二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~

フーラー

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第3章

3-8 いわゆる「メスガキ」挑発はドラゴンに刺さる

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「くそ……ひどいな、これは……」


すでにドラゴンたちは城下町への侵攻を始めていた。
町には火の手があちこちで上がっており、住民たちが右往左往したり、子どもの亡骸を抱えて泣き崩れていたりする姿が目に入った。


「お母さん……痛い……助けて……」
「なんで、こんな……!」

そう呟いている親子を見て、俺は思わず駆け出して薬瓶を取り出す。

「大丈夫ですか!」
「あ、あなたは……」
「元勇者一行のシイルです! この薬を使ってください!」
「え、あの伝説の……? は、はい……」


幸か不幸か、俺たちは大量の薬を買い込んでいる。
勿論これは『低レベル縛り』を行うために用意したものだが、今はそんなことはどうでもいい。

母親は娘に薬をかけると、やけどはみるみるうちにふさがり、娘の顔にも生気が戻るのが分かった。……いつものことだが、この世界の回復アイテムの性能は反則的だ。


(俺たちの世界は……戦車やミサイルみたいな、超一流の魔導士が裸足で逃げ出すような『攻撃アイテム』は腐るほどあるのに……回復アイテムは店売りのレベルの品すら、作れないから不思議だよなあ……)



「ありがとうございます! シイル様! 娘ももう走れます」
「よかった! ……二人は、北の城門の方に逃げてください! あちらはまだドラゴンの包囲が完成していませんので!」


俺はここに来る直前に『鷹の目の巻物』を使っている。
これは使用すると周囲の情報が分かるアイテムだ。この道具で確認したところ、俺がいたところ……つまり教会周辺はなぜか包囲が手薄だった。


「わ、分かりました! シイル様は……?」
「まだ避難していない人がいるか、見てきます!」
「で、であれば西の街のほうに行ってください! あっちにいた兵士さんがまだ、ドラゴンと戦っているんですです!」


この国の兵士たちも必死で戦っているのだろう、俺はそう思って頷いた。


「分かりました! 行こう、マルティナ!」
「うん!」


因みにマルティナは『村娘』の格好をしているし、俺もいつもと違うローブを身にまとっている。
これは次に行う作戦のための布石だ。

俺たちは西の商店街の方に向かった。




『ギャアアアアア!』
『貴様ごときに……!』

商店街に向かう際中、街の中央付近から、ドラゴンが断末魔とともに次々に倒されている声が聞こえてくる。
この国の守備兵の実力では、彼らを倒すことは不可能なはずだ。


「あれは……ディラックだね……」
「ああ。流石だな……あのまま頑張ってくれると助かるな……」
「うん。あたしたちも昔はあんなふうに戦っていたのね……もう、今はこうやってこそこそと逃げながら、みんなを避難させるくらいしか出来ないけど……」


マルティナは少し寂しそうに呟くが、俺は彼女の肩を叩いて笑う。


「俺には俺の、あいつにはあいつの出来ることがあるだろ? 今のマルティナだってカッコいいと思うけどな」
「……ありがと、シイル!」

そういうとマルティナは笑顔を見せ、前を向き直る。


「いたぞ、あそこだ!」


それからすぐに俺たちは、母娘が言っていた守備兵たちを見つけた。
必死になって戦っているが、やはり相手はドラゴンということもあり、兵士たちは次々に倒されているのがわかった。


「こ、ここは通さない!」
「私たちだって、王国兵なのよ!」

そういいながら必死で抗戦しているのは門番の二人だった。
俺はそれを見て、マルティナに叫ぶ。


「くそ……マルティナ、頼む!」
「任せて!」

そういうと、マルティナは大きく息を吸って叫ぶ。

「さあ来なよ、雑魚ドラゴン! トカゲの出来損ない!」
『何だと……!』


マルティナの固有スキル『挑発(タウント)』の効果は絶大だ。
その安い挑発にドラゴンは気が付き、目の前の兵士からこちらに目を向けた。


「そこ!」

その振り向く瞬間の一瞬の隙をついてマルティナはドラゴンの懐に飛び込み眠り草を投げた。確定で先手を取れる愚か者のブローチは雑魚戦でも有効だ。

『ぐ……』


だが、眠り状態になったのは2体までだった。
残り1体のドラゴンには効きが浅かったようで、ふらりと身体をかしがせながらもマルティナを睨みつけて咆哮する。



『村娘風情が……調子に乗るな!』


村娘に扮したマルティナを見て『なめてかかられてきた』と思ったのだろう、その凄まじい大きさの爪がマルティナを襲う。

「かは……!」

その一撃でマルティナは絶命した。
……だが、これは想定内だ。30秒以内にドラゴンを倒せばマルティナは蘇生できる。


「もう一度喰らえ!」


今度は後攻の俺が「眠りの霧」を投げつけた。
こちらは、成功率が眠り草より高い店売りアイテムだ。値段もそこそこするのであまり数を揃えられなかったため、マルティナが攻撃を外した際に使用するためのものだ。


『なに……く……ねむ……るか……』


流石に2回目はかわせなかったのだろう、ドラゴンは眠りの霧の一撃をまともに受けると、その場で眠りこけた。……『素早さの高いものと低いものが回復魔法を使うと安定する』というRPGの鉄則を応用した作戦だ。


「くそ……生き返ってくれ、マルティナ」

幸い、俺は制限時間内にドラゴンたちを処理できたこともあり、マルティナはすぐに蘇生した。


「……いたたた……作戦通りだね、シイル」
「ああ……痛かっただろ? ごめんな、囮にして」


だがマルティナは嫌がるどころかいつものにんまりとした笑顔を見せて答える。


「何言ってんのさ! 寧ろ、結構良かったよ、『ドM』のあたしにはさ……! 今度は本当に死ぬかと思ったけどね……フヒヒ……」
「…………」


彼女はいつも、それを本心から言っているのは分かる。
それでも、俺は彼女に苦痛を与えたくないし、ロナを助けるためにマルティナに負担を強いることは正直辛い。そう思いながらも俺は彼女の手をとって引き起こした。


「あ、ありがとうございます、シイル様……! マルティナ様……!」


そして、俺たちを見て門番はエイリスとヒューラは涙ながらに俺たちに頭を下げた。
だがマルティナは気にしないでとばかりに首を振る。


「それより、キミたちは早く逃げて?」
「そんなわけには行きません! 我々だって兵士なのですから……!」
「そうです! 言い方は悪いですが……レベル1のお二人が戦っているのです! 我々だけ逃げるわけには行きません!」


そういって二人は恐怖を必死に隠すようにしながらも俺たちにそう答える。


「いえ……すみませんが俺たちに任せてください」
「え……?」
「とにかく、俺たちだけに注意を向けさせる必要があるんです、この国中のドラゴンたちを一か所に集めるために皆さんは逃げてください」


幸か不幸か、ディラックは国の中央付近で暴れまわっている。あそこにドラゴンを結集させることが作戦の目的だ。


「なにか……策があるんですか?」
「ええ。簡単に説明します……」


そういうと俺は簡単に作戦を説明する。
それで納得したのか二人は、頷いてくれた。


「……もし俺たちが作戦に失敗したら、残った兵を集めてドラゴンたちを包囲してください」
「シイルさんが負けたら……ですか?」
「ええ。そのまま集中砲火をすれば、倒せなくとも撃退は出来るはずです。俺たちの蘇生はどのみち間に合わないでしょうから、気にしないでください」
「……は、はい……分かりました……自分が負けた時のことも考えているんですね、シイルさんは……」


それは当然だ。
大抵のファンタジーの主人公は『自分が死んだ後の世界なんて知ったこっちゃない』とばかりに背水の作戦ばかり立てる。

……だが、俺のように常に全滅と隣り合わせのパーティがそんな甘っちょろい考えをしていいわけがない。

俺がそう答えると、ヒューラはスカートの裾を直した後、俺に上目づかいで尋ねてきた。


「あ、あの、その、シイル様……もしこの戦いに勝利したら、良かったら夜に隊舎に来てください……」
「隊舎にですか?」
「ええ、そこで私が、その……お礼をします……私の」
「お礼なんていらないよ!」

そうマルティナは怒鳴るような大声でヒューラの発言を遮った。


「そんなことより、さっさと逃げてよヒューラ! ドラゴンがそろそろ起きるころだから、ね?」
「は、はい! ……ああ、そういうことですね……」


ヒューラも気づいたようだが、そろそろドラゴンの眠り状態が覚めるころだ。
強い言葉を使ってでも逃げてもらわないとならない。二人の兵士も、得心したような表情で頷いて踵を返した。


「さあ行くよ、シイル! その二人のことはもういいでしょ?」
「ああ! 行くぞ!」

そういうと俺達は二人が逃げていくのを尻目に、教会で拝借した一頭の馬にまたがった。
だが、ちょうどそのタイミングでドラゴンたちが目を覚ました。


『ぐ……ぬかったわ……』


目が覚めるなりこちらを憤怒の表情で睨みつけたドラゴンたちに対して、マルティナは挑発的な笑みを浮かべる。


「まったく、こんな小さな女の子と、ひ弱な魔導士に眠らされるなんてね! ……ざ~こ!」
「へへへ、マルティナ。本当のこと言っちゃ悪いだろ! あいつら歳食ってるだけのアンポンタンだっていうのは可哀そうだって!」


俺もマルティナに便乗するように、ニヤニヤと笑ってドラゴンに舌を出す。


『貴様……!』
『どうやら死にたいようだな! ……どうせ、下らん策でもあるのだろうが……』
『その浅知恵ごと貴様らを焼き尽くしてくれる!』


ドラゴンたちはプライドが高い連中だ。
俺たちが『見え見えの挑発』をするほど、逆にその挑発に乗りたくなるのだろう。


「さあ、死の鬼ごっこだ! マルティナ、行くぞ!」
「うん! シイル、あたしの体をしっかり抱きしめて! あ、あたしの背骨が折るつもりで、思いっきり強く、だよ!」
「ああ、分かってる!」


当然ではあるが、数年前まで現代日本にいた俺は馬に乗ることは出来ない。
落馬しないようにとの配慮だろう、俺はマルティナの好意に甘え、思いっきりマルティナを後ろから抱きしめた。


「……フフフ……よし、おいでドラゴン!」


そしてマルティナは馬を走らせた。
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