天才鍼師の俺に治せないビョーキはない…ハズ!

久遠寺遥

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呪いの病気・蠱病(こびょう)

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蠱病こびょう?」

「蠱が吐き出す邪気がりつくことでかかる病気じゃ」

「その、ってなに?」

「それは、謎じゃ。いろいろな言い伝えがあるが、ワシも見たことはないから、本当はどんなものか、皆目かいもくわからん」

「言い伝えって、どんな言い伝えなんですか?」

「毒がある虫がおるじゃろ。毛虫とか、サソリとか、ムカデとか」

「はい」

「そういう虫をたくさん……確か、百匹じゃ。百匹集めてツボに入れる。
 そうすると虫が虫を食べて最後に一匹だけが生き残るのじゃ」

「それが蠱ですか?」

「そうじゃ。蠱には人を殺す力がある。
 蠱を作ったものが、蠱に向かって、誰かを殺すように呪うと、蠱が呪気じゅきを吐く。
 その呪気が人にりつくと、蠱病に罹るのじゃ」

「どうすれば治るんですか?」

「呪気は深部経絡しんぶけいらくに入り込む。
 それを見通すのが天眼てんがんじゃ。天眼が開けば、呪気が見える。
 そこに鍼を打って、瀉法しゃほうで抜き出す。
 そうすれば蠱病は治る」

「じゃあ、蠱病を治すには、天眼が開かないといけないんですね」

「その通りじゃ」

「どうやったら天眼が開くんですか」

「伸よ、史門がお前の体に定期的に鍼を打っていたのをおぼえておるな?」

「はい。毎年誕生日に打ってもらってました」

「史門の鍼はのう、健康管理という意味もあったが、もうひとつ、隠れた意味があったのじゃ。
 史門の鍼は開眼鍼かいげんしんと言うてな、天眼を開くための鍼だったのじゃ」

「そんな鍼術があるんですか?」

「史門は天眼を開く修業をするうちに、中国の古文書を手に入れた。
 そこには天眼を開く方法が記されておった。

 幼いうちから肝経かんけいという経脈に陽気を送り続けると、十年目に天眼が開くそうじゃ。
 ただし必ず開くわけではない。土地の気の助けが必要なのじゃ」

「と、言うことは、風水が関係あるんですね?」

「そうじゃ。この鍼灸院は龍脈りゅうみゃくの上にあった。
 お前は大きな陽気の流れの中で、天眼を開くはずじゃった。ところが、いつのまにか龍脈が枯れておる。
 そのせいで、いまだに天眼は開いておらんのじゃ。この時期を過ぎれば、天眼は永久に開かぬ」

「どうすればいいんですか?」

「気の流れを引き寄せるしかあるまい。そして待つのじゃ」

「どうやって気の流れを引き寄せるんですか?」

「それが問題じゃ。なぜ龍脈が枯れたのか、その原因がわからねば、気を引き寄せることもできぬ」

「そんなまどろっこしいこと、してるヒマありません。
 龍脈が通っているところに俺が行きますよ。そのほうが早いでしょう」

「それは素人考えじゃ。気には種類がある。天眼を開くための陽気は、特別なのじゃ。
 何年探しても見つかるものではない」

「じゃあ、どうすればいいんですか?
 このままじゃ、由香里ちゃんが死んじゃいますよ」

「先ずは龍脈が枯れた原因を探ることじゃ」

「由香里ちゃんはどうすれば?」
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