461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第25話 ネコネコナーゴ

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 朝のトレーニングを終えた後、上野不忍池から御徒町方面へと走る。御徒町方面へは初めて走ったコースだが、広々としていてランニングには丁度良いかも。

 交差点を渡って大通りに出ると、なんだかすれ違う人にチラチラ見られている気がした。

「461さんだ」
「ジークリードに勝ったヤツだろ?」
「すげ。この時間からトレーニングしてるのかよ」
「でもTシャツにヘルムとかw」

 ん? 今俺のことなんか言ってたか? ま、いいや。この格好ヘルムにTシャツだしな。悪目立ちするかも。この前「方内武器店」に行った時もアイルに似たようなこと言われたし。

 裏路地に入ると今度は急激に人が少なくなる。先ほどまでの視線も感じなくなって随分快適になった。

 そのまま秋葉原方面へと向かい、御徒町駅を抜けると高架下の商業施設が見えた。数字とアルファベットの書かれた看板横をすり抜け高架下へ入ると、探索者達が出入りするショップ通りに入る。

 仕入れの時間なのか、早朝の通りは随分賑やかだ。そこかしこで探索者と店主がアイテムの交渉をしていた。

 そこを通りの裏に入る。タオルで汗を拭きながら歩いていくと、この前食事をした飲食店「冒険家B」の看板が見えた。扉を開けるとカランという音が鳴り、奥の席に座っていたアイルとリレイラさんが俺の方を見る。

「も~ヨロイさん遅いじゃない!」

 怒るアイル。それをリレイラさんが苦笑しながらなだめていた。

「すまん。ちょっと慣れないコースだったからさ」

 アイルとリレイラさんに謝りながら席に着く。しばらく待つと、店のマスターが3人分のモーニングセットを運んできた。

「はい。探索者モーニングセットお待ち!」

 チーズトーストの上に半熟卵が乗せられたクロックマダムとサラダ、それとサーモンのムニエルがセットになったプレートを。

 顎髭にスキンヘッド、しかも屈強な体格のマスターからは想像もできないオシャレな朝食……。

「? どうしたんだい461の兄ちゃん?」

「あ、いや……何でもない」

 怪訝な顔をしながらマスターは厨房に戻っていった。危なかったな……思わずジロジロ見てしまった。

「わ~! 美味しそう!」

 目をキラキラと輝かせながらアイルがクロックマダムにかじり付く。とろけたチーズがウニュンと伸びる。チーズが落ちそうになってアイルは慌てて二口目に挑んだ。

「チーズ多っ! サイコ~♪」

「めちゃくちゃ美味そうに食うなぁ」

 この前のシカゴピザも喜んでたしチーズ好きなのか?

「このムニエルも皮がパリパリだしタルタルソースと合って美味しいわ♪」

「食レポかよ……」

 アイルがあまりに美味そうに食べるせいで、俺の腹も鳴ってしまう。

「ヨロイ君も先に食べたらどうだ? 冷めてしまうぞ」

「そうですね」

 クロックマダムを手に取ると、アイルとリレイラさんが俺のことをジッと見つめた。

「? なんだよ?」

「え? いや、そのヘルムのまま食べるところちゃんと見たことないなと思って……代々木で野営した時もいつの間にか食べ終わってたしね……」

「この前ここで食事した時もどうやって食べていたか分からなかったしな……」


「ヨロイさんの素顔……気になるわね」
「私も……今のヨロイくんの顔……見たいな……」


 ジーっと2人に視線を向けられる。俺の動きを一切見逃さないという意思を感じる……なんか食べづらいな。

 ヘルムの口元の装甲の留め具を外す。口元を覆っていた装甲を上へスライドさせる。カパリと開く口元。開放感を覚えながらクロックマダムを食べる。


「うぉ! 美味い!」


 チーズと卵がいい感じに混ざり合ってめちゃくちゃ美味い。思わず一気に食べてしまう。いや、これならまた食いたい。今後の打ち合わせもここでやろうかな。


「……」
「……」


 ん?

 なんか2人の視線が……。


「そこまで外したくないの?」
「ヨロイくん……私は……見たかったぞ……」


 2人の雰囲気がなんか怖かった。



◇◇◇

「よし。それじゃあ次の攻略対象、品川ダンジョンについての情報を渡すぞ」

 一息ついたタイミングでリレイラさんが端末を取り出した。

 この前食事してからアイルはこの店が随分気に入ったらしい。彼女が打ち合わせはここが良いと強く希望したのでこの店で朝食を取りながら打ち合わせすることになった。

「品川ダンジョンは水族館がダンジョン化した場所だ。石造りの内観に水属性モンスターの棲家すみかとなっている」

「モンスターって魚とかそういうヤツが多いの?」

「バイトフィッシュにブレイドシャーク……アクアドレイクなんかもいる」

「流石水族館と融合しただけあるのね。でもバイトフィッシュは怖いわねぇ……」

 アイルが腕をさする。代々木公園でバイトフィッシュに襲われたのそんなに気にしてるのか。

「内部はどんな構造なんですか?」

「水路型のダンジョンになっている。水門を操作しないと先に進めない」

 へぇ……いいじゃん。知恵を使うタイプのギミックも面白そうだな。だが、それで言うとマップが鍵だな。下手をすると迷路型のダンジョンより厄介になるからな。

「マップを君達のスマホに送信した。水門の位置は表示されないから気を付けてくれ」

「どれどれ?」

 アイルがスマホを開く。そこに映し出される品川ダンジョンのマップ。それは六角形をいくつも組み合わせたような形状をしていた。

「地上階と地下一階……随分狭いわね」

「いや、地下1階にハシゴがある。もう1フロアあるぞ」

「え? どこ?」

「ここだ」

 地下の奥。突き当たりにハシゴのような表記がある。そこだけは一階に対応する階段表記が無い。どう考えても地下へ潜るための物だ。

「ホント……っ!? 全然気付かなかった!」

 リレイラさんが俺の顔を見て笑みを浮かべる。それは、イタズラに気付いてもらえた少女のように、可愛らしい笑顔だった。

「その通り。流石ヨロイ君だな。その先は実際に潜って確かめるしかない。ソコからが真の探索が始まるということだ」

「いいですね! めちゃくちゃ楽しそう! よっしゃあ! 品川ダンジョンやってやるぜ!!」

「やる気になってるわね~」

 その時、リレイラさんのスマホがブブッと振動した。

「お、もうこんな時間か。私はそろそろ行くよ」

「土曜日なのに大変ね」

「アイル君もこれから仕事・・だろう?」

「あ、そっか。ダンジョン探索って仕事だもんね」

「そうだぜ。楽しい仕事が待ってるぜ!」

「ふふっ。ヨロイ君も頑張ってな。攻略の報告を楽しみにしているよ」

 リレイラさんは、店主に挨拶を交わすと足早に店を出ていった。



◇◇◇

 しばらくアイルと品川ダンジョンの攻略について打ち合わせしていると、奇妙な格好・・・・・をしたヤツが店の中に入ってきた。

 アイルくらいの背丈にオレンジ色の猫のような格好。顔まで隠れた着ぐるみ。頭にはピンクのリボンがついてキャラクター感があるが、その表面はモンスター「サーベルキャット」の毛皮のように見える。

 装備品か? だとすると探索者か。

「おじさん! 今日の仕入れ分持ってきたにゃ!」

 甲高い声と共にソイツは木箱をドカッとカウンターに置いた。

「お、すまねえな。どれどれ?」

 マスターが木箱の中を見る。その中に入った何かを取り出すと、それは白い甲殻に包まれたかにだった。

「今回はパールクラブが5杯か。1杯4000円でどうだ?」

「うにゃ! ありがとにゃん♡」

 猫の着ぐるみはクネクネと気持ちの悪い動きで2万円を受け取ると、イソイソとがまぐちの中にしまった。

「あれ? ナーゴじゃない。この店に出入りしてたんだ」

「なんだアイル? 知り合いか?」

「うん。何度かツェッターで話したことのある配信者よ。私と同じDクラス探索者だったはず」

「なんで着ぐるみ着てんだよ?」

「ん~なんか探索用装備だって前に言ってたような……キャラ付けとかもあるんじゃない?」

 やっぱり装備なのかあれ……確かに防御力はありそうだけどなぁ。動き難くないか?

 アイルの視線に気付いたのか、ナーゴという配信者はこちらへ駆け寄ってきた。

「うにゃにゃ!? アイルちゃん!? こんなところで奇遇だにゃ~」

「ナーゴもね。東京に住んでるとは聞いてたけどこんな所で会うとは思わなかったわ」

「冒険家Bには食材用・・・モンスターを卸しているのにゃ~」

「食材用?」

 アイルが首を傾げる。

「にゃ? 知らなかったのにゃ? モーニングプレートにラルサーモンのムニエルが入ってなかったかにゃ?」

「え!? アレってモンスターだったの!? 普通のサーモンかと思ってた!」

「今日本で出回ってるの半分以上がラルサーモンだよ」

 カウンターにいた店主がメニューの書かれた黒板を指す。そこには赤文字で「ラルサーモン」と書かれていた。

「ま~でもあれだけ美味しいならモンスターでも全然気にならないわね」

「美味しかったにゃ? ラルサーモンの調理法はナーゴが教えたのにゃ!」

 ナーゴが大袈裟に胸を張る。

「なんだ? ナーゴは料理が上手いのか?」

「ナーゴはね、ダンジョンで取ってきた食材で料理する配信をしてるの」

「ナーゴは食べられるモンスターをみんなと共有したいんだにゃ~食材が増えれば良いこといっぱいにゃ♡」


「このパールクラブはタラバガニに味が似てる。昔みたいにカニ類は取れなくなったからな。こういうヤツは貴重なのさ」

「そうにゃ! ごはんって大事なのにゃ! 好きなものが食べられなくなるとみんな心の栄養が足りなくなっちゃうにゃ」

 興奮するほど速くなるウネウネした動き。見た目は可愛い着ぐるみのはずなのに、妙に動きにクセのあるヤツだな。

 まぁでも……。

「だからナーゴはモンスター食を勧めてるってことか」

 俺に気付いたナーゴは不思議そうに首を傾げた。

「うにゃ~……そのヘルム……どこかで見た気が……」

「私のパートナーのヨロイさんよ」

「そうにゃ! ネットニュースで見たにゃ……ジークリードとの勝負に勝った新人の……461さん?」

「そうよ」

「うにゃにゃ~!? すごいにゃ! そんな人とパートナーになれるなんてアイルちゃんすごいにゃ~」

「ふふふ。私の眼力すごいでしょ?」

 ……なんでそんなにアイルが偉そうなんだよ。

 ナーゴがアイルを褒めに褒めまくる。その度にアイルが得意げにダンジョン攻略の話を始めた。

「ふふっ。今日はね~これから品川のダンジョン攻略するんだ~」

「うにゃ? 品川ダンジョン?」

 ナーゴが急にモジモジする。

「よ、良かったらナーゴも連れてってくれないかにゃ? ナーゴも品川ダンジョンに行くつもりだったにゃ」

「そうなのか? またなんで?」

「品川のボス、ブリッツアンギラを調理してみたいのにゃ。ウナギに似た味らしいのにゃ」

「へ~うなぎか」

「ウナギって何?」

 アイルが初めて聞いたような顔をする。

 ……アイルは知らないのか。

 確かに。ダンジョンが現れてからウナギが獲れなくなったと聞くし。今じゃ超高級食材になっちまったもんな。一部の金持ちしか食えないくらい。

「とっても美味しいお魚にゃ♡ 日本の心にゃ!」

「へ~! なんか気になるわね!」

 アイルが俺の腕を掴んでくる。

「ね、ナーゴとコラボしましょうよ。私も気になるし!」


「お、この店持ってきたら調理手伝うぞ」

 店主も興味があったのかカウンターから身を乗り出してくる。

 期待を込めたアイルの瞳。それを見ているとダメとは言い難いな。

「どうどう? ダメ?」

 ……ウナギを食ったことない、か。俺もそんなに食った訳じゃないけど、全く知らないのは違うよな。

 ……。

「いいぜ」

「ホント!? 良かったわねナーゴ!」
「うにゃにゃ~ありがとにゃ♡」


 こうして、俺達は3人で品川ダンジョンを攻略することになった。


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