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* 死神生活三年目&more *
第290話 しんみり?もやもや?★送別会
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夏季休暇最後の日。死神課一同は、とある居住区画のホールを貸し切ってパーティーを行っていた。二十余年勤め上げた第一班の者が一人、本日をもって退社するからだ。参加者は死神課全員の他に、会社のお偉方の中から代表して死神課も属する環境保全部門を取り仕切る〈四天王〉のウィンチも参加していた。
その同僚とは、正直死神ちゃんはあまり交流がなかった。しかし〈送別会くらいはできる限り全員で〉という暗黙のルールがあるらしい。そのため、死神ちゃんは会場の端のほうで大人しく料理をつついていた。遠くのほうでは、涙もろいウィンチが男泣きしながら退職者をハグしていた。その様子を眺めながら、死神ちゃんと同じく〈彼とあまり面識がない組〉である新参者の一班クリスがポツリと呟いた。
「華々しく送り出そうっていう明るい雰囲気だけどさ、これって実質、葬式だろ?」
一班クリスは顔をしかめると、心中複雑そうな雰囲気で訥々と続けた。
「あの人がいなくなったあとの補填として、僕は運良く失った命を再び授けられたわけだけど。でも、逆を言うと、あの人は今度こそ本当に死ぬってことだろう? 僕と入れ替わりでさ。そう考えると、僕がここにいるの、どうかと思うんだけど」
彼女が気まずそうに吐露するのを聞きながら、死神ちゃんはハッと息を飲んだ。死神ちゃんのこの世界での生活も三年目に突入した。この間、変態に追われる憂鬱な日々を送る中で、死神ちゃんは〈早く転生し直してやる〉と思ったことがあった。そう思ってからはそれだけを考えて日々生きている――というわけではもちろんないが、ここでの生活のゴールは〈転生の書購入〉であるという認識は変わってはいない。
またこの二年余り、同僚の送別会に参加するという経験はなかった。死神ちゃんはその後に入ってきた後輩三名とは違い、一班クリスと同様に〈退職者が出たための補填〉としてこの世界にやって来たらしい。しかし、その者の退職予定日までに補填者が見つからず、当時は今ほどダンジョン探索者がおらず首が回らないほど忙しいというわけでもなかったため、その者と死神ちゃんが入れ違いになるということはなかった。だから、こういう場に参加するのは今回が初めてとなったというわけだ。
〈死神課の者はいつか再び転生をして、この世界を卒業していく〉ということが当たり前だと思い、また実際にその場に直面したことがなかったため、死神ちゃんは今まで一班クリスが言ったようなことを考えたことがなかった。周りが明るい雰囲気で退職者を送り出そうとしている中、死神ちゃんは一班クリスの言葉が頭の中をぐるぐると駆け回り「本当にこれは正しいことなんだろうか?」という思いに駆られた。
宴が終わると、一班の責任者であるケイティーや彼と親しくしていた者数名は二次会をすると言って消えていった。人によっては送別会の最後に全員に見守られながら旅立つのだそうだが、どうやら彼はそれは照れくさいと言って断ったらしい。そのため、二次会の時にひっそりとこの世界を去るのだという。モヤモヤとした表情で帰路につく死神ちゃんを見下ろして、住職が「どうしたんだ?」と声をかけてきた。死神ちゃんは戸惑いながら「帰って、二人きりで少し話がしたい」と彼に返した。
「で、何を悩んでるんだよ?」
帰寮後、住職の部屋にお邪魔させてもらった死神ちゃんは、心配そうに見つめてくる彼を見上げて言い淀んだ。住職は察したのか、優しく笑うとゆっくりと話し始めた。
「転生費用を貯めるのにかかる年数は、平均して二十から二十五年らしいよ」
「ということは、俺の寿命は早くてあと十七年後には来るってことか。さらに言えば、お前やマコやケイティーはもっと先に逝くのか」
「さあ、それはどうだろう? ダンジョン創設時から勤務している人も、数えるほどではあるけど、まだいるにはいるし。まあでも、大切な人がいて、その人との時間を後悔のないものにしたいのなら、ダラダラ過ごしている暇はないよな。――ちなみに、俺は転生はしない。だから、薫ちゃんに見送られることは無いと思うぜ」
死神ちゃんが不思議そうに首を傾げると、住職は「転生の書にはいくつか種類があるんだよ」と言って笑った。
彼は、おみつとの将来を真剣に考えていた。だから〈転生〉ではなく〈復活〉をする予定なのだそうだ。一から生まれ直す〈転生〉と違い、〈復活〉は死亡時の年齢で復活する分寿命が短いというデメリットがあるものの、死神として生きた記憶を持っていけるのだそうだ。
「記憶があるのはいいな」
「そうでなきゃ、死ぬ前に犯した過ちを繰り返すことになりかねないからな。そして、復活しても死亡前に犯した罪のせいで再び死ぬことがあっては復活した意味が無くなるから、咎なく復活させてもらえる。――ただし、起こした事実は変えられないから、それに関わったり影響を受けたりした者の記憶の中から〈転生者に関連する記憶〉を抹消することで〈咎を無くす〉ということに代えるんだよ」
「それってつまり、おみつさんはお前のことを忘れてしまうっていうことじゃあないのか……?」
死神ちゃんが愕然とすると、住職は笑みを浮かべた。とても優しく、そして少しばかり悲しい笑顔だった。そして彼は心なしか俯くと、苦笑いを浮かべて言った。
「だから、日記をつけてもらっているんだ。俺のことを忘れてしまっても、俺と再び出会ったときにもう一度俺と恋ができるように。もしかしたら、覚えていないことが苦痛になって壊れてしまうかもしれない。でも、乗り越えられると信じているから。付き合い始める前に二人で話し合って、お互い納得して、そういう選択をしたんだよ」
〈実質、自分で死期を決めるということになる〈転生〉は嫌だ〉という者も少なからずおり、そういった者は〈復活〉を選ぶのだという。ただし、生き返っても元の世界に居場所が無かったり、居場所を築けないことのほうが多いため、復活した彼らの殆どはそのままこの世界に留まり別の課で働き続けるらしい。だから、おみつと再会するのは容易ではあるのだが、如何せん彼に最期の引導を渡したのがおみつなだけに、おみつの記憶抹消は避けて通れない。それでも、彼らがその道を選び共にあることを選択したのは、それだけ二人が愛し合っているからなのだろう。
死神ちゃんがなおもモヤモヤとしていると、住職が出し抜けに「魔道士様ってさ」と言い出した。どうして急に魔道士の話になろうのだろうと思い死神ちゃんが眉根を寄せると、住職はにこやかな笑みを湛えたまま話を続けた。
「魔道士様って、意外と優しくて愛に溢れた人だよな」
「そうかなあ? 俺を幼女のナリのまま放置するような人だぜ?」
「いやでもさ、考えてみろよ。残酷で冷徹な人だったら、呪いをかけるだなんて生っちょろいことをしていないで、さっさとこの国を滅ぼすだろう。ここの職場環境だってクリーンだし、種族関係なく、それこそ〈モンスター扱いされて忌諱されているような種族〉だって明るく楽しい毎日を送れているしさ。ウィンチ様だって〈一番上手にできたお人形だから、大切に取っておこう〉っていう理由で誕生したんだろう? 正直それ聞いたとき、ちょっと可愛らしいなと思ったよ」
「ああまあ、たしかに……」
「それに、俺ら死神は理由はどうあれ大罪を犯した者がほとんどだろう? そんな、精神が捻くれた危険なヤツらに〈人としての幸せ〉や〈人を大切にする気持ち〉を授けて生き直しさせてくれるんだから」
「高慢ちきで気まぐれだけど、ツンデレで面倒見良いよな、あの女神さん」
住職はうなずくと、「だから、〈転生〉を選ぶ人はみな、満たされて去っていくんだよ」と付け足した。死神課の者は、何かが欠け何かしらが満たされることも無いまま死亡した者がほとんどだ。そういう者は、この世界に来て初めて暖かさを知る。そして転生資金が貯まるころには癒され、満たされているのだという。それは女神が慈悲深く愛に溢れているからこそ、なせることなのだろう。
「だから、〈転生〉を選んで去っていく人たちを、俺らは精一杯明るく見送るのさ。生まれて初めて〈幸せで満たされる〉ということを知ったんだ、祝福しないほうがおかしい」
「俺も、もっと他人を祝福したり幸せにできるほどの優しさを持ちたいな。あと、俺自身も精一杯幸せな毎日を送っていきたい」
死神ちゃんがうなずいて苦笑いを浮かべてそう言うと、住職は肩をすくめながらおどけた。
「何言ってるんだ。ある程度はすでに叶っているだろう?」
「そうかな? まだまだだと思うが」
「いやいや。あれだけ女子に囲まれて、しかもそのうちの一人とはどうやら正式なお付き合いをされているみたいじゃあないですか。――で、どういう人なんだ?」
ニヤニヤと笑う住職をつかの間見つめると、死神ちゃんは「知ってるくせに」とこぼした。しかしなおも彼がニヤニヤとしているので、死神ちゃんはため息をつきながら「俺をハグしてみ?」と言った。住職は不思議そうに目を瞬かせながらも、死神ちゃんを包み込むように抱き寄せた。そのあと、思案げに首をひねりながら死神ちゃんを抱き上げた。
彼の腕の中に収まったまま、死神ちゃんは「やっぱそう来るよな」と言った。住職は怪訝そうに声を落とした。
「え、何、どういうことだよ」
「彼女は、わざわざ膝をついて目線を合わせてくるんだ。そして可能な限り、俺の腕の中に収まろうとする。……そういう人だよ」
「幼女じゃあなく、おっさんとして扱ってくれるってことか。素敵な人だな」
「端的に言えばそうなんだがさあ! その言い方、どうにかならないか!?」
死神ちゃんが憤慨すると、住職は茶目っ気たっぷりに「パフェ奢るから許して」と言った。死神ちゃんがぶすくれながら「ビュッフェも付けて」と返すと、住職はゲラゲラと笑いだした。
「やっぱり、薫ちゃんは可愛いな!」
「この流れでさっそく幼女扱いとか、どうかと思うんですがね!」
「別に幼女扱いしてはいないだろ? あー、本当に可愛い!」
「絶対嘘だ! ちっとも嬉しくない!」
死神ちゃんが目を吊り上げて怒りを露わにしても、住職はなおも笑い転げていた。フンと鼻を鳴らしつつも、優しい彼らとの貴重な時間を今後一層大切にしていこうと死神ちゃんは思ったのだった。
――――死神に限らず、時は有限。いつか来るその時に後悔しないように、精一杯毎日を生きていきたいものなのDEATH。
その同僚とは、正直死神ちゃんはあまり交流がなかった。しかし〈送別会くらいはできる限り全員で〉という暗黙のルールがあるらしい。そのため、死神ちゃんは会場の端のほうで大人しく料理をつついていた。遠くのほうでは、涙もろいウィンチが男泣きしながら退職者をハグしていた。その様子を眺めながら、死神ちゃんと同じく〈彼とあまり面識がない組〉である新参者の一班クリスがポツリと呟いた。
「華々しく送り出そうっていう明るい雰囲気だけどさ、これって実質、葬式だろ?」
一班クリスは顔をしかめると、心中複雑そうな雰囲気で訥々と続けた。
「あの人がいなくなったあとの補填として、僕は運良く失った命を再び授けられたわけだけど。でも、逆を言うと、あの人は今度こそ本当に死ぬってことだろう? 僕と入れ替わりでさ。そう考えると、僕がここにいるの、どうかと思うんだけど」
彼女が気まずそうに吐露するのを聞きながら、死神ちゃんはハッと息を飲んだ。死神ちゃんのこの世界での生活も三年目に突入した。この間、変態に追われる憂鬱な日々を送る中で、死神ちゃんは〈早く転生し直してやる〉と思ったことがあった。そう思ってからはそれだけを考えて日々生きている――というわけではもちろんないが、ここでの生活のゴールは〈転生の書購入〉であるという認識は変わってはいない。
またこの二年余り、同僚の送別会に参加するという経験はなかった。死神ちゃんはその後に入ってきた後輩三名とは違い、一班クリスと同様に〈退職者が出たための補填〉としてこの世界にやって来たらしい。しかし、その者の退職予定日までに補填者が見つからず、当時は今ほどダンジョン探索者がおらず首が回らないほど忙しいというわけでもなかったため、その者と死神ちゃんが入れ違いになるということはなかった。だから、こういう場に参加するのは今回が初めてとなったというわけだ。
〈死神課の者はいつか再び転生をして、この世界を卒業していく〉ということが当たり前だと思い、また実際にその場に直面したことがなかったため、死神ちゃんは今まで一班クリスが言ったようなことを考えたことがなかった。周りが明るい雰囲気で退職者を送り出そうとしている中、死神ちゃんは一班クリスの言葉が頭の中をぐるぐると駆け回り「本当にこれは正しいことなんだろうか?」という思いに駆られた。
宴が終わると、一班の責任者であるケイティーや彼と親しくしていた者数名は二次会をすると言って消えていった。人によっては送別会の最後に全員に見守られながら旅立つのだそうだが、どうやら彼はそれは照れくさいと言って断ったらしい。そのため、二次会の時にひっそりとこの世界を去るのだという。モヤモヤとした表情で帰路につく死神ちゃんを見下ろして、住職が「どうしたんだ?」と声をかけてきた。死神ちゃんは戸惑いながら「帰って、二人きりで少し話がしたい」と彼に返した。
「で、何を悩んでるんだよ?」
帰寮後、住職の部屋にお邪魔させてもらった死神ちゃんは、心配そうに見つめてくる彼を見上げて言い淀んだ。住職は察したのか、優しく笑うとゆっくりと話し始めた。
「転生費用を貯めるのにかかる年数は、平均して二十から二十五年らしいよ」
「ということは、俺の寿命は早くてあと十七年後には来るってことか。さらに言えば、お前やマコやケイティーはもっと先に逝くのか」
「さあ、それはどうだろう? ダンジョン創設時から勤務している人も、数えるほどではあるけど、まだいるにはいるし。まあでも、大切な人がいて、その人との時間を後悔のないものにしたいのなら、ダラダラ過ごしている暇はないよな。――ちなみに、俺は転生はしない。だから、薫ちゃんに見送られることは無いと思うぜ」
死神ちゃんが不思議そうに首を傾げると、住職は「転生の書にはいくつか種類があるんだよ」と言って笑った。
彼は、おみつとの将来を真剣に考えていた。だから〈転生〉ではなく〈復活〉をする予定なのだそうだ。一から生まれ直す〈転生〉と違い、〈復活〉は死亡時の年齢で復活する分寿命が短いというデメリットがあるものの、死神として生きた記憶を持っていけるのだそうだ。
「記憶があるのはいいな」
「そうでなきゃ、死ぬ前に犯した過ちを繰り返すことになりかねないからな。そして、復活しても死亡前に犯した罪のせいで再び死ぬことがあっては復活した意味が無くなるから、咎なく復活させてもらえる。――ただし、起こした事実は変えられないから、それに関わったり影響を受けたりした者の記憶の中から〈転生者に関連する記憶〉を抹消することで〈咎を無くす〉ということに代えるんだよ」
「それってつまり、おみつさんはお前のことを忘れてしまうっていうことじゃあないのか……?」
死神ちゃんが愕然とすると、住職は笑みを浮かべた。とても優しく、そして少しばかり悲しい笑顔だった。そして彼は心なしか俯くと、苦笑いを浮かべて言った。
「だから、日記をつけてもらっているんだ。俺のことを忘れてしまっても、俺と再び出会ったときにもう一度俺と恋ができるように。もしかしたら、覚えていないことが苦痛になって壊れてしまうかもしれない。でも、乗り越えられると信じているから。付き合い始める前に二人で話し合って、お互い納得して、そういう選択をしたんだよ」
〈実質、自分で死期を決めるということになる〈転生〉は嫌だ〉という者も少なからずおり、そういった者は〈復活〉を選ぶのだという。ただし、生き返っても元の世界に居場所が無かったり、居場所を築けないことのほうが多いため、復活した彼らの殆どはそのままこの世界に留まり別の課で働き続けるらしい。だから、おみつと再会するのは容易ではあるのだが、如何せん彼に最期の引導を渡したのがおみつなだけに、おみつの記憶抹消は避けて通れない。それでも、彼らがその道を選び共にあることを選択したのは、それだけ二人が愛し合っているからなのだろう。
死神ちゃんがなおもモヤモヤとしていると、住職が出し抜けに「魔道士様ってさ」と言い出した。どうして急に魔道士の話になろうのだろうと思い死神ちゃんが眉根を寄せると、住職はにこやかな笑みを湛えたまま話を続けた。
「魔道士様って、意外と優しくて愛に溢れた人だよな」
「そうかなあ? 俺を幼女のナリのまま放置するような人だぜ?」
「いやでもさ、考えてみろよ。残酷で冷徹な人だったら、呪いをかけるだなんて生っちょろいことをしていないで、さっさとこの国を滅ぼすだろう。ここの職場環境だってクリーンだし、種族関係なく、それこそ〈モンスター扱いされて忌諱されているような種族〉だって明るく楽しい毎日を送れているしさ。ウィンチ様だって〈一番上手にできたお人形だから、大切に取っておこう〉っていう理由で誕生したんだろう? 正直それ聞いたとき、ちょっと可愛らしいなと思ったよ」
「ああまあ、たしかに……」
「それに、俺ら死神は理由はどうあれ大罪を犯した者がほとんどだろう? そんな、精神が捻くれた危険なヤツらに〈人としての幸せ〉や〈人を大切にする気持ち〉を授けて生き直しさせてくれるんだから」
「高慢ちきで気まぐれだけど、ツンデレで面倒見良いよな、あの女神さん」
住職はうなずくと、「だから、〈転生〉を選ぶ人はみな、満たされて去っていくんだよ」と付け足した。死神課の者は、何かが欠け何かしらが満たされることも無いまま死亡した者がほとんどだ。そういう者は、この世界に来て初めて暖かさを知る。そして転生資金が貯まるころには癒され、満たされているのだという。それは女神が慈悲深く愛に溢れているからこそ、なせることなのだろう。
「だから、〈転生〉を選んで去っていく人たちを、俺らは精一杯明るく見送るのさ。生まれて初めて〈幸せで満たされる〉ということを知ったんだ、祝福しないほうがおかしい」
「俺も、もっと他人を祝福したり幸せにできるほどの優しさを持ちたいな。あと、俺自身も精一杯幸せな毎日を送っていきたい」
死神ちゃんがうなずいて苦笑いを浮かべてそう言うと、住職は肩をすくめながらおどけた。
「何言ってるんだ。ある程度はすでに叶っているだろう?」
「そうかな? まだまだだと思うが」
「いやいや。あれだけ女子に囲まれて、しかもそのうちの一人とはどうやら正式なお付き合いをされているみたいじゃあないですか。――で、どういう人なんだ?」
ニヤニヤと笑う住職をつかの間見つめると、死神ちゃんは「知ってるくせに」とこぼした。しかしなおも彼がニヤニヤとしているので、死神ちゃんはため息をつきながら「俺をハグしてみ?」と言った。住職は不思議そうに目を瞬かせながらも、死神ちゃんを包み込むように抱き寄せた。そのあと、思案げに首をひねりながら死神ちゃんを抱き上げた。
彼の腕の中に収まったまま、死神ちゃんは「やっぱそう来るよな」と言った。住職は怪訝そうに声を落とした。
「え、何、どういうことだよ」
「彼女は、わざわざ膝をついて目線を合わせてくるんだ。そして可能な限り、俺の腕の中に収まろうとする。……そういう人だよ」
「幼女じゃあなく、おっさんとして扱ってくれるってことか。素敵な人だな」
「端的に言えばそうなんだがさあ! その言い方、どうにかならないか!?」
死神ちゃんが憤慨すると、住職は茶目っ気たっぷりに「パフェ奢るから許して」と言った。死神ちゃんがぶすくれながら「ビュッフェも付けて」と返すと、住職はゲラゲラと笑いだした。
「やっぱり、薫ちゃんは可愛いな!」
「この流れでさっそく幼女扱いとか、どうかと思うんですがね!」
「別に幼女扱いしてはいないだろ? あー、本当に可愛い!」
「絶対嘘だ! ちっとも嬉しくない!」
死神ちゃんが目を吊り上げて怒りを露わにしても、住職はなおも笑い転げていた。フンと鼻を鳴らしつつも、優しい彼らとの貴重な時間を今後一層大切にしていこうと死神ちゃんは思ったのだった。
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