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* 死神生活一年目 *
第108話 死神ちゃんとハム⑤
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死神ちゃんは〈三階の人気修行スポット〉にやって来ると顔をしかめた。そこには〈担当のパーティー〉らしき冒険者がいたのだが、ロックなビートに酔いしれながら一人でダンスを踊っているのだ。
たった一人で、しかしながら楽しそうにダンスに興じている冒険者を、死神ちゃんはいたたまれない気持ちで見ていた。すると、腕にヒラヒラとした細い布のようなものの付いた赤いジャンプスーツに身を包んだその冒険者は、死神ちゃんに気がついて嬉しそうに走り寄ってきた。
「嬢ちゃーん! 久しぶりだなあ!」
「ハム!? お前、ハムなのか!?」
勢い良く抱きついてきた冒険者は、紛れも無くハムだった。死神ちゃんが口をあんぐりとさせると、ハムはニヤリと笑ってステップを踏み、そして一回転した。
「Shall we dance?」
「えっ、いやいやいや、わけ分からないから! この数ヶ月の間に何があったんだよ、お前!」
おどけてお辞儀したハムに死神ちゃんが眉根を寄せると、ハムは朗らかに笑いながら話し出した。
彼は指揮官様の洗脳から解放されたあと、体幹を鍛えるためにヨガはそのまま継続して行っていたそうだ。おかげで体幹が引き絞られてキレが増したことを嬉しく思ったハムは、キレを活かすために機敏さも磨きたいと思ったのだという。
「それで、ダンスを始めたってわけか」
「ああ。周りで踊っている人達にぶつからないように気を配りつつも大胆に攻めこむところなんて、戦闘にとても活かせると思わないか? だから習い始めたんだが、パートナーを務めてくれる女性が中々見つからなくてな。ひとまず、一人でもできる練習を積んでおけと先生に言われてステップを踏んでいたというわけさ」
死神ちゃんは顔を一層眉根を寄せると、ゆっくりと首を傾げた。
「お前が習い始めたのって、社交ダンスなのか?」
「おう! しかも、競技会のあるやつだぜ!」
「でもお前、さっき口ずさんでたの、ロックだよな。衣装もロックな感じだし……」
ハムは朗らかな笑顔のまま、首を傾げさせた。死神ちゃんは溜め息をつくと、「何でもない」と言って頬を引きつらせた。
ハムは気を取り直すかのようにニコリと笑うと「練習の成果を見てくれ」と言ってステップを踏み始めた。
「スロー! クイック! クイック! スロー! クイック! クイック! そして、ターン!!」
言いながら、ハムは楽しそうに踊り始めた。周りにはいつの間にかモンスターが出現しており、彼は華麗にステップを踏みながらモンスターの間をかいくぐり、的確に突きを入れていった。ハムがステップを踏むのを止めると周りのモンスターはバタバタと倒れ出し、そして一斉にアイテムや宝箱へと変化した。
死神ちゃんが拍手を送ると、ハムは嬉しそうに頭をワシワシと掻いた。
「どうだい、嬢ちゃん! これを続けていけば、機敏さも身につくこと間違いなしだろう!」
「でも、競技ダンスするなら、やっぱり女性パートナーがいないとなあ」
「そうなんだよ、そこなんだよ……!」
死神ちゃんが苦笑いを浮かべると、ハムはがっくりと肩を落とした。
死神ちゃんは話題を変えようと、ハムの衣装に言及した。すると、ハムはにやりと笑って腕のヒラヒラを見せつけてきた。
「よーく見てくれ。これ、ただのヒラヒラじゃないんだぜ」
死神ちゃんはハムの腕についているヒラヒラをまじまじと見た。そして、目を見開くとハムを見上げて驚嘆した。
「これ、フェニックスの羽じゃないか!」
「いやあ、ここまで集めるの、大変だったぜ!」
彼は得意気に胸を張ると、しみじみと目を細めた。
火吹き竜に挑むたびに炎のブレスで焼かれ死ぬのをどうにか打破しようと悩んだ結果、ハムは炎に対して強くなる魔法の纏える装備を少しでも多く身につけることを思いついたらしい。結果、彼のダンスの衣装はこのような〈どこぞのロック歌手〉を想起させるようなものへと変貌したのだとか。
フェニックスは〈五階の火炎区画〉にいるモンスターのため、まだ五階に到達していないハムは必死に金を稼いで羽を買い集めたらしい。ハムは苦笑いを浮かべると、しょんぼりとうなだれた。
「レアなモンスターらしいから、すごく金がかかったよ……。おかげで、燃え盛る炎には打ち勝てそうだけど、懐は吹雪が吹き荒れているよ……」
死神ちゃんが苦笑いを浮かべると、ハムは「景気付けにドレイクを倒しに行こう」と言い出した。死神ちゃんはステップを踏みながら四階へと降りていくハムの後を追った。
ハムはいままでの経験と、ダンスを始めたことによって得た機敏さを活かしてドレイクに攻め込んだ。途中、ステップを誤って足がもつれ、そのせいで炎のブレスに飲まれたが、フェニックスの羽のおかげで彼は無事だった。
不思議な光を纏ったハムは不敵に笑いながらゆっくりと炎の中から歩み出ると、片手を腰に、もう片方の手は人差し指と親指以外を握りこんで〈L字の指差し〉にし、それを真っ直ぐ高々と掲げてポーズをとった。そして高笑いをすると〈L字指差し〉を保ったまま、掲げていた手を下ろしてその手をドレイクに向けた。
「フハハハハハ! 炎のブレス、破れたり!」
ハムは勝ち誇ると、そのまま一気に畳み込んだ。強烈な突きの連続を食らい、ドレイクはとうとう地面に崩れ落ちた。
「やった! とうとう、ドレイクを倒したぞ!!」
「やったな、ハム! おめでとう!」
「ありがとう、嬢ちゃん!!」
ハムと死神ちゃんはハイタッチをし、拳と拳を打ち付けあい、そして熱い抱擁を交わした。ハムは死神ちゃんを解放すると、拳を握って力強く頷いた。
「これは、行けるぞ! この流れに乗って、俺はもう少し奥に進む!」
言いながら、ハムは既に走り出していた。慌てて死神ちゃんがあとを追うと、奥からハムの悲鳴がこだました。
ハムは〈腰に手を当てつつ天井を指差す〉という、先ほど炎から出てきた時と同じポーズの状態で氷漬けにされていた。彼の視線の先には氷吐き竜がいて、ドレイクは氷像になったハムに興味を失うとのしのしと去っていった。
「ハムぅぅぅぅぅッ!?」
「また、会おう、な……。嬢ちゃ……ん……」
ハムは氷の柱の中で声が出せないにもかかわらず、そのように口を動かした。そして言い終えると、氷の中でザアアと灰と化した。しかし――
氷の中の灰は突如、緑の暖かな光に包まれた。癒やしの光で割られ溶けていく氷の中心で、ハムは華麗に復活を遂げた。何が起きたのかとハムが戸惑っていると、死神ちゃんの背後から女の声が響いた。
「お兄さん、見たところ、冒険者としてのレベルはそこまで高くはないみたいね。それなのに一人でドレイクに挑むだなんて、そんな無茶したら駄目じゃない」
「むむッ……!? ――おお、なんて素晴らしい筋肉なんだ! 君が助けてくれたのか!」
「……そういうお兄さんも、素敵な筋肉をしているわね」
そう言って、ハムと知的筋肉はゴクリと唾を飲み込むとゆっくりと頷き合い、そして堅い握手を交わした。死神ちゃんは〈とうとう出会ってしまった二人〉を真顔で見届けると、筋肉談義を始めた二人を背に去っていったのだった。
――――もしやこれは、運命の出会い? ハムに念願のパートナーができたようDEATH?
たった一人で、しかしながら楽しそうにダンスに興じている冒険者を、死神ちゃんはいたたまれない気持ちで見ていた。すると、腕にヒラヒラとした細い布のようなものの付いた赤いジャンプスーツに身を包んだその冒険者は、死神ちゃんに気がついて嬉しそうに走り寄ってきた。
「嬢ちゃーん! 久しぶりだなあ!」
「ハム!? お前、ハムなのか!?」
勢い良く抱きついてきた冒険者は、紛れも無くハムだった。死神ちゃんが口をあんぐりとさせると、ハムはニヤリと笑ってステップを踏み、そして一回転した。
「Shall we dance?」
「えっ、いやいやいや、わけ分からないから! この数ヶ月の間に何があったんだよ、お前!」
おどけてお辞儀したハムに死神ちゃんが眉根を寄せると、ハムは朗らかに笑いながら話し出した。
彼は指揮官様の洗脳から解放されたあと、体幹を鍛えるためにヨガはそのまま継続して行っていたそうだ。おかげで体幹が引き絞られてキレが増したことを嬉しく思ったハムは、キレを活かすために機敏さも磨きたいと思ったのだという。
「それで、ダンスを始めたってわけか」
「ああ。周りで踊っている人達にぶつからないように気を配りつつも大胆に攻めこむところなんて、戦闘にとても活かせると思わないか? だから習い始めたんだが、パートナーを務めてくれる女性が中々見つからなくてな。ひとまず、一人でもできる練習を積んでおけと先生に言われてステップを踏んでいたというわけさ」
死神ちゃんは顔を一層眉根を寄せると、ゆっくりと首を傾げた。
「お前が習い始めたのって、社交ダンスなのか?」
「おう! しかも、競技会のあるやつだぜ!」
「でもお前、さっき口ずさんでたの、ロックだよな。衣装もロックな感じだし……」
ハムは朗らかな笑顔のまま、首を傾げさせた。死神ちゃんは溜め息をつくと、「何でもない」と言って頬を引きつらせた。
ハムは気を取り直すかのようにニコリと笑うと「練習の成果を見てくれ」と言ってステップを踏み始めた。
「スロー! クイック! クイック! スロー! クイック! クイック! そして、ターン!!」
言いながら、ハムは楽しそうに踊り始めた。周りにはいつの間にかモンスターが出現しており、彼は華麗にステップを踏みながらモンスターの間をかいくぐり、的確に突きを入れていった。ハムがステップを踏むのを止めると周りのモンスターはバタバタと倒れ出し、そして一斉にアイテムや宝箱へと変化した。
死神ちゃんが拍手を送ると、ハムは嬉しそうに頭をワシワシと掻いた。
「どうだい、嬢ちゃん! これを続けていけば、機敏さも身につくこと間違いなしだろう!」
「でも、競技ダンスするなら、やっぱり女性パートナーがいないとなあ」
「そうなんだよ、そこなんだよ……!」
死神ちゃんが苦笑いを浮かべると、ハムはがっくりと肩を落とした。
死神ちゃんは話題を変えようと、ハムの衣装に言及した。すると、ハムはにやりと笑って腕のヒラヒラを見せつけてきた。
「よーく見てくれ。これ、ただのヒラヒラじゃないんだぜ」
死神ちゃんはハムの腕についているヒラヒラをまじまじと見た。そして、目を見開くとハムを見上げて驚嘆した。
「これ、フェニックスの羽じゃないか!」
「いやあ、ここまで集めるの、大変だったぜ!」
彼は得意気に胸を張ると、しみじみと目を細めた。
火吹き竜に挑むたびに炎のブレスで焼かれ死ぬのをどうにか打破しようと悩んだ結果、ハムは炎に対して強くなる魔法の纏える装備を少しでも多く身につけることを思いついたらしい。結果、彼のダンスの衣装はこのような〈どこぞのロック歌手〉を想起させるようなものへと変貌したのだとか。
フェニックスは〈五階の火炎区画〉にいるモンスターのため、まだ五階に到達していないハムは必死に金を稼いで羽を買い集めたらしい。ハムは苦笑いを浮かべると、しょんぼりとうなだれた。
「レアなモンスターらしいから、すごく金がかかったよ……。おかげで、燃え盛る炎には打ち勝てそうだけど、懐は吹雪が吹き荒れているよ……」
死神ちゃんが苦笑いを浮かべると、ハムは「景気付けにドレイクを倒しに行こう」と言い出した。死神ちゃんはステップを踏みながら四階へと降りていくハムの後を追った。
ハムはいままでの経験と、ダンスを始めたことによって得た機敏さを活かしてドレイクに攻め込んだ。途中、ステップを誤って足がもつれ、そのせいで炎のブレスに飲まれたが、フェニックスの羽のおかげで彼は無事だった。
不思議な光を纏ったハムは不敵に笑いながらゆっくりと炎の中から歩み出ると、片手を腰に、もう片方の手は人差し指と親指以外を握りこんで〈L字の指差し〉にし、それを真っ直ぐ高々と掲げてポーズをとった。そして高笑いをすると〈L字指差し〉を保ったまま、掲げていた手を下ろしてその手をドレイクに向けた。
「フハハハハハ! 炎のブレス、破れたり!」
ハムは勝ち誇ると、そのまま一気に畳み込んだ。強烈な突きの連続を食らい、ドレイクはとうとう地面に崩れ落ちた。
「やった! とうとう、ドレイクを倒したぞ!!」
「やったな、ハム! おめでとう!」
「ありがとう、嬢ちゃん!!」
ハムと死神ちゃんはハイタッチをし、拳と拳を打ち付けあい、そして熱い抱擁を交わした。ハムは死神ちゃんを解放すると、拳を握って力強く頷いた。
「これは、行けるぞ! この流れに乗って、俺はもう少し奥に進む!」
言いながら、ハムは既に走り出していた。慌てて死神ちゃんがあとを追うと、奥からハムの悲鳴がこだました。
ハムは〈腰に手を当てつつ天井を指差す〉という、先ほど炎から出てきた時と同じポーズの状態で氷漬けにされていた。彼の視線の先には氷吐き竜がいて、ドレイクは氷像になったハムに興味を失うとのしのしと去っていった。
「ハムぅぅぅぅぅッ!?」
「また、会おう、な……。嬢ちゃ……ん……」
ハムは氷の柱の中で声が出せないにもかかわらず、そのように口を動かした。そして言い終えると、氷の中でザアアと灰と化した。しかし――
氷の中の灰は突如、緑の暖かな光に包まれた。癒やしの光で割られ溶けていく氷の中心で、ハムは華麗に復活を遂げた。何が起きたのかとハムが戸惑っていると、死神ちゃんの背後から女の声が響いた。
「お兄さん、見たところ、冒険者としてのレベルはそこまで高くはないみたいね。それなのに一人でドレイクに挑むだなんて、そんな無茶したら駄目じゃない」
「むむッ……!? ――おお、なんて素晴らしい筋肉なんだ! 君が助けてくれたのか!」
「……そういうお兄さんも、素敵な筋肉をしているわね」
そう言って、ハムと知的筋肉はゴクリと唾を飲み込むとゆっくりと頷き合い、そして堅い握手を交わした。死神ちゃんは〈とうとう出会ってしまった二人〉を真顔で見届けると、筋肉談義を始めた二人を背に去っていったのだった。
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