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第1章 価値観が古く、親友にボコされる運命の男『オロロッカ』
1-1 現代知識など、金とコミュ力がなければ対して役に立たない
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そもそも、アンジュはどうやって今の地位まで上り詰めたのか。
ことの発端は数年前にさかのぼる。
「ほら、今月分の税金だ。領主様に宜しくな、オロロッカ」
「ああ、わかった。ありがとう」
この男の名は『オロロッカ』という。
……また、本章の最後に、
「価値観が古いことが原因で、親友にボコボコに殴り飛ばされる」
という未来が確定している。
彼は、ぶつぶつと文句を言いながらも農場の老人から野菜を受け取り、その農場を後にした。
「はあ、まったくなんで俺がこんなことを……」
荷車に野菜を載せて、それをゆっくりと引きながらオロロッカは思った。
「ったく……。俺は本当は、こんなくだらない仕事をしている立場じゃねえってのに!」
彼、オロロッカは、もとは日本人であったが、領主の息子として転生した『異世界転生者』である。
この世界には、大きく『元の世界の肉体と衣服を持った状態で転移するもの』と、『元の世界の肉体を失って転生するもの』の2種類が存在する。
オロロッカの場合は後者だ。
小さな地方領主の息子という地位を持った立場で転生をしており、現在の仕事はもっぱら荘園を訪れて税金として野菜を受け取る下働きをやらされている。
そして彼は荷車を領主の館まで持ち帰った。
「ただいま、母さん」
「ああ、お疲れ、オロロッカ。……うん、量も十分だ。よく頑張ったね」
そういうと彼女は笑みを浮かべた。
だが、その口ぶりとは裏腹に、母は自分に対して期待をしていないものであることは、オロロッカには分かった。
(はあ……。おふくろも少しは、俺のことを評価してくれたらな……)
彼は元々、この世界で『現代知識無双』を行う予定だった。
そして手始めに『農地改革』を行うつもりで、様々なアイデアを母に提供した。
この世界では『転移者』の存在自体はそこまで珍しいものではない。
そのため、彼が『二毛作』や『千刃こき』といった歴史の授業で学んだ知識について、この母親は、当初深い関心を持って聴いた。
そして、
「なるほど、アイデアは悪くないね……。まず、あんたが小さな土地でやってみたらどうだい?」
と言われたため、オロロッカは実際に行ってみた。
……だが、彼は失念していた。
「課題解決のための『知識』があるだけで社会問題が解決するほど世界が単純であれば、我々は異世界転移ものの小説など書かないし、読まれない」
ということを。
彼は早速、二毛作をやるべく農民に声をかけたのだが……。
「はあ、二毛作? 面倒なこと言うなよ。なんでそんな寒い時期にもう一度働くんだ?」
「そうそう。つーか俺たちはさ。冬場は炭鉱に出稼ぎに行くんだよ。畑仕事なんかやる時間ねえし、その給料じゃ、やりたくねえよ」
そう、けんもほろろに断られ、人を集めることが出来なかった。
そもそもオロロッカの領地はさほど大きいわけではないため、農民たちに出せる給金も多くない。
そのため、労働者たちは、二毛作という実績のない農作業より、多くの稼ぎを得られる炭鉱に行くことを選択した。
他にも農業器具の改良についてはもっとひどかった。
「なあ、この間渡した千刃こきの調子はどうだ?」
「ああ、オロロッカさん。そうですねえ……。まあ、あったら便利だけど、なくても良いかなって……」
「え?」
「今年は凶作で、あまり小麦が取れなくてねえ……。だから、今まで通りの道具でも十分に間に合ったんですよ……下手に使って壊れたら、修理も大変ですから……」
そもそも千刃こきが麦に使えるかという問題もあるが、それ以前に器具さえあれば作物の収量が増えるわけではない。
一番肝心なのは、窒素やリンといった肥料を集めることや、野菜の品種改良を行うことだ。
だが、この時代にはまだ化学肥料を作るだけの基盤が発達していない。
具体的には、
『万物が原子で構成されている』
『各種の栄養素が、動植物の成長を促すには必須である』
という基礎知識や
『どうやって窒素やリンを大量に入手するか』
『植物にどんな病気があり、その治療薬は何か』
など、基盤となる技術がない。
そのため『どの作物を育てるときに、どんな栄養素がどれだけ必要なのか』などの知識すら広まっていないのを彼は無視していたのだ。
「そんな……人糞を使った肥溜めの作り方も教えたよな、婆さん?」
「ええ、やり方は聴いてますが……。私たち老人には、そんな手間のかかるたい肥を作る方法なんて出来ませんので……」
また、農業従事者の腕力や体力を無視して一方的に命令するだけでは人は動かない。
そもそも『他者に新しいことを始めさせる』ことがどれほど難しいのかは、子育ての例を出すまでもなく誰もが分かることだろう。
そのため、彼のアイデアは『単なる思い付き』で終わってしまい、企画倒れとなった。
「よし、今日の仕事はここまでだ。屋敷で休んでいていいよ、オロロッカ」
「わかったよ、母さん」
『現代知識無双』を行うためには、知識以上にコミュニケーション能力と経済力が不可欠だ。
だが、元の世界でも他者と関わることを避け、漫画やゲームにいそしんでコミュ力を磨いてこなかったオロロッカは、知識無双どころか、複雑な顧客との折衝や荘園の領民との交渉事も失敗したのである。
……そのため、今では彼は母親からの信頼を失ってしまい、簡単な仕事だけ任されるようになっている。
「はあ……つーか、俺は本当に、不当に低く評価されてるよなあ……」
そんな風にオロロッカは不服そうに街道を歩いていると、一人の少女がきょろきょろと不安そうに、あたりを見回しているのを見つけた。
年齢は16歳程度だろうか。
その姿は『悪役令嬢』のように酷薄な印象を与える。
だが、いかにも『日本の学生服』という、いささか場違いな服装をした彼女を見て、すぐに彼は彼女のことを『異世界転移者』だと確信した。
(ん……? ひょっとして……)
そして彼は、その少女に声をかけた。
「なあ、あんた……ひょっとして、転移者か?」
「え?」
「俺の名前はオロロッカ。あんたと違って『転生者』なんだ。元の世界での名前は……だ。勿論前世は日本人だったんだ」
彼の名前と偶然被ってしまったら読者が可愛そうなので、彼の本名はここでは伏せる。
だが、その発言を聴いて少女はぱあっと顔を明るくした。
「良かった……。この世界に突然飛ばされたせいで、誰になにを尋ねればいいかわからなかったの……!」
「あ、ああ……」
彼は、その少女がニコニコと笑うのを見て、思わず心の中で身構えた。
それだけ、彼女は『悪役令嬢』をほうふつとされる、恐怖感を与える吊り目だったためだ。
「あんたの名前は?」
「私の名前は『幸野安寿(ゆきのあんじゅ)』。アンジュって呼んでくれると嬉しいかな」
「ああ……」
そして彼は、その少女の姿をじっと舐めるように眺める。
(ふうん……。顔は怖いけど、結構可愛いな……。この小娘、吸血鬼に売ったら高く売れるかもしれないか……)
そんな風に思いながらアンジュを見つめる。
この世界には吸血鬼がおり、女性を高い値で買ってくれることをオロロッカは知っていた。
(この女を手なずけて……。そして隣町まで連れ出して、奴に売りとばせば金になるな……そして、可愛くて素直な奴隷を買う、か……悪い話じゃないな……)
オロロッカの内面は一言で表すなら『自分のことを優しい奴だと思っているクズ野郎』だ。
分かりやすく言うと、
「異世界で美少女の奴隷が売っていたら、迷わず買って自分のものにしてしまう」
「そして、その美少女に優しくすることで『素敵なご主人様』として恋愛感情を抱くことを期待する」
というタイプだ。
要するによくいる、
「ボクに足りないのは、出会いのチャンスだけ。もしも付き合ってくれたら、ボクの良さがきっとあの子にはわかるはずなんだ!」
と、おめでたいことを考えているような奴だ。
……アンジュにとって幸運だったのは、彼にとってアンジュのような『気の強くてわがままそうな女』はタイプではなかったことだろう。
もっとも実際にはアンジュは、見かけによらずそこまで気は強くはない。我がままどころか、どちらかというと他者に尽くすことを好むという、オロロッカの好みのタイプなのだが。
そのことを知らないオロロッカは彼女に尋ねた。
「あんたも大変だろ? ……もしよかったらさ。母さんにお願いして、うちで働いて貰えるようにお願いしようか?」
「え、い、いいんですか? オロロッカさん?」
「ああ。任せておきなよ」
隣町に行くまでの旅費がまだ彼には貯まっていない。
また、彼女を騙して連れ出すのであれば、もう少し関係性を深めなければならない。
そう思ったオロロッカは、まず彼女を囲い込むべくそう伝えた。
……だが、そんな下心を知らないアンジュは彼のことを
「右も左も分からない私に手を差し伸べてくれた素敵な人」
としか認識していない。
そのため、彼女は喜んで彼についていくことにした。
ことの発端は数年前にさかのぼる。
「ほら、今月分の税金だ。領主様に宜しくな、オロロッカ」
「ああ、わかった。ありがとう」
この男の名は『オロロッカ』という。
……また、本章の最後に、
「価値観が古いことが原因で、親友にボコボコに殴り飛ばされる」
という未来が確定している。
彼は、ぶつぶつと文句を言いながらも農場の老人から野菜を受け取り、その農場を後にした。
「はあ、まったくなんで俺がこんなことを……」
荷車に野菜を載せて、それをゆっくりと引きながらオロロッカは思った。
「ったく……。俺は本当は、こんなくだらない仕事をしている立場じゃねえってのに!」
彼、オロロッカは、もとは日本人であったが、領主の息子として転生した『異世界転生者』である。
この世界には、大きく『元の世界の肉体と衣服を持った状態で転移するもの』と、『元の世界の肉体を失って転生するもの』の2種類が存在する。
オロロッカの場合は後者だ。
小さな地方領主の息子という地位を持った立場で転生をしており、現在の仕事はもっぱら荘園を訪れて税金として野菜を受け取る下働きをやらされている。
そして彼は荷車を領主の館まで持ち帰った。
「ただいま、母さん」
「ああ、お疲れ、オロロッカ。……うん、量も十分だ。よく頑張ったね」
そういうと彼女は笑みを浮かべた。
だが、その口ぶりとは裏腹に、母は自分に対して期待をしていないものであることは、オロロッカには分かった。
(はあ……。おふくろも少しは、俺のことを評価してくれたらな……)
彼は元々、この世界で『現代知識無双』を行う予定だった。
そして手始めに『農地改革』を行うつもりで、様々なアイデアを母に提供した。
この世界では『転移者』の存在自体はそこまで珍しいものではない。
そのため、彼が『二毛作』や『千刃こき』といった歴史の授業で学んだ知識について、この母親は、当初深い関心を持って聴いた。
そして、
「なるほど、アイデアは悪くないね……。まず、あんたが小さな土地でやってみたらどうだい?」
と言われたため、オロロッカは実際に行ってみた。
……だが、彼は失念していた。
「課題解決のための『知識』があるだけで社会問題が解決するほど世界が単純であれば、我々は異世界転移ものの小説など書かないし、読まれない」
ということを。
彼は早速、二毛作をやるべく農民に声をかけたのだが……。
「はあ、二毛作? 面倒なこと言うなよ。なんでそんな寒い時期にもう一度働くんだ?」
「そうそう。つーか俺たちはさ。冬場は炭鉱に出稼ぎに行くんだよ。畑仕事なんかやる時間ねえし、その給料じゃ、やりたくねえよ」
そう、けんもほろろに断られ、人を集めることが出来なかった。
そもそもオロロッカの領地はさほど大きいわけではないため、農民たちに出せる給金も多くない。
そのため、労働者たちは、二毛作という実績のない農作業より、多くの稼ぎを得られる炭鉱に行くことを選択した。
他にも農業器具の改良についてはもっとひどかった。
「なあ、この間渡した千刃こきの調子はどうだ?」
「ああ、オロロッカさん。そうですねえ……。まあ、あったら便利だけど、なくても良いかなって……」
「え?」
「今年は凶作で、あまり小麦が取れなくてねえ……。だから、今まで通りの道具でも十分に間に合ったんですよ……下手に使って壊れたら、修理も大変ですから……」
そもそも千刃こきが麦に使えるかという問題もあるが、それ以前に器具さえあれば作物の収量が増えるわけではない。
一番肝心なのは、窒素やリンといった肥料を集めることや、野菜の品種改良を行うことだ。
だが、この時代にはまだ化学肥料を作るだけの基盤が発達していない。
具体的には、
『万物が原子で構成されている』
『各種の栄養素が、動植物の成長を促すには必須である』
という基礎知識や
『どうやって窒素やリンを大量に入手するか』
『植物にどんな病気があり、その治療薬は何か』
など、基盤となる技術がない。
そのため『どの作物を育てるときに、どんな栄養素がどれだけ必要なのか』などの知識すら広まっていないのを彼は無視していたのだ。
「そんな……人糞を使った肥溜めの作り方も教えたよな、婆さん?」
「ええ、やり方は聴いてますが……。私たち老人には、そんな手間のかかるたい肥を作る方法なんて出来ませんので……」
また、農業従事者の腕力や体力を無視して一方的に命令するだけでは人は動かない。
そもそも『他者に新しいことを始めさせる』ことがどれほど難しいのかは、子育ての例を出すまでもなく誰もが分かることだろう。
そのため、彼のアイデアは『単なる思い付き』で終わってしまい、企画倒れとなった。
「よし、今日の仕事はここまでだ。屋敷で休んでいていいよ、オロロッカ」
「わかったよ、母さん」
『現代知識無双』を行うためには、知識以上にコミュニケーション能力と経済力が不可欠だ。
だが、元の世界でも他者と関わることを避け、漫画やゲームにいそしんでコミュ力を磨いてこなかったオロロッカは、知識無双どころか、複雑な顧客との折衝や荘園の領民との交渉事も失敗したのである。
……そのため、今では彼は母親からの信頼を失ってしまい、簡単な仕事だけ任されるようになっている。
「はあ……つーか、俺は本当に、不当に低く評価されてるよなあ……」
そんな風にオロロッカは不服そうに街道を歩いていると、一人の少女がきょろきょろと不安そうに、あたりを見回しているのを見つけた。
年齢は16歳程度だろうか。
その姿は『悪役令嬢』のように酷薄な印象を与える。
だが、いかにも『日本の学生服』という、いささか場違いな服装をした彼女を見て、すぐに彼は彼女のことを『異世界転移者』だと確信した。
(ん……? ひょっとして……)
そして彼は、その少女に声をかけた。
「なあ、あんた……ひょっとして、転移者か?」
「え?」
「俺の名前はオロロッカ。あんたと違って『転生者』なんだ。元の世界での名前は……だ。勿論前世は日本人だったんだ」
彼の名前と偶然被ってしまったら読者が可愛そうなので、彼の本名はここでは伏せる。
だが、その発言を聴いて少女はぱあっと顔を明るくした。
「良かった……。この世界に突然飛ばされたせいで、誰になにを尋ねればいいかわからなかったの……!」
「あ、ああ……」
彼は、その少女がニコニコと笑うのを見て、思わず心の中で身構えた。
それだけ、彼女は『悪役令嬢』をほうふつとされる、恐怖感を与える吊り目だったためだ。
「あんたの名前は?」
「私の名前は『幸野安寿(ゆきのあんじゅ)』。アンジュって呼んでくれると嬉しいかな」
「ああ……」
そして彼は、その少女の姿をじっと舐めるように眺める。
(ふうん……。顔は怖いけど、結構可愛いな……。この小娘、吸血鬼に売ったら高く売れるかもしれないか……)
そんな風に思いながらアンジュを見つめる。
この世界には吸血鬼がおり、女性を高い値で買ってくれることをオロロッカは知っていた。
(この女を手なずけて……。そして隣町まで連れ出して、奴に売りとばせば金になるな……そして、可愛くて素直な奴隷を買う、か……悪い話じゃないな……)
オロロッカの内面は一言で表すなら『自分のことを優しい奴だと思っているクズ野郎』だ。
分かりやすく言うと、
「異世界で美少女の奴隷が売っていたら、迷わず買って自分のものにしてしまう」
「そして、その美少女に優しくすることで『素敵なご主人様』として恋愛感情を抱くことを期待する」
というタイプだ。
要するによくいる、
「ボクに足りないのは、出会いのチャンスだけ。もしも付き合ってくれたら、ボクの良さがきっとあの子にはわかるはずなんだ!」
と、おめでたいことを考えているような奴だ。
……アンジュにとって幸運だったのは、彼にとってアンジュのような『気の強くてわがままそうな女』はタイプではなかったことだろう。
もっとも実際にはアンジュは、見かけによらずそこまで気は強くはない。我がままどころか、どちらかというと他者に尽くすことを好むという、オロロッカの好みのタイプなのだが。
そのことを知らないオロロッカは彼女に尋ねた。
「あんたも大変だろ? ……もしよかったらさ。母さんにお願いして、うちで働いて貰えるようにお願いしようか?」
「え、い、いいんですか? オロロッカさん?」
「ああ。任せておきなよ」
隣町に行くまでの旅費がまだ彼には貯まっていない。
また、彼女を騙して連れ出すのであれば、もう少し関係性を深めなければならない。
そう思ったオロロッカは、まず彼女を囲い込むべくそう伝えた。
……だが、そんな下心を知らないアンジュは彼のことを
「右も左も分からない私に手を差し伸べてくれた素敵な人」
としか認識していない。
そのため、彼女は喜んで彼についていくことにした。
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