好奇心に殺される。

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保護。

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「大切な宝物はいつも大切に手の中に閉じ込めておきなさい。手から離した時点で何されたって文句は言えないのよ。」


これが母親の口癖だった。

初めて聞いたのは物心つく前、3歳頃だったように思う。幼心にも単語まで一字一句違わず覚えている。

聖母マリアのような微笑みをたたえた母親の手の中には、小屋から逃げてしまったハムスターが握られ息絶えていた。

あぁ、あの時、小屋の掃除をした時、きちんと扉を閉めておけば。元気だったハムスターが圧死する事もなかった。



小さな頃に植え付けられた価値観はそう簡単には覆らないらしい。母親のいうよう、宝物は手の届くところで管理をし続けた僕の人生は、意外な所で足止めを食った。

宝物が、物ではなくヒトになったからだった。

ヒトは、僕のことを満たし感じさせ幸せにしてくれた。しかしその性質がどうにも手に負えない。


母親よりは理性のある僕だった。
教育の為に躊躇なく暖かいハムスターを握り潰した母親よりは、正常な価値観を持って生きてきた僕だった。

あの二の舞にはならない。



「春が来たね」

君の声で、ふと我に帰った。懐古していた僕に、君が声をかける。安心させるように肩に触れ、耳元に口を寄せて呟く。

「暖かくなったからね」

「うん、私にも分かるよ。」

「気持ちいいね、外は。桜が咲きそうだ」

「きっとそうね。」

「今日は、君の好きなオムライスを作るよ」

「オムライス、好き。」

「僕は、変わらず君が好き」


君の手を引き、導く。

僕らの愛は出会ってからずっと変わらない。
君も随分と大人しくなった。
どうやらこのまま、手の中にいてくれるらしい。
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