天才鍼師の俺に治せないビョーキはない…ハズ!

久遠寺遥

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俺の商店街 シエル・ブランとスーパー七福神

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 公麿の患者を治療してから五日経った。

 鍼灸院のお客は、相変わらず一日にひとりか、ふたり。

 このままではマズい。

 でも、焦りは禁物だ。

 お客が少ないときは、うまいものでも食べてリラックス。それが俺流。

 ヒマだから来なくてもいいと言っても美織は毎日来る。
 裏庭で飼っているイモムシにエサをやるためだ。

 美織の母さんは昆虫学者らしい。
 その影響で、美織は小学生のころからイモムシを飼っているそうだ。

 イモムシが蝶になるのは、確かに不思議だけど、わざわざ飼うのは大変だ。

 美織は毎日新鮮な葉っぱ集めてきてイモムシに食べさせている。そうしないと、ちゃんと育たないらしい。

 虫かごにエサを入れてから、美織はイモムシをずっと観察している。

 なにがオモシロいのか、俺にはぜんぜんわからない。

「美織、ちょっとスーパーに行ってくるからよろしく」

「また七福神のお弁当ですか?」

「そうだけど、何か?」

「どうせスーパーに行くなら、食材を買って、自分で作ったほうがいいですよ。
 そのほうが経済的だし、体にもいいし」

「世間知らずめ!
 ひとり分の食事なんか作っていたら、反って高くつくんだ。

 それに、七福神の弁当は、調味料をケチっているから、塩分控えめでヘルシー。
 体にもいい。美織の分も買って来てやろうか?」

「わたしはお弁当あるからダイジョウブです」

「なに? 弁当?」

「そうです。自分で作りました」

「ちなみに、どんな弁当なの?」

「最高級イベリコ豚のカツサンド、トリュフソースを添えて、です」

「なんじゃ、それは?」

「冷蔵庫にあった余りもので作りました」

「なんだ、余りものか。かわいそうに。
 悪いけど俺は出来立ての弁当を買ってくる。留守番を頼んだぞ」

「はーい」

 相変わらず、返事だけはいい。

 最近お客が少ないから、食費は安く抑えたい。何を買うか?

 スーパー七福神への道のりは九分。これはランチタイムの作戦を練る大切な時間。

 四百二十円のメガ盛りのり弁当にするか、それとも、ちょっと安い特大たまごサンドにするか。

 これは大きな問題だ。

 シエル・ブランの看板が見えてきた。最近できたケーキ屋さん。

 ここを通るたびに気になっている。

 ガラス張りで、外からでも店内のショーケースの中が見える。色とりどりのケーキ。どれも、おいしそう。

 俺は甘いものには目がない。でも、ケーキの値段は食事一回分に近い。

 食べてみたいけど我慢だ。お客が増えて、余裕ができれば、好きなだけ食べられる。

 俺が本気を出せば、鍼灸院が繁盛するに決まってるから、ダイジョウブ。

 シエル・ブランの向こうには、篠原第二ビルが見える。あれも美織の実家の自社ビルだ。

 ここからずいぶん離れているけど、ネイビーブルーのキレイなビルだから、かなり目立つ。

 まだ建ってから三年くらいしか経っていないけど、今では駅前のランドマークタワーだと言われている。

 ビルを見れば、美織の実家は大金持ちのようだけど、美織は俺の鍼灸院でバイトをし、冷蔵庫の余りもので弁当を作っている。

 イベリコ豚とか、トリュフソースとか言ってたけど、聞いたこともない名前だ。きっと安物なんだろう。

 人は見かけによらないと言うからな。

 ひょっとすると、美織は俺よりもビンボーだったりして。うーん、これからは、もうすこし優しくしてやろう。

 シエル・ブランの前を左に曲がると、スーパー七福神の前に列ができていた。

 この時間に列ができているなんて、めずらしい。

 足を速めて近づくと、入り口の横に張り紙が。

 特別奉仕 豪華お弁当、三百円均一?

 やった! 神はいる!

 豪華お弁当の中味はなんだ?

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