33 / 46
真夜中の騒音
しおりを挟む
「そうだ、俺のスマホは?」
「あ、ごめんなさい。忘れてました」
「しっかりしてくれよ。どうやって連絡とればいいんだよ」
「あしたの朝届けます」
今日届けろと言いたかったが我慢した。
あれこれ言うよりもまず工場との交渉に集中させるのが先決だ。
「とにかく工場に行くスケジュールをできるだけ早く決めてくれ。
明日には確約をもらって欲しい、できれば今日中がいいけど」
「帰ったらすぐに電話してみます」
本来なら目の前で電話してほしかったが、中国語の会話は他の客にも聞かれる恐れがある。
俺たちは食事を終えて別れた。
部屋に戻ると俺の気配を察したらしく藤堂がやって来た。
「ねえ、達男まだ帰って来ないんだけど」
「俺もあいつのことは知らない」
「一緒だったんじゃないの?」
「朝食の後で一緒に市場に行ったけど、あいつはトイレに行ったままどこかに行った。
それからは知らない」
「それ、おかしくない?
あの達男が朝からずっと外にいるわけないじゃん」
「だったら何なんだ?」
「エイミーと浮気してるんじゃないかな」
「俺はさっきまでエイミーと食事をしてた。
もし与沢がエイミーと浮気をしていたなら今ごろとっくに戻っているはずだろう。
だから浮気なんてしているはずはない」
「だったらどこに行ったの?」
「与沢は車の調査をしに来たんだろう。
誰かの車を借りて近所を走り回っているんじゃないか。
あいつは車のことになるとマジになるからな」
「でも遅すぎない?」
「スマホも使えないし、待つしかないだろう」
「あいつ、帰ってきたらぶっ殺す」
「静かに頼むよ。隣の音、けっこう聞こえるから」
俺は静かにドアを閉めた。
与沢が浮気をしているはずはないと言ったが、俺自身もその可能性を考えていた。
村を散策した感じでは、この集落はすごく狭い。
三十分も歩けば端から端まで見尽すことができる。集落の周辺は山か畑だ。
与沢がそんなところへ迷い込むはずはない。
しかもあいつの語学力は俺と大して変わらないはずだ。
エイミーのサポートなしに一日中外で過ごせるわけがない。
やはりエイミーと密会していると考えるのが順当だ。
エイミーの実家で会っているのか別の場所で会っているのかは知らないが、どこかでよろしくやっているのだろう。
もしそうだとすれば俺にとってはその方が好都合だ。
与沢は自分の目的を達成すれば上海に戻るだろう。必然的に藤堂も消える。
そうなればあいつらの目を気にせずに仕事ができる。
そこまではいい。
与沢とエイミーが密会しているとすると俺の計画にマイナスの影響も考えられる。
浮気がバレて藤堂と与沢が揉めるようなことになると与沢が藤堂を切るかもしれない。
藤堂と比べればエイミーの方がはるかに魅力があるからその可能性は十分にありうる。
そうなれば藤堂だけが先に帰り与沢はエイミーと一緒に上海に戻ろうとするだろう。
それだけではない。
与沢とエイミーの親密さが増せばエイミーが俺の目的を与沢にしゃべるかもしれない。
それだけは絶対に避けなければならない。
与沢とエイミーの関係が浮気程度で収まり、藤堂にバレないうちに二人が先に上海に戻る。
これがベストだ。
そのためには与沢と藤堂の仲がうまく行くように仕向ける必要がある。
与沢の浮気を否定したのは我ながら正しい選択だった。
俺は買いこんでおいたビールを開けて飲み始めた。
生活のリズムを朝型に修正する必要はある。
そのためには早く寝る必要があるが、酒でも飲まなければ目が冴えて眠れない。
生ぬるいビールはうまくはないが、飲んでいるうちに慣れてくる。
中国のビールはアルコールが少ないのか、いくら飲んでも大して酔わない。
ビールを五本開けたところでようやく意識が薄れて来た。
俺は電気を消してベッドに倒れ込んだ。まだ九時前だったはずだ。
深夜、俺は隣の部屋からの物音で目を覚ました。人が暴れるような気配が伝わってきたからだ。
俺が寝ているうちに与沢が帰ってきたのだろう。
壁が薄いと言って牽制しておいたのに、迷惑なやつらだ。
しばらくすると静かになった。俺は再び眠りに落ちた。
「あ、ごめんなさい。忘れてました」
「しっかりしてくれよ。どうやって連絡とればいいんだよ」
「あしたの朝届けます」
今日届けろと言いたかったが我慢した。
あれこれ言うよりもまず工場との交渉に集中させるのが先決だ。
「とにかく工場に行くスケジュールをできるだけ早く決めてくれ。
明日には確約をもらって欲しい、できれば今日中がいいけど」
「帰ったらすぐに電話してみます」
本来なら目の前で電話してほしかったが、中国語の会話は他の客にも聞かれる恐れがある。
俺たちは食事を終えて別れた。
部屋に戻ると俺の気配を察したらしく藤堂がやって来た。
「ねえ、達男まだ帰って来ないんだけど」
「俺もあいつのことは知らない」
「一緒だったんじゃないの?」
「朝食の後で一緒に市場に行ったけど、あいつはトイレに行ったままどこかに行った。
それからは知らない」
「それ、おかしくない?
あの達男が朝からずっと外にいるわけないじゃん」
「だったら何なんだ?」
「エイミーと浮気してるんじゃないかな」
「俺はさっきまでエイミーと食事をしてた。
もし与沢がエイミーと浮気をしていたなら今ごろとっくに戻っているはずだろう。
だから浮気なんてしているはずはない」
「だったらどこに行ったの?」
「与沢は車の調査をしに来たんだろう。
誰かの車を借りて近所を走り回っているんじゃないか。
あいつは車のことになるとマジになるからな」
「でも遅すぎない?」
「スマホも使えないし、待つしかないだろう」
「あいつ、帰ってきたらぶっ殺す」
「静かに頼むよ。隣の音、けっこう聞こえるから」
俺は静かにドアを閉めた。
与沢が浮気をしているはずはないと言ったが、俺自身もその可能性を考えていた。
村を散策した感じでは、この集落はすごく狭い。
三十分も歩けば端から端まで見尽すことができる。集落の周辺は山か畑だ。
与沢がそんなところへ迷い込むはずはない。
しかもあいつの語学力は俺と大して変わらないはずだ。
エイミーのサポートなしに一日中外で過ごせるわけがない。
やはりエイミーと密会していると考えるのが順当だ。
エイミーの実家で会っているのか別の場所で会っているのかは知らないが、どこかでよろしくやっているのだろう。
もしそうだとすれば俺にとってはその方が好都合だ。
与沢は自分の目的を達成すれば上海に戻るだろう。必然的に藤堂も消える。
そうなればあいつらの目を気にせずに仕事ができる。
そこまではいい。
与沢とエイミーが密会しているとすると俺の計画にマイナスの影響も考えられる。
浮気がバレて藤堂と与沢が揉めるようなことになると与沢が藤堂を切るかもしれない。
藤堂と比べればエイミーの方がはるかに魅力があるからその可能性は十分にありうる。
そうなれば藤堂だけが先に帰り与沢はエイミーと一緒に上海に戻ろうとするだろう。
それだけではない。
与沢とエイミーの親密さが増せばエイミーが俺の目的を与沢にしゃべるかもしれない。
それだけは絶対に避けなければならない。
与沢とエイミーの関係が浮気程度で収まり、藤堂にバレないうちに二人が先に上海に戻る。
これがベストだ。
そのためには与沢と藤堂の仲がうまく行くように仕向ける必要がある。
与沢の浮気を否定したのは我ながら正しい選択だった。
俺は買いこんでおいたビールを開けて飲み始めた。
生活のリズムを朝型に修正する必要はある。
そのためには早く寝る必要があるが、酒でも飲まなければ目が冴えて眠れない。
生ぬるいビールはうまくはないが、飲んでいるうちに慣れてくる。
中国のビールはアルコールが少ないのか、いくら飲んでも大して酔わない。
ビールを五本開けたところでようやく意識が薄れて来た。
俺は電気を消してベッドに倒れ込んだ。まだ九時前だったはずだ。
深夜、俺は隣の部屋からの物音で目を覚ました。人が暴れるような気配が伝わってきたからだ。
俺が寝ているうちに与沢が帰ってきたのだろう。
壁が薄いと言って牽制しておいたのに、迷惑なやつらだ。
しばらくすると静かになった。俺は再び眠りに落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる