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第24話 ミナセという女。
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~配信者 ラルゴ~
世田谷ダンジョンの出口付近で隙を窺う。狙いを付けていたC級のダンジョン配信者。ソイツが配信を切ったタイミングを狙って背中を思い切り蹴り飛ばす。
「ぐぁっ!?」
「オラァ。テメェが持ってるアイテム出しやがれ」
「な、何すんだよ!?」
男の胸ぐらを掴み5発殴り付ける。
「がっ……うぐ……!?」
「何すんだよ? じゃねぇ。ダンジョン内で起こったことは全て自己責任だろ? 1人で来た自分を恨むんだな」
6発目を殴ろうとしたところで男は鞄を差し出した。鞄ごと持って去ろうとした時、足元に何かが掴まる。
「ま、待ってくれよ……後は全部やるから、ヒスイの指輪だけは……それ持って帰らねぇと俺ヤバいんだって……そういう依頼なんだ、だから」
「うぜぇなぁ」
探索者の顔面を蹴り飛ばす。悶絶する男を残して世田谷のダンジョンを後にした。
……。
ダンジョンを出て鞄を漁る。金になりそうなのは3つ。後はゴミだな。装飾品だけポケットにねじ込む。
ついでにスマホで同接数を確認するが……二桁台。
クソッ! この前461とかいう野郎に会ってから全然ついてねぇ。今までファンだったヤツらも離れていきやがった。もう投げ銭も広告収入もありゃしねぇ。
アイツらはスカッとしたかったんじゃねぇのか!
自分にできないことをするヤツを求めてたんじゃねぇのかよ!!
それがなんだ? ちょっとボスに殺されそうになったくらいでよ。461とかいうヤツがバズって、何で俺がこんな目に遭うんだよ!!
スマホを見る。SNSでは六本木ヒルズ攻略の話題で持ちきりだった。
「んだよこれ。茶番かよ」
しかもムカつくことに461に負けたジークリードが擁護されてる。結局ボスに殺されそうになって461が倒したんだろ? 俺と同じ立場のクセに何庇われてんだよ。
アレか? いい人ムーブしてたのが良かったのか? 人助けたらいいヤツってか?
「ああああクソがぁ!!」
近くにあった自販機に蹴りを入れる。もう使われなくなった自販機はベコリと大きく歪んだ。
「……そうだ」
461って野郎にも恨みはあるが、まずはジークリードのヤツだ。今ならヤツを炎上させてやれるぜ。なんつっても461のヤツを一度妨害したらしいからな。
461を待ってたことで騒ぎにはならなかったみてぇだが、本当は悪意があったって情報をリークしてやるか。
ただの嘘だが……アクセス数稼ぎたいニュースサイトの管理人なら食い付くだろ。
金の為ならなんだってやる人間だ。同類の俺には分かる。
そうだぜ。前から気に食わなかったんだよ。綺麗事ばっか抜かして可愛い相方はべらしやがって。
スマホからツェッターを確認する。荒らし用の捨て垢にログインし、配信者のスキャンダルを流す『サリエラ』というアカウントにDMを送った。
ジークリードの六本木ヒルズ攻略についてタレ込み情報がある……と。
「……お。返信早いじゃねぇか」
ははっ。馬鹿正直に信じやがった。しかも直接会って話が聞きたいだと? ちょうどいいぜ。ボコって記事を書かせるか。
人目につきたくないという理由でサリエラを渋谷ダンジョン周辺へ呼び出した。
◇◇◇
1時間後。
深夜の渋谷ダンジョン周辺は誰も歩いていなかった。目立たないよう装備は置いてきたが……そのままでも十分だったな。
スクランブル交差点手前を曲がり、待ち合わせ場所の路地へと入る。
しばらく待っていると、路地の反対側に人が見えた。
「ん? お前……」
向こうから歩いてきたのは女だった。
白いベレー帽に白いマント。金色のシンプルなロッドを持った……。
「ジークリードの相方……ミナセじゃねぇか」
ミナセが動画で見たままの笑みを浮かべる。
「へぇ~。ジークリードのタレコミなんてあるからどんなヤツが来るかと思ったけどぉ~ラルゴとはね~」
能天気そうな笑みを浮かべるミナセ。彼女はヘラヘラ笑いながら手のロッドをクルクルと回した。
ちっ。サリエラのヤツ、ジークリード側にチクったのかよ。ウゼェな。
……いや。待てよ。
周囲を確認する。辺りにジークリードらしき人影は無い。コイツ……1人で来やがったのか。
ミナセを見る。スレンダーな体に肩まで伸びた髪。胸はそれなりだが、流石人気配信者だけあって面がいい。
コイツ。上手くやれば俺の物にできるかも。
理由なんてこの際何でもいい。無理矢理脅すか。どうせ補助魔法使い。力ずくでなんとでもなるぜ。
「あぁ~そうなんだよ。ジークリードがよぉ。461っつー新人の邪魔したじゃねぇか。アレは頂けねぇと思ってよ」
「ふ~ん。それで? デマでもタレ込もうと思ったの? そんなの信じる人いないよ?」
「そうか? 俺は炎上には詳しいからよぉ~。人気のヤツが弱ってる時ってのはな、ちょっとしたデマに飛び付くんだよ。普段ソイツを妬んでるヤツが」
ミナセの笑顔が僅かに固まる。これはビビッてやがるな。もうちょいか。
「……」
「俺は顔が利くんだぜ? 火を付けようと思えばいつでも付けられる。だからよ……」
ミナセの胸元を見る。こういう雰囲気の女ってのはどんな風になるんだろうなぁ……楽しみだぜ。そうだ。録画してジークリードの野郎に動画送りつけてやろうか? ヤツがどんな顔するか想像しただけで笑えて来るぜ。
「オメェらの活動邪魔されたくなかったら俺の――」
そこまで言った時。ミナセが何かを呟いた。
「物理攻撃上昇魔法」
ミナセの体にボワリと青い光を帯びる。何をしているのか理解が追い付く前に。顔面に物凄い衝撃が襲いかかった。
「がっ!?」
吹き飛ばされる。無理矢理視線を向けるとミナセがニコニコと笑みを浮かべなから血の滴るロッドを回しているのが目に入る。それを見た瞬間、俺はミナセに殴られたのだと理解した。
「ここはダンジョン周辺地域だよ? ダンジョン内と同じ。何が起こっても自己責任~♪」
ヤツの笑みが変わる。ニヤニヤとバカにしたような笑み。それは俺が見たことのある配信者の姿じゃなかった。
「な!? おま、お前!? ジークリードの補助役じゃ!?」
「ほいっと」
ミナセの金色のロッドが俺のみぞおちに直撃する。
「がは……っ!?」
鎧を着ていなかったせいで、その衝撃が全身を駆け巡る。息が止まり、地面に座り込んだ。
ミナセが俺の胸ぐらを掴む。華奢な腕なのに、一切振り解くことができない。先ほどの痛みも合わさって、俺の中に不安感が広がる。
「は、離せ……っ!」
「ん~? 補助魔法のこと馬鹿にしてたでしょ? ほら、女の子に負けちゃうよ? もっと頑張って抵抗してみて?」
「ふざけやがってえええええ!!!」
全力で引き剥がそうとミナセの手を掴む。力を込めた瞬間、空中に放り投げられる。フワリと浮いた直後にミナセのロッドが腹部に直撃する。その衝撃でゴキリという嫌な音が鳴り響いた。
「ごふっ……っ!?」
「ばっかだね~私はA級探索者だよ? アンタより弱い訳ないじゃん?」
「て、テメェの本性の方を拡散してやる!!」
「ウザ~」
ミナセのロッドが再び顔面に直撃する。そのロッドで何度も叩き付けられる。痛みのあまり体を丸めてしまう。
「アンタさ~無事に帰れると思ってるのぉ?」
「ヒィッ!?」
ミナセがロッドを振りかぶる。血が付いて真っ赤になったロッド。しかし、一切汚れていない彼女の白い装備……それが、ミナセという女が人を殴り慣れているように見えた。
「ラルゴ君は探索者引退だね♪ ま、君なんか消えても誰も気にしないよ~」
ミナセは、笑顔のままロッドを振り下ろした──。
◇◇◇
~配信者 ミナセ~
「ただいまカズくん~ってちょっと何してるの!?」
ジークリード……カズくんとルームシェアしている家へ帰ると、彼は折れた左腕を庇いながら腕立てをしていた。
「はぁ、はぁ……何かしていないと落ち着かん」
「休んでないとダメだって。回復魔法の効果があっても後2日は寝てないとって言われたでしょ?」
六本木ヒルズに挑んだ後、私達はすぐに病院へと向かった。幸い、すぐに病院で回復魔法を使ったおかげでカズ君の体に後遺症は残らなかった。それと、鎧さんの回復薬が良かったらしい。悔しいけど、少しホッとした。
「だが……」
「はいはい。もう遅いから。今日はもう寝てね~」
カズくんを無理矢理部屋へと押していく。
「なぁ。そういえばこんな遅い時間にどこ行ってたんだ?」
「ん~? 内緒♪」
「彼氏か?」
「秘密だよ~!」
それ以上何も言わせず、カズくんを部屋へと押し込めた。最初は嫌がっていたカズくんだったけど、最後には諦めたようにため息を吐いた。
「……分かった。だが、明後日には活動再開するぞ。今この瞬間にも助けを求めている者はいるかもしれない」
「は~い」
扉を閉めようとするカズ君。なんとなく心配になって扉に手をかけてしまった。
「なんだ?」
確かに今回は暴走しちゃったカズ君が悪いけど、それにしても平然としすぎだし……。
「あのさ、ショックじゃないの? 鎧さんにさ、その、負けちゃったこと」
「……俺は自惚れていた。ミナセも見たろ? あの鎧の戦いを」
「……うん」
「ヤツは、自分の力量を全て知った上でなお格上のクイーンスパイダーに挑んだ。ボスの力量を測り損ねた俺とは訳が違う」
カズ君はどこか嬉しそうな顔をしている気がする。思えばここ数日ずっとそうだったかもしれない。
「俺はヤツに真の探索者の姿を見た……命と引き換えに俺を助けてくれた彼と同じ探索者の姿を」
そう言うとカズ君は私の頭に手を置いた。
「だから心配はいらないさ。俺はここから再スタートだ」
「……分かったよ。じゃあ、私は活動再開できるように情報集めとくね~」
ゆっくり頷くカズ君。パタリと閉じるドア。リビングへと戻り、ソファーへ座り込む。
心配はいらなかったかな。
カズ君は私を助けてくれた時から変わらないな。へこたれなくて、優しくて、正義感が強くて……とっても純粋な……。
スマホを操作し、「ジークリード」を検索する。ヒットするニュースサイト。それを1つずつチェックし、ジークリードへの言説を調べる。次にSNSや掲示板。時間をかけて六本木ヒルズ攻略以降の発言を調べていく。
たまにイラッとしてバカみたいな書き込みしちゃうけど。
ま、探索者用スマホは個人情報突き止められないし。コテハン使った方がむしろバレない。みんなヤバイヤツだと思って近付いてこないから。
「多少のアンチはいるけど、擁護が多数。今までの活動のおかげかな」
アーカイブの再生数も順調。人気に翳りも見えていない。むしろ、早く復帰してほしいという声すらある。
カズ君が死にそうになった時や、鎧さんに助けられた時はどうなるかと思ったけど……全部好転して良かった。未熟さを痛感したジークリードは再び立ち上がり、正義の為に人々を守る……うん。万人受けしそうなシナリオだ。
……。
先にニュースサイトの管理人に手を打っておいて良かった。そのおかげで今回のラルゴみたいなヤツも止められるし。馬鹿なヤツら……直接会いたいって言うとノコノコ現れる。
ふふっ。死なない程度に痛め付けたらもう逆らわない。自分が殺る側だって勘違いしてるヤツはこれだから……ま、いいや。
「はぁ~カズ君の匂い……」
ソファーに倒れ込み、カズ君の匂いを嗅ぐ。私に彼氏なんていないよ? 私にはカズ君だけ。カズ君はただの相棒って思ってるのかもしれないけど、君は私が支えるの。
純粋なカズ君。
自分を犠牲にしてまで戦うカズ君。
カズ君がみんなを守るから、カズ君を守るのが私なの。
私は純粋な物が好き。純粋な想いが好き。でも、純粋ってすっごく壊れやすいから。
君の純粋な想いを。尊い想いを……ゴミみたいなヤツらから守るのが、私。
スマホを見る。いつの間にか天王洲アイルのチャンネル登録者数は120万を超えていた。これなら十分価値がある。コラボして、私達にもメリットが出る。
一度揉めた鎧さんと和解してのコラボ。うん。話題としても良さそう。後はどんな場所にするかだな~。
でもまだ様子見か。ジークリードが復活してしばらく単独で配信してからだなぁ。すぐにコラボだとマッチポンプみたいになっちゃうし。
……六本木ヒルズでは、カズ君が死にそうになって冷静じゃいられなかった。
何があっても冷静でいたいな。
あの、鎧さんみたいに。
世田谷ダンジョンの出口付近で隙を窺う。狙いを付けていたC級のダンジョン配信者。ソイツが配信を切ったタイミングを狙って背中を思い切り蹴り飛ばす。
「ぐぁっ!?」
「オラァ。テメェが持ってるアイテム出しやがれ」
「な、何すんだよ!?」
男の胸ぐらを掴み5発殴り付ける。
「がっ……うぐ……!?」
「何すんだよ? じゃねぇ。ダンジョン内で起こったことは全て自己責任だろ? 1人で来た自分を恨むんだな」
6発目を殴ろうとしたところで男は鞄を差し出した。鞄ごと持って去ろうとした時、足元に何かが掴まる。
「ま、待ってくれよ……後は全部やるから、ヒスイの指輪だけは……それ持って帰らねぇと俺ヤバいんだって……そういう依頼なんだ、だから」
「うぜぇなぁ」
探索者の顔面を蹴り飛ばす。悶絶する男を残して世田谷のダンジョンを後にした。
……。
ダンジョンを出て鞄を漁る。金になりそうなのは3つ。後はゴミだな。装飾品だけポケットにねじ込む。
ついでにスマホで同接数を確認するが……二桁台。
クソッ! この前461とかいう野郎に会ってから全然ついてねぇ。今までファンだったヤツらも離れていきやがった。もう投げ銭も広告収入もありゃしねぇ。
アイツらはスカッとしたかったんじゃねぇのか!
自分にできないことをするヤツを求めてたんじゃねぇのかよ!!
それがなんだ? ちょっとボスに殺されそうになったくらいでよ。461とかいうヤツがバズって、何で俺がこんな目に遭うんだよ!!
スマホを見る。SNSでは六本木ヒルズ攻略の話題で持ちきりだった。
「んだよこれ。茶番かよ」
しかもムカつくことに461に負けたジークリードが擁護されてる。結局ボスに殺されそうになって461が倒したんだろ? 俺と同じ立場のクセに何庇われてんだよ。
アレか? いい人ムーブしてたのが良かったのか? 人助けたらいいヤツってか?
「ああああクソがぁ!!」
近くにあった自販機に蹴りを入れる。もう使われなくなった自販機はベコリと大きく歪んだ。
「……そうだ」
461って野郎にも恨みはあるが、まずはジークリードのヤツだ。今ならヤツを炎上させてやれるぜ。なんつっても461のヤツを一度妨害したらしいからな。
461を待ってたことで騒ぎにはならなかったみてぇだが、本当は悪意があったって情報をリークしてやるか。
ただの嘘だが……アクセス数稼ぎたいニュースサイトの管理人なら食い付くだろ。
金の為ならなんだってやる人間だ。同類の俺には分かる。
そうだぜ。前から気に食わなかったんだよ。綺麗事ばっか抜かして可愛い相方はべらしやがって。
スマホからツェッターを確認する。荒らし用の捨て垢にログインし、配信者のスキャンダルを流す『サリエラ』というアカウントにDMを送った。
ジークリードの六本木ヒルズ攻略についてタレ込み情報がある……と。
「……お。返信早いじゃねぇか」
ははっ。馬鹿正直に信じやがった。しかも直接会って話が聞きたいだと? ちょうどいいぜ。ボコって記事を書かせるか。
人目につきたくないという理由でサリエラを渋谷ダンジョン周辺へ呼び出した。
◇◇◇
1時間後。
深夜の渋谷ダンジョン周辺は誰も歩いていなかった。目立たないよう装備は置いてきたが……そのままでも十分だったな。
スクランブル交差点手前を曲がり、待ち合わせ場所の路地へと入る。
しばらく待っていると、路地の反対側に人が見えた。
「ん? お前……」
向こうから歩いてきたのは女だった。
白いベレー帽に白いマント。金色のシンプルなロッドを持った……。
「ジークリードの相方……ミナセじゃねぇか」
ミナセが動画で見たままの笑みを浮かべる。
「へぇ~。ジークリードのタレコミなんてあるからどんなヤツが来るかと思ったけどぉ~ラルゴとはね~」
能天気そうな笑みを浮かべるミナセ。彼女はヘラヘラ笑いながら手のロッドをクルクルと回した。
ちっ。サリエラのヤツ、ジークリード側にチクったのかよ。ウゼェな。
……いや。待てよ。
周囲を確認する。辺りにジークリードらしき人影は無い。コイツ……1人で来やがったのか。
ミナセを見る。スレンダーな体に肩まで伸びた髪。胸はそれなりだが、流石人気配信者だけあって面がいい。
コイツ。上手くやれば俺の物にできるかも。
理由なんてこの際何でもいい。無理矢理脅すか。どうせ補助魔法使い。力ずくでなんとでもなるぜ。
「あぁ~そうなんだよ。ジークリードがよぉ。461っつー新人の邪魔したじゃねぇか。アレは頂けねぇと思ってよ」
「ふ~ん。それで? デマでもタレ込もうと思ったの? そんなの信じる人いないよ?」
「そうか? 俺は炎上には詳しいからよぉ~。人気のヤツが弱ってる時ってのはな、ちょっとしたデマに飛び付くんだよ。普段ソイツを妬んでるヤツが」
ミナセの笑顔が僅かに固まる。これはビビッてやがるな。もうちょいか。
「……」
「俺は顔が利くんだぜ? 火を付けようと思えばいつでも付けられる。だからよ……」
ミナセの胸元を見る。こういう雰囲気の女ってのはどんな風になるんだろうなぁ……楽しみだぜ。そうだ。録画してジークリードの野郎に動画送りつけてやろうか? ヤツがどんな顔するか想像しただけで笑えて来るぜ。
「オメェらの活動邪魔されたくなかったら俺の――」
そこまで言った時。ミナセが何かを呟いた。
「物理攻撃上昇魔法」
ミナセの体にボワリと青い光を帯びる。何をしているのか理解が追い付く前に。顔面に物凄い衝撃が襲いかかった。
「がっ!?」
吹き飛ばされる。無理矢理視線を向けるとミナセがニコニコと笑みを浮かべなから血の滴るロッドを回しているのが目に入る。それを見た瞬間、俺はミナセに殴られたのだと理解した。
「ここはダンジョン周辺地域だよ? ダンジョン内と同じ。何が起こっても自己責任~♪」
ヤツの笑みが変わる。ニヤニヤとバカにしたような笑み。それは俺が見たことのある配信者の姿じゃなかった。
「な!? おま、お前!? ジークリードの補助役じゃ!?」
「ほいっと」
ミナセの金色のロッドが俺のみぞおちに直撃する。
「がは……っ!?」
鎧を着ていなかったせいで、その衝撃が全身を駆け巡る。息が止まり、地面に座り込んだ。
ミナセが俺の胸ぐらを掴む。華奢な腕なのに、一切振り解くことができない。先ほどの痛みも合わさって、俺の中に不安感が広がる。
「は、離せ……っ!」
「ん~? 補助魔法のこと馬鹿にしてたでしょ? ほら、女の子に負けちゃうよ? もっと頑張って抵抗してみて?」
「ふざけやがってえええええ!!!」
全力で引き剥がそうとミナセの手を掴む。力を込めた瞬間、空中に放り投げられる。フワリと浮いた直後にミナセのロッドが腹部に直撃する。その衝撃でゴキリという嫌な音が鳴り響いた。
「ごふっ……っ!?」
「ばっかだね~私はA級探索者だよ? アンタより弱い訳ないじゃん?」
「て、テメェの本性の方を拡散してやる!!」
「ウザ~」
ミナセのロッドが再び顔面に直撃する。そのロッドで何度も叩き付けられる。痛みのあまり体を丸めてしまう。
「アンタさ~無事に帰れると思ってるのぉ?」
「ヒィッ!?」
ミナセがロッドを振りかぶる。血が付いて真っ赤になったロッド。しかし、一切汚れていない彼女の白い装備……それが、ミナセという女が人を殴り慣れているように見えた。
「ラルゴ君は探索者引退だね♪ ま、君なんか消えても誰も気にしないよ~」
ミナセは、笑顔のままロッドを振り下ろした──。
◇◇◇
~配信者 ミナセ~
「ただいまカズくん~ってちょっと何してるの!?」
ジークリード……カズくんとルームシェアしている家へ帰ると、彼は折れた左腕を庇いながら腕立てをしていた。
「はぁ、はぁ……何かしていないと落ち着かん」
「休んでないとダメだって。回復魔法の効果があっても後2日は寝てないとって言われたでしょ?」
六本木ヒルズに挑んだ後、私達はすぐに病院へと向かった。幸い、すぐに病院で回復魔法を使ったおかげでカズ君の体に後遺症は残らなかった。それと、鎧さんの回復薬が良かったらしい。悔しいけど、少しホッとした。
「だが……」
「はいはい。もう遅いから。今日はもう寝てね~」
カズくんを無理矢理部屋へと押していく。
「なぁ。そういえばこんな遅い時間にどこ行ってたんだ?」
「ん~? 内緒♪」
「彼氏か?」
「秘密だよ~!」
それ以上何も言わせず、カズくんを部屋へと押し込めた。最初は嫌がっていたカズくんだったけど、最後には諦めたようにため息を吐いた。
「……分かった。だが、明後日には活動再開するぞ。今この瞬間にも助けを求めている者はいるかもしれない」
「は~い」
扉を閉めようとするカズ君。なんとなく心配になって扉に手をかけてしまった。
「なんだ?」
確かに今回は暴走しちゃったカズ君が悪いけど、それにしても平然としすぎだし……。
「あのさ、ショックじゃないの? 鎧さんにさ、その、負けちゃったこと」
「……俺は自惚れていた。ミナセも見たろ? あの鎧の戦いを」
「……うん」
「ヤツは、自分の力量を全て知った上でなお格上のクイーンスパイダーに挑んだ。ボスの力量を測り損ねた俺とは訳が違う」
カズ君はどこか嬉しそうな顔をしている気がする。思えばここ数日ずっとそうだったかもしれない。
「俺はヤツに真の探索者の姿を見た……命と引き換えに俺を助けてくれた彼と同じ探索者の姿を」
そう言うとカズ君は私の頭に手を置いた。
「だから心配はいらないさ。俺はここから再スタートだ」
「……分かったよ。じゃあ、私は活動再開できるように情報集めとくね~」
ゆっくり頷くカズ君。パタリと閉じるドア。リビングへと戻り、ソファーへ座り込む。
心配はいらなかったかな。
カズ君は私を助けてくれた時から変わらないな。へこたれなくて、優しくて、正義感が強くて……とっても純粋な……。
スマホを操作し、「ジークリード」を検索する。ヒットするニュースサイト。それを1つずつチェックし、ジークリードへの言説を調べる。次にSNSや掲示板。時間をかけて六本木ヒルズ攻略以降の発言を調べていく。
たまにイラッとしてバカみたいな書き込みしちゃうけど。
ま、探索者用スマホは個人情報突き止められないし。コテハン使った方がむしろバレない。みんなヤバイヤツだと思って近付いてこないから。
「多少のアンチはいるけど、擁護が多数。今までの活動のおかげかな」
アーカイブの再生数も順調。人気に翳りも見えていない。むしろ、早く復帰してほしいという声すらある。
カズ君が死にそうになった時や、鎧さんに助けられた時はどうなるかと思ったけど……全部好転して良かった。未熟さを痛感したジークリードは再び立ち上がり、正義の為に人々を守る……うん。万人受けしそうなシナリオだ。
……。
先にニュースサイトの管理人に手を打っておいて良かった。そのおかげで今回のラルゴみたいなヤツも止められるし。馬鹿なヤツら……直接会いたいって言うとノコノコ現れる。
ふふっ。死なない程度に痛め付けたらもう逆らわない。自分が殺る側だって勘違いしてるヤツはこれだから……ま、いいや。
「はぁ~カズ君の匂い……」
ソファーに倒れ込み、カズ君の匂いを嗅ぐ。私に彼氏なんていないよ? 私にはカズ君だけ。カズ君はただの相棒って思ってるのかもしれないけど、君は私が支えるの。
純粋なカズ君。
自分を犠牲にしてまで戦うカズ君。
カズ君がみんなを守るから、カズ君を守るのが私なの。
私は純粋な物が好き。純粋な想いが好き。でも、純粋ってすっごく壊れやすいから。
君の純粋な想いを。尊い想いを……ゴミみたいなヤツらから守るのが、私。
スマホを見る。いつの間にか天王洲アイルのチャンネル登録者数は120万を超えていた。これなら十分価値がある。コラボして、私達にもメリットが出る。
一度揉めた鎧さんと和解してのコラボ。うん。話題としても良さそう。後はどんな場所にするかだな~。
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……六本木ヒルズでは、カズ君が死にそうになって冷静じゃいられなかった。
何があっても冷静でいたいな。
あの、鎧さんみたいに。
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高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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