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意味ありげな黒い訪問者
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鍼灸院に戻ると、美織はもういなかった。診療の予約もないし、イモムシの世話も終わったみたいだから、家に帰ったんだろう。
爺ちゃんは鳥将軍で焼き鳥を食べて以来、まだ一度も顔を出していない。きっと、あの日、飲みすぎて、体調を崩したんだろう。それにしても、そろそろ来てもいい頃だ。
爺ちゃんの話を聞きたいけど、俺のほうからヘタに電話するのは危険だ。囲碁の対局中だったりすると機嫌が悪くなる。
こういう時は、慌てずに待つのが俺流。
ヒマだから、ひさびさに鉢植えのランに水やりをしよう。
庭には、母さんが育てていたデンドロビウムの鉢が並んでいる。去年までは、たくさん花が咲いていたけど、今年はぜんぜん咲かなかった。
母さんは、水の量とか、肥料とかに気をつけないと、花が咲かなくなるって言っていた。
俺はランの育て方なんて知らないから、水のやりかたも適当だ。やっぱり、母さんがいないと、ランもちゃんと育たなくなるみたいだ。
庭に出ると、目の前に大きなカラスが下りて来た。
少し近づいたけど、逃げる気配がない。じっと俺の方を見上げている。
俺のことが怖くないのか?
まあ、俺もカラスを追い払うつもりなんてぜんぜんない。
生き物をいじめてはいけない、というのが、狩嶋家の家訓だ。何も悪いことをしないなら、庭で自由に遊べばいい。
俺はジョウロに水を入れて、デンドロビウムの鉢に水をやった。
何となく元気がない。肥料をやったほうがいいのかもしれないけど、肥料をやる時期とか、肥料の種類とか、量とか、微妙なノウハウがあるらしい。
勝手なことをすると枯れるかもしれないから、まあ、水だけやっておけばいいだろう。
カラスはまだ同じところから俺を見ている。
水やりが終わると、それを待っていたかのように、俺に近づいて来た。
ふつうのカラスよりも大きい。頭の上に一カ所だけ白い羽が生えている。
これだけ大きいと、ちょっと怖い。何をするつもりだ?
カラスは突然、俺のジーパンのすそをくわえた。俺を攻撃するつもりか?
俺はジョウロを振りかぶって反撃の用意をした。
だけどカラスは俺に危害を加えるつもりはないみたいだ。
カラスは一生懸命に俺のジーパンを引っ張っている。
来て欲しいのか?
「わかったから、引っ張るなよ」
カラスはジーパンを引っ張るのを止めた。まるで俺の言葉がわかっているみたいだ。
後ろを向いて歩き出したので、俺はついて行った。
カラスは庭の隅にある物置きの陰で立ち止まり、俺を振り返った。
物置きの周りには、ヒザの高さくらいの草が生えている。
中学くらいの時には、よく草むしりをさせられたっけ。でも、今は放置しているから、庭の隅は草ぼうぼうだ。
カラスに近づいて見ると、草むらの中に別のカラスが横になっていた。じっとして動かない。
まさか、死んでるのか?
俺はしゃがんでカラスに触れてみた。まだ生きている。でも、病気だ。
目を細めて精神を集中。赤い経絡が浮かび上がって見える。
脚の付け根あたりに白い光が見えた。
「待ってろよ」
俺は治療室に駆け込んで、ウチの鍼灸院で一番細いディスポの一番鍼を手に取った。
倒れているカラスの所に戻って、もう一度ツボを確認する。
ハッキリと見える。白い光。やっぱり、俺の能力は衰えていない。
俺は白い光が見えるポイントに鍼を打ち込んだ。
ピリッとした感覚。人間に打つ時よりもハッキリとした反応だ。
打ち込んだ鍼をゆっくりと右回転。挿気補法だ。
カラスの経絡に陽気が注入される。生命エネルギーが流れ込む。
体が小さいから、人間に陽気を注入するよりも、回復が速い。枯れていた陽気が、あっという間に充満した。
俺が鍼を抜くと、カラスはすぐに立ち上がった。
どうだ!
やっぱり、俺は天才だ。
それにしても、二羽のカラスを比べると、ずいぶん大きさが違う。
最初に俺を呼んだカラスは、タダのカラスではなさそうだ。
しゃがんだ姿勢からよく見ると、胸の中央から何か黒いものが飛び出ていて、まるで脚が三本あるように見える。
なんだこいつは?
もしかするとカラスじゃない別の種類の鳥なのかもしれない。
俺が立ち上がると、二羽は飛び去って行った。
爺ちゃんは鳥将軍で焼き鳥を食べて以来、まだ一度も顔を出していない。きっと、あの日、飲みすぎて、体調を崩したんだろう。それにしても、そろそろ来てもいい頃だ。
爺ちゃんの話を聞きたいけど、俺のほうからヘタに電話するのは危険だ。囲碁の対局中だったりすると機嫌が悪くなる。
こういう時は、慌てずに待つのが俺流。
ヒマだから、ひさびさに鉢植えのランに水やりをしよう。
庭には、母さんが育てていたデンドロビウムの鉢が並んでいる。去年までは、たくさん花が咲いていたけど、今年はぜんぜん咲かなかった。
母さんは、水の量とか、肥料とかに気をつけないと、花が咲かなくなるって言っていた。
俺はランの育て方なんて知らないから、水のやりかたも適当だ。やっぱり、母さんがいないと、ランもちゃんと育たなくなるみたいだ。
庭に出ると、目の前に大きなカラスが下りて来た。
少し近づいたけど、逃げる気配がない。じっと俺の方を見上げている。
俺のことが怖くないのか?
まあ、俺もカラスを追い払うつもりなんてぜんぜんない。
生き物をいじめてはいけない、というのが、狩嶋家の家訓だ。何も悪いことをしないなら、庭で自由に遊べばいい。
俺はジョウロに水を入れて、デンドロビウムの鉢に水をやった。
何となく元気がない。肥料をやったほうがいいのかもしれないけど、肥料をやる時期とか、肥料の種類とか、量とか、微妙なノウハウがあるらしい。
勝手なことをすると枯れるかもしれないから、まあ、水だけやっておけばいいだろう。
カラスはまだ同じところから俺を見ている。
水やりが終わると、それを待っていたかのように、俺に近づいて来た。
ふつうのカラスよりも大きい。頭の上に一カ所だけ白い羽が生えている。
これだけ大きいと、ちょっと怖い。何をするつもりだ?
カラスは突然、俺のジーパンのすそをくわえた。俺を攻撃するつもりか?
俺はジョウロを振りかぶって反撃の用意をした。
だけどカラスは俺に危害を加えるつもりはないみたいだ。
カラスは一生懸命に俺のジーパンを引っ張っている。
来て欲しいのか?
「わかったから、引っ張るなよ」
カラスはジーパンを引っ張るのを止めた。まるで俺の言葉がわかっているみたいだ。
後ろを向いて歩き出したので、俺はついて行った。
カラスは庭の隅にある物置きの陰で立ち止まり、俺を振り返った。
物置きの周りには、ヒザの高さくらいの草が生えている。
中学くらいの時には、よく草むしりをさせられたっけ。でも、今は放置しているから、庭の隅は草ぼうぼうだ。
カラスに近づいて見ると、草むらの中に別のカラスが横になっていた。じっとして動かない。
まさか、死んでるのか?
俺はしゃがんでカラスに触れてみた。まだ生きている。でも、病気だ。
目を細めて精神を集中。赤い経絡が浮かび上がって見える。
脚の付け根あたりに白い光が見えた。
「待ってろよ」
俺は治療室に駆け込んで、ウチの鍼灸院で一番細いディスポの一番鍼を手に取った。
倒れているカラスの所に戻って、もう一度ツボを確認する。
ハッキリと見える。白い光。やっぱり、俺の能力は衰えていない。
俺は白い光が見えるポイントに鍼を打ち込んだ。
ピリッとした感覚。人間に打つ時よりもハッキリとした反応だ。
打ち込んだ鍼をゆっくりと右回転。挿気補法だ。
カラスの経絡に陽気が注入される。生命エネルギーが流れ込む。
体が小さいから、人間に陽気を注入するよりも、回復が速い。枯れていた陽気が、あっという間に充満した。
俺が鍼を抜くと、カラスはすぐに立ち上がった。
どうだ!
やっぱり、俺は天才だ。
それにしても、二羽のカラスを比べると、ずいぶん大きさが違う。
最初に俺を呼んだカラスは、タダのカラスではなさそうだ。
しゃがんだ姿勢からよく見ると、胸の中央から何か黒いものが飛び出ていて、まるで脚が三本あるように見える。
なんだこいつは?
もしかするとカラスじゃない別の種類の鳥なのかもしれない。
俺が立ち上がると、二羽は飛び去って行った。
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