二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~

フーラー

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第3章

3-4 ドMは一見すると自己犠牲だ

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「くっそお! なんでみんな、僕を認めてくれないんだ!」

宿に入るなり、そんな大声を出しながらガン! と酒瓶をたたきつける音が聞こえてきた。
その様子に対して迷惑そうに店主は声をかけた。


「お、お客さん、いい加減にしてくださいよ!」
「うるさいな! お前だって僕の名前くらいは知ってんだろ!?」
「知ってますよ! 持ち逃げの……ゴホン! ディラックさんでしょ? そりゃ、あなたのことは有名ですからね……!」
「だよね? 僕の実力だって、みんな知ってるはずだってのに! なんであのジジイは僕を『勇者』として認めてくれないんだ!」


ああ、そういうことか。
ディラックは確か午後から謁見に言って『勇者の証』を貰うつもりだと言っていた。
だが、あの様子では断られたのだろう。


「しかも、あのババアもさ! 『ディラック! あなたのように、自分のためにしか剣を振るわない者には勇者の証は渡せません!』なんていうんだよ? 剣なんて自分のために振って何が悪いのさ!」
「そりゃ、また……」


ディラックが有名な理由は、その強さもさることながら『それだけの力を手に入れたのは、他者を踏みつけにしてきたから』という悪名のほうなのだから当然だろうが。


「なんだったら、あのジジイ達を闇討ちでボコボコにしてやろうか、くそ……」
「貴様……! さっきから、なんだその態度は! いい加減にせぬか!」


だが、しつこく管を巻きながら愚痴をいうディラックに、怒りながら立ち上がった男がいた。

(うわ、まずいなこりゃ……)

一目見て分かったが、その男は恐らく王宮勤めの騎士だ。言い方は悪いが少々育ちが悪そうな容姿から考えるに、平民から取り立ててもらったのだろう。


「敬愛すべき陛下と王妃様に対してジジイ、ババアなどと不敬なことを……貴様は自分を何だと思ってるんだ!」
「ああん?」

だが、ディラックは酒に酔っているのもあるのだろう、その男の身分に気づいていないようだ。


「勇者の証一つくれないようなケチ野郎なんか、ジジイで十分だろ? そもそもさ、戦ったら僕に勝てないくせに偉そうなんだよ、あいつは!」
「陛下の仕事は戦うことではなく統治することだ! あの方が、マルティナ殿をはじめ、どれほどの勇者の助けになってきたのか分からぬのか!?」


(まあ、それは分かるけどな……)

その騎士がいうように、俺たちは陛下と王妃様から、資金援助をいただいたり鉱山の入場許可を取ってくれたりと、何かと事務手続きや資金援助で世話をやいてもらっていた。

……そのため正直あの騎士が怒ってくれたことには少し胸がすっとしたくらいだった。
だがディラックは、そんなことは知らないとばかりに首を振る。


「だから何さ!? 僕の実力を評価しないで、マルティナみたいな無能な奴に勇者の証を上げるなんてさ、見る目がないだけじゃん! つーかさ、ジジイがあんなバカだから、あんたも雇ってもらえてるんじゃない?」
「……なに?」

そのディラックの無礼な一言に、騎士もピクリと青筋を立てたのが遠目からも分かった。

「見るからにあんた、威張ることしか能がなさそうだもんね。僕とやりあったら、三秒で殺されるよ? ろくに経験値も稼いでないんだろ?」


この世界では、能力値を上げる方法は2つある。一つはディラックのようにマナを取り込んで力を得ること。そしてもう一つは地道な鍛錬で能力を上げる方法だ。

「貴様……! そこまでいうなら、我ら騎士の実力を見せてやろう! 貴様のように、仲間から奪って今の力を得たようなものに負けると思うか!」
「へえ! ただ非効率に鍛えてるだけなのに、モノはいいようだね! 人生は『美味しいとこどり』をしないといけないってのに……。まあいいや、かかっておいで!」


そういうとディラックは手を剣に伸ばす。
それを見て騎士も腰に差した剣に手をかける。


「望むところだ!」
「お、お客さん……やめてください!」


見るからに、あの騎士もかなりの手練れだろう。
どう考えてただの酒場のマスターに止められるとは思えない。

……何とかして止める方法はあるか?
だが、その前にマルティナを逃がしたほうがよさそうだ。そう思って俺は、

「マルティナ、逃げ……」

そう言おうとしたが、すでにマルティナは二人の間に駆け出して行っていた。



「止めて、二人で争うのは!」
「マルティナちゃん!?」
「マルティナ殿!?」

彼女が急に目の前に現れて両手を広げて止めるのを見て、周囲の客たちは騒然とした。





「ディラックも騎士さんも! 喧嘩するのはダメだよ! 誰かを傷つけたいから強くなったの? 喧嘩に勝ちたいから騎士になったの?」
「む……」
「それは…その……」


こんな子どもに言われるのは流石に腹が立つのだろうが、状況的に言い返せない二人は憮然とした表情をしながらも、剣から手を離そうとした。


「……もし、そうならさ……すっごいいいアイデアがあるよ?」


だが、マルティナはそんな二人の手をつかむと、逆に思いっきり剣を引き抜いた。


「うお!」
「何をする!」


やはり、抜き身の剣は見ただけで周りに威圧感を与える。
ギラリと光る刀身を見て周囲は騒然とした。

そんな中マルティナは興奮した様子で叫ぶ。


「二人とも、そんなに人を傷つけたいなら、私を傷つければいいんだよ!」
「……は?」
「お、おい、何言ってるんだ、マルティナ殿……」


理解できないという様子で二人はそう唖然とした。
そしてマルティナは恍惚とした表情で叫ぶ。


「フヒヒ……その剣で私を切り裂いてもいいんだよ? その鍛えた拳で私を殴る? ううん、毬みたいに蹴とばす? もっと酷いことしたいなら、好きなだけやっちゃってよ!」
「……む……」
「みんな、私がレベル1なの、知ってるよね? 抵抗しないし出来ないんだよ? 逆らわないし、やり返せない女の子だよ? 好きなだけ殴りなよ、蹴ってもいいよ、ねえ!?」
「いや、それは……」
「人を傷つけるのはダメだけどさ? 私は人じゃなくて『モノ』だから! さあ、好きなだけその怒りをぶつけちゃいなよ!」


……ああ、まただ。
自称『ドM』のマルティナは、あれを本心で言っている。
本気で彼らからボコボコにされることを望んでいるんだ。

だが。


「……すまなかった、マルティナ殿……」
「くそ……! 分かったわかった。もう大人しくするよ……」


そういって二人は気勢をそがれ、椅子に座りなおした。
そんな一部始終を見た周囲は、


「すごい! やっぱり陛下に認められただけのことはある……」
「『元』なんかじゃない! やっぱりマルティナさんは勇者なんだ……!」
「くそ……うちの娘もあんな風になってほしいぜ……!」


そんな風に歓声の声を上げていた。


「え……どうして? 私を殴らないの?」


マルティナはその様子にきょろきょろと困惑の表情を浮かべた。
そりゃ、周りから見たらお前は『自分より強い奴に臆せず、自分が傷つくのも恐れず立ち向かった勇者』だからだ。


俺はその様子を見ながらディラックに声をかける。

「まったくな……よう、ディラック。災難だったんだな」

災難だったのはマスターの方だろうが、まあそこはいい。


「……おや、シイル君も来てたのか。こんなに早く再会するとはね……」

ディラックは少し冷静になったのか、そう答えてきた。
流石に少し可哀そうだから、慰めてやろう。


「お前の実力なら、絶対に『勇者の証』をもらえると思ったんだけどな」


これは嘘ではない。
あくまでも「実力だけ」を見るなら、ディラックは間違いなく一線級だからだ。まあ性格を考えたら陛下も渋るのは当然だろうが。


「でしょ? まったく、ジジ……ゴホン、陛下もまったく見る目がないよなあ……」


流石にもうジジイ呼びはなしにしたか。
そう思いながら、俺はディラックの肩をポンと叩く。


「まあさ。残念会ってことで、今日は俺が奢るからたっぷり飲みなよ」
「え、いいのかい?」
「ああ。なんでも頼みなよ。金なら少しなら持ってるからな」
「いいのかい!? じゃあ、早速酒をもう一杯貰おうかな。親父さん、エールを一つ!」
「ええ、分かりました……」


ディラックは、ようやく機嫌を直したのだろう、メニューを見ながら次に頼む商品を探し始めた。
それを見て俺は店主にも声をかけた。


「ああ。それとマスター」
「なんでしょう?」
「俺の友達が迷惑かけてすみませんでした……」


そう深々と俺は頭を下げる。……まあ元の世界にいた時も、よく問題を起こしたロナの代わりにこうやって謝ったな、と思いながら。


「ハハ……。気にしないでくださいよ。こんなこと、慣れっこですからね」

マスターはそういいながら苦笑して許してくれた。


「友達、か……」


そしてディラックは、俺がそういった一言をぽつりとこぼすように呟いていた。
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