人口比率が『エルフ80%、人間1%』の世界に、 チート能力もなしで転移した俺が「勇者」と呼ばれるまで

フーラー

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第2章 弓士団としての初仕事

人間の持つ「人道」

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エルフの頭領が崩れ落ちた時、周囲に山賊の気配はなくなっていた。
(急げ、まだ間に合うはずだ!)
めらめらと燃え盛る馬車の中に、セドナは飛び込んだ。

「これは、ひどいな……」
馬車の中は煙が充満しており、視界は最悪の状態だった。だが、馬車自体はさほど大きくないため、すぐにロナ達を発見することが出来た。
二人はまだ意識が戻っていないようだった。
「まずいな、煙を吸ってないか……?」
セドナの腕力では二人を同時に救助することが出来ないため、炎に近いロナを先に救助するべく、担ぎ上げた。
「急げ、急がないと……」
少し離れたところにロナをそっと下ろすと、セドナは二人目のドワーフの救助を開始した。
炎は先ほどよりも強く燃え盛っている。また、ロナよりも体の大きいドワーフはセドナの腕力では引きずるのがやっとだった。
「……ふう……危なかった……」
それでもセドナはドワーフを何とか馬車から下ろすことに成功した。
だが、すでに馬車の炎は激しさを増し、近づくことは出来そうになかった。
また、捕縛する余裕がなかったこともあり、山賊たちはすでに姿を消していた。
(こりゃ、もうだめだな……。積み荷は、あきらめないとな……)
そう思った矢先、馬車がガラガラと崩れ落ち始めた。
距離から察するに、森林への延焼はなさそうだ。そう思ったセドナはロナ達の介抱を始めた。

「う……ん、セドナ副隊長ですかい?」
「良かった、気が付いたか!」
ロナと一緒に居たドワーフの隊員は、その後すぐに目を覚ました。
幸い、煙を吸い込んではいなかったようだ。
「ひょっとして……あたし達、魔法を食らってたの……?」
同時に、馬車の中に居た部下たちも目を覚ましたようだった。
隊員たちがふらふらとしながら外に出てきた。
「うわああ!」
先頭の馬車からチャロの悲鳴とともに、バキッ……と何かを叩く音がした。
「いってええ!何すんだよ、いきなり!」
「だって、目を開けたらキミの顔が目の前にあったからさ!そりゃびっくりするよ!」
「いや、だからって叩くことねーだろ?……ったく……」
腫れた顔をさすりながら、リオがチャロと一緒に馬車から降りてきた。
「ああ、みんなも起きたか。あとは、ロナ隊長だけか……」
「う……ん? あれ?」
そう言っている間に、ロナは目が覚めたようだ。
「おお、よかった、隊長!」
うっかり『体調はどうだ?』と言おうとしてしまったが、その言葉を飲み込み、セドナは尋ねた。
「……体の調子は大丈夫か?」
「ええ。まだ、少し眠いけど……。あ、馬車が……」
目の前で燃え尽きようとしている馬車を見て、状況は理解したようだ。
「ひょっとして、山賊に襲われたの……?」
ロナはゆっくりと立ち上がりながら、あたりを見回した。
「ああ、そうだ」
そして、セドナは各隊員に山賊が出たときの様子を説明した。
「じゃあ、セドナ副隊長が一人で全員撃退したってことですかい?」
「え?あ、ああ。まあ、ハッタリが効いたみたいでな、ハハハ……」
この世界では『転移物』は貴重品だ。
あまり『転移物』を所持していることは知られたくはない。そう思ったセドナはその部分だけうまくごまかし、素手によって撃退したと説明した。
幸いと言うべきか、山賊たちはロナの救出中に全員森に逃げ込んだらしく、その時の状況を説明できるものはいなかった。
「やっぱ、セドナは凄いわね。ドワーフたちまで倒すなんて」
「良かったら今度お礼にお酒でも飲まない?」
「もちろん、お邪魔虫……じゃない、チャロちゃんはお留守番で、ね?」
サキュバス3人組はここぞとばかりにモーションをかけてくるが、セドナは相手にしなかった。
「全員無事だったのはセドナのおかげなのね。けど……積み荷は回収できなかったのね……」
なぜか少し安堵したような口調で、ロナはつぶやいた。
馬車はすでに燃えカスしか残っていない。残骸をあさってみたが、他の物品は勿論のこと、宝飾品すら跡形もなく消え去ってしまっていた。
「にしても、ひどいな、あの山賊!よりにもよって、一番大事な馬車を燃やすなんて!」
「けど、しょうがないよ。それより、みんなが無事だっただけでも良かったよ」
憤るチャロに対してセドナはニコリ、と笑った。その様子を見て、ロナは不思議そうに首をかしげる。
「けど……。セドナは、なんで私を助けたの?」
「え?なんでって……。逆になんで助けないと思うんだよ?」
「はっきり言うわ。私とあなたの立場が逆だったら、私は、そこのバカは嫌いだから助けなかったわ」
「バカはあんたの方だろ!っていうか、それひどくない?」
チャロは大声で叫びながら突っかかった。
「だって、あなたより姫様に渡す宝飾品の方が大事だもの。……あなたは、私たちエルフが憎くないの?」
「え? ……んなわけないじゃん。俺はみんなのことが好きだけど……」
「みんな、ね……」
平然とそう言い放つセドナにチャロは顔を赤らめながらも、若干嫉妬が混じった様子で歯ぎしりをした。
「……そう。後、あなたには話したけど、私には恋人がいるのは覚えてる?」
「そりゃ、昨日のことだからな。忘れるわけないよ」
「だから、あなたが私の命を助けても、私はあなたとは付き合えないわよ?」
「そんなの知ってるよ。で、それがどうしたんだ?」
「だから、あなたが私を助けても得することはないでしょ? だからなんでかなって思ったのよ」

「得とか損とか言われてもな……。人道的に考えて、人命優先なのは当然だろ?」

「人道?」
その発言に、ロナは首を傾げた。
これはチャロ以外のすべての隊員も同様だった。ロナと一緒に居たドワーフが口をはさむ。
「ジンドーってなんですかい? 美味いんですか、それ? ……いや、食い物じゃないっすね……」
少し考えた後に、ドワーフは続けた。
「話の流れから考えっと……。人間が先天的、あるいは後天的に所有する、価値観の根幹を構成する普遍的なイデオロギーの一種ですかい?」
べらんめえな口調とは裏腹に、ドワーフの知識は豊富だ。
鍛冶屋という職業柄、お偉いさんとも会話をする機会が多いこともあり、教養を身に着ける必要があるためだろう。
セドナは若干戸惑いながらも、そうだ、と答えた。
「そこが人間のおかしなところよね」
ロナはそれを聞き、はあ、とため息をつく。
「そりゃ、好きな人だったりお礼がもらえたりする人なら、私も助けるわよ。……けど、赤の他人や……ましてや、敵兵士や自分の嫌いな相手の命でも、人間は助けようとするでしょ?人間のそういうところって、理解できないわ」
「けど、そう言うわけの分かんないとこ、俺は好きだぜ? ロナ隊長も、本当は嬉しいんじゃないですか?」
リオはあっけらかんとした様子で答えたが、ロナは首を振った。
「……助けてくれたことは、お礼を言うわ。けど私は……あなたたちのそういうところが……嫌いなのよ……」
そう、最後は消えるような声でつぶやいた。その様子をみて、これ以上言及することを止めることにした。
「ま、まあ……。とにかく、だ。残った積み荷だけでも早く国に持ち帰ろう、な?」
「そうね……」
ロナ達は馬車の残骸を片付けると、故郷に向けて馬車を走らせた。
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