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滅咒師と金蚕蠱
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目を覚ましたとき、俺は鍼灸院の二階で寝ていた。
俺は、由香里ちゃんに鍼を打って、それから……
そうだ。倒れて、気を失ったんだ。
あれからどれくらい寝ていたんだろう?
窓の外は明るい。鳥の声が聞こえる。
時計を見ると八時前だった。
着替えて階段を下りると、爺ちゃんがいた。
ネットで囲碁対局をしている。
「どう、勝率は?」
「おお、伸、やっと目覚めたか」
「俺、どのくらい寝てたのかな?」
「きのう一日、ずーっと寝ておった。
お前を病院から運ぶのに難儀したぞ」
「由香里ちゃんは?」
「お前が鍼を打った後にスグに退院した。
もと通り、元気になってな」
「そうか、よかった」
「いい仕事をしたな。これからしばらく、これを飲め」
爺ちゃんは八味地黄丸を用意していた。
漢方薬はニガイっていうイメージだけど、爺ちゃんの八味地黄丸は、蜂蜜で固めているから甘い。
俺は、この味はキライじゃない。
グミみたいな食感。八味地黄丸を食べると丹田が温かくなる。
「伸、なにか食べたいものはあるか?」
「もしかして、おごってくれるんですか?」
「ご褒美じゃ」
「ホントウに? うーん、迷うなー。
ウナギにしようか、焼肉にしようか……」
「あー、そうそう、忘れるところじゃった。
きのう、業者が来て、水槽を設置していったぞ」
「え?」
俺は待合室に駆け込んだ。
ブラックジャックが並んでいた本棚が、水槽の台に変わっていた。
台の上には大きな水槽が載っていて、中には銀色の魚が悠々と泳いでいる。
「ずいぶん立派な水槽を買ったのう」
「買ってないですよ。見積もりをお願いするかも、っていう話をしただけです」
「そうなのか?
小野寺さんが来て、いま高性能ポンプを買えば、魚のエサ一か月分をサービスするというから、ポンプも発注しておいたぞ」
どうして小野寺さんが?
「それはマズいですよ。いくらだって言ってました?」
「聞いておらん。お前が知っているみたいなことを言っておったが……」
「うわー、値段も聞かずに買うなんて!
フィッシュランドの小野寺さんは、ボッタクリで有名なんです」
「とにかくキャンセルしなきゃ!」
俺は商店街のポスターで電話番号を調べて、フィッシュランドに電話をかけた。
「はい、フィッシュランドです」
小野寺さんの声だ。
「あ、先日うかがった狩嶋です」
「毎度ありがとうございます」
「あのー、きのう水槽が来たんですけど。
まだ買うと決めたわけではないので、引き取って下さい」
「設置した後はキャンセルできないんですよ。
設置する前に言ってもらわないとねー」
「でも、俺は気を失っていて……」
「お爺さんは喜んでいましたよ。
近いうちに、高性能ポンプとエサ一か月分をお届けしますから、待ったいてくださいね」
「あの……」
「なんですか?」
「全部でいくらですか?」
「ご近所だし、商店街のお仲間ですからねー。
思い切って割引しますよ。全部で百万円です」
「ひゃっ、百万円?」
俺は、由香里ちゃんに鍼を打って、それから……
そうだ。倒れて、気を失ったんだ。
あれからどれくらい寝ていたんだろう?
窓の外は明るい。鳥の声が聞こえる。
時計を見ると八時前だった。
着替えて階段を下りると、爺ちゃんがいた。
ネットで囲碁対局をしている。
「どう、勝率は?」
「おお、伸、やっと目覚めたか」
「俺、どのくらい寝てたのかな?」
「きのう一日、ずーっと寝ておった。
お前を病院から運ぶのに難儀したぞ」
「由香里ちゃんは?」
「お前が鍼を打った後にスグに退院した。
もと通り、元気になってな」
「そうか、よかった」
「いい仕事をしたな。これからしばらく、これを飲め」
爺ちゃんは八味地黄丸を用意していた。
漢方薬はニガイっていうイメージだけど、爺ちゃんの八味地黄丸は、蜂蜜で固めているから甘い。
俺は、この味はキライじゃない。
グミみたいな食感。八味地黄丸を食べると丹田が温かくなる。
「伸、なにか食べたいものはあるか?」
「もしかして、おごってくれるんですか?」
「ご褒美じゃ」
「ホントウに? うーん、迷うなー。
ウナギにしようか、焼肉にしようか……」
「あー、そうそう、忘れるところじゃった。
きのう、業者が来て、水槽を設置していったぞ」
「え?」
俺は待合室に駆け込んだ。
ブラックジャックが並んでいた本棚が、水槽の台に変わっていた。
台の上には大きな水槽が載っていて、中には銀色の魚が悠々と泳いでいる。
「ずいぶん立派な水槽を買ったのう」
「買ってないですよ。見積もりをお願いするかも、っていう話をしただけです」
「そうなのか?
小野寺さんが来て、いま高性能ポンプを買えば、魚のエサ一か月分をサービスするというから、ポンプも発注しておいたぞ」
どうして小野寺さんが?
「それはマズいですよ。いくらだって言ってました?」
「聞いておらん。お前が知っているみたいなことを言っておったが……」
「うわー、値段も聞かずに買うなんて!
フィッシュランドの小野寺さんは、ボッタクリで有名なんです」
「とにかくキャンセルしなきゃ!」
俺は商店街のポスターで電話番号を調べて、フィッシュランドに電話をかけた。
「はい、フィッシュランドです」
小野寺さんの声だ。
「あ、先日うかがった狩嶋です」
「毎度ありがとうございます」
「あのー、きのう水槽が来たんですけど。
まだ買うと決めたわけではないので、引き取って下さい」
「設置した後はキャンセルできないんですよ。
設置する前に言ってもらわないとねー」
「でも、俺は気を失っていて……」
「お爺さんは喜んでいましたよ。
近いうちに、高性能ポンプとエサ一か月分をお届けしますから、待ったいてくださいね」
「あの……」
「なんですか?」
「全部でいくらですか?」
「ご近所だし、商店街のお仲間ですからねー。
思い切って割引しますよ。全部で百万円です」
「ひゃっ、百万円?」
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