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VIPルームの患者
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「あっ、そうか。忘れてた。
さっそくだけど、昨日から入院している患者さん、治療させてあげるよ。
狩嶋ちゃんみたいな未熟者が、ウチみたいな大病院で研修できるんだから、君はラッキーだよね」
また始まった。すなおに頼むと言えない性格。
まあ、俺も商売だから逆らわない。
「じゃあ、さっそく行こうか。私が監督するから、ダイジョウブ。自信を持って打ちなさい」
「経過とか、病状とか、そういうのは?」
「カルテ見てみる?
あ、ごめん。カルテは英語だった。狩嶋ちゃんの低学歴では、読めないよね」
俺は看護師の星野さんから聞いて知ってる。
公麿のカルテは英語じゃなくて、ローマ字だろ。
だけど、何も言わないのが俺流。
「英語が読めない君のために、説明してあげる。
患者さんは、高田五郎様。六十歳、男性。父上の代からの市会議員さん。
ウチの病院に補助金をもらうときのキーパーソン、つまりVIP。
ここのところ大事だからね」
病気と関係ない話ばっかりじゃないか。公麿は余計な話が多すぎる。
だけど笑顔が俺流。
「昨日の夜、腹痛で来院。検査結果は異状なし。
バファリンを処方。今のところ効き目なしと」
腹痛にバファリン。効くわけない!
むしろ悪化するだろ。
「手ごわい患者さんですね」
「狩嶋ちゃんは、経験が浅いから、わからないだろうけど、私の腕なら簡単に治せるんだよ。
だけど君のような未熟者に鍼の腕を磨く機会を与えてあげようと思ってね。
私くらいの大物になると、若い人の育成とか、日本の医療の発展を考えないといけないから」
「ありがとうございます」
「じゃあ、さっそく行くよ」
公麿はエレベータに乗り、六階のボタンを押した。
階段のほうが速いのに、わざわざエレベーターに乗る。
ココナツオイルにハマっているらしいけど、公麿のメタボ体形は永久に治るハズがない。
六階でエレベーターから出ると、ヨーロッパのお城のような内装が広がっていた。
俺は六階に来るのは初めてだ。こんな階があるなんて全然知らなかった。
「このフロアはね、お金持ち専用。豪華でしょう。
床の大理石は、イタリアから取り寄せたんだよ。
ちなみに上のシャンデリアは一千万円」
こういう自慢話が面倒くさい。
廊下の左右は個室になっている。どの部屋も広そうだ。ちょっとしたホテルよりもずっと豪華。
「どの部屋ですか?」
「一番奥」
「ここですか?」
部屋の前には「院長の許可を得たもの以外は立ち入り禁止」と書いてある。
「そっちじゃない。こっち、こっち」
公麿は病室のドアを開けて入って行った。
部屋に入ると星野さんがいた。スカイブルーのナース服が似合っている。
一瞬のアイコンタクトで、だいたいわかる。
今回も公麿の誤診で大変なことになっているようだ。
星野さんは優秀な看護師さんらしいけど、公麿の患者さんを受け持っているんだから宝の持ち腐れ。
こんな病院なんか辞めて、モデルにでもなればいいのに。
さっそくだけど、昨日から入院している患者さん、治療させてあげるよ。
狩嶋ちゃんみたいな未熟者が、ウチみたいな大病院で研修できるんだから、君はラッキーだよね」
また始まった。すなおに頼むと言えない性格。
まあ、俺も商売だから逆らわない。
「じゃあ、さっそく行こうか。私が監督するから、ダイジョウブ。自信を持って打ちなさい」
「経過とか、病状とか、そういうのは?」
「カルテ見てみる?
あ、ごめん。カルテは英語だった。狩嶋ちゃんの低学歴では、読めないよね」
俺は看護師の星野さんから聞いて知ってる。
公麿のカルテは英語じゃなくて、ローマ字だろ。
だけど、何も言わないのが俺流。
「英語が読めない君のために、説明してあげる。
患者さんは、高田五郎様。六十歳、男性。父上の代からの市会議員さん。
ウチの病院に補助金をもらうときのキーパーソン、つまりVIP。
ここのところ大事だからね」
病気と関係ない話ばっかりじゃないか。公麿は余計な話が多すぎる。
だけど笑顔が俺流。
「昨日の夜、腹痛で来院。検査結果は異状なし。
バファリンを処方。今のところ効き目なしと」
腹痛にバファリン。効くわけない!
むしろ悪化するだろ。
「手ごわい患者さんですね」
「狩嶋ちゃんは、経験が浅いから、わからないだろうけど、私の腕なら簡単に治せるんだよ。
だけど君のような未熟者に鍼の腕を磨く機会を与えてあげようと思ってね。
私くらいの大物になると、若い人の育成とか、日本の医療の発展を考えないといけないから」
「ありがとうございます」
「じゃあ、さっそく行くよ」
公麿はエレベータに乗り、六階のボタンを押した。
階段のほうが速いのに、わざわざエレベーターに乗る。
ココナツオイルにハマっているらしいけど、公麿のメタボ体形は永久に治るハズがない。
六階でエレベーターから出ると、ヨーロッパのお城のような内装が広がっていた。
俺は六階に来るのは初めてだ。こんな階があるなんて全然知らなかった。
「このフロアはね、お金持ち専用。豪華でしょう。
床の大理石は、イタリアから取り寄せたんだよ。
ちなみに上のシャンデリアは一千万円」
こういう自慢話が面倒くさい。
廊下の左右は個室になっている。どの部屋も広そうだ。ちょっとしたホテルよりもずっと豪華。
「どの部屋ですか?」
「一番奥」
「ここですか?」
部屋の前には「院長の許可を得たもの以外は立ち入り禁止」と書いてある。
「そっちじゃない。こっち、こっち」
公麿は病室のドアを開けて入って行った。
部屋に入ると星野さんがいた。スカイブルーのナース服が似合っている。
一瞬のアイコンタクトで、だいたいわかる。
今回も公麿の誤診で大変なことになっているようだ。
星野さんは優秀な看護師さんらしいけど、公麿の患者さんを受け持っているんだから宝の持ち腐れ。
こんな病院なんか辞めて、モデルにでもなればいいのに。
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