天才鍼師の俺に治せないビョーキはない…ハズ!

久遠寺遥

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どんな鳥にもスナギモはある

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「俺は何をすればいいんですか?」

「伸君にはスナギモに串を打ってもらおうか」

「スナギモって、どれですか?」

「目の前のそれだよ」

 ステンレスのバットの中にピンポン玉をつぶしたような形の肉の塊が並んでいる。

「ひと串に五つだよ」

 竹の串を突き刺すと、サクッと貫通する。

「スナギモって、鶏の肉なんですか?」

「そうだよ」

「ふだん食べている鶏肉とは、ずいぶん違いますよね」

「正確に言うと、鶏の内臓だから、食感が違うんだよ。
 スナギモは、コリコリしてるだろう。それが好きな人が多いの」

「内臓って、どこの部分なんですか?」

「スナギモは、胃袋の前にあるんだよ。
 どんな鳥にも必ずある」

「ハトやカラスにも?」

「そう。鳥には歯がないだろう」

「そうですね」

 本当に鳥には歯がないのか、俺は知らない。
 でも、焼き鳥屋の大将といえば、鳥の専門家だから、間違いないだろう。

「鳥ってのは、食べたものをそのまま飲み込むんだ。
 だけど、それだと消化に悪い。だから石とか砂を飲み込んで、スナギモに溜めておくわけよ。

 そこに丸飲みしたエサが入って来るだろ。そうすると、スナギモが動いて、石や砂がエサをすり潰すわけだ。
 だから鳥には歯が無くてもダイジョウブなんだよ」

「じゃあ、これって、もともとは、クダの形をしているんですか?」

「そうだよ。クダの外側にも内側にも皮があるから、それを剥すのがメンドウなんだ」

「その内側の皮がケイナイキンじゃ」

「ケイナイキンって何?」

「知らんのか。漢方薬じゃよ」

 爺ちゃんは酒を飲み始めていた。

 勝手に探し出した一升瓶が、もう半分以上なくなっている。あれは本物の高級品だ。

「ペースが速すぎませんか?」

「つまみがないから仕方なかろう」

 爺ちゃんは一升瓶に残っていた酒をビールジョッキに入れて、ゴクゴクと飲み干した。

「ぷはー。うまい。もう一本」

 大将はカウンターから出て、二合殺しのビンを爺ちゃんに渡した。

 爺ちゃんはビールジョッキに二合殺しを注いだ。高級品とはぜんぜん色が違う。

「うまい。さすが米どころ新潟の地酒じゃ」

 爺ちゃん、完全に味覚がバカになっている……

 このペースだと、俺が焼き鳥を食べ始める前に、爺ちゃんが倒れてしまう。

 俺は超速で串を打ち、焼き鳥盛り合わせを注文した。

「爺ちゃんが倒れる前に、どんどん焼いて下さい。
 カネに糸目はつけません。払うのは爺ちゃんですから」

「カネに糸目はつけない?」

 大将の目がキラリと光った。

 炭に火を移し、焼き台の下に放り込む。

 その上に隙間ができないくらいの串を並べ、扇風機のスイッチを入れた。

 昔はうちわであおいでいたらしいけど、今は扇風機を使って手間を省いている。

 最近の患者不足のせいで、俺は一か月くらい、肉を食べていない。

 焼き鳥のいい匂い。もう、たまりません。

 爺ちゃんは酒に夢中だ。焼き鳥は俺がいただく!

「やっぱり、炭焼きは、おいしいですね」

「そうだろ」

「備長炭ってやつですか?」

「そう。中国製だけどね」

「中国? 中国がどうしたぁ?」

 ダメだ。爺ちゃん、完全に酔っぱらっている。

「史門は何をやっておるのじゃ。史門を呼べ、史門を!」

「父さんは、いま、中国ですよ」

「どうして?」

「どうしてって、鍼の修業でしょう。爺ちゃんが自分でそう言ったじゃないか」

「史門の腕は確かじゃ。今さら鍼の修業でもあるまいて」

「違うの? じゃあ、どうして父さんは中国に行ったんだよ?」

「決まっておるじゃろ。助けるためじゃ」

「助けるって、誰を?」

「うるさい。ワシは寝るぞ」

 爺ちゃんは座敷の上で一升瓶を抱えたままイビキをかき始めた。

「権蔵の呑みっぷりは、相変わらずだねぇ。
 惚れ惚れするよ。店で一番高い酒を二本も飲むとは、あっぱれ日本男児!」

「一番高い酒?」

「そう。権蔵さんは、お目が高い」

 恐るべし、二合殺し……
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