天才鍼師の俺に治せないビョーキはない…ハズ！

久遠寺遥

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滅咒師と金蚕蠱　その2

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「安いでしょう？　
　お支払いは、今月中でいいですからね」

　俺の貯金は十万円しかない。

「ムリです。払えません。
　百万円なんておカネありません」

「カネがない？　それは困りましたね……
　今すぐ、店に来てもらいましょうか」

　どうしよう。マグロ漁船かな？

　俺は恐る恐るフィッシュランドに行った。

　店の奥で小野寺さんが腕を組んで立っていた。

「狩嶋君、君、鍼灸師なんだよね？」

「はい、そうですけど」

「評判は悪くないみたいだけど、腕は確かなの？」

「天眼も開いたし、たぶん、というか、確実に世界一の腕です」

「なに、その、天眼って？」

「深部経絡しんぶけいらくを見る能力です」

「なんだかわらかないけど、とにかく自信ありそうだね」

「鍼の腕には自信ありますよ」

「動物の治療もできるの？」

「もちろんです。
　生き物が病気になる仕組みは、人間でも動物でも同じですからね。
　治す方法も同じなんです」

「犬も治せるんだね？」

「バッチリです」

「これから軽井沢に行くことになっている。
　着いてきて来てもらうよ」

「どうして？」

「病気の犬を治療してもらおうか。
　成功すれば、水槽の代金は半額にまける。それでどうだ？」

「マジですか？　行く、行きますよ」

　と、いうことで、俺は小野寺さんの車に乗って軽井沢に向かった。

「行き先はお金持ちの別荘だ。
　失礼のないようにしてくれよ」

「はい。ところでフィッシュランドって犬も扱っているんですか？」

「いや、ウチは小動物専門。
　犬とか猫は扱ったことない」

「それじゃあ、どうして犬の治療を？」

「飼い主から誰かいい獣医がいたら紹介してくれって頼まれていたんだ。
　だけど、ウチはアクアショップだろう。
　獣医の知り合いなんか、いないわけよ」

「それで、俺を？」

「そう」

「飼い主とはどういう知り合いなんですか？」

「もともと近所に住んでいた人だからだよ。
　彦坂総合病院ってしってるだろ？」

「はい」

「あの病院の院長が、今は軽井沢に住んでいるんだよ」

「じゃあ、犬の飼い主って、院長のことなんですか？」

「いや、院長の奥さんだ」

「院長の奥さんと知り合いなんですか？」

「昔から知ってるよ。
　院長の奥さんは、麗子さんっていうんだけど、もともとは神主のお嬢さんだったんだ」

「それは聞いたことがあります」

「麗子さんの実家はタダの神主じゃない。
　滅咒師めつじゅしの家系なんだ」

「なんですか、その滅咒師って？」

「陰陽師おんみょうじって知ってる？」

「聞いたことあります」

「陰陽師の分家で、呪いを解く専門家が滅咒師だ」

「呪いを……」

「そう。江戸時代に黒呪術を使う集団に勝利してから、出番がなくなって、
　滅咒師の秘伝は途絶えてしまったんだけど、いまでも昔の名残がある」

「名残りって、なんですか？」

「八咫烏だよ」

「ヤタガラス？」

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