情を見せると、彼に構うことなく三階目指して走り去った。




   **********



 死神ちゃんが寮の共用リビングに顔を出すと、マッコイが読書を嗜んでいた。彼の読んでいた本には、社内図書館の管理用ラベルシールが貼られていた。それを見てふと今日のことを思い出した死神ちゃんは、小首を傾げてマッコイに尋ねた。


「アルデンタスさんのサロンは、社員向けの部屋とダンジョン用の部屋が扉ひとつで繋がっているじゃあないか。図書館もそんな感じなのか?」

「あら、まだ利用したことなかったの? さすがに図書館を二つも用意するのは無駄だから、図書館の施設自体はダンジョンと共通でね。資料の利用方法で利用者を区別しているのよ。冒険者専用の出入り口から入ってきた人は、館内閲覧のみなのよ」


 あの司書が言っていた通り、この図書館には〈あらゆる世界の本〉がジャンル問わず取り揃えてあるそうだ。こんなにも品揃えが豊富なのは、様々な世界から集まっている社員のニーズに合わせてのことだという。なお、本だけでなく視聴覚資料もあるそうで、同居人達がリビングでたまに開いている映画鑑賞会も、この図書館から借りてきたDVDらしい。
 

「そんな何でも借りられるんだったら、もっと早くから利用すれば良かったよ。――ていうか、何で冒険者にも開放されているんだ?」

「攻略に必要な〈謎解きイベントリドル〉を扱ってるのよ」

「謎解きって、地方図書館が利用客増やすためにやってるイベントみたいだな」

「そうねえ。でも、そんな可愛らしいものじゃなくて、これが解けないと六階から七階へは行けないようになっているのよ。だけど、大半の冒険者が気づかずにそのまま五階へと降りて行っちゃうのよねえ」


 ふーんと相槌を打ちながら、死神ちゃんはマッコイの読んでいる本をぼんやりと見つめた。何となく、彼が何を読んでいるのかが気になったからだ。尋ねてみると、マッコイは本を胸に押し当てて、うっとりとした表情で答えた。


「ハー◯クインよ。ベタでテンプレな内容が多いけど、でもこういう恋愛してみたいなあって思っちゃうのよね。ああ、アタシにもいつか、素敵な王子様は現れないものかしら。やっぱり、再転生しなくちゃ無理かしらねえ」


 マッコイが甘ったるい溜め息をつくのと同時に、死神ちゃんが何か言おうとして口を開いた。しかし、死神ちゃんは何も言うことなく口を噤んだので、マッコイは不思議そうに首を傾げた。


「なあに? どうかしたの?」

「別に」

「……かおるちゃんったら、変なの」


 マッコイはクスクスと笑い出した。死神ちゃんはというと、しかめっ面をプイッとそむけたのだった。




 ――――本の扱いは意外とナイーブ。もしかして、恋愛の駆け引きにも似ているのかも? 尖り耳狂は一度、司書の仕事を通じてそこら辺を学んだらいいと思うのDEATH。
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