転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

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* 死神生活ニ年目 *

第160話 びばびば★のんの②

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 祭り囃子を聞きながら温泉に浸かり、死神ちゃんは絶景を見下ろした。とても楽しそうな活気に溢れた雰囲気に頬を緩ませると、周りのみんなもほうと息をついた。


「もうすぐ花火も上がるのかあ……」

「うむ~……。その頃には出て、みなで浴衣を着て、夕涼みをしながら〈おしょくじかい〉なのじゃ。花火も夕飯も、楽しみなのじゃ~……」


 ぼんやりと呟いた死神ちゃんに答えるかのように、天狐が蕩けた声でそう言った。死神ちゃんは「楽しみだな」と返すと、優しげに目を細めたのだった。



   **********



 今年も、天狐の城下町の夏祭りの時期がやってきた。去年は、死神ちゃんと天狐の二人だけでお祭りに参加した。二人で気ままに屋台を回り、遊んだり食べたりしているうちに花火が始まってしまい、慌てて見物席を確保したのが、いまだに記憶に新しい。そのお祭りを今年は、温泉お泊り会のフルメンバーでまだ日も明るいうちから巡り、ある程度したら城に戻って温泉を堪能し、その後に夕涼みをしながら天守閣からのんびりと花火を眺めようという案を天狐が出してきた。
 死神ちゃんと天狐は毎月、欠かさずお泊まり会をしている。天狐が宿題を頑張るようになったご褒美で城に友達を招いて良いとなってからは、第三死神寮と城のどちらかで開催していた。お城のほうで開催する時には、参加者数が多くても問題ないということで、サーシャやアリサも顔を出していた。ただ、マッコイとケイティーは寮長や班長の仕事との兼ね合いで、温泉までは一緒に入れはするものの、その後のお泊りまでは参加出来なかった。――今年から体制が変わって二人がお泊りが可能になったということもあり、天狐はその二人とも一緒にお祭りを楽しみたいと思ってそのような提案をしてきたようだった。

 おみつがマッコイとケイティーに早めに伝えてくれていたこともあり、天狐の提案は叶えられた。当日、待ち合わせ場所に可愛らしい浴衣姿で現れた天狐は、マッコイとケイティーの姿を見て大層喜び、きゃあきゃあ言いながら二人に抱きついていた。
 マッコイとケイティーに嬉しそうにじゃれつく天狐をほっこりとした気持ちで死神ちゃんが眺めていると、どこからともなくシャッター音が聞こえてきた。死神ちゃんは突然のことに怪訝に思い顔をしかめさせ、音の発生源を探ってきょろきょろと辺りを見回した。すると、すぐ近くで〈広報課〉に勤めるサーシャの従姉妹のエルダが一眼レフを構えていた。
 死神ちゃんは思わず眉間のしわを深めると、エルダに声をかけた。


「今日のこの会って、密着取材でも入っているんですか?」


 エルダは目をしばたかせながら死神ちゃんを見下ろすと、苦笑いを浮かべて言った。


「あら、小花おはなさん。お久しぶり。――違うわ、取材じゃあ無いわよ。写真は私の趣味でもあるから。だから今日撮る写真は全て、個人的なものよ」


 何でも、サーシャが時折お泊り会に参加しているというのを聞いて羨ましいと思ったそうで、それを彼女に伝えたところ、彼女は天狐に「従姉妹を連れて行ってもいいか」と訪ねてくれたのだそうだ。楽しいことなら何でも大好きな天狐は、即答で快諾したという。エルダは友達とわいわい過ごすということが少ないそうで、今日のお泊り会が楽しみであるとともに、少しばかり心配で緊張しているそうだ。


「私、本当にお邪魔ではないかしら? 特に死神課の方にとっては、私たち広報課って厄介な存在だと思うし。――ご一緒して、嫌じゃない?」


 しょんぼりと表情を暗くするエルダに、死神ちゃんは「そんなこと、気にしなくて大丈夫」と笑いかけた。彼女は安堵して胸を撫で下ろすと、従姉妹の元に駆けて行き、彼女の手を取り嬉しそうに何やら報告をしていた。
 これでアリサ以外は揃ったのかと死神ちゃんが首を捻ると、おみつが「もう一人」と答えた。誰が来るのだろうと眉根を寄せた直後、集合場所に「おっ待たせ~!」という馴染みのあるダミ声が響いた。死神ちゃんは思わず、苦虫を噛み潰したようなひどい顔をした。


「何で、お前がここにいるんだよ」

「小花っち、あちしを舐めてもらっちゃあ困るね! あちしは美容には人一倍うるさい美魔女だよ!? そんなあちしが、温泉なんていう素晴らしいものを見過ごすわけないじゃん!」


 きっちりと浴衣を着込んで背中にぬいぐるみを背負った銀髪美少女――ピエロはそう言うと得意気にふんぞり返った。どうやら彼女は城下町ここに温泉があるという話を何処かで聞き、それ以来足繁くここに通ってるらしい。そのため、天狐と顔なじみとなったそうで、ピエロが死神ちゃんの後輩だと知った天狐が今日のイベントにピエロを誘ったみたいだった。
 死神ちゃんが適当に相槌を打っていると、エルダがおもむろに「こっち視線くださーい」と声をかけてきた。つい反射的にポーズをとってしまった死神ちゃんの横では、死神ちゃんの元に駆け寄ってきていた天狐とピエロも同じくポーズをとっていた。可愛いを連呼しながら嬉しそうにシャッターを切りまくるエルダの少し後ろで、ケイティーがふるふると悶えながら「現像したら私にもちょうだい!」と繰り返していた。
 そんな状況に呆れつつも、おだてられて調子に乗った死神ちゃんは三人で可愛らしいポーズをとり続けていた。すると、ちょうどそこにアリサがやって来て、彼女は「何をやっているの」と呆れ声をひっくり返した。



   **********



 屋台を見て回りながら、死神ちゃんは心なしか物欲しそうな表情を浮かべた。どの食べ物も、とても美味しそうだったからだ。それに気がついたマッコイが呆れ眼で「お夕飯、食べられなくなるわよ」とたしなめてきた。死神ちゃんは苦笑いを浮かべつつも、「とりあえず、リンゴ飴とあんず飴だったら、どちらを食べようかな」などと悩んだ。
 マッコイと天狐とエルダは繊細な飴細工に心を奪われたようだった。彼らは揃って目を輝かせて、職人の素晴らしい技に見惚れていた。エルダはその感動をカメラに収めようと、必死になってシャッターを切っていた。
 アリサとサーシャはヨーヨー釣りをしたようで、ゴムの付いた水風船で楽しそうに遊んでいた。


「ねえ、小花。私と勝負しよう」


 そう言って、ケイティーが射的を指差してきた。死神ちゃんはニヤリと笑うと、銃火器のスペシャリストの腕を見せつけてやった。大きなぬいぐるみをゲットした死神ちゃんは、それを羨ましそうに見つめてくる天狐にプレゼントした。天狐はとても嬉しそうに、そのぬいぐるみを抱きしめてぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
 負けたことが悔しかったケイティーは、今度はマッコイにダーツの勝負を挑んだ。そこにおみつも乱入し、勝負はマッコイとおみつの五分五分だった。やはり負けがついたケイティーは「組手なら私が一番なのに!」と悔しそうに地団駄を踏んだ。

 そろそろ城に戻ろうということになり、一行はお祭り会場をあとにした。城に着き、お風呂セットと貸し出された部屋着用の浴衣を手にすると、みんなで大浴場へと向かった。
 死神ちゃんは歩きながら、側を歩いていたピエロに向かって首を傾げた。


「ところで、ピエロ。お前、どうやって風呂に入るんだよ。いくら遠隔操作出来るとはいえ、見えない状態で体洗うとか、すごく大変だろう」


 ピエロはニヤリと笑うと、お風呂セットの中から何やら取り出した。それは、いわゆるフリーザーバックというやつだった。


「このサイズ、探すのに苦労したんだよね!」

「あれだな、まるで邪魔なぬいぐるみ仕舞う際にダニがつかないように処理する感じだな」

「ひどいよ、小花っち! たしかにそんな感じに見えるだろうけどさ!」


 憤りながらも、少女は本体の人形を粗雑に袋に入れて一生懸命空気を抜いていた。自分の本体であるにも関わらず、美しいことにこだわりがあるにも関わらず、意外と大雑把なピエロの姿に死神ちゃんは苦笑いを浮かべた。
 死神ちゃんと天狐、ケイティーとピエロの真っ裸組は他の女性陣がいそいそとタオルを身体に巻くのを尻目に大浴場へと駆けて行った。すでにマッコイが隅のほうでこそこそと頭を洗っており、ケイティーは浴場に入るなり自分の洗い場を確保するよりも先に彼の頭を鷲掴みに行った。

 マッコイが悲鳴を上げだすのに少し遅れて、アリサ達が浴室に入ってきた。サーシャとおみつが苦笑いを浮かべる横で、アリサは呆れながら「またやっているの?」とぼやいた。
 ケイティーがマッコイの頭をわしゃり倒していると、ピエロもそこへ加わり彼の背中を洗い倒した。何が起きているのか分からないマッコイは、動揺して小さな悲鳴を上げ続けていた。


「えっ、誰っ!? ケイティー以外って、誰!?」


 楽しそうにマッコイを洗う二人を羨ましく思ったのか、天狐もそこに加わるべく近づいていった。ピエロは少し奥にズレて場所を開けると、天狐はピエロと一緒になって彼の背中を洗い始めた。


「増えた!? 誰? 誰!?」

「マコちん、お痒いところは? お痒いところは!?」

「わらわはいつもおみつと洗いっこするし、里帰りすれば父上ともするのじゃ! じゃから、お背中流しは得意なのじゃ! どうじゃ、上手じゃろう!?」


 誰というのが分かり、さらにはそのうちの一人が天狐ということもあり、マッコイは落ち着きを取り戻すと優しい声で「ありがとう、上手よ」と答えた。しかし彼は、ケイティーの「私も褒めて」は頑なに無視した。ケイティーはケチと叫びながら、泡だらけのマッコイを豪快にすすいだ。



   **********



「マッコイさんが悲鳴を上げるのを見て、びっくりしちゃった。いつもああなの?」


 湯船に浸かりながらエルダは、少し離れたところでぐったりとしながらも、ケイティーが近づいてくるたびに離れていくマッコイを眺めて声を潜めた。死神ちゃんが「ケイティーがいるときは」と答えると、彼女は苦笑いを浮かべた。サーシャはにっこりと笑うと、エルダに向かって言った。


「今ふと思い出したけれど、エルダお姉ちゃんも小さい頃は私に対してああだったね」

「えっ、そうかな!? あそこまで豪快ではなかったと思うけれど!」

「ううん、ああだったよ」


 クスクスと笑うと、サーシャはエルダとの昔話を死神ちゃんと天狐に話してくれた。死神ちゃんと天狐は、楽しい気持ちで耳を傾けた。その傍らでは、ピエロとアリサが美顔マッサージについて語り合っていた。楽しげな声が響く中、城下町の祭り囃子がひっそりと聞こえてきた。



   **********



 旅館のようなお食事を堪能しながらの花火は格別だった。死神ちゃんが広げてもいないお布団の上でとても良い気分でまどろんでいると、アリサがマッコイに向かって声をかけた。


「あなた、何でそんな遠くにお布団広げているのよ。こっちにいらっしゃいよ」


 戸惑う彼に近づきながら、アリサはムスッとした顔で「あなたは、でしょう?」と言うと、マッコイから布団をひったくりケイティーと手分けして自分達の近くにそれを運んだ。
 その様子を、エルダはばっちりと写真に収めていた。とれた写真をリプレイで見返しながら、エルダは「マッコイさん、心なしか嬉しそう」と笑った。


「エルダは撮ってばかりで写らないのかえ?」


 突如、天狐がきょとんとした顔でそう言った。エルダがまごついていると、天狐はニヤリと笑ってカメラを貸して欲しいとせがんだ。おみつはそれを窘めたあと、いいことを思いついたと言わんばかりにニッコリと笑って「私に貸してください」と言った。


「さ、みなさん。集まってくださいますか?」


 おみつのその言葉で、みんながわらわらと集まった。おみつは分身の術を使って二人に増えると、片方がカメラマンに、もう片方が被写体となるべくみんなの中へと混じった。
 撮られた写真を見ながら、エルダが「自分が写るのなんて、すごく久々かも」と言って顔を真っ赤にさせた。天狐はそんなエルダの様子に満足げに頷くと「これからも、みんなでたくさん、楽しい思い出をいっぱい作るのじゃ!」と笑った。死神ちゃんは同意して頷きながら、その場で船を漕ぎ始めたのだった。




 ――――楽しい時間を気のおけない仲間達で共有できるというのは、とても素敵なことだし、これからもそうしていきたいなと死神ちゃんは思ったのDEATH。
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