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* 死神生活ニ年目 *
第201話 死神ちゃんとまさこ
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死神ちゃんが〈担当のパーティー〉を求めてダンジョン内を彷徨っていると、前方から激しい打撃音が聞こえてきた。音のするほうへと近づいていってみると、〈悪魔と人間のハーフ〉の女性がキレのある蹴りでモンスターを蹂躙していた。悪魔のような強さを見せつける彼女の姿に死神ちゃんが呆然と見入っていると、死神ちゃんの存在に気がついた彼女が額に浮いた汗を拭いながらにこやかな笑みを向けてきた。
「あら、お嬢ちゃん。どうしたの? 遊んでいる最中に、誤ってダンジョンに入ってきちゃったの?」
デビリッシュの女性は正直若いとは言えなかったが、かといって〈おばちゃん〉というわけでもなかった。彼女に子供がいるとしたら、大きくても五、六歳くらいの年齢だろうか。
実際にそのくらいの大きさの子供がいるのか、彼女は死神ちゃんに対して〈近所のママさん〉のような態度をとった。死神ちゃんはそんな彼女に苦笑いを浮かべながらも「あんた、結構強いな」と言った。すると彼女は心なしか顔をしかめて、死神ちゃんを見下ろした。
「女の子がそういう口の利き方をしたら駄目でしょう。それに、初対面の人を〈あんた〉呼ばわりするのはどうなの? おうちの人に、そういうのは駄目って教わらなかった?」
「いや、ていうか――」
「言い訳する子は、お仕置きです!」
女性は死神ちゃんをひょいと小脇に抱えると、容赦なくお尻ペンペンをした。死神ちゃんは「何で神聖魔法でもないのに、当たり判定があるんだ?」と一瞬思ったが、あまりの痛さにその考えも吹き飛んだ。
死神ちゃんは叫び声を上げながら、十回叩かれるのを耐えた。解放された死神ちゃんは、目に涙を浮かべてお尻を擦りながら、きつく彼女を睨み上げた。何するんだと死神ちゃんが怒鳴ると、彼女は「反省の色がない」と言って再び十回お尻ペンペンをした。
「反省しましたか?」
「はい、すみませんでした……」
ヘロヘロと地面に膝をついた死神ちゃんが弱々しく謝罪をすると、女性は胸の前で腕を組み、満足げに頷いた。そして彼女は再び、死神ちゃんに「迷い込んでしまったの?」と尋ねた。死神ちゃんは言葉を濁して回答を控えると、苦笑いを浮かべて言った。
「あ、お、お姉さんはどうしてダンジョンに?」
死神ちゃんが〈あんた〉や〈おばさん〉と言いかけたことに気づいたのだろう、彼女は片眉を釣り上げて死神ちゃんを睨んだ。しかし、彼女は小さく笑みを浮かべると、人探しをしていると答えた。死神ちゃんが首を傾げると、彼女はにっこりと微笑んだ。
「お嬢ちゃんさ、ダンジョン入り口からここまで入ってくる間に、飲んだくれたおじちゃんを見なかった?」
死神ちゃんが怪訝に眉根を寄せると、彼女は一見優しそうに見える笑みを引きつらせて淡々と続けた。
「お姉ちゃんね、そのおじちゃんを探しているんだ。お姉ちゃんのおうちは酒屋さんなんだけどもね、おじちゃんったら、お酒の配達ほっぽり出してダンジョンに入り浸ってるらしくて」
「お前、まさこか」
死神ちゃんは表情もなく、脊髄反射でそう言った。すると、〈まさこ〉と呼ばれた彼女は笑顔を浮かべたまま死神ちゃんを抱え込んだ。一転して鬼のような形相を浮かべると、彼女はまたもや死神ちゃんに〈お尻ペンペンの刑〉を処した。
「年上を! 呼び捨てに! するんじゃあない!」
「ぎゃあああああ!」
「お前やあんた呼ばわりも! 駄目です!」
「痛ッ……は、ぃ……ああああああ!!」
「返事! 聞こえないよ!」
「はいッ! すみませんでした! ごめんなさい! ごめんなさい!」
刑を終えて解放された死神ちゃんは、グズグズと泣きながら膝をついた。まさこは腰に手を当ててフンと鼻を鳴らすと、親の顔が見たいわと言って呆れ顔を浮かべた。
死神ちゃんはスンスンと鼻を鳴らしながら、声を震わせた。
「それで、まさこさんはどうして旦那さんを探しにいらしたんですか。旦那さんから『嫁は出ていった』と伺っていたのですが」
「あら、お嬢ちゃん、やっぱりうちの亭主を知っているの。――その話を聞いたのは、いつ? ついさっき?」
「いえ、つい先月の話です」
「あらまあ、お嬢ちゃん。ていうことは、たびたびダンジョンに来ているの? 危ないから駄目よ?」
そう言って眉根を寄せながらも、まさこは〈旦那を探しに来た経緯〉を話してくれた。
彼女は年の瀬が近づいてきたため、心配になって帰ってきたのだそうだ。この時期は年末年始に向けての準備などで酒の需要が一気に増えるため、一年で一番忙しい。だから、夫ひとりだけでは仕事が回らないだろうと思ったのだそうだ。
実家に子供を預けて帰ってきた彼女は、夫が心を入れ替えて一生懸命働いてくれていることを想像していた。しかし、そんな淡い期待は打ち砕かれたどころか、彼女の怒りは更に増すこととなった。――あの酔っぱらいは、配達の仕事を放置して姿を眩ませていたのだ。
「あんの宿六、あたしがいないのを良いことに好き勝手して! ご贔屓さんにお詫びと配達がてら聞いて回ってみたら、ダンジョンに入り浸っているっていうじゃないの! ――ふんづかまえて、性根を叩き直してやらあ」
まさこはキャンキャンと喚くように愚痴を垂れていたが、途中からは低く唸るような声を出していた。それがまた悪魔というべきか、まるで不良グループの総大将のような風格で、死神ちゃんは思わず身震いした。
死神ちゃんが怯えていることに気がついたまさこは、一転して笑顔を繕うと「あらやだ、私としたことが」と言ってオホホと笑った。死神ちゃんはそんな彼女を呆然と見つめると「元ヤンレディースと普通のおっちゃんが、どう間違ったら結婚に至るんだ」と心の中で呟いた。
まさこは夫探しをしながら、迷子の女の子――彼女は、死神ちゃんが死神であると気づいていなかった――を地上へと戻してやるべく一階を目指した。途中、死神ちゃんは彼女との会話の中で地雷を踏んだり、粗相をしたりしてお尻ペンペンの刑を受けた。そのたびに、死神ちゃんは泣きながら「ごめんなさい」を繰り返した。
そうこうするうちに、一階への階段が近づいてきた。まさこは死神ちゃんの手を引きながら、死神ちゃんを見下ろして言った。
「もうすぐ着くからね。おうちに帰ったら、親御さんの言うことをよく聞いて、きちんといい子にしなよ?」
「はい、すみません、そうします」
「ん、いい子だね。――あ」
笑顔を見せたまさこは前方に視線を移した途端、マヌケな声を上げて足を止めた。死神ちゃんは不思議そうに首を傾げると、彼女の視線の先に目をやった。そこにはあの酔っぱらいがいて、彼は一瞬ギョッとして身を硬直させたが、すぐさま踵を返して走り出した。まさこは死神ちゃんと繋いでいた手を離すと、全速力で彼のあとを追った。そして背中にドロップキックをかますと、無様な声を上げて倒れた夫を見下ろした。
「おいこら、逃げてるんじゃねえよ。ああん?」
「まっ、まさこ! お前、何で!?」
低く唸るような声を轟かせ、悪魔のような面構えで夫を見下ろしていた彼女は、突如ブワッと目に涙を浮かべ、両拳を口元にあてがった。
「もう、駄目じゃない! ご贔屓さんを困らせたら~! まさこ、皆さんに謝って回ったのよ?」
「そのぶりっ子声、どっから出してるんだよ! 気持ち悪いよ!」
思わず、死神ちゃんは絶叫した。まさこはにこやかな笑みを浮かべると「やーん、まさこ、そんなこと言われても分かんな~い!」と言いながら拳をバキバキと鳴らした。笑みを浮かべてはいるものの目は笑ってはおらず、その目が「口の利き方について、私は何度も言ったよな?」と告げていた。死神ちゃんはガタガタと小刻みに震えると、小さな声で「何でもないです」と呟いたのだった。
**********
死神ちゃんが待機室に戻ってくると、同僚たちがニヤニヤとした笑みを浮かべて待ち構えていた。いつもの死神ちゃんであれば立腹して地団駄を踏むのだが、本日の死神ちゃんにそのような余裕など微塵もなかった。
死神ちゃんは涙を浮かべてじわりと顔を歪めると、べそべそと泣き出した。ケイティーは苦笑いを浮かべると、死神ちゃんを抱き上げてあやしながらマッコイに連絡を入れた。
しばらくして、マッコイが慌てた様子で現れた。ケイティーは一向に泣きやまない死神ちゃんをマッコイに引き渡すと、連れて帰るように頼んだ。
「久々に、幼女的なキャパ超えしたみたいでさ。幼女スイッチ入ったまま戻らないどころか、全然泣き止まないんだよ。だから今日はもう、このまま早退しちゃって」
「一体何があったの?」
一部始終を聞いたマッコイは、苦笑いを浮かべるしかなかった。グズグズと鼻を鳴らしながら必死にしがみついてくる死神ちゃんの背中をポンポンと叩いてあやしながら、マッコイは苦笑交じりに言った。
「もっと早く、死神だと名乗ればよかったのに」
「だって、ここのダンジョンに来る〈お母ちゃん〉属性のやつら、全然話を聞かないんだよ! しかも強靭なのばかりだし! もうやだ、おうち帰る!」
「はいはい、帰りましょうね。お夕飯、好きなものを作ってあげるから、機嫌直して」
「うん……」
死神ちゃんが癇癪を抑えて素直に頷くと、マッコイはにっこりと微笑んだ。死神ちゃんがあっさりと大人しくなったことに一同が呆然としていると、マッコイは「じゃあ、お疲れ様」と挨拶して去っていった。彼に抱きかかえられて待機室を後にする死神ちゃんを見送りながら、誰もが「幼女って大変だな」「マッコイってすごいな。ていうか、マッコイもお母さん属性だよな」と改めて思ったという。
――――強靭な強さの〈お母ちゃん〉達の前では、名うての死神様ですら為す術はないのDEATH。
「あら、お嬢ちゃん。どうしたの? 遊んでいる最中に、誤ってダンジョンに入ってきちゃったの?」
デビリッシュの女性は正直若いとは言えなかったが、かといって〈おばちゃん〉というわけでもなかった。彼女に子供がいるとしたら、大きくても五、六歳くらいの年齢だろうか。
実際にそのくらいの大きさの子供がいるのか、彼女は死神ちゃんに対して〈近所のママさん〉のような態度をとった。死神ちゃんはそんな彼女に苦笑いを浮かべながらも「あんた、結構強いな」と言った。すると彼女は心なしか顔をしかめて、死神ちゃんを見下ろした。
「女の子がそういう口の利き方をしたら駄目でしょう。それに、初対面の人を〈あんた〉呼ばわりするのはどうなの? おうちの人に、そういうのは駄目って教わらなかった?」
「いや、ていうか――」
「言い訳する子は、お仕置きです!」
女性は死神ちゃんをひょいと小脇に抱えると、容赦なくお尻ペンペンをした。死神ちゃんは「何で神聖魔法でもないのに、当たり判定があるんだ?」と一瞬思ったが、あまりの痛さにその考えも吹き飛んだ。
死神ちゃんは叫び声を上げながら、十回叩かれるのを耐えた。解放された死神ちゃんは、目に涙を浮かべてお尻を擦りながら、きつく彼女を睨み上げた。何するんだと死神ちゃんが怒鳴ると、彼女は「反省の色がない」と言って再び十回お尻ペンペンをした。
「反省しましたか?」
「はい、すみませんでした……」
ヘロヘロと地面に膝をついた死神ちゃんが弱々しく謝罪をすると、女性は胸の前で腕を組み、満足げに頷いた。そして彼女は再び、死神ちゃんに「迷い込んでしまったの?」と尋ねた。死神ちゃんは言葉を濁して回答を控えると、苦笑いを浮かべて言った。
「あ、お、お姉さんはどうしてダンジョンに?」
死神ちゃんが〈あんた〉や〈おばさん〉と言いかけたことに気づいたのだろう、彼女は片眉を釣り上げて死神ちゃんを睨んだ。しかし、彼女は小さく笑みを浮かべると、人探しをしていると答えた。死神ちゃんが首を傾げると、彼女はにっこりと微笑んだ。
「お嬢ちゃんさ、ダンジョン入り口からここまで入ってくる間に、飲んだくれたおじちゃんを見なかった?」
死神ちゃんが怪訝に眉根を寄せると、彼女は一見優しそうに見える笑みを引きつらせて淡々と続けた。
「お姉ちゃんね、そのおじちゃんを探しているんだ。お姉ちゃんのおうちは酒屋さんなんだけどもね、おじちゃんったら、お酒の配達ほっぽり出してダンジョンに入り浸ってるらしくて」
「お前、まさこか」
死神ちゃんは表情もなく、脊髄反射でそう言った。すると、〈まさこ〉と呼ばれた彼女は笑顔を浮かべたまま死神ちゃんを抱え込んだ。一転して鬼のような形相を浮かべると、彼女はまたもや死神ちゃんに〈お尻ペンペンの刑〉を処した。
「年上を! 呼び捨てに! するんじゃあない!」
「ぎゃあああああ!」
「お前やあんた呼ばわりも! 駄目です!」
「痛ッ……は、ぃ……ああああああ!!」
「返事! 聞こえないよ!」
「はいッ! すみませんでした! ごめんなさい! ごめんなさい!」
刑を終えて解放された死神ちゃんは、グズグズと泣きながら膝をついた。まさこは腰に手を当ててフンと鼻を鳴らすと、親の顔が見たいわと言って呆れ顔を浮かべた。
死神ちゃんはスンスンと鼻を鳴らしながら、声を震わせた。
「それで、まさこさんはどうして旦那さんを探しにいらしたんですか。旦那さんから『嫁は出ていった』と伺っていたのですが」
「あら、お嬢ちゃん、やっぱりうちの亭主を知っているの。――その話を聞いたのは、いつ? ついさっき?」
「いえ、つい先月の話です」
「あらまあ、お嬢ちゃん。ていうことは、たびたびダンジョンに来ているの? 危ないから駄目よ?」
そう言って眉根を寄せながらも、まさこは〈旦那を探しに来た経緯〉を話してくれた。
彼女は年の瀬が近づいてきたため、心配になって帰ってきたのだそうだ。この時期は年末年始に向けての準備などで酒の需要が一気に増えるため、一年で一番忙しい。だから、夫ひとりだけでは仕事が回らないだろうと思ったのだそうだ。
実家に子供を預けて帰ってきた彼女は、夫が心を入れ替えて一生懸命働いてくれていることを想像していた。しかし、そんな淡い期待は打ち砕かれたどころか、彼女の怒りは更に増すこととなった。――あの酔っぱらいは、配達の仕事を放置して姿を眩ませていたのだ。
「あんの宿六、あたしがいないのを良いことに好き勝手して! ご贔屓さんにお詫びと配達がてら聞いて回ってみたら、ダンジョンに入り浸っているっていうじゃないの! ――ふんづかまえて、性根を叩き直してやらあ」
まさこはキャンキャンと喚くように愚痴を垂れていたが、途中からは低く唸るような声を出していた。それがまた悪魔というべきか、まるで不良グループの総大将のような風格で、死神ちゃんは思わず身震いした。
死神ちゃんが怯えていることに気がついたまさこは、一転して笑顔を繕うと「あらやだ、私としたことが」と言ってオホホと笑った。死神ちゃんはそんな彼女を呆然と見つめると「元ヤンレディースと普通のおっちゃんが、どう間違ったら結婚に至るんだ」と心の中で呟いた。
まさこは夫探しをしながら、迷子の女の子――彼女は、死神ちゃんが死神であると気づいていなかった――を地上へと戻してやるべく一階を目指した。途中、死神ちゃんは彼女との会話の中で地雷を踏んだり、粗相をしたりしてお尻ペンペンの刑を受けた。そのたびに、死神ちゃんは泣きながら「ごめんなさい」を繰り返した。
そうこうするうちに、一階への階段が近づいてきた。まさこは死神ちゃんの手を引きながら、死神ちゃんを見下ろして言った。
「もうすぐ着くからね。おうちに帰ったら、親御さんの言うことをよく聞いて、きちんといい子にしなよ?」
「はい、すみません、そうします」
「ん、いい子だね。――あ」
笑顔を見せたまさこは前方に視線を移した途端、マヌケな声を上げて足を止めた。死神ちゃんは不思議そうに首を傾げると、彼女の視線の先に目をやった。そこにはあの酔っぱらいがいて、彼は一瞬ギョッとして身を硬直させたが、すぐさま踵を返して走り出した。まさこは死神ちゃんと繋いでいた手を離すと、全速力で彼のあとを追った。そして背中にドロップキックをかますと、無様な声を上げて倒れた夫を見下ろした。
「おいこら、逃げてるんじゃねえよ。ああん?」
「まっ、まさこ! お前、何で!?」
低く唸るような声を轟かせ、悪魔のような面構えで夫を見下ろしていた彼女は、突如ブワッと目に涙を浮かべ、両拳を口元にあてがった。
「もう、駄目じゃない! ご贔屓さんを困らせたら~! まさこ、皆さんに謝って回ったのよ?」
「そのぶりっ子声、どっから出してるんだよ! 気持ち悪いよ!」
思わず、死神ちゃんは絶叫した。まさこはにこやかな笑みを浮かべると「やーん、まさこ、そんなこと言われても分かんな~い!」と言いながら拳をバキバキと鳴らした。笑みを浮かべてはいるものの目は笑ってはおらず、その目が「口の利き方について、私は何度も言ったよな?」と告げていた。死神ちゃんはガタガタと小刻みに震えると、小さな声で「何でもないです」と呟いたのだった。
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死神ちゃんが待機室に戻ってくると、同僚たちがニヤニヤとした笑みを浮かべて待ち構えていた。いつもの死神ちゃんであれば立腹して地団駄を踏むのだが、本日の死神ちゃんにそのような余裕など微塵もなかった。
死神ちゃんは涙を浮かべてじわりと顔を歪めると、べそべそと泣き出した。ケイティーは苦笑いを浮かべると、死神ちゃんを抱き上げてあやしながらマッコイに連絡を入れた。
しばらくして、マッコイが慌てた様子で現れた。ケイティーは一向に泣きやまない死神ちゃんをマッコイに引き渡すと、連れて帰るように頼んだ。
「久々に、幼女的なキャパ超えしたみたいでさ。幼女スイッチ入ったまま戻らないどころか、全然泣き止まないんだよ。だから今日はもう、このまま早退しちゃって」
「一体何があったの?」
一部始終を聞いたマッコイは、苦笑いを浮かべるしかなかった。グズグズと鼻を鳴らしながら必死にしがみついてくる死神ちゃんの背中をポンポンと叩いてあやしながら、マッコイは苦笑交じりに言った。
「もっと早く、死神だと名乗ればよかったのに」
「だって、ここのダンジョンに来る〈お母ちゃん〉属性のやつら、全然話を聞かないんだよ! しかも強靭なのばかりだし! もうやだ、おうち帰る!」
「はいはい、帰りましょうね。お夕飯、好きなものを作ってあげるから、機嫌直して」
「うん……」
死神ちゃんが癇癪を抑えて素直に頷くと、マッコイはにっこりと微笑んだ。死神ちゃんがあっさりと大人しくなったことに一同が呆然としていると、マッコイは「じゃあ、お疲れ様」と挨拶して去っていった。彼に抱きかかえられて待機室を後にする死神ちゃんを見送りながら、誰もが「幼女って大変だな」「マッコイってすごいな。ていうか、マッコイもお母さん属性だよな」と改めて思ったという。
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