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彦坂総合病院の闇
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「先生、患者さんの熱が下がりません」
「何度あるの?」
「三十九度です」
「おっかしいなー。
バファリンの量増やしといて」
「右下腹部に反跳痛ありますけど」
「だから何?」
「部長」
病院の中では、公麿を「部長」と呼ぶのが、バイト中の決まり。
「カルテを見せてもらっていいですか?」
「見たってわからないでしょ」
「鍼師の決まりなんです」
「そうなの? 鍼師のくせに生意気だね」
俺は公麿からカルテを受け取り、検査結果に目を走らせた。
白血球が異常に増えてる。看護学生でもわかる明らかな細菌感染。
しかも右下腹部に反跳痛ありだから、確実に虫垂炎。ブラックジャックで読んだから間違いない。
この検査結果を見て異常なしと判断した公麿……恐るべきヤブ。
患者さんは腹を曲げて苦しんでいる。肌は脂汗でじっとり。
ちゃんとした医者にかかれば、今ごろはテレビでも見ながらくつろいでいたはずなのに。
この病気は西洋医学では虫垂炎だけど、俺に言わせれば、体を守る衛気がばい菌に負けている状態だ。
こういうときは、陽気を注入して衛気の力を強くする。
そうすると衛気がばい菌を殺し、病気は自然に治る。
「では、打ちます」
「高田さん、喜んでください。ウチの病院では、VIP限定で、鍼治療を併用しています」
「それ、意味あるのかい?」
「鍼治療なんて古臭いと思われるでしょうが、内科部長のこの私が監督しているからダイジョウブ。
打たないよりマシです。さ、狩嶋君、始めなさい」
目を細めると、左右のひざの下に白い光が見えた。
あれは足三里。有名なツボだ。気の力が弱ったら足三里。爺ちゃんも言っていた。
右足のツボをアルコールで軽く消毒。これが鍼を打つ前の決まり。
「打ちます」
愛用のディスポ三番鍼を打鍼。
鍼は抵抗なく沈んでゆく……
おっと、指先のこの震え。ツボのど真ん中に当たった。
ここから俺の得意技、挿気補法で陽気を流し込む。
鍼をゆっくり右回転させる。
鍼の頭に陽気が集まり、経絡に流れ込むのがわかる。
陽気が経絡に充満すれば、衛気が活性化して虫垂炎なんて一発で治る。
「どうですか?」
「ヒザのあたりから、何かが上がってくる感じがするぞ」
「それです、それ! 効きますよ~」
「何度あるの?」
「三十九度です」
「おっかしいなー。
バファリンの量増やしといて」
「右下腹部に反跳痛ありますけど」
「だから何?」
「部長」
病院の中では、公麿を「部長」と呼ぶのが、バイト中の決まり。
「カルテを見せてもらっていいですか?」
「見たってわからないでしょ」
「鍼師の決まりなんです」
「そうなの? 鍼師のくせに生意気だね」
俺は公麿からカルテを受け取り、検査結果に目を走らせた。
白血球が異常に増えてる。看護学生でもわかる明らかな細菌感染。
しかも右下腹部に反跳痛ありだから、確実に虫垂炎。ブラックジャックで読んだから間違いない。
この検査結果を見て異常なしと判断した公麿……恐るべきヤブ。
患者さんは腹を曲げて苦しんでいる。肌は脂汗でじっとり。
ちゃんとした医者にかかれば、今ごろはテレビでも見ながらくつろいでいたはずなのに。
この病気は西洋医学では虫垂炎だけど、俺に言わせれば、体を守る衛気がばい菌に負けている状態だ。
こういうときは、陽気を注入して衛気の力を強くする。
そうすると衛気がばい菌を殺し、病気は自然に治る。
「では、打ちます」
「高田さん、喜んでください。ウチの病院では、VIP限定で、鍼治療を併用しています」
「それ、意味あるのかい?」
「鍼治療なんて古臭いと思われるでしょうが、内科部長のこの私が監督しているからダイジョウブ。
打たないよりマシです。さ、狩嶋君、始めなさい」
目を細めると、左右のひざの下に白い光が見えた。
あれは足三里。有名なツボだ。気の力が弱ったら足三里。爺ちゃんも言っていた。
右足のツボをアルコールで軽く消毒。これが鍼を打つ前の決まり。
「打ちます」
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鍼は抵抗なく沈んでゆく……
おっと、指先のこの震え。ツボのど真ん中に当たった。
ここから俺の得意技、挿気補法で陽気を流し込む。
鍼をゆっくり右回転させる。
鍼の頭に陽気が集まり、経絡に流れ込むのがわかる。
陽気が経絡に充満すれば、衛気が活性化して虫垂炎なんて一発で治る。
「どうですか?」
「ヒザのあたりから、何かが上がってくる感じがするぞ」
「それです、それ! 効きますよ~」
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