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第54話 渋谷ダンジョンの真実
しおりを挟む「よ~し! 全員に発動しちゃうよ~!」
ミナセが金色のロッドを振り回し大地を叩く。俺達の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がり、ミナセが物理防御上昇の魔法名を告げる。それから数秒後、全員の体が青い光を帯びた。
「行くぞジーク! ミナセは物理上昇発動したら来い!」
「ああ!!」
「りょ~かい!!」
アイルを見る。彼女がコクリと頷いた事を確認し四つ手首無し武者へと駆け抜ける。
「そのたてごとつらぬひてやろふ」
四つ手武者の腕に影が現れ、通常の倍ほどのサイズの弓の形になる。黒い矢をつがえギリギリと弓を引く。
「くらへ!!」
「氷結魔法!!」
弓を放とうとしていた2本の腕。それがアイルの魔法によってビシリと固まる。
「……!?」
「そんな見え見えの攻撃効かないわよ!」
〈アイルちゃん!!〉
〈攻撃キャンセルした!〉
〈氷めっちゃ効くな!〉
〈ボスに氷結魔法が特効なのかも:wotaku〉
〈いけるやん!〉
突然体が凍った事に面食らう四つ手武者。そこに盾を構えて飛び込んだ。
「うおおおおおおお!!」
「させぬ!!」
残った腕で2本の刀を叩きつける四つ手武者。その切先が盾に叩きつけられる。衝撃が全身を伝い、地面にヒビが入る。
デカくなって威力も上がってるな。ミナセの防御上昇無かったら受け切れなかったぜ。
「ジーク!!」
叫んだ瞬間、背後のジークが飛び上がる。閃光によって加速した男が四つ手武者の懐へと飛び込む。
「波動斬!!」
ジークの風と電撃の入り混じった刃が腕の1本を捉える。丸太のような腕が跳ね飛ばされ空中を舞った。
〈早いwww〉
〈腕4本の意味ね~www〉
〈見掛け倒しやんけ〉
〈うわ…渋谷のボス弱すぎ…?〉
〈懐かしw〉
〈全然分かんないんだ!〉
「ギャアアアアアァァァァ!?」
腕の1本を失った武者が暴れ回る。凍った腕を叩き付け、腕の自由を取り戻し、残った3本の腕がジークへ迫る──。
「しねえええええええ!!!!」
「錯乱したか!」
2本の腕から放たれる斬撃。その全てを紙一重で交わすジーク。次の攻撃のチャンスを伺うように愛剣を構えた次の瞬間、ロッドを構えたミナセがジークの前に飛び込む。ロッドを操り、武者の斬撃・その軌道を巧みに逸らしていく。
「ジーク! 私が抑えるから!」
「助かる!」
ミナセが斬撃を弾いたタイミングに合わせるようにジークが波動斬を放つ。その斬撃がもう1本の武者の腕を空中へ跳ね飛ばした。
「ぐおおおおおおお!?」
〈やべえええ!!!〉
〈腕2本……普通の武者になっちゃったねぇw〉
〈大した事なかったな〉
〈みんな強いんだ!〉
〈アングルが甘い。尻が見えん〉
〈女ヲタさん所望してるやんけ〉
武者が手を挙げると、5体のトレントが現れる。それを盾にした武者は後ろへ大きく飛び退き、俺達が登った物とは別のエスカレーターへと走って行く。あそこだけ障壁が解除されている。アイツ……自分だけ下の階に逃げるつもりか。
「鎧達はトレントを! 俺達はヤツを追い詰める!」
「あ! ジーク!? 待ってよ~!」
ジークとミナセが武者を追って行き、2台のドローンが2人の後ろへピタリとついて行く。それを横目にアイルが駆け寄って来た。
「どうしたのヨロイさん? トレント達が来てるわよ!」
アイルが杖をトレントへと構えた瞬間、トレントの姿がぼんやりと揺れたような気がした。
「……なんか変だ。ちょっと待て」
現れたトレント達は俺達がいるのにも関わらずぼんやりと立ち尽くすだけ。さっきまでのトレントなら襲いかかって来たはずだ。
「うおおお!!」
その内の1体をショートソードで一閃する。すると、トレントは掻き消えるように消え去ってしまった。
「な、何これ……? 偽物?」
「幻影か」
他の4体も同じ。ってことはコイツら逃げる為のダミーってことか。だけど、なんでそんなことを……。
エスカレーターを覗き込むがボスもジーク達も姿が無い。うっすら聞こえる戦闘音。10階の展示エリアに逃げ込んだのか。
それにしても、先程の戦闘……。
俺が戦った時はもっと太刀筋が洗練されていた。1対多とはいえ、優勢すぎる。なんだ? この違和感は。
違和感に急かされるようにジーク達の元へ走る。
「このエスカレーター長いわねうっとうしい!」
苦言を言うアイルとエスカレーターを駆け降りていると、先程のミナセの言葉が浮かんだ。
──あの松と渋谷の都市伝説、関係あるんじゃないかって。
ミナセが探索者用スマホで調べた所によると人喰い松の都市伝説は比較的古い物らしい。古い都市伝説、武者、盗賊……歴史? 記憶……か。それに炎の効かないトレント、影のように現れる武器、そして幻影……。
急激に頭の中でピースが埋まる。今回のダンジョンに起きた不可解な現象……あれは元々渋谷にいた全てのモンスターの能力があれば可能なんじゃ無いのか?
元々渋谷にいたモンスターは、シャドウバットに記憶虫、幻影騎士、人形使い、スキルイーターに分裂スライム。
シャドウバットは影のように周囲に溶け込んで移動する。記憶虫は対象の記憶を読み取り精神攻撃を。幻影騎士は敵に幻影を見せ、人形使いは傀儡人形を操って攻撃する。スキルイーターは対象の技や能力を一時的に使用不可にしてコピー、分裂スライムは名前の通り分裂し、増殖する。
今の現象を起こせるモンスターが1体だけ存在する。それは……。
「スキル、イーター」
「え、どうしたのヨロイさん」
「ヤバイぞ。このダンジョンはやっぱ生態系が変わっていたんだ」
「どういうこと?」
「元々渋谷に存在していた敵一覧を見たろ? その中のスキルイーターが他のモンスターを全部食ったんだよ。自分の体に取り込めば、その能力は永久に使えてもおかしくない」
「じゃあ……あの武者は?」
「スキルイーターが擬態した姿だ」
アイルの頭に疑問符が浮かぶ。当然だよな。俺もそんなこと考えもしなかった。だが……可能なはずだ。全ての能力を使いこなせば。
「記憶虫がこの土地の歴史でも吸ったんだろ。だからトレントが松の姿をしていた。スライムの能力で分裂して……このダンジョンにいたモンスターは全部スキルイーター1体が分裂した姿だったんだよ」
「い、1体……?」
「あの四つ手武者になる時、影が集まるのを見たろ? 分裂した体が本体に戻ろうとしてたんだ」
だが、そんなことより問題がある。スキルイーターはスライム種の不定形モンスター。ってことは……今のあの武者は人型である意味が無い。腕を飛ばした事で俺達が有利だというのは幻想だ。スキルイーターの狙いは……。
「急ぐぞアイル! ジーク達をヤツから引き離すんだ!」
アイルに言った直後。
「ぐあああああああ!?」
「きゃあああああああ!!」
ジーク達の叫びがビル内に響き渡った。
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