形だけの「男尊女卑」の異世界で「名ばかり奴隷主」として農家に婿入りした「幸せな」男の話

フーラー

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3 この世界の「奴隷ヒロイン」には生理周期がちゃんとある

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そして、その日の夜。


(これで準備はOKだな。スレィフ、生理前は荒れるからなあ……)


一般的に、男性向けのコンテンツに出る『奴隷ヒロイン』は生理前に心身の調子が悪くなるという描写はあまりない。……というより生理という描写自体がオミットされやすい。


だが、本作のヒロイン「スレィフ」は違う。
生理前になると大変機嫌が悪くなるし、肉体的にも不調を訴えることが多い。


(大変なのはこれからだけどな……)


この世界は『男尊女卑』を強要される世界だ。そのためややこしいのは、
「肉体的には現実世界の女性への対応、精神的にはその逆の対応」
を義務付けられることである。


「ただいま帰りました、ご主人様」

そんな風に考えていると、スレィフが帰ってきた。
疲れた顔をしており、紫音は思わず心配になる。

ここで、この世界でやってはいけない行為は、


「おかえり、今日もお疲れ様!」

とねぎらったり、笑顔を見せたりすることだ。
彼女に笑顔を向け、感謝の言葉を述べたい気持ちを必死で抑え、紫音は怒鳴りつける。


「遅くまで何やってたんだ、お前は! 私をイライラさせるな!」
「は、はい……すみません、ご主人様……」


『奴隷主は奴隷を虐げなければならない』という理由で、怒りたくもないのに怒鳴らないといけない。

そのため今日は、

『炎上商法を狙ったとしか思えない、女性側を無批判に持ち上げ、男性側の行動を過剰に誇張したうえで、悪者として一方的に糾弾する、出来の悪い三流エッセイ』

を日中に読み、イライラするようにしていたのである。



そして少し経った後、食事の時間となった(彼女の家では、朝食は家族全員で食べるが、夕食は離れで二人で食べるルールである)。


「ほら、餌だ。……あと、食後のデザートの分だけ胃を開けておけ」
「デザート? 楽しみです、ご主人様!」

生理前の心身の変化は女性によって異なるが、スレィフは甘いものが欲しくなるタイプだ。

さらに紫音は、暖かいハーブティーを用意し、平皿に注ぐ。
以前誤ってティーカップに注いだ紫音は『奴隷の扱い方がなってない』と、スレィフに殴られたからだ。


このハーブティーは先日、奴隷主の仲間に『生理前の女性に効果がある』と教わって、用意したものだ(当然、現実世界のハーブティーとは成分は異なる)。

この世界は女性が中心となって働くためか、生理前の不調に関するノウハウを男性側が多く所有している。


スレィフは、嬉しそうな表情で皿の上に注がれたハーブティーを犬のように舐めながら尋ねる。


「ところで、ご主人様、聞いてくださいますか? 今日会合でお年よりの方が私に言ったこと!」
「……ああ」
「あの方たち、酷いんです! 私は……」

そんな風に、仕事の愚痴をひたすら言ってくるスレィフ。

「……ああ。……うん……」


それを意図的に『聞き流すふり』をしないといけない。
『相手の目を見て、うんうんとうなづく』などもってのほかだ。

一番相手を不快にさせる方法は、スマホでゲームなどやりながら生返事をすることだが、この世界にスマホはない。

代わりに新聞を読みながら、紫音は彼女の話に耳を傾けたい気持ちを抑え、生返事を行う。
そしてひとしきり話した後に、スレィフは尋ねてきた。


「それで、どう思いますか、ご主人様?」


ここでも紫音は、「それは辛かったね」と労いたい気持ちを抑え込んだ。
『共感する』という行為は、彼女たちが一番嫌がる『思いやりのある行動』だからだ。

「お前が年寄りに頼らないから嫌な顔されたんだろ? 少しは頭を使うことだな」
「は、はい……ごめんなさい、ご主人様……」


そこで問題に対しては解決策を一方的に提示し、突き放す言動を取る。
どうやらそれが嬉しかったらしく、スレィフは謝りながらも笑みを見せていた。


「まあ、私だったらそうだな。過去に私が先輩に言われた時にはな? ……」


さらに「相手の悩み」を「自分の話」それも「自慢話」に話をすり替える。
相手の話をとことん聴こうとするような優しさを見せたら、やはり怒鳴られるためだ。

すると彼女は嬉しそうな表情を見せ、答える。


「そんな……ご主人様……酷いです……!」


どうやら、喜んでくれたようだった。
そんな彼女に、紫音は冷たいまなざしをして答える。

「風呂は湧いているから、とっとと湯あみを済ませて寝ろ」
「はい!」

彼女は基本的に、生理前には睡眠時間を多くとることを心がけているのは知っている。
「主人は奴隷よりも後に風呂に入っては行けない」というルールがあるため、すでに紫音は、いつもより早く風呂を済ませておいた。

そして少しした後、風呂場からは彼女の機嫌のよさそうな声が聞こえてきた。


「よし、なんとかなったか……」

……だが、向こうから声が聞こえてきた。

「ああ、そうだ、ご主人様。今度私たち奴隷の『品評会』があるので、準備お願いします!」
「……は?」
「料理は『手抜き』でいいですから簡単ですよね? 唐揚げとか餃子とか、そういうの『で』いいですので!」


……この『品評会』とは、要は『宅飲み』だ。


(ええ? ……はあ……面倒だなあ……)

その一言に、紫音はがっくりと肩を落とした。
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