美少女だと思って買った奴隷は、実は変身魔法をかけられた、キモくて金のないおっさんでした

フーラー

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本編(一話完結):『君がどんな姿でも、僕は君を好きだよ』って、寝言だろどうせ

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「つまり、あんたが昨日商人から買い取った奴隷少女『ミーナ』の正体ってわけか……」
「ええ、すいやせんね。正体がこんなあっしみてえな醜いおっさんで……」

みすぼらしい中年の男性『ミーゲル』は、目の前に居る勇者『アーマイル』に対して申し訳なさそうに頭を下げながら続けた。

「凶作でこさえた借金が返せなくってね……。そんで、奴隷商人はあっしに変身魔法をかけて、旦那を騙して売りつけたってわけなんすよ」
「なるほど……そういうことだったか」

そう神妙に頷く勇者アーマイル。
その様子を窓の外からニヤニヤと笑いながら覗くものがいた。


(ククク……さあ、どうする勇者様……?)

アーマイルに彼を売りつけた奴隷商人だ。
奴隷商人は変身魔法の達人でもあり、それを利用した商売を営んでいる。

その手口として、まず借金で首が回らず、また周囲からの助けも得られない債務者……大概はキモくて金のないおっさんだが……を安値で買いたたき、彼らを『薄幸そうな美少女』に魔法で変化させる。

そして自らも『いかにも悪そうな奴隷商』に変身したうえで、ターゲットの前で露骨にその『美少女』を痛めつける。

そうすると当然、そのターゲットはその『美少女』を自分が買い取ると提案してくる寸法だ。そこで高値をふっかけて暴利を貪ってきた。

……なお、彼らにかけられた変身魔法は、夜には解けてしまう。先ほどもミーゲルにかけた魔法が解けたところだ。


(さあ、汚い本性を見せてもらおうか、勇者様……? そのキモくて金のないおっさんになんて言葉をかける?)

今までの購入者はみな、直前までの紳士的な態度とは打って変わり、露骨に失望し、怒鳴り、冷たい言葉を投げかけてきた。

特に奴隷商人にとって傑作だったのは自称『優しい男』の冒険者だ。
彼は購入時、

『僕は君がどんな姿でも、大好きだよ!』
『僕、困った人を放っておけないんだ!』

など素敵な言葉を『少女』にほざいていたが、正体が分かった瞬間にその言葉を忘れ、口汚くその男を罵倒し、叩きだした。

そうやって善人ぶった購入者の化けの皮を剥がすのが、ドレッドにとっては愉悦であった。


(どうせ、あんたもそうなんだろう。博愛の騎士なんて言われてる勇者、アーマイル様?)

そう思いながら窓の中を覗き込むドレッド。

……だが、アーマイルは違った。
彼が一通りの話を聞き終わった後、大きな声を出して笑い始めたのだ。

「あはははは! まじか! ミーナの正体が、こんなおっさんだったなんてな!」
「あ、アーマイルの旦那?」
「うん、こういうのも面白いじゃんか! ……気に入った! 仲良くしようぜ、おっさん! そうだ、あんたは酒は行けるか?」
「え? そりゃ、あっしは好きですけど……いいんですかい?」
「ああ! 未成年の子が相手だと、飲めないからな。飲み友が出来たって思えば楽しいだろ? すぐとってくるから待ってなよ!」

(なに……!?)

アーマイルはそういうと、地下のセラーから高そうなワインを取り出すと、それを惜しげなくグラスにトクトクと注いだ。その所作には些かのためらいや失望もない。

「どうだい、おっさん? とっておきなんだよ、こいつはさ」
「旦那……旨いっすね、この酒は……」

今まで、こんな風に誰かに酒を振舞われた経験などないのだろう、ミーゲルは少し震えた手で嬉しそうに呟きながら酒を口にする。

「ハハ、だろ? 今夜はお近づきの印ってことでタップリ飲もうぜ?」

そういいながらも勇者アーマイルも楽しそうにワインを飲みながらミーゲルと談笑を始めた。

「けど……いいんですかい? あっしは見ての通り、不細工なおっさんなんすけど……」
「だからなんだよ。あんたが美少女だから助けたってわけじゃねえぞ、俺は?」
「あれ、そうなんすか?」
「何言ってんだ、当たり前だろ。むしろさ、俺はあんたがおっさんで、有難いって思ってるぜ?」
「え?」
「おっさんの体格ならさ。力仕事……うちの畑仕事も頼めそうだしな。頼りにしてるぜ? 賃金もタップリ弾むからさ!」
「……ええ、あっしに出来ることなら頑張りやす!」
「それにおっさん、住む家もないだろ? 当分の間はうちを使ってくれ。男二人だったら気も使わないから楽だしな」
「……はは、旦那みたいな人は初めてっすよ。あっしらのことをそんな風に『人間扱い』してくれたのは。……おっと、旦那。よかったら旦那も飲んでくだせえ」

そういうと、ミーゲルは嬉しそうにアーマイルが開けたグラスにワインを注いだ。

「おっと、ありがとな、おっさん。明日から頼むぞ?」
「任せてくんなせえ! 旦那には忠誠を誓うんで!」


(なに……? ……くそ、まさかこんなはずは……)

だが、そんな二人の酒盛りを見て、奴隷商人は歯噛みするような表情を見せた。
あの薄汚い外見のミーゲルを受け入れるアーマイルを見て、ある種の嫉妬のような感情が渦巻いたのだろう。拳を震わせながら呟いた。

「博愛の騎士の名は伊達じゃないということか……。だが、あいつがそれだけのお人好しというのなら……別の手で陥れてくれる。……楽しみにしていろ、アーマイル……」

そう呟いた後、奴隷商人はその場を後にした。




それから数か月後。

「久しぶりだな、ミーゲルのおっさん! 調子はどうだい?」
「あ、旦那! ええ、バッチリっすよ! ほら見てくだせえ!」

そういうと、ミーゲルは袋一杯に詰めた芋を自慢気に見せた。アーマイルは勇者という仕事柄、どうしても自身の持つ畑の手入れが出来ないため、ミーゲルに任せている。

「へえ……凄いじゃんか、おっさん! よくこんなに収穫できたな」
「へへ、旦那が喜んでくれるならお安い御用っすよ」

ミーゲルは元は農民だったこともあり、畑仕事は勇者のアーマイルよりも慣れている。そのこともあり、収量はアーマイル自身が畑いじりをしていた時より遥かに多かった。

「俺は戦うしか出来ないからな。助かるよ」
「それより、旦那のほうはどうっすか? えっと、ドラゴン退治でしたっけ? 噂じゃ、誰も引き受けない仕事だって聞きやしたけど……」
「ああ、バッチリだよ。報酬もタップリもらったからな!」

そういいながらアーマイルは自慢気に金貨が入った袋を見せた。……だが、その金貨の量は彼が受けていた仕事の量に見合わない程の少額だった。少し呆れたようにミーゲルは呟く。

「……タップリっすか。それ……ドラゴン退治でそれっぽっちじゃ誰も引き受けないわけっすよ」
「そうか? けどさ、廃村の爺さんたちもこれが精一杯だって言ってたからな。それに……」
「それに?」
「足りない分は、おっさんが稼いでくれるだろ? 頼りにしてるからな?」

そういいながら、誇らしげにミーゲルの肩を叩く。
人からこんな風に頼られるのは初めてだったのか、ミーゲルは少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに答える。

「ええ、任せてくんなせえ! なんでアーマイルの旦那は、今まで通りで居て下せえ! その分あっしが一年中、バリバリ働きやすから!」
「ああ、頼りにしてるからな!」

勇者アーマイルは『博愛の騎士』の通り名にあるように、困っている人の依頼であればどんな少額でも引き受けてしまう。

自分のようなキモいおっさんに対しても分け隔てなく接する、そんなお人好しなアーマイルを支える立場でありさえすれば、ミーゲルはそれで満足だった。


……だがこの日、二人の関係は大きく変化した。
その日の夜、アーマイルが自宅に一人の女性を連れてきたからだ。


「悪いな、おっさん。今日はちょっと紹介したい人がいるんだ」
「へえ。どんな人っすか?」
「ああ。実はさ……俺にも彼女が出来たんだよ」
「へえ……嘘っすよね? 旦那に彼女が?」

アーマイルはお人好しな性格だが、女性にはモテない。
剣の腕はそこそこだが、その博愛的な思想からいつも貧しい生活をしていることが原因だ。そのため、ミーゲルは少し驚いたような表情を見せた。

「へへ、ミーゲルも驚くよな? まあいいや、入ってくれ」
「ええ。……はじめまして、ミーゲルさん」

そういって入ってきたのは、美しいダークエルフの女性だった。

「へえ……綺麗な人っすね……」
それを見て、ミーゲルは一瞬驚いた表情を見せた後、目をきらりと光らせて尋ねる。

「と、ところで……名前はなんていうんすか?」
「エスターファといいます。宜しくお願いします!」

そういうと、にっこりと笑った後にぺこりと頭を下げるエスターファ。それに対してミーゲルもニヤニヤと笑顔を向けながら挨拶をする。

「うへ、へへへ……宜しくっす……」

すると彼女は、挨拶を返されたことに少し驚いたような表情を見せた。

「あれ、ミーゲルさんも私にも優しく接してくれるんですね」
「当たり前だろ? おっさんは種族で相手を差別したりしねえよ」
「えへへ、嬉しいです……ミーゲルさん、仲良くしてくださいね?」
「あ、は、はい……」

そうニコニコと笑いかけながら手をぎゅっと握ってきたエスターファ。
ミーゲルはドギマギしながらも不思議そうに尋ねる。

「え、ええ……ところで旦那。差別ってどういうことっすか?」
「ああ。ダークエルフは『汚れた種族』ってことで差別を受けやすいらしくってさ。それでエスターファも……」
「ええ。100年以上差別されてきたんです……」
「100年も!?」
「ええ……ですけど……」

そういいながら、エスターファはアーマイルの腕をギュっと掴む。アーマイルは思わず顔がほころんだ。

「アーマイルさんだけは差別しないで、私を一人の女の子として扱ってくれたんです……。だから、彼の傍に一生置いてほしいって思ったんですよ……」
「そうだったんすね……」

そういうと、エスターファは哀しそうな表情を見せるのをミーゲルは無表情で見つめた。すると空気が悪くなったのを察したのか、エスターファは立ち上がり台所に向かった。

「す、すみません、変な話しちゃって! ……よかったら晩御飯を食べてってください! すぐ作りますから!」
「エスターファさんが? あっしのために?」
「ええ! こう見えてあたし、料理は得意なんですよ!!」

そう得意げな顔でエスターファは腕まくりをして見せた。

「そうそう! おっさんも食ってきなよ! エスターファの飯は最高だからさ!」
「そ、そんな……ハードル上げないでください、アーマイル!」
「はは……ならお詫びに、俺も一緒に作るよ。おっさんはそこで待っててくれ」
「え、ええ」


そして数十分後。
ミーゲルは二人が作ってくれた沢山の料理を食べ、満足そうに腹をさすっていた。


「ふう、最高でしたね……ありがとうございやす、エスターファさん」
「フフ、ありがとうございます」
「いい喰いっぷりだったな、おっさん。それじゃ俺、皿を片付けておくよ」

そういうと、勇者アーマイルは台所に皿を持っていった。
彼がカチャカチャと皿を洗う音を聞きながら、エスターファは嬉しそうにミーゲルに呟く。

「フフ、ミーゲルさんとお話しするのって、本当に楽しいですね?」
「そ、そうっすか?」
「ええ。こんなに楽しい夜は初めてです……。今まで、みんな私のことなんて汚いものみたいな扱いをしてきましたから……こんな夜がずっと続けばいいのにな……」

そういいながら遠い目をして笑顔を見せるエスターファ。
それを見てミーゲルはぽつり呟く。


「エスターファさん……。あんたは、やっぱり理想の……っすね」
「え?」

だが、そこまでいったところでエスターファが怪訝な表情を見せたので、思わずミーゲルは口をつぐむ。

「あ、いえ……なんでもないっす。……それよりエスターファさんはまだアーマイルの旦那とは一緒に住まないんすよね?」
「ええ。私の家にはまだ妹が居ますから……」
「妹っすか……」
「そうなんです。凄い可愛いんですよ! 同じダークエルフですから!」
「へえ……そりゃ、ますます理想的な……ゴホン!」

それを聞いて、ミーゲルはにんまりと笑みを浮かべた。

「それなら……あっしにも住所を教えてくれやすか? 手紙をお二人に書きたいんで」
「え? ……別にいいですけど……」


そしてエスターファは連絡先を交換した。
……後に彼女は、これを後悔することになるのだが。




それから数カ月が経過した。

「おい、おっさん!」
「なんすか、旦那?」
「なんすかじゃねえよ! あんた、随分やってくれたな!」

ミーゲルの家に乗り込んだ勇者アーマイルの表情は、怒りと失望にまみれた様子だった。
彼は懐から数枚の手紙を取り出し、それをバン! とテーブルにたたきつけた。


「なんだよ、この手紙は!」
「何って……恋人候補に捧げた手紙っすよ? どうかしたんすか?」
「どうかした……だと!? ふざけんなよ!」

その手紙の一部を抜粋すると、こんなものだった。

「やあ、久しぶリ! エスターファちゃんは元気カナ? おぢさんはさ、すっごく元気! 君とこないだ食べたシチューさ、また食べたいな! ナンチャッテ!」

……気持ち悪い文体……いわゆる『おじさん構文』というものだろう……が、何ページにも渡って続いていた。


「あんた、何のつもりでこんな手紙を書いたんだよ!」
「へへ、いい内容じゃないっすか? これならエスターファちゃんと妹ちゃんが喜ぶかって思ったんすよ」

そう悪びれもせずに答えるミーゲルに対して、ますますアーマイルは怒りの表情を見せた。

「これを喜ぶ奴なんて居ると思ってんのかよ! おっさんが女の子にアプローチするだけで気持ち悪いってこと、分かんねえのかよ!」
「そうっすかねえ……。けど、普通に歳の差婚なんていくらでもありやすよね? なら、あっしも行けると思うんすけどねえ……」
「はあ……おっさんがそんな奴だったとはな……」


まだ言い足りない様子ではあったが、アーマイルは話を続けることにした。


「それにさ、あんた勝手にエスターファの家にいったって話も聞いたぜ?」
「え、それが行けなかったんすか?」
「当たり前だろ! あんたみたいなおっさんが勝手に突撃したら怖いだろ!」

それを聞いて、ミーゲルはきょとんとした表情を見せた。

「あれ? けど言ってやしたよ? エスターファちゃんもこないだ、あっしと話をするのが楽しいって……。だから、喜んでくれると思ったんすけどね……」
「な訳ないだろ! んなの、社交辞令に決まってんだろ?」
「ふうん……」

だが、ミーゲルはアーマイルを少し見下すような表情を見せた後に、ぽつりと呟く。


「旦那は……勘違いしてやすよ。エスターファちゃんは、本当はあっしの方が好きだったって……分かりやせんか?」


その言葉に、思わず言葉を失うアーマイル。

「なに……?」
「こないだの飲み会の時、ずっとあっしの方を見てたじゃないっすか? ……いくら旦那がモテないからって、あっしに嫉妬すんのはみっともないっすよ?」
「ざけんな! んなわけないだろ!」

激昂しながらバン! とテーブルを叩くアーマイルに対して、ミーゲルは冷静に答える。

「はあ……。まあいいっすよ。それでエスターファちゃんとはどうなったんすか?」
「別れたよ……。というより、こないだ家に行ったら置き手紙だけ残して引っ越してたんだよ!」
「へえ、どこに引っ越したんすか? 妹ちゃんだけでも会いたいんすけどね。一度も会わせてもらえなかったわけですし……」

そうニヤニヤと笑みを浮かべるミーゲルに対して、アーマイルは心底から失望した様子を見せて答える。

「……もういい、おっさん。……あんたは本当にただの『キモくて金のないおっさん』だったんだな……友達になれると思った俺がバカだったよ」
「心外っすね。あっしにそんなことを言うなんて……そんなにいうなら、あっしはもう畑をやりやせんよ? いいんすか?」

近くにあった鍬を見せつけるミーゲルに対して、アーマイルはぽつりと呟く。

「ああ、それでいい。……もう、うちの畑には二度と入るな。……というか、二度と俺の前に姿を見せるな」
「え?」
「畑は別の奴にやってもらえばいい。……ただ、あんたの顔はもう見たくない。俺がブチ切れる前に出ていけ!」
「……ええ、そうさせてもらいやす。今までお世話になりやした」


そういうと、ミーゲルは立ち上がると黙って家を出ていった。




そして、さらに数か月後。
元奴隷のミーゲルは、隣町にある鉱山で労働を済ませた後、行きつけのパブでエールを煽っていた。

「ふう……旦那は……元気にしていやすかね……」

そう呟きながら、前の客が残したであろう新聞をチラリと見つめた。だが、文字が読めないミーゲルは挿絵だけ見て薄笑いを浮かべた。
そして二杯目を注文しようとしたところで、入り口で大きな音が聞こえた。


「おっさん!」

勇者アーマイルだ。
酷く慌てたようでミーゲルの前に歩み寄ると、深々と頭を下げた。


「……悪かった! この通り、許してくれ!」
「え? どうしたんすか、急に。顔をあげてつかあさい」

そういうとアーマイルは頭を下げて答える。

「……あんた、わざとエスターファにあんなおかしな『おぢアタック』をしたんだろ?」
「ん? 何のことっすか? あっしはただあの女を好きだったから声かけをしただけっすけど?」

とぼけようとするミーゲルの前に、彼が持っていた新聞を指さしてアーマイルは答えた。


「嘘つくなよ! その新聞の記事に書いてあるんだよ! 『奴隷商人にして結婚詐欺師エスターファ、処刑される!』ってな!」
「あら、そうなんすか?」
「その記事に書いてあるんだよ! 今から読むから、聞いてくれ」

そういうとアーマイルは文章を読み上げた。
それによると、ダークエルフのエスターファは日頃より奴隷商人に変身し、中年男性を美少女に変身させて高額で売りつける詐欺行為を働いていたということ。

そして時には、自身の容姿を活かして冒険者のもとに『可哀そうな美少女』として取り入り、そして金品をだまし取る行為を働いていたということ。

先日それが遂に白日の下に晒され、処刑されたという話だ。

「やっぱりそうっだったんすね……」
「やっぱりってことは、知ってたんだろ? あの女が詐欺師だったって! 正直に教えてくれ!」

そう落ち着いた口調で答えるミーゲルにアーマイルは詰め寄る。それを見て、ミーゲルは軽くため息を着いた後、


「……確信はなかったんすけどね……」
「どうしてわかったんだ?」

そう尋ねると、ミーゲルは落ち着いた口調で答える。

「……あの子が『理想の弱者』過ぎたからっす」
「どういうことだ?」
「あの子が差別されていた話を聞いて、旦那はあの子を『助けてあげたい』って思ったんすよね?」
「そりゃそうだろ! だって100年も酷い目に会ってきたんだから、あいつは!」
「そうっすよね。けど100年の間『旦那と同じことを思う人が一人もいなかった』と考える方がおかしいんすよ」
「あ……」

それを聞いて、少し驚いたような表情を見せるアーマイル。
ミーゲルは淡々と続けた。

「あんだけ可愛くて若くて、しかも若い時間が長いダークエルフのことを男が愛さないわけないんす。しかも料理も得意で性格も素直と来たもんだ。『自分が助けたい相手は、他の誰かも助けたい』って考えるべきなんすよ」
「そうか……。そりゃ、確かにな……」

そもそも奴隷少女を助ける『お優しい主人公』には、多くの読者が共感する。
それは裏を返せば『可哀そうな奴隷に手を差し伸べたい人』は少数派ではなく、多数派だということにもなる。


「なにより、それだけ差別されてきた娘っ子が、一度助けてもらったくらいで感激して恋愛感情を抱くこと自体、おかしいんす。そんな美少女は文字通りの『理想の弱者』なのか、或いは……」
「俺を騙そうとしていたってことか……」

力なく答えるアーマイルに対してミーゲルは頷く。

「ええ。もしあの子がもう少し利己的な……もっと言えばあっしを侮蔑するような目を向けてれば、彼女を疑うことはありやせんでしたよ」

『キモくて金のないおっさん』だったミーゲルは、自身に対して『女性から分け隔てなく接してもらえる』こと自体が稀だからこそ、逆にエスターファを疑った。
そのことを理解したアーマイルは、納得したように頷いた。

「なるほどな……。よくわかったよ。じゃあ、家に突撃したのも……」
「ええ、もう彼女に本当に妹が居るか、確認したかったんす。……予想通り妹の代わりに居たのは、彼氏さんだったんすけどね。無論ダークエルフのね」
「そうか……人間の俺は……ダークエルフから見るとただの『カモ』だったってことか……」


この世界の人間は無意識のうちに『自分は無条件でどの種族からも好かれる』と思い込んでしまう傾向がある。これは『人間を楽しませるため』に書かれているフィクションがアーマイルの世界にも多いからだ。


「ええ。はっきりいって、エスターファさんとの恋愛はあまりに旦那側にメリットがありすぎたんす。だから怪しんだってわけっす……すいやせんね、夢を壊しちまって」
「いや、悪いのは俺の方だよ。……それなのに俺はあんたを追い出しちまうなんてな……」

そう涙を流すアーマイルの頬をミーゲルはハンカチでそっとぬぐいながら答える。

「気にせんでつかあさい。あっしは嫌われるのは慣れてるんすから。けど、そのおかげで旦那を助けられたんすから、良かったっすよ。……ハハ、嫌われ者って立場も時には役に立つって事っすね」
「けど……」

それでも頭を上げないアーマイルを見て少し考える表情を見せた後、ミーゲルは薄笑いを浮かべながら答える。


「そういや、旦那。あっしは日雇いの仕事を今日までやってたんすけど……明日からは無職なんす」
「え?」
「だから、悪いと思うんなら、また良かったらまた雇っていただけやすか? そんで、今日の酒代も払っていただければ……お互い、元通りになりやしょうよ」

そういわれて、アーマイルは顔を上げ、そして店中の客に聞こえるような大声で答える。


「ああ! ……悪かった、おっさん! ……そうだ、今日はみんな奢るから、好きなだけ飲んでくれ!」
「おおおおおお! いいのかよ!」
「マジか、ラッキー!」

その声とともに、その日酒場ではどんちゃん騒ぎが行われた。



……それから数カ月後。


「旦那、うまくいくといいっすね」
「あ、ああ。……どうかな、この格好は?」
「バッチリっすよ」

アーマイルは先日行った飲み会の時に多くの鉱夫と知り合った。その際に出会った男性に『娘とお見合いをしないか』と言われたのである。
慣れない礼服に身を包んだアーマイルは恥ずかしそうにミーゲルに尋ねる。

その女性は種族が人間であり、肖像画では優しそうだがあまりパッとしない相貌だった。
だが、ミーゲルは相手を外見で判断するタイプではない。そのこともあり、快く了承した。

また、その男性はミーゲルもよく知っている相手であったこともあり、今度は詐欺の心配がないとも裏が取れている。


「けど、正直俺と会ってくれるなんて信じられないな……」

今まで博愛主義者な性格が災いしてモテなかったアーマイルだったが、ミーゲルはニヤニヤと笑いながら首を振る。

「旦那は優しすぎるところがあってモテなかったすけど……。お見合いの場なら、それは強みっすよ」
「そうか?」
「ええ。誰もが恋愛に刺激を求めるわけじゃないんすからね。……それに旦那はあっしの自慢のご主人っす。自信を持ってつかあさい」
「……ああ。行ってくる。楽しんでもらえるといいけどな」

そういうと、まるで冒険の場に赴くような表情でアーマイルは家を出た。
その様子を見ながら、ミーゲルはぽつりと呟く。


「現実の恋愛には不幸な子を助けて惚れられる、そういう『一発逆転』は、まずありやせん。……順当に彼女を楽しませて信頼関係を作ることを大事にしてくださいね、旦那。……旦那があっしにしてくれたみたいにね……」


そして鍬を手に取り、農作業に戻っていった。
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