転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH

小坂みかん

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* 死神生活三年目&more *

第289話 死神ちゃんと指揮官様⑤

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 朝。死神ちゃんが出勤して待機室に顔を出すと、先に出勤していたマッコイと夜勤組のケイティーが何やら相談をしていた。ケイティーはすでに眠たいのか、心なしかイライラとしているようだった。しかし死神ちゃんが出勤してきたことに気がつくと、パアと明るい表情を浮かべて抱きついてきた。


「いたよ、ここに! 救世主が!」

「はあ? 朝イチから、一体何事だよ」


 死神ちゃんはケイティーに羽交い締めされたまま、苦い顔を浮かべた。ぐりぐりと額を擦り付けられてなすがままにされている死神ちゃんを苦笑交じりに見下ろすと、マッコイが申し訳なさそうに言った。


「結構な人数が出払ったまま、帰ってこないのよ。何やら勝手に事業展開をしているみたいで迷惑だし、排除しましょうっていうことで修復課や他の課の人達がギルド職員のフリして注意してみたり、ならず者のフリをしてちょっかいを出しにも行ってみたんですけど、全然効果がなくて」


 言いながら、彼はモニターを見るようにと目線で死神ちゃんに促した。思わず、死神ちゃんは顔をしかめた。


「なんだこの、筋肉集団は」


 そこには、仮面舞踏会にでも出るのかと言いたくなるような蝶モチーフのアイマスクを付けた褌一丁の男どもが映し出されていた。彼らの背後には同僚たちが退屈そうにふよふよと浮いていた。マッコイはため息をつくと、呆れ顔で頬を引きつらせた。


「地味に屈強らしくて、攻撃を仕掛けても全然当たらないらしいのよね。急襲に驚いて撤収するという素振りも見せないし……」

「というわけだからさ、ちょっと行ってどうにかして来てよ。筋肉神になら楽勝でしょ?」

「いやいや、筋肉神関係ないだろうが」

「関係あるでしょうよ。これだけ、踊る胸筋どもが集っているんだよ?」


 ケイティーがモニターを指差しながら不服そうに口を尖らせると、死神ちゃんは「ビュッフェに特製パフェ付きな」と言いながらトボトボとダンジョンに降りていった。

 死神ちゃんはダンジョンに降り立つと、褌仮面が集っている場所へと赴いた。すると、そこには見覚えのある怪しい超能力者が座禅を組んだ状態で宙に浮いていた。死神ちゃんは天井伝いに彼に近づいていくと、急降下して彼の膝に収まった。そして彼を見上げると、にっこりと笑みを浮かべて言った。


「どうも、お届け物ですー。死神一名、追加でーす」


 彼は突然の落下物に辟易とした表情を向けたが、ムと唸り声を上げると褌仮面の一人に指示を出した。すると指示を出された褌仮面は、返事の代わりに胸筋をピクピクと動かして颯爽とその場から姿を消した。死神ちゃんは面倒くさそうに顔をしかめると、ぶっきらぼうに超能力者に尋ねた。


「お前、今度はどんな悪だくみを働いているんだよ」

「私は今、手駒を増やしつつ活動資金も手に入れることができる一石二鳥のビジネスを思いつき、それに誠意取り組み中なのだ。つまるところ、この集団の指揮をとるのに大忙しなのだから、貴様にはとっとと帰って頂きたいのだが」

「ていうか、どうせこいつらも洗脳しているんだろう? いい加減、そういうの無しに指揮をとれるようになれよ。〈指揮官様〉の呼び名が聞いて呆れるな」


 指揮官様と呼ばれた超能力者は苦い顔を浮かべると、膝の上に乗せたままの死神ちゃんに向かって「うるさい、黙れ」と吐き捨てた。
 彼は〈指揮官様〉を名乗り、詐欺などの悪さを行っている小悪党だ。一応武人として己を鍛え高めるということをしていたはずだったのだが、いつしか超能力を悪用して他人を洗脳して回り、宗教じみた活動を行うようになっていた。どうやらこの褌仮面集団も、洗脳して集めた者達のようだった。


「で、貴様はいつになったら私の膝から退くのだ。そして、とっととお帰り願えないかな」

「だったら、祓いに行くか死んでくれ。ついでに、この筋肉集団も撤収しろよ」

「断る。ならば、ずっと私のお膝にいるがいい」


 死神ちゃんは嫌そうに顔を歪めると、とりあえず彼の膝の上からは退いた。朝っぱらから、小汚いおっさんの膝で寛ぐという趣味は持ち合わせてなどいないからだ。そして何とはなしに「これは一体、何のビジネスなんだ」と尋ねた。すると、彼は得意気に胸を張った。


「夏休みで世間知らずな学生どもが冒険しにたくさん来ているだろう? そいつら向けのビジネスでな。名付けて〈あぶどろ宅送〉だ。危ない場所にもドロンと現れて、ダンジョン入り口まで宅送してくれるというサービスだ」

「何だよ、慈善事業でも始めたのか?」

「まさか。宅送中に、しっかりと洗脳するのよ。そして、洗脳された馬鹿ガキどもは学業に戻ったら学校で友人たちを洗脳する。資金が稼げて、手駒もタダで増やせて、良いことづくめだろう?」

「あー……。。あれと同じ感じか。サークルに誘われたと思ったら、怪しい宗教やねずみ講へのお誘いだったってやつ」


 死神ちゃんが頭を抱えると、指揮官様は自身の完璧な計画を賞賛するかのごとく高らかに笑った。
 彼は事前にそれらしい若者に「へい、ブラザー」と声をかけ、金さえ払えば神の光があなたに降り注ぐなどという怪しげな台詞とともに手作りの魔法アイテムを売りつけて回ったらしい。迷子になって帰り道が分からなくなった時などにこのアイテムに念じれば、その想いが指揮官様に向かって飛ばされる。それを受けた指揮官様が、別口で洗脳しておいた褌姿の手駒に指示を出す。光の速さとまではいかないが、褌は颯爽と助けの手を差し伸べる。その際にさらに別料金を支払えば、いろいろとサービスを受けられるという。こうして若者は褌に背負われ、知らず知らずのうちに金をむしり取られ、さらには宅送中に洗脳の言葉を浴びせられ続けて、地上に戻るころには指揮官様の手中に収まっているというわけだ。


「もう本当に完璧すぎて、自分で自分を讃えたいですよ」

「それにしても、なんで褌姿なんだよ」

「ここより遠い国では、配送などを行う業者はこの姿がトレードマークなんだそうです。それに、忍者は裸が最強らしいですから。――まあ、忍者職じゃあない者もメンバーの中にはいますけれども。つまり、この姿は最強最速なのです」

「いやうん、間違っちゃあいないが、どうにも間違ってる気がするのは俺だけか?」


 死神ちゃんはしかめっ面で褌達を見渡した。そしてギョッと目を剥くと、そのうちの一人に駆け寄った。


「ハム!? お前、ハムじゃあないか! どうしてお前は、こうも洗脳されやすいんだよ!」


 死神ちゃんは宅送隊メンバーの中に紛れ込んでいたハムを見上げたが、彼は無反応で立ち尽くしているだけだった。ハムは以前、指揮官様に洗脳されて手駒にされたことがあった。まさか、再び彼の術中に嵌まるとは。
 死神ちゃんは、あの手この手でハムの気を引こうとした。しかし反応が返ってくることはなく、焦燥感漂わせる死神ちゃんを見て指揮官様が勝ち誇ったように笑った。
 死神ちゃんは気合いを入れてキリッとした表情を浮かべると、滾々こんこんと筋肉について語りだした。すると、ハムの胸筋がピクリと動いた。死神ちゃんは手応えがあったことに頬を上気させると、熱の篭った筋肉演説を続けた。そして各部位の鍛え方を実演を交えて語りだすと、ハムは死神ちゃんの動きをトレースし始めた。指揮官様は額に汗を浮かせると、慌てて死神ちゃんを止めようとした。


「貴様、何をしているのだね!? 私がせっかく調教した手駒をたぶらかしてくれるな!」

「さあ、ハムよ。こんなおっさんの言うことなんか聞いてないで、俺と一緒にレッツ・パンプアップと行こうじゃあないか」

「やめろ、やめるのだ! 貴様、それでも幼女か!? 何故筋肉に固執する!?」

「筋肉は! 己の強さ! そして、美しさ! ――いいぞ、ハム! その調子だ! いや、もう少し腕はこう。そうそう、そのくらい上めで。さあ、みなさんもご一緒に!」

「やめたまえ! やめたまえ!!」


 取り乱す指揮官様を他所よそに、死神ちゃんはエクササイズを続けた。筋肉神に導かれるように無意識に体を動かしていたハムは、やがて自我を取り戻した。


「あれ? 何で俺、こんな格好でこんな姿でいるんだ? ――うおおおおおお、嬢ちゃんじゃあないか! 筋肉神よ、俺、あれからずっとあのトレーニングをきちんとしているぜ!」

「ああ、プランクか。きちんとやってくれているようで嬉しいよ」

「ちてきんと〈どっちが長くやれるか〉って競い合ってるんだ。やっぱり、筋育は仲間がいると楽しいな!」

「おう、仲がおよろしいようで何よりだよ」


 ハムが喜々として〈筋肉神〉を連呼すると、周りの褌たちもそれに反応を示し始めた。とうとう彼らは指揮官様の洗脳に打ち勝ち、筋肉神を胴上げしながら崇め奉り始めた。死神ちゃんがポンポンと高い高いされながら勝者の笑みを浮かべていると、指揮官様は悔しそうに顔を歪めてその場から逃げるように姿を消した。死神ちゃんは追いかけていこうとしたのだが、それよりも早く彼の悲鳴が聞こえてきて〈灰化達成〉の知らせが上がったのだった。



   **********



 死神ちゃんが待機室に戻ってくると、ケイティーが腹を抱えて笑い転げていた。


「やっぱり〈筋肉神の力〉でどうにかなった! 筋肉には筋肉をあてがっておくのが正解ってことだね!」


 死神ちゃんが不服そうに眉根を寄せると、残業を強いられていた同僚たちがぞろぞろと帰ってきた。彼らは感謝の言葉もそこそこに口々に言った。


「とりあえず、あの詐欺師のおっさんよりも高い洗脳能力をかおるちゃんが有しているということだけは分かった」

「うん、何だかんだ言って薫ちゃんも重度の変態だということを改めて思い知ったよ」


 皮肉っぽく鼻を鳴らす同僚たちに、死神ちゃんは憤慨して足を踏み鳴らした。その様子を呆れ気味に眺めていたマッコイは苦笑いを浮かべると、ポツリとこぼすように言った。


「そろそろ、この世界の神様からスカウトが来るんじゃあない? 『筋肉神として、この世界を支える神の一柱に加わらないか』って」


 死神ちゃんは凄まじく不機嫌そうに顔を歪めると、「偶像アイドルやるのは、裏世界での副業だけで十分だ」と腹を立てたのだった。




 ――――元々信じているもの・元々好きなものを忘れさせるには〈それ以上の魅力〉が無いと難しい。つまるところ、怪しいおっさんが可愛い幼女に勝てるはずがないのDEATH。
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