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第94話 駆け抜けるジーク。
しおりを挟む461さん達が西口公園で不死鳥と戦っていた頃。
──池袋東口周辺のビル街。
~ジークリード~
「だ、大丈夫カズ君? ずっと戦ってくれてるけど……」
「問題ない。お前はユイとの戦いだけに集中しろ」
俺とミナセはまだユイの待つサンシャインシティに辿り着けないでいた。本来なら駅から20分もあれば行ける距離……なのだが。
「おい! こっちにいたぞ!!」
路地の先で1人の探索者が叫ぶ。それに続くように次々と探索者達が現れる。
池袋東エリアに来てからずっとこれだ。ひたすらに追われ続ける……とにかく数が多く厄介だ。少しでも対応を戸惑うと新たな敵が現れる。
「カズ君! 後ろからも亜沙山の探索者が来たよ!」
振り返ると5人の探索者が挟み撃ちしようと追いかけてきた。ミナセの手を引いて角を曲がる。しかしその先にも別の探索者が武器を構えて待ち伏せしていた。
「逃げられると思ってんのか!?」
ミナセの手を離し閃光を発動、一気に距離を縮める。飛び上がりざまにソイツの顔面を蹴り飛ばした。横に吹き飛んだ探索者は、ビルの壁面に激突した。
「がぁっ!?」
悶絶する探索者、それを横目にミナセへと手を伸ばす。
「ミナセ! 来い!!」
「うん!」
再びミナセの手を掴んで走る。背後から聞こえる罵声。先程から思うようにビル街を抜けられない。霧で視界は遮られ、進もうとすれば待ち伏せされる。方向感覚が失われて行く気がする。
スマホで地図アプリを立ち上げようと隙を見せると、新たな探索者が襲いかかって来る。こうも多いとな……いや、俺が弱音を吐いている場合じゃない。
「うらぁ!!」
死角で待ち伏せしていた探索者が剣を叩き付けてくる。それをバルムンクで受け止め、ヤツの腹部にバルムンクの柄頭を叩き込む。体をくの字に曲げた探索者は、腹を押さえて倒れ込んだ。
……殺さずに倒すというのは難しい。
「……モンスター戦の方がよほど気が楽だな」
「ぶっ殺したらあああああ!!!」
2本のナイフを構えた探索者が突っ込んで来る。亜沙山の探索者達、ミナセは生かせと言われているのだろうが……。
「俺には容赦無い奴らだなっ!!」
ヤツの懐に飛び込む。飛び込んできたのが想定外だったのか、亜沙山の探索者は目を大きく見開いた。
「な──っ!?」
「悪いがこの一ヶ月死にかけていたんでな!!」
シィーリアの拳を前にして、人間の殺意などしれている。冷静に対処もできる。
「ふんっ!!」
両腕に閃光を使う。ギシリと体に負荷のかかる音。それと同時に両腕が高速で動く。2本のナイフを持つ腕を掴み、ヤツの顔面に頭突きを喰らわせる。
「がはぁっ!?」
バランスを崩す探索者。その顔に全力の拳を放ち、大地へと叩き付けた。
「あガッ!? ……が……」
昏倒する探索者の脈を確認する。よし、殺してはいないようだな。
ん?
この探索者が着ている服……それには符呪の証である異世界文字が刻まれていた。これは……斬撃耐性の防御魔法が符呪《エンチャント》されている?
……亜沙山は俺がミナセを守ると踏んで対策して来たか。それならそれでいい。こちらも遠慮しなくていいからな。
「こっちにジークリードとミナセがいるぞおおおおお!!!」
再び怒声が聞こえる。終わらない。……どうする? 全員と戦うか?
「私もやるよ」
「やめておけ。ミナセは手を出すな」
ミナセは極力戦わせたくない。対人戦でミナセが暴走する恐れもある。それに、できれば彼女の力はユイと戦う時まで残してやりたい。
しかしどうする? ミナセを守りながらヤツら全員を倒すのか……。
再びミナセの手を引いて走っていると、右耳に着けていたワイヤレスイヤホンにコール音が鳴り響く。
イヤホンの側面をタップし通話をオンにすると、リレイラ・ヴァルデシュテインの声が響いた。
『ジーク君。無事か?』
聞き慣れた声で少し安心する。敵に囲まれるというのは想像以上に精神に負荷をかけていたようだな。
「ああ。だが亜沙山の探索者達に追われている」
『ちょっと待ってくれ……データベースから参加者の情報を……亜沙山……あったぞ』
少しの間ができる。いつものタブレット端末で何かをしているのだろうか?
『よし、こちらもマップに亜沙山の探索者達を表示させた。現在そこにいる探索者は20人。君達を取り囲むように待ち伏せしている』
やはりか……元から俺達がサンシャインシティに向かうことを想定されていたみたいだ。
『だが安心してくれ。こちらの地図で君達の場所は確認できる。路地の外まで誘導しよう』
「助かる」
「どうしたのカズ君?」
心配そうな顔をするミナセにリレイラのことを伝え、その体を横抱きに持ち上げる。
「リレイラに誘導して貰う。ヤツらを振り切るぞ!」
「ちょっ!? わっ!」
閃光を使い、ミナセを抱えて路地を走り抜ける。高速で通り過ぎる景色、ミナセが振り落とされないように俺にしがみつく。
『右手の路地に入って。そこに探索者が2人いる。突き抜けてくれ』
リレイラの指示に従い右に曲がると、言った通り2人の探索者が俺に気付いた。「突き抜けてくれ」とは随分乱暴な指示だな。だが、彼女がそう言うんだ。そうする他ないのだろう。
「突き抜けた後は!?」
『50メートル先の路地を左だ』
一手先が分かれば安心して飛び込めるな。俺の迷いも消せる。
「ミナセ! 掴まれ!」
「うん!」
急加速したまま探索者達へと突撃する。
「おい!? 突っ込んで来るぞ!?」
「うおあああああああああああ!?」
面食らう探索者達。走りながら判断する。両方とも武器はショートソード。片方は迎え撃つ準備が遅れている。…‥経験が浅い探索者だな。
「うおおおおおおお!!」
抜刀が遅れた探索者へ膝蹴りを喰らわせる。
「がはぁっ!?」
空中を舞う探索者、それを踏み台にリレイラの言う次の路地を目指す。閃光の使い方も完全に掌握した。全身に大雑把に発動するのではなく、繊細に、必要な行動の時、必要な部位に発動する。すると不思議なことに、今まで以上の速度を出せる。
頭部に意識を集中して閃光を発動すると、景色がゆっくりに感じ、集中力が極限まで高まる。1つのスキルなのだが、使い方を覚えるだけで10のスキルを会得するよりも多彩なことができるようになった。
それに……シィーリアや鎧、天王洲と戦い続けたおかげか、相手の立ち振る舞い、動き、細かな仕草で相手の力量が分かるようになって来た。経験の少ない者は隙が大きく怯えがある。
「すごい! ホントに通れちゃった!」
ミナセが俺に掴まる。少し興奮した声、それを聞いて安心した。いつものミナセだ。俺の知っている、いつもの。
『突破できたか?』
「問題無い。ナビを頼む」
『よし、敵の位置から見るとあと3箇所。路地を抜ければ大通りに出る。そうすればサンシャインシティは目の前だ』
◇◇◇
リレイラの声に集中し、全力で路地を駆け抜け、遭遇の免れない敵は隙を突いて突破する。道を探すことに脳内のキャパシティを割かなくて良いだけでコレほど楽に抜けられるとは。
そして、ついに出口が見えた。真っ直ぐな大通り。霧の向こうにうっすらと「サンシャインシティ」の文字が見える。コレで終わりだ。この先に、ユイが……。
そう思った矢先。目の前に1人の探索者が現れた。黒い鎧の短髪の男……その背中に馬鹿でかい大剣を背負っている男が。
「俺は鉄塊の武史!! 尋常に勝負せいジークリード!!」
なんだあのバカみたいなヤツは? なぜ名乗りを上げる?
「行くぜ!!」
男が大剣を構え突撃して来る。その瞬間、全身が警告音を発した。
……アイツは、違う。バカみたいだが他の探索者達とは動きが全く違う。何クラスだ? いや、もはやクラスなど関係ない。そんな物で敵の実力を測るな。
「降りろミナセ!!」
「分かった!」
ミナセを下ろしバルムンクを構える。大剣使い。俺の名を知った上での突撃。コイツ……何か策があるのか? 波動斬での牽制、それが通用しなければ懐に飛び込む。
「波動斬!!!」
電撃が入り混じった風の刃。それがヤツへと直撃す──。
「風の刃は物理か否か……だが、今の俺にはどちらも効かんで!!!」
男は大剣を大地に突き刺し両腕でガードの体勢をとった。アイツ、生身で波動斬を受け止める気か!?
「ふんっ!!」
直撃する波動斬。しかし、刃はヤツの肉体を切断する事なく、組んだ両手の前でギリギリと静止していた。
「なんだと……っ!?」
「へへっ! 波動斬は魔法攻撃寄りやったみたいやなぁ。だが、今の俺には生半可な飛び道具は無効や!!」
男が両手を組み波動斬を殴り付ける。波動斬は、反射されたように吹き飛び、路地のビルに深い傷を刻み込んだ。
男の黒い鎧に異世界文字が浮かぶ。符呪《エンチャント》の印。あの模様は見たことがある。確か鎧が装備していた剣の……。
「反射魔法か」
「さすがやな。よう分かっとるやんけ!!」
男が大剣を構えて突撃する。
「岩烈斬!!」
叩きつけられる大剣。周囲に響く轟音。魔力を込めた一撃は、大地を抉り、爆発のような衝撃波を発生させる。物凄い風圧に吹き飛ばされてしまう。着地と同時に周囲を確認すると、ミナセは俺と離れた場所へ着地していた。
しまった……!? 引き離された!?
その時、ミナセの元にフラリともう1人の男が現れた。
スーツに真っ白な髪。そして、左手に持った日本刀……その出で立ちは明らかに並の探索者じゃない。
「式島のオッサンや。亜沙山の中で間違いなく最強の探索者。早よいかんとミナセちゃん連れていかれるで?」
吸っていた紙巻きタバコを捨て、男が腰の刀を構える。日本刀だと?……何者だアイツ。
「居合」
ポツリと呟く声。「居合」その言葉が聞こえた時にはミナセの目の前に式島が飛び込んでいた。
「……!?」
「避けられるか? 嬢ちゃん」
放たれる斬撃。それがミナセに触れる直前彼女は咄嗟に大地を蹴って後ろへ飛び退いた。
「っぶなぁ……っ!? なに今の……!?」
焦りの表情を浮かべるミナセ。彼女を見た式島が首を鳴らす。
「ふん、この速度を避けられるか。それなりの力は持っているな」
アイツ、ミナセの能力を試しているのか?
「ミナセ!!」
ミナセの元へ向かおうと踏み出した瞬間、道を防ぐように大剣が叩き付けられる。
「まぁ待てやジークリード。お前の相手は俺や言うたやろ?」
コイツら……元から分断が狙いだったか……。
『ジーク君! 聞いてくれ! 今から──するから──なんとか──れ』
ワイヤレスイヤホンからリレイラの呼びかけが聞こえるが、なんと言っているか分からない。俺が。俺がなんとかしなければ……。
「よっしゃ。本気でやり合おうぜジークリード。俺の実力を……確かめさせてくれや!!」
「鉄塊」を名乗る男、武史は大剣を構えた──。
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