転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

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* 死神生活一年目 *

第83話 死神ちゃんと保護者③

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「実はね、一人、出動したまま三日ほど戻ってきていないのよ」


 マッコイはそう言うと、心配そうに顔を曇らせた。何でも、その〈戻ってこない〉は現在、とあるソロパーティーの冒険者の担当としてとり憑いているそうなのだが、その冒険者は死神にとり憑かれた途端に探索を中断し、ダンジョン内に籠城を決め込んだのだという。その冒険者は誰かがやって来ると即座に〈転移の巻物〉でどこかしらへと移動してしまうそうで、おかげで〈救出作戦〉を行いたくても行えないのだとか。


「みんなのシフトに影響が出ないようにアタシ達のほうでいろいろと動いてはいたんだけど、それもそろそろ限界でね。申し訳ないんだけど、ちょっとお手伝い願えないかしら?」

「手伝いっつっても、俺に出来ることなんて何かあるのか?」


 死神ちゃんが首を傾げると、マッコイは苦笑いを浮かべた。そしてスッと目を逸らすと、虚ろな表情で頬を引きつらせ俯いた。


「行けば分かるわ」


 死神ちゃんは眉根を寄せると、早速ダンジョンへと向かっていった。



   **********



 地図を頼りにターゲットの元へと辿り着いた死神ちゃんは、目の前でターゲットらしき人影がキャンプごと転移するのを目撃して顔をしかめた。前情報通り、冒険者は誰かの気配を察知するだけで転移してしまうようだ。死神ちゃんは面倒くさそうに頭を掻くと、再び地図を確認した。
 追いかけて行っては移動されというイタチごっこを何度か繰り返し、頭にきた死神ちゃんは冒険者に向かって叫んだ。


「いちいち転移するなよ! 追いかけるの、意外と大変なんだから!」


 すると、冒険者はようやく転移することをやめた。そして、勢い良くキャンプから顔を覗かせた。それ・・を見て、死神ちゃんは思わずげんなりとした表情を浮かべた。


「……なんだ、お前だったのかよ」

「まぁさか、私を追いぃかけてくる怪しぃい人が可愛い子ちゃんだぁったなんてぇ。あなぁた、私に保護されに来ぃたのぉ?」


 喜々として頬を上気させる〈保護者〉を睨むと、死神ちゃんは苦々しげに言った。


「んなわけあるか。ていうか、お前、何で死神憑きのままダンジョン内を転々としてるんだよ」

「ふふふ、これぇも、保護活動の一環なぁのよぉ」


 彼女は笑うと、得意気に話し始めた。彼女が言うには、今彼女にとり憑いている死神は他の死神と比べても〈可愛い子ちゃん〉達を恐怖のどん底に叩き落す率が高いのだそうだ。実際、「アレは他の死神罠と比べてもとりわけ怖かった」と泣きながら訴える小人族コビートは多いという。全世界の〈可愛い子ちゃん〉の味方にして保護者な彼女は、その話を聞いて〈これはどうにかしなければいけない〉と思い、今回の籠城を決行することに決めたのだそうだ。


「こぉの死神にとり憑かれるまぁで、何度も教会とダンジョン内を行き来しぃたのぉよぉ。モンスターも寄りぃつけない最高級のキャンプも用意しぃて、転移の巻物もたぁくさぁん買い込んで。食料もいっぱいあるかぁら、あと一週間は〈可愛い子ちゃん〉達を守っていぃられぇるわぁ」


 キャンプから半身を出した彼女の背後には死神が哀愁漂う感じでふよふよと浮いていた。骸骨が人間ヒューマンではなく亜人の何かである彼を見て、死神ちゃんはほんの少しだけ首を捻った。――きっと彼は、生前の習性を活かした〈とり憑き〉を行っていて、それが特に小人族の恐怖心を煽るものなのだろう。彼は一体、どんなとり憑き方をしているのだろうか。

 死神ちゃんは考えることをやめて、気を取り直すと今度は〈いかにして保護者をキャンプからおびき出すか〉ということに思考を巡らせた。あの最高級のキャンプはその場を安全地帯化する効果があるため、とり憑いた状態でない限りは死神も立ち入れないのだ。
 あれこれと会話しながら「こっち来いよ」と誘ってみても、保護者は〈その手には乗らない〉とばかりに頑なにキャンプの中から出てはこなかった。死神ちゃんは溜め息をつくと、ポーチの中からごそごそとあるものを取り出した。――銀勤務時に愛用している、例のミニチュアベッドである。

 死神ちゃんは天蓋の中が保護者に見えるかどうかの絶妙な角度でベッドを設置すると、もぞもぞとベッドの中へと入っていった。そして死神ちゃんは身を乗り出して、興味深げにこちらを見てくる保護者にちらりとネグリジェを見せると、ニコリと笑ってベッドに引っ込んだ。


「あぁら……とても可愛いネグリジェね……。きちんと見たぁいわぁ……」

「生憎、ベッドから降りるといつものワンピースに戻ってしまうから、見せにいくことはできないんだよな」

「ねえ、天蓋の中が見えぇるようにベッドを設置しなおさなぁい?」

「えー。もう眠いし面倒くさいからヤだよ。……あーあ、誰か、添い寝してくれないかなあ。こんなところでお昼寝する羽目になって、悲しいったらないぜ」


 わざとらしくあくびをしてしばらく狸寝入りしていると、保護者の足音が聞こえてきた。彼女がこちらに完全にやって来るまで、死神ちゃんは息を潜めた。そして彼女が天蓋を覗き込んだ瞬間、死神ちゃんは金の魂刈でさっくりと彼女を退治した。彼女は罠にはめられた悔しさよりも死神ちゃんのネグリジェ姿を一瞬でも見られた嬉しさのほうが勝ったのか、幸せそうな顔でサラサラと散っていったのだった。



   **********



「手こずるかと思ったが、意外とちょろかったな」


 達成感に満ちた顔で死神ちゃんがマッコイに報告していると、例の亜人がのっそりと死神ちゃんの背後に立った。そして彼はもぞもぞとローブを脱ぐと、何故か切なそうに乾ききっている瞳で死神ちゃんを見つめた。


「すまない、助かった」

「あ! 〈鬼ごっこ〉の時に解説担当してた狐っぽい人! えっと、初めまして……?」

「〈ぽい〉ではなく、狐で合っている。そして、初めましてではない」


 狐が抑揚のない声でそう答えると、死神ちゃんはあまりの衝撃に驚愕した。
 哀愁漂う人間のおっさんのような顔つきの彼は縄張り意識が低いらしく、勤務が明けて寮に戻るつもりがうっかり何かしらの集団に混ざり込んでしまい、気づけば第二死神寮以外の場所で寛いでしまっているということがあるのだそうだ。しかも〈おっさんくさい顔つき〉のせいか、何故か周りも〈亜人が紛れ込んでいる〉と気づかないうえに、彼の〈縄張り意識の薄さ〉が伝染でもするのか、彼が勝手に混ざり込んでいることを誰も咎めないのだという。そのため、誰もが気がつかないうちに第三死神寮に上がり込んでいることもしばしばで、そのたびにマッコイにつまみ出されるのだそうだ。


「だから何度か、私はお前と一緒にボードゲームで遊んでいる」

「えっ、全然気づかなかった……。マッコイ、お前は何でそれに気がつけるんだ……?」

「ずっと一緒に住んでた経験からか、耐性がついてて彼を認識しやすいのかもしれないわね」


 マッコイが苦笑いを浮かべると、死神ちゃんは呆然とした顔で再び狐を見つめた。死神ちゃんに見つめられた彼は、何故か照れくさそうに目を細めていた。
 死神ちゃんは気持ちを立て直すと、狐に〈どんなとり憑き方をしているのか〉と質問した。実演すると言うと、彼は死神ちゃんに少し離れたところで立っているようにと指示した。
 死神ちゃんのスタンバイが完了すると、狐は四つん這いの姿勢をとった。そして――


「うわあああああ! 怖い怖い怖い! めっちゃ怖いんですけど!」


 死神ちゃんは思わずそう叫ぶと、青い顔で身を仰け反らせた。何故なら、身体に比べて不格好なほど大きな〈おっさん顔〉が、自分の視線よりも下の位置を地面と水平を保ちながら速度を上げて近づいてくるのだ。しかも、切なそうな、哀愁漂う乾いた瞳を見開いたまま。それが鼻先スレスレまでやって来てピタリと動くのをやめ、瞬きすることなくジッと見つめてきたら、確かに怖い。
 狐は表情を変えることなくすっくと立ち上がると、マッコイのほうを向いてポツリと言った。


「そんなに怖いか? 我らチベットスナギツネの伝統の狩りのスタイルは」

「狙われた獲物は、きっと怖いと思うでしょうね。何て言うの? 命の危険的な恐怖というよりは、ホラー系の怖さっていうか――」


 マッコイはかがみ込むとと、死神ちゃんに心配そうに声をかけた。しかし、いまだ茫然自失の死神ちゃんは固まったまま返事をしなかった。


かおるちゃん、大丈夫? ほら、出動要請出てるわよ。薫ちゃーん?」


 肩を叩かれ、さらに頬をつつかれてようやく死神ちゃんは我に返った。そして狐とマッコイの二人に苦笑いを浮かべると、死神ちゃんはダンジョンへそそくさと繰り出していったのだった。




 ――――夕飯は例のごとく〈手伝ってくれたお礼〉と称してマッコイがビュッフェを奢ってくれたのですが、チベスナはそこにもしれっと混ざっていたそうDEATH。


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