転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

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* 死神生活一年目 *

第94話 死神ちゃんとストーカー③

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 死神ちゃんは〈担当のパーティーターゲット〉を求めてダンジョン内を彷徨さまよっていた。その間ずっと、得も言われぬ悪寒が死神ちゃんに付き纏っていた。
 死神ちゃんはそこはかとない寒気に身を震わせながら、ターゲットを探して飛び続けた。そしてターゲットを見つけ急降下するも、とり憑く前に目標を失った。
 辺りにモンスターの気配はなく、罠も存在してはいなかった。しかし、冒険者は目の前でたしかに死亡した。死神ちゃんは不思議そうに首を捻ると、最寄りの〈祝福の像〉へと向かうことにした。

 途中、地図を確認してみると、ターゲットの表示色が〈霊界滞在時〉のものへと変化した。どうやらターゲットは再び、何者かに殺害されたらしい。その後も何度か同じことが繰り返され、とうとうターゲットは〈ダンジョンの奥へ〉ではなく〈地上へ〉と道を辿り始めた。
 この冒険者は誰かしらからの恨みを買い、粘着的に絡まれでもしたのか。――そんなことを思いながら、死神ちゃんはターゲットを必死に追いかけた。しかし、そんな死神ちゃんを阻むように、ゆらりと眼前に現れる者があった。


「死神ちゃぁぁぁん……。邪魔者は片付けたよぉぉぉ……。だから、とり憑くならボクにとり憑こうよぉぉぉ……」


 目をギラギラと光らせながら、〈にんげんがたのヤッいきものピン〉はニタァと気持ちの悪い笑みを浮かべた。死神ちゃんは咄嗟に鎌を元のサイズに戻すと、間髪入れずに斬りかかった。しかし、ヤッピンはひらりとそれをかわし、果敢にも死神ちゃんを捕獲しようと手を伸ばしてきた。
 死神ちゃんは慌てて天井スレスレまで上昇すると、腕輪を確認した。――まだ、ターゲットはダンジョン内におり、待機室に戻ることができない状態だった。

 死神ちゃんがヤッピンを睨みつけると、ヤツはゆっくりと死神ちゃんを見上げて見つめ返してきた。そして血走った目をギョロギョロとさせながら、不服そうに首を傾げた。


「ボクねぇ、今日はちょっと機嫌が悪いんだ~。死神ちゃんの桃源郷は、ボクだけのものだと思ったのにさ~。それなのに、あんな小汚いおっさんにまで開放するだなんて、許せないや許せないや~」

「俺だって、別に好き好んで入園許可を出したわけじゃあないんだがな」


 死神ちゃんは顔をしかめてそう言ったが、ヤッピンは聞いていないようだった。むしろ、死神ちゃんの言うことなどどうでも良さそうだった。
 ヤツはズボンのポケットをごそごそと漁ると、何やら布のようなものを取り出した。――それは、可愛らしい女性用の下着だった。ヤツはそれを死神ちゃんに見えるように掲げると、嬉しそうにニタニタと笑った。


「だからね、ボク、新しいパンツを用意したんだ~。どう? 可愛いでしょう? これを履いて、それでまたボクに桃源郷を堪能させてよ~。このパンツの桃源郷だけは、ボクのものにしてよね~」

「そんな要求に応えるわけがないだろう! 俺は仕事で忙しいんだ、とっととどっかに行ってくれよ!」


 死神ちゃんが鎌を動かして威嚇すると、ヤッピンは心なしかしょんぼりとして俯いた。しかし、気を取り直したかのように顔を上げると、気味の悪い様相をデレデレと一層不気味に崩してグフグフと声を漏らして笑い出した。


「そうかぁ、愛しのボクとの、久々の再会だものね~。モノよりもまず、愛が欲しいよねぇ。――いいよぉ。ボク、チッスは実は初めてなんだけど、死神ちゃんに捧げちゃうよ~! 新年のご挨拶兼ねて、しっかりと受け取ってよねぇぇぇぇ」


 ヤッピンはギラついた目を大きく見開き、のったりと舌なめずりをしながらポーチを漁り始めた。そして鈎針付きのロープを取り出すと、死神ちゃんに向かって投げつけた。
 死神ちゃんがそれを避けると、ヤッピンは「何で避けるのさ~」と不服そうに口を尖らせた。そして、死神ちゃんを引きずり下ろすべく、何度もロープを投げてきた。死神ちゃんはその全て避けると、一目散に逃げ出した。

 逃げながら、死神ちゃんは腕輪を確認した。元々ターゲットとして割り振られていた冒険者は完全に地上に出て行ってしまったわけではなかったようで、探索を再開しているようだった。そのおかげで、死神ちゃんは待機室に戻ることも壁の中に逃げることもできなかった。
 指示を仰ごうと無線を入れようにも、絶妙のタイミングでロープが飛んでくる。死神ちゃんは〈腕輪を触っては止める〉を繰り返しながら、必死に逃げて回った。すると、待機室のほうから連絡をしてきてくれた。しかし、その内容は〈申し訳ないが、そのまましばらく逃げていてくれ〉だった。


「どういうことだよ! 誰でもいい、早く助けてくれよ!」

「死神ちゃん、助けて欲しいの~? 愛の無い寂しさから、ボクが助けてあげるよ~!」

「そういうのは求めてない!」


 飛んでくるロープを必死に躱しながら、死神ちゃんは怒号を飛ばした。そして、悪夢の鬼ごっこを継続しながら、気持ち悪さと恐怖とでボロボロと泣き始めた。
 幼女の体でいる限り、どうしても喜怒哀楽が激しくなってしまう。それさえなければ、〈死神・東郷十三じゅうぞう〉従来のクールさを維持し、このようなアクシデントも易々と片づけられただろうに。そもそも、幼女の姿でなければ、こんな理不尽な思いはしなくてよかっただろうに。――そんなことを一瞬考えた死神ちゃんだったが、それよりも何よりも恐怖や〈早く解放されたい〉という焦燥感に脳内を支配された。

 袋小路に追い詰められ、死神ちゃんは恐怖で顔を青ざめさせながらぷるぷると震えていた。ヤッピンはロープを構えて嬉しそうにゆっくりと近づいてくる。


「ほぉら、ボクとチッスしよう~!」


 ヤッピンの不気味な笑顔に死神ちゃんが小さく悲鳴を上げると、ヤツの少し後方に音もなくモンスターが現れた。死神ちゃんはタイミングよく現れた、人間ヒューマンタイプのレアモンスターである暗殺者をまじまじと見つめた。そして顔をくしゃくしゃに歪めると、ヤッピンの放ったロープをするりと避けて暗殺者の元へと飛んでいった。
 暗殺者は、首元にしっかりと腕を回して抱きついてくる死神ちゃんを片手で抱っこした。その様子を見ていたヤッピンは不機嫌に顔を歪めると、苛々とした口調で唸るように言った。


「その子はボクのだよ~? 返してくれないかなあ?」


 突進してくるヤッピンを、暗殺者は前宙するようにジャンプして躱した。怒り狂ったヤッピンは短刀を抜いて暗殺者に突っ込んだが、暗殺者はそれも素気無く躱した。そして彼はヤッピンの背後に音もなく回ると、ヤツの首めがけて勢い良く手を突き出した。と同時に、暗殺者の手甲から仕込みナイフが伸びでて、ヤッピンの首を刎ね飛ばした。

 ヤツの亡骸がどさりと音を立てて倒れ、仕込みナイフが元通り収納されると、暗殺者はズボンのポケットから電子チップのようなものを取り出した。彼はそれを、ヤッピンの冒険者用の腕輪に近づけた。すると、チップはスウッと溶けるように腕輪の中へと消えていった。

 暗殺者は立ち上がると、首筋にしがみついたまま嗚咽を漏らしている死神ちゃんの背中をポンポンとあやすように叩いた。死神ちゃんは顔を上げると、暗殺者の顔をじっと見つめた。再び顔をくしゃくしゃにさせる死神ちゃんに、レプリカ特有の血塗られた赤い瞳ではなく、灰色がかったヘーゼルの瞳を有した暗殺者は優しげに微笑んだ。


「ねえ、アタシ、ちゃんとレプリカっぽかったかしら?」

「……何で?」

「片手じゃあ鎌は振りづらいから、特別仕様よ。――制服ガイコツ姿以外でダンジョンに降り立つのなんて初めてだから、ちょっと緊張しちゃった」


 おどけながらもポンポンと優しく背中を叩き続けてくれるマッコイの首筋に、死神ちゃんは再び抱きついた。遅くなってごめんなさいね、と謝罪する彼に、死神ちゃんは抱きついたまま静かに首を横に振った。
 ブラックリストに入れ監視対象にしているにもかかわらず、ヤッピンは何故かシステムが感知しないということが常だった。そのため、闇雲に冒険者ギルド経由で追放処分を課したり、消滅ロストまで追い込んだりするのではなく、システム向上のために逆に泳がせようということに決まっていたそうだ。
 そして、ただ泳がせるのではなく、データ収集用の機器を直接ヤツに取り付けようということにもなっていたらしい。しかしながら、ヤツは一向に姿を見せない。そのため、今回の遭遇は機器取り付けの絶好のチャンスだったというわけだ。


「全て〈あろけーしょんせんたー〉のほうで決定されたことで、本当ならその処理も向こうが行う予定だったのよ。でも、全然その機会に恵まれなかったらしくて。……一刻も早く帰還命令を出してあげたかったのに、ビット所長が待ったをかけて。それで結果的に、かおるちゃんを囮にする形になっちゃって。本当にごめんなさいね」


 死神ちゃんは首を横に振ると、マッコイに抱きついたままボソボソと話し始めた。


「前にさ、〈汚れ仕事の一環でそういうこと・・・・・・をしてきたから、大切な人とはそういうこと・・・・・・を安易にしたくない〉って言っただろ」

「ええ」

「この世界に来て、いろんな気持ちを知って、大切なモノが増えたからさ。だから余計に、今回アイツに迫られたのが本当に苦痛に感じたし、気持ちが悪いと思った。俺、もう二度と、好きでもない相手とそういうこと・・・・・・はしたくない。――そういうこと・・・・・・は、本当に大切な人としかしたくない。挨拶として頬にするのだって、本当に親しい、限られた人としかしたくない」


 震えながらギュウとしがみついてくる死神ちゃんの背中を擦ってやりながら、マッコイは優しく頷いた。死神ちゃんは顔を上げると、いまだ強張ったままの頬を一生懸命持ち上げて笑顔を作った。


「助けに来てくれて、ありがとうな」

「上司として、当然のことをしただけだから」

「いやでも、本当にありがとう」


 頑張って笑顔を繕う死神ちゃんに、マッコイは遠慮がちに笑みを浮かべた。そしてゆっくりと、遠慮するようにポソリと言った。


「あなたが悲しいと、アタシも悲しいから」


 死神ちゃんは安心したとでもいうように、へにゃりと相好を崩して心からの笑顔を見せた。マッコイは笑顔を返すと、死神ちゃんを伴って壁の中へと消えたのだった。




 ――――一方的な愛ほど苦しく重たいものはない。全く愛の無い状態ほど虚しく悲しいものはない。恋愛であれ友愛であれ、〈愛〉というものは〈お互いに想い合ってこそ〉のものなのだと、死神ちゃんは改めて感じたそうDEATH。
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