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エピローグ 身体がなくても心があれば、人は祈りを捧げられる
エピローグ2 その両手を合わせることはできないけれど
「……はい、おしまい。……後5分経ったら、あなたと私は、恋人じゃなくなるから」
廃兵院の一室で、オルティーナは下着を身に着けながら、兵士に対してそうつぶやく。
兵士の年齢は恐らく成人して間もないのだろう、顔に幼さが残る。
……この兵士とオルティーナは、つい先ほどまで身体を重ねていたのは言うまでもない。
「……う……う……」
その兵士はそう涙を流していた。
オルティーナは、はだけた彼の服を着させながら尋ねる。
「どうしたの、泣いちゃって……そんなに、私に抱いてもらえたのが嬉しいの?」
その兵士は、嗚咽交じりにうなづく。
「……当たり前ですよ……。俺は……小さい時に親に『いらない子』として軍役に入れられて、恋愛どころか生きるだけで精一杯で……」
「……うん……」
「挙句戦争で、こんな体になっちまって……恋人も持てず、所帯も持てず、誰にも愛してもらえないまま、ここで独りで死んでいくと思っていたから……」
オルティーナは彼の服のボタンを一番上まで閉めた。
……その兵士には両腕が存在しないため、自力で服を着れないからだ。
「まったく。……別に私はあなたを愛してはいないよ? ……あなたと『恋人』になったのは、建前上のものだからさ。……だから、その……ごめんね?」
そうは言うが、オルティーナの口調は突き放すものではなく、どこか憐憫をこめた口調だった。
そんな彼女に兵士は、首を振りながら答える。
「たとえそうでも……俺は、戦場で死なないで……今生きていて……良かったって思います……から……」
「はいはい……ほら、涙出てる」
そういう兵士の涙をオルティーナはハンカチで拭いてやる。
彼らは聖ジャルダン国との戦で負傷した兵士たちだ。
オルティーナはこの廃兵院で、手足を失ったラウルド共和国の兵達に対して、順番に性奉仕……つまり性奴隷として死ぬまで働くようにラジーナから命令を受けている。
事実、一日当たりの割り当て人数も5人(1人頭2時間なので、休憩を除くと10時間労働となる)と『慰み者』と呼ばれるにふさわしい数だ。……それだけ、先の戦争で手足を失った兵士が多いという意味でもあるが。
なお、彼女は聖ジャルダン国では聖女として知られていたが、ラウルド共和国の国民が彼女の顔を知っているわけがないので、正体はバレていない。
「まったく……こんな嘘の愛でも嬉しいのね、あんたたちは……」
「ええ……嘘でも、偽物でも……誰かに受け入れてもらう喜びは……分かる人にしか分かりませんよ……」
因みにこの国では売春は禁止されていることもあり、
「2時間だけ相手の兵士と恋人になり、そして時間が来たら別れる」
という形式で彼らを抱いている。
「……まだ、5分あるか……」
そしてオルティーナは、その涙を流す兵士に対してぎゅっと抱きしめる。
「え……?」
「まだ5分だけ……私とあなたは恋人でしょ? ……だから……もうちょっとだけハグしてあげる……」
「……いいんですか?」
「うん。……だからさ」
そして軽いキスを頬にした後、
「頑張って生きてね?」
そうオルティーナは笑顔を見せて、つぶやく。
そして時間が来た後に、彼女はそっと手を離す。
兵士はそんな彼女に対して、
「ありがとう……。あなたは、本当に聖女様みたいだ……ありがとう……」
そんな風につぶやいていた。
その肩は小さくすぼめており……手がない腕を合わせるようにして、祈りを捧げていた。
そして廃兵院から出た後、ラジーナはそこにいた。
「お疲れ様、オルティーナ」
「本当に疲れたよ……。けど……まさか私が今更『聖女様』なんて言われるとはね……。しかも敵国の兵士からってのも驚きだけど」
「彼らをあんなにしたのは……私とあなたみたいなものなんですけどね」
そうオルティーナは自らの罪を悔悟するようにつぶやいた後、オルティーナに対して、失った指を見せつけながら、憎しみをこめて『冷血の淑女』の目をする。
「あなたは『兵士たちの慰み者になってもいい』と言ったから、こうやったまで。私はあなたの言う通りフォスター将軍の命を助けた以上、当然の極刑だと思いなさい。死ぬまで彼らを『慰めるもの』として働いてもらいますわね」
なお、ラジーナの脳内では、オルティーナに与えた今の仕事は『死罪に匹敵する、想像しうる中での最高刑』であり、自身は『血も涙もない冷酷な判断をした』と思っている。
これは、合理主義のラジーナに『オルティーナを苦しめ、自らの報復感情を満たすことだけを目的とした懲罰』を思いつくことが出来なかったことが理由でもある。
たとえば残酷な拷問などもラジーナにとっては『自白を強要する手段』でしかなく、これを断罪に用いるという発想自体がなかったのだ。
オルティーナは尋ねる。
「……私に命じたこの仕事が、なんであんたの復讐なの?」
「別に、これだけが復讐というわけではありませんわ」
無論、ラジーナがオルティーナにさせている仕事は性奉仕だけではない。
日中は『労働奴隷』として、彼らのためにシーツを変えたり、食事の用意や洗濯を行ったりといったことも行っている。
そのことを踏まえてオルティーナはつぶやく。
「私の両親を奪ったのは……『弱肉強食』という概念そのものですから」
そう言われて、オルティーナはうなづいた。
「弱肉強食、か……強者って……ちょっと前までの私みたいな奴ってこと?」
「そうですわ? ……だからこそ、この世界で犠牲になった彼らにも、差し込む光が……生きる希望があってもいいじゃないですか? ……あなたを性奴隷にしたのは、それが理由ですので」
そうラジーナは答える。
「いつか、弱肉強食の世界への復讐を果たし、弱いものも強いものも平等に希望を持って生きられる世界……。そんな世界にするのが私の理想です」
そういうラジーナに対してオルティーナは少し呆れたようになりながら、
「はいはい。まったく。……けど、あんたの復讐心が分からないわけじゃないな。……聖女だった時に気づければ、どれほど良かったのかな……」
「今でもあなたは聖女じゃないですか。……廃兵院の彼らは、そう思ってますわよ? ……洗脳もされていないのに。どうしてか、不思議ですわね?」
「うるさいな、バカ」
そういって自室に戻ろうとするオルティーナをラジーナは呼び止めた。
「ああ、忘れていました。あなたに手紙ですわね。……差出人は、そこの廃兵院の兵士からですわ?」
「へえ……ああ、こいつは知ってる。先週相手した、おっさんね」
そういうと彼女は手紙を開く。
「あ、り、が、と、う、あ、な、た、は、わ、た、し、た、ち、に、い、き、る、き、ぼ、う、を、く、れ、ま、し、た……か……」
この短い手紙を読み終えた後、オルティーナはつぶやく。
「読みにくいし、下手な字……」
「そりゃそうですわ? 彼は、文字の読み書きなんて初めて学んだのですから」
「……え?」
「あなたにその手紙を書くために、それはもう必死で教わっていましたわ?」
オルティーナは、暇を見つけてはエイドを連れてここに来て、彼らに文字の読み書きや縫製といった職業訓練を行っている。この兵士も彼女から教わったであろうことはすぐに分かった。
「……彼はあの年で、生まれて初めて女性に抱かれたそうですわ? ……あなたとの『2時間の恋人生活』を送れたこと、よっぽど嬉しかったのね」
「……フン。というか、別にこんな……私に媚びた手紙くれなくても……また順番が来たら抱いてあげるってのに……」
そういわれてオルティーナは顔をそむけた。
……その表情はラジーナには見えなかったが、彼女はその手紙を大事そうに仕舞い、自室に戻っていった。
そして、翌日。
「エイド……今度の介護施設の予算案ですが……こんな感じでどうでしょう?」
ラジーナはいつものように、部屋で職務をしていた。
傍らにはエイドがおり、車いすを操りながらも彼女の仕事を補佐している。
エイドは彼女が出した案を見ながらつぶやく。
「悪くはないけど……。たぶん諸侯の立場からすると増税になるから、合意は難しいな……」
「そうですか?」
「ああ。それより、国債を発行する形で進めたほうがいいな。今の財政ならたぶん返還は間に合うと思う」
「……そうですね。ありがとう、エイド」
そういうと、ラジーナはエイドから羊皮紙を返してもらう。
因みに彼は、顔は焼けただれたが声帯は無事だったため、会話に支障はない。
そしてエイドはつぶやく。
「ラジーナ……ありがとう」
「あら、どうしたの?」
「こんな体になった俺を傍に置いてくれて……。一緒に仕事できるの、楽しいよ」
彼は当然自身も廃兵院に入れられるものだと思っていたが、ラジーナが大反対したため今も彼女の傍にいる。
だが、ラジーナはいつものように笑って答える。
「あら、あなたは大事な人質。あなたにそんな扱いをしては、聖ジャルダン国にどんな噂を立てられるか分かったものではありませんから?」
「…………」
だが、それは彼女の本心ではない。
そう言った後にエイドの傍にそっと歩み寄り、後ろから抱きしめた。
「それに……どんな姿でもあなたはあなたでしょ? ……あなたが生きていて、傍にいてくれるだけで幸せなのは、私も一緒ですから……」
「ラジーナ……」
だが、そういうとともにラジーナは顔を赤くしながら手を離す。
「ま、まあ……それは置いておくとして……あなたも、私と一緒にこの『弱肉強食の世界』への復讐、手を貸してくださいますよね?」
「勿論だ。まずは孤児院と介護施設を作って、それから仕事が無くて困っている兵士への授産事業も必要だし……」
「それに、鉱山開発を進めるのも大事ですわね? 後、開墾もしていってそこで貧しいものを雇って……やることは目白押しですわね? 頼りにしてますよ、エイド?」
そういうと、ラジーナはエイドにキスをした。
「ああ……。俺たちが頑張ればきっと、国同士の戦争も……なくなるよな?」
「ええ。きっとね……」
「そうだ、鉱山開発の話がついたらさ、未夏達と海に行かないか?」
「海に?」
少し驚いた様子で、ラジーナは答える。
「ああ、テルソスたちが楽しそうに話していてさ。実は俺たちも誘われてるんだ?」
「いいですわね! ……きっと、楽しい一日になりますから! ……じゃあ頑張っていきますわね!」
そういうと、ラジーナとエイドは夏の到来を伺わせる熱気に身体を震わせながらも、仕事を始めた。
廃兵院の一室で、オルティーナは下着を身に着けながら、兵士に対してそうつぶやく。
兵士の年齢は恐らく成人して間もないのだろう、顔に幼さが残る。
……この兵士とオルティーナは、つい先ほどまで身体を重ねていたのは言うまでもない。
「……う……う……」
その兵士はそう涙を流していた。
オルティーナは、はだけた彼の服を着させながら尋ねる。
「どうしたの、泣いちゃって……そんなに、私に抱いてもらえたのが嬉しいの?」
その兵士は、嗚咽交じりにうなづく。
「……当たり前ですよ……。俺は……小さい時に親に『いらない子』として軍役に入れられて、恋愛どころか生きるだけで精一杯で……」
「……うん……」
「挙句戦争で、こんな体になっちまって……恋人も持てず、所帯も持てず、誰にも愛してもらえないまま、ここで独りで死んでいくと思っていたから……」
オルティーナは彼の服のボタンを一番上まで閉めた。
……その兵士には両腕が存在しないため、自力で服を着れないからだ。
「まったく。……別に私はあなたを愛してはいないよ? ……あなたと『恋人』になったのは、建前上のものだからさ。……だから、その……ごめんね?」
そうは言うが、オルティーナの口調は突き放すものではなく、どこか憐憫をこめた口調だった。
そんな彼女に兵士は、首を振りながら答える。
「たとえそうでも……俺は、戦場で死なないで……今生きていて……良かったって思います……から……」
「はいはい……ほら、涙出てる」
そういう兵士の涙をオルティーナはハンカチで拭いてやる。
彼らは聖ジャルダン国との戦で負傷した兵士たちだ。
オルティーナはこの廃兵院で、手足を失ったラウルド共和国の兵達に対して、順番に性奉仕……つまり性奴隷として死ぬまで働くようにラジーナから命令を受けている。
事実、一日当たりの割り当て人数も5人(1人頭2時間なので、休憩を除くと10時間労働となる)と『慰み者』と呼ばれるにふさわしい数だ。……それだけ、先の戦争で手足を失った兵士が多いという意味でもあるが。
なお、彼女は聖ジャルダン国では聖女として知られていたが、ラウルド共和国の国民が彼女の顔を知っているわけがないので、正体はバレていない。
「まったく……こんな嘘の愛でも嬉しいのね、あんたたちは……」
「ええ……嘘でも、偽物でも……誰かに受け入れてもらう喜びは……分かる人にしか分かりませんよ……」
因みにこの国では売春は禁止されていることもあり、
「2時間だけ相手の兵士と恋人になり、そして時間が来たら別れる」
という形式で彼らを抱いている。
「……まだ、5分あるか……」
そしてオルティーナは、その涙を流す兵士に対してぎゅっと抱きしめる。
「え……?」
「まだ5分だけ……私とあなたは恋人でしょ? ……だから……もうちょっとだけハグしてあげる……」
「……いいんですか?」
「うん。……だからさ」
そして軽いキスを頬にした後、
「頑張って生きてね?」
そうオルティーナは笑顔を見せて、つぶやく。
そして時間が来た後に、彼女はそっと手を離す。
兵士はそんな彼女に対して、
「ありがとう……。あなたは、本当に聖女様みたいだ……ありがとう……」
そんな風につぶやいていた。
その肩は小さくすぼめており……手がない腕を合わせるようにして、祈りを捧げていた。
そして廃兵院から出た後、ラジーナはそこにいた。
「お疲れ様、オルティーナ」
「本当に疲れたよ……。けど……まさか私が今更『聖女様』なんて言われるとはね……。しかも敵国の兵士からってのも驚きだけど」
「彼らをあんなにしたのは……私とあなたみたいなものなんですけどね」
そうオルティーナは自らの罪を悔悟するようにつぶやいた後、オルティーナに対して、失った指を見せつけながら、憎しみをこめて『冷血の淑女』の目をする。
「あなたは『兵士たちの慰み者になってもいい』と言ったから、こうやったまで。私はあなたの言う通りフォスター将軍の命を助けた以上、当然の極刑だと思いなさい。死ぬまで彼らを『慰めるもの』として働いてもらいますわね」
なお、ラジーナの脳内では、オルティーナに与えた今の仕事は『死罪に匹敵する、想像しうる中での最高刑』であり、自身は『血も涙もない冷酷な判断をした』と思っている。
これは、合理主義のラジーナに『オルティーナを苦しめ、自らの報復感情を満たすことだけを目的とした懲罰』を思いつくことが出来なかったことが理由でもある。
たとえば残酷な拷問などもラジーナにとっては『自白を強要する手段』でしかなく、これを断罪に用いるという発想自体がなかったのだ。
オルティーナは尋ねる。
「……私に命じたこの仕事が、なんであんたの復讐なの?」
「別に、これだけが復讐というわけではありませんわ」
無論、ラジーナがオルティーナにさせている仕事は性奉仕だけではない。
日中は『労働奴隷』として、彼らのためにシーツを変えたり、食事の用意や洗濯を行ったりといったことも行っている。
そのことを踏まえてオルティーナはつぶやく。
「私の両親を奪ったのは……『弱肉強食』という概念そのものですから」
そう言われて、オルティーナはうなづいた。
「弱肉強食、か……強者って……ちょっと前までの私みたいな奴ってこと?」
「そうですわ? ……だからこそ、この世界で犠牲になった彼らにも、差し込む光が……生きる希望があってもいいじゃないですか? ……あなたを性奴隷にしたのは、それが理由ですので」
そうラジーナは答える。
「いつか、弱肉強食の世界への復讐を果たし、弱いものも強いものも平等に希望を持って生きられる世界……。そんな世界にするのが私の理想です」
そういうラジーナに対してオルティーナは少し呆れたようになりながら、
「はいはい。まったく。……けど、あんたの復讐心が分からないわけじゃないな。……聖女だった時に気づければ、どれほど良かったのかな……」
「今でもあなたは聖女じゃないですか。……廃兵院の彼らは、そう思ってますわよ? ……洗脳もされていないのに。どうしてか、不思議ですわね?」
「うるさいな、バカ」
そういって自室に戻ろうとするオルティーナをラジーナは呼び止めた。
「ああ、忘れていました。あなたに手紙ですわね。……差出人は、そこの廃兵院の兵士からですわ?」
「へえ……ああ、こいつは知ってる。先週相手した、おっさんね」
そういうと彼女は手紙を開く。
「あ、り、が、と、う、あ、な、た、は、わ、た、し、た、ち、に、い、き、る、き、ぼ、う、を、く、れ、ま、し、た……か……」
この短い手紙を読み終えた後、オルティーナはつぶやく。
「読みにくいし、下手な字……」
「そりゃそうですわ? 彼は、文字の読み書きなんて初めて学んだのですから」
「……え?」
「あなたにその手紙を書くために、それはもう必死で教わっていましたわ?」
オルティーナは、暇を見つけてはエイドを連れてここに来て、彼らに文字の読み書きや縫製といった職業訓練を行っている。この兵士も彼女から教わったであろうことはすぐに分かった。
「……彼はあの年で、生まれて初めて女性に抱かれたそうですわ? ……あなたとの『2時間の恋人生活』を送れたこと、よっぽど嬉しかったのね」
「……フン。というか、別にこんな……私に媚びた手紙くれなくても……また順番が来たら抱いてあげるってのに……」
そういわれてオルティーナは顔をそむけた。
……その表情はラジーナには見えなかったが、彼女はその手紙を大事そうに仕舞い、自室に戻っていった。
そして、翌日。
「エイド……今度の介護施設の予算案ですが……こんな感じでどうでしょう?」
ラジーナはいつものように、部屋で職務をしていた。
傍らにはエイドがおり、車いすを操りながらも彼女の仕事を補佐している。
エイドは彼女が出した案を見ながらつぶやく。
「悪くはないけど……。たぶん諸侯の立場からすると増税になるから、合意は難しいな……」
「そうですか?」
「ああ。それより、国債を発行する形で進めたほうがいいな。今の財政ならたぶん返還は間に合うと思う」
「……そうですね。ありがとう、エイド」
そういうと、ラジーナはエイドから羊皮紙を返してもらう。
因みに彼は、顔は焼けただれたが声帯は無事だったため、会話に支障はない。
そしてエイドはつぶやく。
「ラジーナ……ありがとう」
「あら、どうしたの?」
「こんな体になった俺を傍に置いてくれて……。一緒に仕事できるの、楽しいよ」
彼は当然自身も廃兵院に入れられるものだと思っていたが、ラジーナが大反対したため今も彼女の傍にいる。
だが、ラジーナはいつものように笑って答える。
「あら、あなたは大事な人質。あなたにそんな扱いをしては、聖ジャルダン国にどんな噂を立てられるか分かったものではありませんから?」
「…………」
だが、それは彼女の本心ではない。
そう言った後にエイドの傍にそっと歩み寄り、後ろから抱きしめた。
「それに……どんな姿でもあなたはあなたでしょ? ……あなたが生きていて、傍にいてくれるだけで幸せなのは、私も一緒ですから……」
「ラジーナ……」
だが、そういうとともにラジーナは顔を赤くしながら手を離す。
「ま、まあ……それは置いておくとして……あなたも、私と一緒にこの『弱肉強食の世界』への復讐、手を貸してくださいますよね?」
「勿論だ。まずは孤児院と介護施設を作って、それから仕事が無くて困っている兵士への授産事業も必要だし……」
「それに、鉱山開発を進めるのも大事ですわね? 後、開墾もしていってそこで貧しいものを雇って……やることは目白押しですわね? 頼りにしてますよ、エイド?」
そういうと、ラジーナはエイドにキスをした。
「ああ……。俺たちが頑張ればきっと、国同士の戦争も……なくなるよな?」
「ええ。きっとね……」
「そうだ、鉱山開発の話がついたらさ、未夏達と海に行かないか?」
「海に?」
少し驚いた様子で、ラジーナは答える。
「ああ、テルソスたちが楽しそうに話していてさ。実は俺たちも誘われてるんだ?」
「いいですわね! ……きっと、楽しい一日になりますから! ……じゃあ頑張っていきますわね!」
そういうと、ラジーナとエイドは夏の到来を伺わせる熱気に身体を震わせながらも、仕事を始めた。
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