人口比率が『エルフ80%、人間1%』の世界に、 チート能力もなしで転移した俺が「勇者」と呼ばれるまで

フーラー

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第3章 ディエラ帝国への潜入調査

突然の除隊通知

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それから2ヶ月ほど経過した。
セドナ達はしばらく、城門付近の警護、並びに街のパトロールに勤務時間を割いていた。
また、山賊は数日前についに補足され、捕縛したとの情報が入っている。
そんなある日。
「チャロ、リオ。悪いけど仕事が終わったら、セドナと一緒に謁見室に来てくれる?」
ロナに、そう呼び出された。
「え? わかった」
「お、ついに俺の実力が認められたってことだな?」
リオは嬉しそうにガッツポーズを見せるのを見て、チャロは呆れた。
「ほんっと、キミはおめでたいね……」
「にしても、今日は機嫌良いな。どうしたんだよ?」
「ああ、実はな!」
よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりにリオはセドナに手紙を見せた。
「この間諸侯の領地で知り合ったレディの話はしたよな?」
「ああ、ドワーフの女性のことだっけ?」
「実は、あの方に手紙を送ってたんだけどさ、返事が返ってきたんだよ!」
「へえ、と言うか、連絡先の交換していたんだね」
「まあな。でさ、この間のパーティでおっさん達から教わったことを書いてみたらさ!『少しは私の言ったことが理解できたんだね』って言ってもらえたんだよ!」
「うそでしょ?キミがそんな、女性を喜ばせることが出来るなんて……きっと、送り先を間違えたんだよ……」
ワザとらしく、信じられないものを見るような目をリオに向けるチャロ。だが、浮かれ切ったリオはその皮肉も意に介することはない。
「で、今度あの国に行ったら、デートしてくれるってさ! これもセドナのおかげだよ!」
胸を拳でドン、と叩きながらリオはセドナにお礼を言う。
「良かったな、リオ。その人と仲良くやれるなら、俺も嬉しいよ」
「お前なら、そう言ってくれると思ったぜ! ……いつか、礼はするよ」
「それなら、まずは報告書をちゃんと書けるようになんなよ? あの女、いつも愚痴ってるじゃん」
「ちぇっ。わーってるよ。それじゃ、後でな」
あの女、とは勿論ロナのことだ。リオは苦笑しながらも、手紙を大事にしまいながら持ち場に戻っていった。

それから少し経って、謁見室にセドナ達は集まった。
「ロナ隊長、セドナ副隊長。よく来てくれたわね」
ルチル王女は、相変わらず気品を持ったたたずまいで、跪くセドナ達を見下ろしていた。
相変わらず側近たちは『また来たのか、あの人間』『しかも今日は、もう一人来ているのね……』など失礼なことを言っているが、セドナ達は聞こえないふりをすることにした。
「ああ、ルチル王女様……」
リオは崇拝じみた恋愛感情を込めた目で、ルチル王女のことをじっと見つめていた。
この調子では、王女の話す内容など耳に入らないだろう、セドナは半ば呆れたようにリオを見やった。
「さて、あなた達4人にお伝えすることがあります」
そう言うと、ルチルは一枚の書状を取り出した。
「……あなたたちは本日をもって、我が弓士隊を除隊いたします」
「……え?」
その発言に、チャロとリオは唖然とした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!どうして、俺たちが除隊しなきゃいけないんだ!確かに、勤務中にちょっと居眠りやサボりはあったかもしれないけどよ……」
「そうだよ!それにセドナとロナまで除隊ってどういうこと?」
「落ち着け、二人とも」
だが、それを制したのはセドナだった。
「そうね……。除隊の理由は、セドナから聞いた方が良いわよね」
「はい」
そうして、セドナはことの経緯を話し始めた。

実は、以前積み荷の件を報告した際に、セドナとはこのようなやり取りがあった。
「このバッジがどうしたというのです?」
「このバッジを山賊の、それも頭領が持つということは……。あの者たちはディエラ帝国の息がかかったもの、と言う可能性があります」
「ディエラ帝国の息が? そんなことをして、何の利益があるというのです?」
ルチル王女は話が見えない、という表情でセドナを見やった。
「以前俺の居た世界……いえ、俺の居た国では『私掠(しりゃく)船(せん)』という文化がありました」
「私掠船?なんですの、それは?」
「簡単に言いますと、自国の許可を得て、他国の船を襲い、積み荷を略奪する海賊たちのことです。……これと同じことをディエラ帝国がしている可能性は、ありませんか?」
「ふむ……確かに……」
少し逡巡したのちに、ルチル王女は思い出すように口にした。
「ここ最近、山賊の被害は増す一方ですわね……。その割に、私の国以外の被害報告は極端に少ない……。つまり……」
「ええ、隣国が意図的に『我々の国の通商破壊』を行っているのでは、と思うのです」
「通商破壊?」
「はい。先日諸侯の領地に行きましたが、どこもレストランは開いており、食糧危機の雰囲気など微塵もありませんでした。ここ最近の食料不足の原因も、本当は飢饉ではなく……」
「通商破壊が原因、と言うの?」
「何言ってるの?証拠はあるの?」
側近たちが口をはさむのを見越したように、セドナはここ数日の新聞を取り出した。これは、謁見の前に集めていたものだ。
「ここ最近の記事ですが……『昨今の食料不足は飢饉が原因だ』と言う記事情報を読みましたが、その調査結果の出所は、不自然なまでにディエラ帝国の新聞記者に偏っていました。逆に、不自然なほど山賊被害に関する記事は少ない。……偶然にしては出来すぎではないですか?」
「何言ってるの?そんなの偶然じゃないの?」
「そうよ!そもそも、なんでそんなことをする必要があるの?ディエラ帝国が戦争を考えているとでも言うの?」
側近たちは相変わらず口やかましい。
だが、仮に山賊たちがディエラ帝国の息がかかっていたとしても、その動機について把握できていないことも事実である。
「そこで、それが偶然かどうかを調査する機会を我々に与えてくれませんか?」
「そう……。つまり、意図的な通商破壊を行っている証拠を明るみにすれば……食料不足の問題を解決できる、ということ?」
「彼我の国力に大きな差はありません。ですが、通商破壊の情報を喧伝すれば、周辺国も利害を考え我々についてくれるはずです。そうすれば……」
「戦争になっても、我々が勝利出来る、と言うわけですね」
ふん、と笑うルチル王女に、セドナは首を振った。
「……ですが、戦争だけは絶対に避けないといけません。なので、実際には証拠をつかみ、それをネタに隣国に対し私掠船の停止と賠償請求をする……と言ったところが落としどころになるでしょう」
「なるほど……あなたたちがディエラ帝国にスパイとして入り込むってことなのね?」
「はい。ただ、その際は一時的に俺たちを除隊してください。万が一失敗したら、あなた方に迷惑が及ぶので……」
その提案に賛成したのは、意外なことに周辺の側近だった。
「良いじゃない、そのアイデア!」
「そうです!あの人間どももそう言っていますし、どうでしょう?」
仮に成功すれば、食糧問題が解決する。
失敗したとしても、大嫌いな人間が命を落とすだけであり、どちらに転んでもエルフ……とりわけ、側近たちに損害はない。
(『嫌い』の感情だって、価値観の一つだ。受け入れれば、なんだって力になるんだよな……)
セドナは心の中でそうつぶやく。
『自分を嫌っている人間は、失敗の確率の高いギャンブルの後押しをする』と言うことを見越し、この提案を行っていたのだ。
「……分かりました。それでは、調査を許可します。日時は追って伝えます」

「……と言うことなんだよ」
話を聴いて、チャロ達はほっとしたように肩を落とした。
「なーんだ、そう言うことだったんだな」
「除隊されるのは分かったけど、その間の給料はどうなるの?」
「それは、ね」
そう言うと、王女は側近に持たせていた紙幣の束をドサッと渡した。
「おそらく調査は2週間ほどかかるでしょう。その間の諜報活動と合わせて、まとめて今お渡ししますわ」
その束を見て、チャロは言葉を失った。
「うわ……こんなにもらえるの?」
「これなら、今度限定モデルのあのマントを買うことが……」
思わず口を滑らせたリオだったが、それを側近はぴしゃり、と怒鳴りつける。
「何言ってるの?これは、あくまでも諜報用の費用よ!あなたたちの個人的な買い物のためではありません!」
「アハハ……だよな……」
流石に今のは自分が悪いとわかったのか、リオはバツが悪そうに頭を下げた。
「とにかく、明日から隣国に調査に行ってもらいます。もちろん、戻ってきたらあなた方を弓士団に再雇用いたしますので、心配はいりませんわ」
「ま、生きて帰ってこれたら、ですけどね」
側近の皮肉に少し腹を立てたようだが、チャロは我慢して、
「……は、分かりました」
とだけ答えた。
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