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* 死神生活一年目 *
第84話 死神ちゃんと組合長
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「何なの、この子供は」
アルデンタスのサロンから出てきた女騎士は、外で待っていたお供達と一緒に膝を抱えて座り込んでいる赤目ピンク毛の幼女――死神ちゃんを見下ろして顔をしかめた。お供は彼女を見上げると、情けない困惑顔を浮かべた。
「この子、死神なんだそうです。どうしましょう、お嬢様」
「嘘でしょう? 面倒くさいことになったわね……」
そう言って眉間のしわを一層深めると、女騎士は片手を顎に当てて腕を組み、考え事をし始めた。少しして、彼女は顔を上げるとお供達に〈戻ることはせず、先に進む〉と伝えた。死神憑きの者がいるためか、お供達は一瞬だけ渋い顔を浮かべた。しかし、〈お嬢様〉の決定には逆らえなかった。
彼らは頷いて立ち上がると、六階への階段に向かって歩き始めた。
「マッサージサロンの店主から聞いたのだけど、六階を降りてすぐのところには地上のような歓楽街があるんですって。安全に食事のできる場所もあるみたいだから、そこであなた達の体力回復を図りましょう。――ようやくここまで辿り着いたのだから、こんな小さな子供ごときに屈するのはごめんだわ」
彼らは六階に降りてすぐに出会った黒服に「食事の出来るところはどこか?」と尋ねた。すると、黒服は喜んで〈大人の社交場〉へと一行を案内した。お嬢様は貴族階級が集うような社交場ではなく娼婦館のような雰囲気が心なしか漂っていることに顔をしかめたが、きちんとした食事にありつける場所がここだけならば致し方無いと諦めると、店の者にメニューを持ってこさせた。
彼女はメニュー表を数冊受け取ると、その一冊を死神ちゃんに差し出した。
「ほら、そこの自称死神の子供。あなたも何か頼みなさい」
「いいのか? ていうか、俺が死神だってのは本当なんだが――」
「死神と言ったら、黒いローブを身に纏った骸骨のことでしょう? 私は冗談は好きではないの。ここで休憩をとったら、必要品の買い出しのできるお店を探しながら、あなたを保護してくれるところがないか探してあげますから。だから、今はとにかく食べなさい。こんなダンジョンの中ですもの、この先どうなるかも分からないのだし」
死神ちゃんは苦笑いを浮かべると、お嬢様からメニューを受け取った。彼女の物言いや装備品、その下に纏っている衣類の質の良さを見て取った死神ちゃんは「お前、本当に〈お嬢様〉なんだな」と彼女に投げかけた。すると彼女は、薄っすらと苦笑いを浮かべて軽く頷いた。
貴族階級には王家に忠誠を誓い、王家のためにダンジョン探索を行っている一派と、〈宝珠を手に入れ、それを利用して更なる権力を得る。可能ならば、王家に成り代わる〉という野心を燃やす一派がある。彼女の家は後者に属するそうだ。しかし、彼女の家には〈ダンジョン探索を任せられる息子〉がいなかった。むしろ、〈その家の子供〉というのは彼女しかいなかったのである。
ダンジョン探索のために親族の中から養子を儲けようか。はたまたどこかの家と縁組をして、婿に来てくれた者に探索をさせようかなどといった議論がなされる中、彼女はさっさと荷物をまとめ、お供を連れてダンジョンにやって来たのだそうだ。彼女は小さな頃から〈女だてらに家督を継ぐ可能性〉も考慮して育てられた。そのため、剣などの武器の扱いは男性とも肩を並べられるほどのものを持っていた。だから「うだうだ悩んで他の貴族達に先を越されるくらいなら、私が探索に行く」と啖呵を切って出てきたらしい。
「六階の奥に到達した者はほぼいないと聞いているし、そもそも六階に冒険者が降りていくことのほうが珍しいと言うじゃない。だから、何としてでも一番乗りで七階に降りるべく、私達は惜しみのない努力をしたの。手早く冒険者としてのレベルを上げられるように効率よく経験を積んで、装備も我が家の資金力を惜しみなく発揮して一級のものを揃えたわ。――時間とお金を注ぎ込んで準備してきたのだもの。ここで引き返して、他の家に出し抜かれるわけにはいかないの」
言いながら、彼女はステーキを行儀よく口へと運んだ。死神ちゃんは相槌を打つと、紅茶を口に含んでラザニアを押し流した。
食事を終えて身支度を整えると、彼女は伝票に書かれた金額を見て青筋を立てた。いくらダンジョンの中だからといってもボッタクリすぎやしないかとクレームをつけると、サキュバス嬢が例の〈山小屋のカレー〉の話を意気揚々とし始めた。しかしながら、生粋のご令嬢であるお嬢様の心にはあまり響かなかったようで、彼女は「責任者を出しなさい」と言い出した。だが、奥からミノタウルスがのしのしと現れると、彼女は頬を引きつらせ慌てて代金を支払った。
予想以上の出費をしたことに腹を立てながら、お嬢様は店を後にした。そして、必要品の買い足しのできる店を求めて一軒一軒見て回りつつ、死神ちゃんを引き取ってくれないかとその店の店員に声をかけた。どの店も当然ながら答えは〈NO〉で、彼女は死神ちゃんを見下ろすと盛大に顔をしかめた。
「あなたが死神というのは、本当だったというの?」
「だから、始めからそう言っているだろうが」
「……まあ、いいわ。何かの間違いかもしれないし。最後の一店舗まで、隈なく声をかけるだけだわ」
フンと鼻を鳴らすと、彼女はお供を伴って店舗巡りを再開させた。しかし、結局どの店も〈彼女のお願い〉を叶えてくれるところはなかった。
「ここが最後ね」
そう言って、彼女は他の店とは様相の違う扉を下から舐めるように見た。他の店はどこも木製の扉であったのに対し、彼女達が今相対しているそれは凝った装飾の施された鉄造りだった。
彼女はノックをすると「ごめんください」と声をかけながら扉を押し開けた。部屋の中は何かしらのお店というよりは事務所という感じで、年配の男性が一人居るだけだった。彼女はお供に〈外で待つように〉と指示すると、死神ちゃんを連れて部屋の中へと入っていった。
「何じゃ。儂は今、とても忙しいのだがのう」
ご年配は面倒くさそうにぶつくさと呟くと、今かけている眼鏡を外して机に置いてある眼鏡へとかけ替えた。そして重い腰を苛立たしげに上げると、お嬢様の元へとやって来た。
彼は、厳しい顔つきの頑固そうなダークエルフだった。ダンジョン外ではエルフと言ったら白い肌の一族が主流らしく、お嬢様は物珍しそうに彼を眺めていた。見世物扱いされたダークエルフはさらに気分を損ねたのか、一層眉間にしわを寄せた。
「お嬢さんは一人でここまでやってきたのかのう?」
「いえ、仲間が部屋の外で待っておりますけれども」
「そうか。では、全ての仲間を部屋の中へと入れなされ」
苛々とした口調でそう言うダークエルフに首を傾げつつも、お嬢様はその言葉に従った。彼女の仲間が全て部屋の中に入ってくると、ダークエルフは彼らを値踏みするかのようにジロジロと見始めた。
「あの、一体、何なんですか? 私はあなたに尋ねたいことが――」
「ふむ。怪しいのう。とても怪しいのう。ノックに対して返事もしていないのに、勝手に入ってくるような無礼な輩の集団なのだから、怪しいのは当然かも知れないのう。うむうむ、怪しい臭いがプンプン臭ってくるわい」
難癖をつけられて、お嬢様は怒りで顔を真っ赤にさせた。彼女はダークエルフを睨みつけると、勢い良く口を開いた。
「無礼はあなたのほうだわ! 私は由緒正しき家柄の――」
「うるさいわい! 怪しいやつめ、出て行くがいい!」
ダークエルフは彼女の言葉を遮ると、そのように叫んだ。すると、お嬢様達の周りに不思議な光が集まってきた。彼女達は体験したことのない怪現象に戸惑いと恐怖を覚えたのか、顔を青ざめさせていた。次の瞬間、彼女達は全ての装備品と荷物を残してどこかへと姿を消した。
しかしながら、彼女のパーティーの全てが姿を消したわけではなかった。お供のうちの一人だけは何故か部屋にとり残されており、彼はお嬢様と同僚達が目の前で綺麗さっぱりと消えてしまったことに動転して目を白黒とさせていた。
ダークエルフはしげしげとその〈残党〉を見つめると、死神ちゃんへと視線を移して嗚呼と声を上げた。
「なるほどの。ふむ。だから残ってしまったのか。よしよし」
そう言って彼は死神ちゃんと残党の間に立つと、〈呪いの黒い糸〉を手刀でパツンと切り落とした。死神ちゃんが驚きの表情で見ていることなど気にも留めず、彼はそのまま残党の方を向いて「出て行くがいい!」と叫んだ。すると今度こそ、冒険者は一人残らず部屋から消え失せた。
「あんた、一体何者なんだ……?」
死神ちゃんは唾を飲み込むと、デスクへと戻っていくダークエルフに尋ねた。彼は椅子に腰掛け眼鏡を交換すると、死神ちゃんのほうを向くことなく、ペンを手に取りながら言った。
「組合長じゃよ。この、六階歓楽街と五階サロンで構成された振興組合の。ここは儂のオフィスでな、たまに今みたいな面倒な客が来ては仕事の邪魔をしおる。だから、そのたびにダンジョン外へと魔法で追い出してやっているんじゃよ」
組合長は溜め息をつくと、面倒くさそうに顔をしかめて死神ちゃんのほうを向いた。そして、彼は奥の扉を指差した。
「その扉の先に儂の秘書がおるから『冒険者の荷物を片づけるように』と伝えてくれい。さらに奥の扉をくぐれば社内じゃ。よろしく頼むぞ」
「はあ……。ところで、何で身ぐるみ剥がしたんですか?」
死神ちゃんが首を傾げさせると、組合長はニヤリと笑った。
「そのほうが、すぐにここまで戻っては来られないじゃろう? 昔、そのまま追い出してやったら、すぐさま戻って来て轟々と文句を垂れた輩がいての。そうやってまた仕事の邪魔をされるのは嫌じゃから、それ以来、身ぐるみ剥いで追い返しておるわい」
いいアイディアじゃろと笑って、彼はおもむろにデスクワークを再開し出した。死神ちゃんは苦笑いを浮かべると、奥の扉を通って社内へと帰っていったのだった。
――――社内に出店している店舗群にも、まるで巷の商店街のように振興組合が存在していたということを知って、死神ちゃんはちょっとだけ驚いたそうDEATH。
アルデンタスのサロンから出てきた女騎士は、外で待っていたお供達と一緒に膝を抱えて座り込んでいる赤目ピンク毛の幼女――死神ちゃんを見下ろして顔をしかめた。お供は彼女を見上げると、情けない困惑顔を浮かべた。
「この子、死神なんだそうです。どうしましょう、お嬢様」
「嘘でしょう? 面倒くさいことになったわね……」
そう言って眉間のしわを一層深めると、女騎士は片手を顎に当てて腕を組み、考え事をし始めた。少しして、彼女は顔を上げるとお供達に〈戻ることはせず、先に進む〉と伝えた。死神憑きの者がいるためか、お供達は一瞬だけ渋い顔を浮かべた。しかし、〈お嬢様〉の決定には逆らえなかった。
彼らは頷いて立ち上がると、六階への階段に向かって歩き始めた。
「マッサージサロンの店主から聞いたのだけど、六階を降りてすぐのところには地上のような歓楽街があるんですって。安全に食事のできる場所もあるみたいだから、そこであなた達の体力回復を図りましょう。――ようやくここまで辿り着いたのだから、こんな小さな子供ごときに屈するのはごめんだわ」
彼らは六階に降りてすぐに出会った黒服に「食事の出来るところはどこか?」と尋ねた。すると、黒服は喜んで〈大人の社交場〉へと一行を案内した。お嬢様は貴族階級が集うような社交場ではなく娼婦館のような雰囲気が心なしか漂っていることに顔をしかめたが、きちんとした食事にありつける場所がここだけならば致し方無いと諦めると、店の者にメニューを持ってこさせた。
彼女はメニュー表を数冊受け取ると、その一冊を死神ちゃんに差し出した。
「ほら、そこの自称死神の子供。あなたも何か頼みなさい」
「いいのか? ていうか、俺が死神だってのは本当なんだが――」
「死神と言ったら、黒いローブを身に纏った骸骨のことでしょう? 私は冗談は好きではないの。ここで休憩をとったら、必要品の買い出しのできるお店を探しながら、あなたを保護してくれるところがないか探してあげますから。だから、今はとにかく食べなさい。こんなダンジョンの中ですもの、この先どうなるかも分からないのだし」
死神ちゃんは苦笑いを浮かべると、お嬢様からメニューを受け取った。彼女の物言いや装備品、その下に纏っている衣類の質の良さを見て取った死神ちゃんは「お前、本当に〈お嬢様〉なんだな」と彼女に投げかけた。すると彼女は、薄っすらと苦笑いを浮かべて軽く頷いた。
貴族階級には王家に忠誠を誓い、王家のためにダンジョン探索を行っている一派と、〈宝珠を手に入れ、それを利用して更なる権力を得る。可能ならば、王家に成り代わる〉という野心を燃やす一派がある。彼女の家は後者に属するそうだ。しかし、彼女の家には〈ダンジョン探索を任せられる息子〉がいなかった。むしろ、〈その家の子供〉というのは彼女しかいなかったのである。
ダンジョン探索のために親族の中から養子を儲けようか。はたまたどこかの家と縁組をして、婿に来てくれた者に探索をさせようかなどといった議論がなされる中、彼女はさっさと荷物をまとめ、お供を連れてダンジョンにやって来たのだそうだ。彼女は小さな頃から〈女だてらに家督を継ぐ可能性〉も考慮して育てられた。そのため、剣などの武器の扱いは男性とも肩を並べられるほどのものを持っていた。だから「うだうだ悩んで他の貴族達に先を越されるくらいなら、私が探索に行く」と啖呵を切って出てきたらしい。
「六階の奥に到達した者はほぼいないと聞いているし、そもそも六階に冒険者が降りていくことのほうが珍しいと言うじゃない。だから、何としてでも一番乗りで七階に降りるべく、私達は惜しみのない努力をしたの。手早く冒険者としてのレベルを上げられるように効率よく経験を積んで、装備も我が家の資金力を惜しみなく発揮して一級のものを揃えたわ。――時間とお金を注ぎ込んで準備してきたのだもの。ここで引き返して、他の家に出し抜かれるわけにはいかないの」
言いながら、彼女はステーキを行儀よく口へと運んだ。死神ちゃんは相槌を打つと、紅茶を口に含んでラザニアを押し流した。
食事を終えて身支度を整えると、彼女は伝票に書かれた金額を見て青筋を立てた。いくらダンジョンの中だからといってもボッタクリすぎやしないかとクレームをつけると、サキュバス嬢が例の〈山小屋のカレー〉の話を意気揚々とし始めた。しかしながら、生粋のご令嬢であるお嬢様の心にはあまり響かなかったようで、彼女は「責任者を出しなさい」と言い出した。だが、奥からミノタウルスがのしのしと現れると、彼女は頬を引きつらせ慌てて代金を支払った。
予想以上の出費をしたことに腹を立てながら、お嬢様は店を後にした。そして、必要品の買い足しのできる店を求めて一軒一軒見て回りつつ、死神ちゃんを引き取ってくれないかとその店の店員に声をかけた。どの店も当然ながら答えは〈NO〉で、彼女は死神ちゃんを見下ろすと盛大に顔をしかめた。
「あなたが死神というのは、本当だったというの?」
「だから、始めからそう言っているだろうが」
「……まあ、いいわ。何かの間違いかもしれないし。最後の一店舗まで、隈なく声をかけるだけだわ」
フンと鼻を鳴らすと、彼女はお供を伴って店舗巡りを再開させた。しかし、結局どの店も〈彼女のお願い〉を叶えてくれるところはなかった。
「ここが最後ね」
そう言って、彼女は他の店とは様相の違う扉を下から舐めるように見た。他の店はどこも木製の扉であったのに対し、彼女達が今相対しているそれは凝った装飾の施された鉄造りだった。
彼女はノックをすると「ごめんください」と声をかけながら扉を押し開けた。部屋の中は何かしらのお店というよりは事務所という感じで、年配の男性が一人居るだけだった。彼女はお供に〈外で待つように〉と指示すると、死神ちゃんを連れて部屋の中へと入っていった。
「何じゃ。儂は今、とても忙しいのだがのう」
ご年配は面倒くさそうにぶつくさと呟くと、今かけている眼鏡を外して机に置いてある眼鏡へとかけ替えた。そして重い腰を苛立たしげに上げると、お嬢様の元へとやって来た。
彼は、厳しい顔つきの頑固そうなダークエルフだった。ダンジョン外ではエルフと言ったら白い肌の一族が主流らしく、お嬢様は物珍しそうに彼を眺めていた。見世物扱いされたダークエルフはさらに気分を損ねたのか、一層眉間にしわを寄せた。
「お嬢さんは一人でここまでやってきたのかのう?」
「いえ、仲間が部屋の外で待っておりますけれども」
「そうか。では、全ての仲間を部屋の中へと入れなされ」
苛々とした口調でそう言うダークエルフに首を傾げつつも、お嬢様はその言葉に従った。彼女の仲間が全て部屋の中に入ってくると、ダークエルフは彼らを値踏みするかのようにジロジロと見始めた。
「あの、一体、何なんですか? 私はあなたに尋ねたいことが――」
「ふむ。怪しいのう。とても怪しいのう。ノックに対して返事もしていないのに、勝手に入ってくるような無礼な輩の集団なのだから、怪しいのは当然かも知れないのう。うむうむ、怪しい臭いがプンプン臭ってくるわい」
難癖をつけられて、お嬢様は怒りで顔を真っ赤にさせた。彼女はダークエルフを睨みつけると、勢い良く口を開いた。
「無礼はあなたのほうだわ! 私は由緒正しき家柄の――」
「うるさいわい! 怪しいやつめ、出て行くがいい!」
ダークエルフは彼女の言葉を遮ると、そのように叫んだ。すると、お嬢様達の周りに不思議な光が集まってきた。彼女達は体験したことのない怪現象に戸惑いと恐怖を覚えたのか、顔を青ざめさせていた。次の瞬間、彼女達は全ての装備品と荷物を残してどこかへと姿を消した。
しかしながら、彼女のパーティーの全てが姿を消したわけではなかった。お供のうちの一人だけは何故か部屋にとり残されており、彼はお嬢様と同僚達が目の前で綺麗さっぱりと消えてしまったことに動転して目を白黒とさせていた。
ダークエルフはしげしげとその〈残党〉を見つめると、死神ちゃんへと視線を移して嗚呼と声を上げた。
「なるほどの。ふむ。だから残ってしまったのか。よしよし」
そう言って彼は死神ちゃんと残党の間に立つと、〈呪いの黒い糸〉を手刀でパツンと切り落とした。死神ちゃんが驚きの表情で見ていることなど気にも留めず、彼はそのまま残党の方を向いて「出て行くがいい!」と叫んだ。すると今度こそ、冒険者は一人残らず部屋から消え失せた。
「あんた、一体何者なんだ……?」
死神ちゃんは唾を飲み込むと、デスクへと戻っていくダークエルフに尋ねた。彼は椅子に腰掛け眼鏡を交換すると、死神ちゃんのほうを向くことなく、ペンを手に取りながら言った。
「組合長じゃよ。この、六階歓楽街と五階サロンで構成された振興組合の。ここは儂のオフィスでな、たまに今みたいな面倒な客が来ては仕事の邪魔をしおる。だから、そのたびにダンジョン外へと魔法で追い出してやっているんじゃよ」
組合長は溜め息をつくと、面倒くさそうに顔をしかめて死神ちゃんのほうを向いた。そして、彼は奥の扉を指差した。
「その扉の先に儂の秘書がおるから『冒険者の荷物を片づけるように』と伝えてくれい。さらに奥の扉をくぐれば社内じゃ。よろしく頼むぞ」
「はあ……。ところで、何で身ぐるみ剥がしたんですか?」
死神ちゃんが首を傾げさせると、組合長はニヤリと笑った。
「そのほうが、すぐにここまで戻っては来られないじゃろう? 昔、そのまま追い出してやったら、すぐさま戻って来て轟々と文句を垂れた輩がいての。そうやってまた仕事の邪魔をされるのは嫌じゃから、それ以来、身ぐるみ剥いで追い返しておるわい」
いいアイディアじゃろと笑って、彼はおもむろにデスクワークを再開し出した。死神ちゃんは苦笑いを浮かべると、奥の扉を通って社内へと帰っていったのだった。
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