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第95話 不死鳥チェイス。
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~461さん~
ジークと亜沙山の探索者達が戦っている頃。
──池袋駅西口エリア。
冒険家Bのマスターから借りた軽トラ。それが甲高い音を鳴らして大地を駆ける。なんとか西口公園から不死鳥を引き剥がした俺達は「西口公園前」と書かれた交差点を右折した。
「キュオオオオオオオオオオン!!!!!」
真後ろを追いかけてくる不死鳥。ヤツへと火炎魔法を放つアイル。先程火炎魔法を食らったことを思い出したのか、不死鳥は即座に上空へと舞い上がってしまう。そして、俺達を狙うように上空から攻撃する隙を窺っていた。
「引き付けたけどこの後どうするの!?」
「俺に考えがある。アイルは火炎魔法でブレスを潰せ。モモチーはヤツが突撃して来たらフレイムエッジで牽制してくれ」
「分かった!」
「分かりましたわ!」
軽トラのリヤウィンドウは開閉式になっていた。それを開けて運転しているモモチーの仲間へ声をかける。
「高輪だっけ? 俺の担当にナビして貰う。準備が整うまで大通りを回ってくれ」
「ウェイ!! しっかり掴まってろよみんな!!」
「た、高輪って普通に話せたのですわね……」
軽トラがさらに加速する。アイル達が不死鳥の攻撃に対処している中、リレイラさんへ連絡を入れた。コール音が5回。連絡がつかないのかと焦った瞬間、通話が繋がりワイヤレスイヤホンにリレイラさんの声が響いた。
『ヨロイ君? 今ジーク君達が困ったことに……』
「ごめんリレイラさん、その話は後で聞くよ。先に俺達を助けてくれないか?」
『わ、分かった……私は何をすればいい?』
戸惑うリレイラさんに経緯と今の状況を話した。不死鳥のことや、車で奴を引きつけていることを。リレイラさんはあの不死鳥の存在を知っていたようで、ヤツが氷の不死鳥「ケープスフェニックス」だと教えてくれた。
「できれば人がいない広い空間まで誘導したい。俺は土地勘がないから誘導頼めないか?」
『車の誘導、か……やってみよう』
「頼りにしてるぜ。リレイラさん」
『……っ!? 任せてくれ!! 私が!! カンペキに!! ナビしてみせる!!』
リレイラさんの気合いの入った声に苦笑してしまう。彼女へスマホをスピーカーモードにすることを伝え、運転する高輪へスマホを渡す。
『よし。端末にマップを展開した。君達のGPSも捉えた』
リレイラさんの落ち着いた声を聞いているとなんだか安心した気持ちになる。今までもそうだったはずなのに、何か違う気がするな。無性にリレイラさんに会いたくなるような……なんでだ?
『ハンターシティの会場は駅の東側の方が広く取られている、そちらへ向かおう。まずは池袋2丁目の交差点を左折、ナビするから池袋郵便局前の交差点まで戻ってくれ』
「ウェイ!!」
……いや、今はそんなことより不死鳥だ。リレイラさんに任せていれば軽トラは大丈夫だろう。後はあの不死鳥から生き延びるだけだ。
振り返ると、アイルが杖を構えながら魔力回復ポーションを飲んでいた。俺がリレイラさん達と話している間の襲撃は2回。それをアイルとモモチーは上手く潰してくれていた。
「今から東方面へ向かうぜ」
「うん! だけどアイツ、2回目に追い払ってから攻撃にフェイントを入れて来るようになったわ」
「近付いて来たかと思うとすぐに身を引きますの。危うく落ちるところでしたわ」
「モモチーが戦う時押さえるのキツイんだけど?」
「し、仕方ないですわ! 走ってる車の上に立つなんて落ちたらどうするんですの!?」
なぜか言い合いを始めたアイル達から不死鳥に視線を向ける。アイツ……やっぱ賢すぎるな。西口公園に向かった時も動きが変だった。操られてるのか?
胴体の防御魔法を破らなければ倒せない。魔法による氷の防御壁……生半可な威力じゃ突き破れないな。何か手はないか……?
「キュオッ!!」
突撃して来る青い不死鳥。アイルが火炎魔法で迎撃するが、不死鳥はヒラリと身を翻して火球を避けてしまう。
「避けられたわ!? アイツ! こっちの攻撃パターン覚えてるの!?」
「キュアオオオオオオオオオ!!!」
不死鳥が鉤爪を向けて突撃を続ける。振り返って軽トラの進行方向を確認する。「池袋大橋西」と書かれた交差点に向かっていた。それを確認したタイミングでワイヤレスイヤホンにリレイラさんの声が響く。スピーカーモードから切り替えたのか。
『ヨロイ君! その交差点を曲がってから池袋大橋を渡り切るまでは一本道だ! ヤツにブレスを撃たれたら逃げ場が無い!!』
「マジですか」
『ああ。だから絶対に氷結ブレスを撃たれてはダメだ。高輪君には道順を伝えているから……死んじゃ嫌だよ……』
「俺は死なないですよ」
『絶対、戻って来て。帰って来たらいっぱい抱きしめてあげるから……』
「ははっ。いいですねそれ」
再びスピーカーモードに切り替えると、リレイラさんのナビが運転席から聞こえた。どうやら大橋を渡り切るまで5分。それを過ぎれば高速の高架下に入る。ケープスフェニックスは動きにくくなり、動きも阻害される。攻撃の手も弱まるはずだ。それまで耐える必要はあるが。
「アイル。ここからが正念場だぜ。橋を渡り切るまでの5分間……全力で氷結ブレスを妨害してくれ」
「う、うん」
「高輪!! 直進はアクセルベタ踏みしろ!!」
「ウェイ!!」
軽トラがさらに加速し、不死鳥を引き離す。荷台がガタガタと揺れ、アイルとモモチーが荷台のアオリに捕まった。
「こ、こんなの振り落とされますわよ!!」
引き離された不死鳥がデカい氷の弾丸を吐き出す。軽トラにサッカーボールほどの大きさの弾丸を連続で。あんな攻撃もできるのかよ、道を塞がれたら厄介だな。
「アイル。火炎魔法で迎撃できるか?」
「任せて。火炎魔法!!」
アイルの杖から放たれる火球。それが氷の弾丸達を包み込んで一瞬にして溶かしていく。しかし、打ち消せなかった弾丸は、軽トラのすぐ脇に直撃して道路を凍り付かせてしまう。
「ウェ!? ヤバッ!?」
高輪がハンドルを切り、凍り付いた道路を避ける。一瞬体が浮くような感覚のあと、左に引っ張られるような感覚に襲われる。
「きゃあっ!」
「ひぃっ!?」
咄嗟に振り落とされそうになったアイルとモモチーを抱き止めた。軽トラが体勢を立て直し、感じていた重力が消える。
「キュウゥ……」
攻撃を外した不死鳥は、上空高く舞い上がり、軽トラの頭上にピタリと張り付いた。ちっ。真上が1番攻撃が当たりにくいと気付きやがったか。
マズいな。さっきみたいに連続攻撃されたら両手を使う速雷魔法と他の魔法の連続攻撃ができない。だが、氷結ブレスのモーションを潰しながら突撃とあの氷の弾丸まで防ぐ必要がある。
どうする……?
この状況なら俺が近距離攻撃を捨てるしかねぇ。その分アイルに全力で魔法を放って貰うか。後は鉤爪攻撃が来た時の保険がいるな。近距離を防せがねぇと……だが、この速度だ。荷台に立ち上がったりしたら振り落とされるぞ。
「そろそろ離して下さる?」
「あ、すまん」
申し訳そうな声を上げるモモチーを離す。彼女は、運転席のリヤウィンドウの方まで身体を這いずらせると、窓の前に付けられている鉄のバンパーを掴んで立ち上がった。
「このままじゃ、近距離攻撃もできませんし……アイルさん、貴方の着ているローブを貸しなさい」
「え?」
「早く」
「わ、分かったわよ……」
渋々といった様子でアイルがローブを脱ぐ。下に着ていたヒラヒラした私服。こう見ると普通の女子高生としか思えないな。防御が下がっちまうし……。
アイルから受け取ったローブをモモチーが自分の体に巻き付ける。そして端の部分を持つと自分の身体の前でキツく結んだ。そして、反対の端をトラックのバンパーに括りつけ、ゆっくりと剣を抜いた。両手をトラックから離して、仁王立ちするように剣を構える。
「よ、よし。これなら攻撃できますわね」
括り付けたローブがピンと張る。ローブ装備は防御向上の為に特殊な異世界製の糸が使われている……そう簡単には切れないだろう。咄嗟の判断にしてはやるな。これで保険はよし。
もう一度、両足を軽トラの角にかける。仰向けになると、上空を飛ぶケープスフェニックスが良く見えた。これならよく狙えるな。
アイルの腰に手を回し、彼女が振り落とされないようにガシリと抑えた。
「俺が押さえててやる。お前は速雷魔法と火炎魔法でヤツを狙うことだけ考えろ。」
アイルがなぜか顔を真っ赤にする。
「このまま戦うわけ!?」
「両腕を使って攻撃するには支えがいる。俺が押さえてやるから集中しろ」
「う~!!」
アイルはブンブン顔を振ると、杖を構えた。
「ぜ、絶対離さないでよね!!」
「ああ!! 死んでも離さねぇから安心しろ!!」
アイルが速雷魔法を唱える。左手にバチバチと電撃のエネルギが溜まり、指先を上空の不死鳥に向けた。
「あの上空まで届く弾丸だと2発分の電撃エネルギーしか足りないわ!! 後は火炎魔法!!」
速雷魔法は左手に帯電した電撃エネルギーを放つ魔法。威力と射程を伸ばすにはその分1発に電撃エネルギーを多く割かなければならない。あの距離なら2発……火炎魔法を合わせて3発。なんとかなるか。
「それでいい! 頼む!!」
「よーし! やってやるわよ!!」
アイルが気合いを入れた瞬間、不死鳥がギロリとこちらを睨み付ける。
「キュオオオオオオアアア……ッ!!」
ヤツのクチバシに溜まる冷気。氷結ブレスのモーション。撃って来る気か。
「撃てアイル!!」
「発射《ショット》!!」
アイルが速雷魔法を発射する。通常なら3発分のエネルギーが込められた弾丸は回転しながら、ヤツの顔面に直撃した。
「ギュアアアア!?」
顔を振り、後ろへ下がる不死鳥。ヤツは軽トラの背後につくように低空飛行した。1撃の威力は十分か。十分ブレスモーションをキャンセルできる。
「ウェイ!! 池袋大橋を渡るぞ!! 曲がるから捕まってろよ!!」
高輪の声。それと同時に再び体に急激な重力がかかる。右に振られる体。甲高いタイヤの削れる音。アイルとモモチーの悲鳴。そんな中、軽トラのすぐ脇に氷の弾丸が直撃した。
「っぶないですわね!! 車に当たっていたら即死でしたわよ!!」
モモチーが悪態をつく。連続で放たれる氷の弾丸。重力が消えると同時に高輪が急加速して氷の弾丸を避ける。
「ウェイ! 後少し走れば高速道路の高架下に入る!! それまで耐えてくれ」
高架下? そこならヤツの攻撃を制限できるかもしれない。
「キュオオオオオオ!!!」
突撃して来る不死鳥。ヤツが氷の弾丸を発射する寸前、アイルが火炎魔法を発射する。回転して火炎魔法を避ける不死鳥。チラリと前を見ると、視界の端に高架が見えた。
「私のタイミングで撃たせて」
「分かった。他のことは俺とモモチーに任せろ」
軽トラが走る。あと数百メートル。不死鳥が一気に軽トラへの距離を詰める。視界の奥でヤツの爪先がピクリと動く、近距離攻撃が来る。
「モモチー!! 迎撃の瞬間にフレイムエッジ頼む!」
「分かりましたわ!!」
剣を構えたモモチー。次の瞬間、ケープスフェニックスが両脚を向けて突撃して来た。アイルを抱きしめて体勢を下げる。仰向きになった俺達の眼前を不死鳥の鉤爪が通り過ぎる。
「ウアアアアア!! やってやりますわよぉ!!」
モモチーがフレイムエッジを発動し、ヤツの脚に叩き付ける。炎攻撃だと悟った瞬間、不死鳥が反射的に脚を引く。その瞬間を見逃さず、モモチーは2度目の斬撃を放った。
「喰らいなさい!!」
「ギュアアアアアアアアアアアアアア!?」
苦しみの声を上げる不死鳥。ヤツが軽トラから距離を取り、低空飛行のままクチバシを開いた。そこに集中する魔力……それが冷気となっていく。
「またブレスが来ますわよ!!」
「分かってるわ!! 焦らせないで!!」
「ギュオオオオオオオオオオ!!!!」
集約していく冷気、血走った目、それがすぐ目の前に迫っていた。
「オオオオオオオオオ!!!!」
「まだよ……まだ……」
アイルの左手が震えているのが見えた。それを支えるように、彼女の左手に手を添える。
「ありがとう……ヨロイさん」
アイルの呟き。彼女の震えが止まる。アイルが、目の前に迫る不死鳥へと向け、真っ直ぐに手を伸ばす。
「ギュオ゛オオオオオオオオオオオオオ!!!!」
そして、ヤツのブレスが放たれる直前──。
「発射!!!」
アイルが電撃の弾丸を発射した。
直撃する電撃。怯んだ不死鳥。間髪入れずアイルが再び魔法名を告げる。
「火炎魔法!!」
電撃に続き、火炎魔法がヤツの顔面に直撃。ヤツに集約していた魔力が暴走し、不死鳥の目の前で弾け飛ぶ。
「ギャアアアアアァァァァ!!!?」
不死鳥が叫び声を上げて退く。ふとヤツを見ると、その目と視線が合う。ヤツの恨みと怒りが混ざった感情……それを感じた瞬間、俺達の乗った軽トラは高架下へと潜り込んだ。
──キュオオオオオオオオオオオッッッ!!!
悔しそうな鳴き声を上げながら、不死鳥の声は遠ざかった。速度を落とす軽トラ。急激に景色の流れが緩やかになっていく。
「た、助かりましたわ……」
「はぁ……助かった……」
あの目……あれは完全に俺達に狙いを付けた目だ。今も上空から狙っているはずだ。
それに……あれだけのダメージを受けてなおこの様子。相当な体力だ。致命傷をまだ与えられていない。
……リレイラさんに連絡しないとな。
ジークと亜沙山の探索者達が戦っている頃。
──池袋駅西口エリア。
冒険家Bのマスターから借りた軽トラ。それが甲高い音を鳴らして大地を駆ける。なんとか西口公園から不死鳥を引き剥がした俺達は「西口公園前」と書かれた交差点を右折した。
「キュオオオオオオオオオオン!!!!!」
真後ろを追いかけてくる不死鳥。ヤツへと火炎魔法を放つアイル。先程火炎魔法を食らったことを思い出したのか、不死鳥は即座に上空へと舞い上がってしまう。そして、俺達を狙うように上空から攻撃する隙を窺っていた。
「引き付けたけどこの後どうするの!?」
「俺に考えがある。アイルは火炎魔法でブレスを潰せ。モモチーはヤツが突撃して来たらフレイムエッジで牽制してくれ」
「分かった!」
「分かりましたわ!」
軽トラのリヤウィンドウは開閉式になっていた。それを開けて運転しているモモチーの仲間へ声をかける。
「高輪だっけ? 俺の担当にナビして貰う。準備が整うまで大通りを回ってくれ」
「ウェイ!! しっかり掴まってろよみんな!!」
「た、高輪って普通に話せたのですわね……」
軽トラがさらに加速する。アイル達が不死鳥の攻撃に対処している中、リレイラさんへ連絡を入れた。コール音が5回。連絡がつかないのかと焦った瞬間、通話が繋がりワイヤレスイヤホンにリレイラさんの声が響いた。
『ヨロイ君? 今ジーク君達が困ったことに……』
「ごめんリレイラさん、その話は後で聞くよ。先に俺達を助けてくれないか?」
『わ、分かった……私は何をすればいい?』
戸惑うリレイラさんに経緯と今の状況を話した。不死鳥のことや、車で奴を引きつけていることを。リレイラさんはあの不死鳥の存在を知っていたようで、ヤツが氷の不死鳥「ケープスフェニックス」だと教えてくれた。
「できれば人がいない広い空間まで誘導したい。俺は土地勘がないから誘導頼めないか?」
『車の誘導、か……やってみよう』
「頼りにしてるぜ。リレイラさん」
『……っ!? 任せてくれ!! 私が!! カンペキに!! ナビしてみせる!!』
リレイラさんの気合いの入った声に苦笑してしまう。彼女へスマホをスピーカーモードにすることを伝え、運転する高輪へスマホを渡す。
『よし。端末にマップを展開した。君達のGPSも捉えた』
リレイラさんの落ち着いた声を聞いているとなんだか安心した気持ちになる。今までもそうだったはずなのに、何か違う気がするな。無性にリレイラさんに会いたくなるような……なんでだ?
『ハンターシティの会場は駅の東側の方が広く取られている、そちらへ向かおう。まずは池袋2丁目の交差点を左折、ナビするから池袋郵便局前の交差点まで戻ってくれ』
「ウェイ!!」
……いや、今はそんなことより不死鳥だ。リレイラさんに任せていれば軽トラは大丈夫だろう。後はあの不死鳥から生き延びるだけだ。
振り返ると、アイルが杖を構えながら魔力回復ポーションを飲んでいた。俺がリレイラさん達と話している間の襲撃は2回。それをアイルとモモチーは上手く潰してくれていた。
「今から東方面へ向かうぜ」
「うん! だけどアイツ、2回目に追い払ってから攻撃にフェイントを入れて来るようになったわ」
「近付いて来たかと思うとすぐに身を引きますの。危うく落ちるところでしたわ」
「モモチーが戦う時押さえるのキツイんだけど?」
「し、仕方ないですわ! 走ってる車の上に立つなんて落ちたらどうするんですの!?」
なぜか言い合いを始めたアイル達から不死鳥に視線を向ける。アイツ……やっぱ賢すぎるな。西口公園に向かった時も動きが変だった。操られてるのか?
胴体の防御魔法を破らなければ倒せない。魔法による氷の防御壁……生半可な威力じゃ突き破れないな。何か手はないか……?
「キュオッ!!」
突撃して来る青い不死鳥。アイルが火炎魔法で迎撃するが、不死鳥はヒラリと身を翻して火球を避けてしまう。
「避けられたわ!? アイツ! こっちの攻撃パターン覚えてるの!?」
「キュアオオオオオオオオオ!!!」
不死鳥が鉤爪を向けて突撃を続ける。振り返って軽トラの進行方向を確認する。「池袋大橋西」と書かれた交差点に向かっていた。それを確認したタイミングでワイヤレスイヤホンにリレイラさんの声が響く。スピーカーモードから切り替えたのか。
『ヨロイ君! その交差点を曲がってから池袋大橋を渡り切るまでは一本道だ! ヤツにブレスを撃たれたら逃げ場が無い!!』
「マジですか」
『ああ。だから絶対に氷結ブレスを撃たれてはダメだ。高輪君には道順を伝えているから……死んじゃ嫌だよ……』
「俺は死なないですよ」
『絶対、戻って来て。帰って来たらいっぱい抱きしめてあげるから……』
「ははっ。いいですねそれ」
再びスピーカーモードに切り替えると、リレイラさんのナビが運転席から聞こえた。どうやら大橋を渡り切るまで5分。それを過ぎれば高速の高架下に入る。ケープスフェニックスは動きにくくなり、動きも阻害される。攻撃の手も弱まるはずだ。それまで耐える必要はあるが。
「アイル。ここからが正念場だぜ。橋を渡り切るまでの5分間……全力で氷結ブレスを妨害してくれ」
「う、うん」
「高輪!! 直進はアクセルベタ踏みしろ!!」
「ウェイ!!」
軽トラがさらに加速し、不死鳥を引き離す。荷台がガタガタと揺れ、アイルとモモチーが荷台のアオリに捕まった。
「こ、こんなの振り落とされますわよ!!」
引き離された不死鳥がデカい氷の弾丸を吐き出す。軽トラにサッカーボールほどの大きさの弾丸を連続で。あんな攻撃もできるのかよ、道を塞がれたら厄介だな。
「アイル。火炎魔法で迎撃できるか?」
「任せて。火炎魔法!!」
アイルの杖から放たれる火球。それが氷の弾丸達を包み込んで一瞬にして溶かしていく。しかし、打ち消せなかった弾丸は、軽トラのすぐ脇に直撃して道路を凍り付かせてしまう。
「ウェ!? ヤバッ!?」
高輪がハンドルを切り、凍り付いた道路を避ける。一瞬体が浮くような感覚のあと、左に引っ張られるような感覚に襲われる。
「きゃあっ!」
「ひぃっ!?」
咄嗟に振り落とされそうになったアイルとモモチーを抱き止めた。軽トラが体勢を立て直し、感じていた重力が消える。
「キュウゥ……」
攻撃を外した不死鳥は、上空高く舞い上がり、軽トラの頭上にピタリと張り付いた。ちっ。真上が1番攻撃が当たりにくいと気付きやがったか。
マズいな。さっきみたいに連続攻撃されたら両手を使う速雷魔法と他の魔法の連続攻撃ができない。だが、氷結ブレスのモーションを潰しながら突撃とあの氷の弾丸まで防ぐ必要がある。
どうする……?
この状況なら俺が近距離攻撃を捨てるしかねぇ。その分アイルに全力で魔法を放って貰うか。後は鉤爪攻撃が来た時の保険がいるな。近距離を防せがねぇと……だが、この速度だ。荷台に立ち上がったりしたら振り落とされるぞ。
「そろそろ離して下さる?」
「あ、すまん」
申し訳そうな声を上げるモモチーを離す。彼女は、運転席のリヤウィンドウの方まで身体を這いずらせると、窓の前に付けられている鉄のバンパーを掴んで立ち上がった。
「このままじゃ、近距離攻撃もできませんし……アイルさん、貴方の着ているローブを貸しなさい」
「え?」
「早く」
「わ、分かったわよ……」
渋々といった様子でアイルがローブを脱ぐ。下に着ていたヒラヒラした私服。こう見ると普通の女子高生としか思えないな。防御が下がっちまうし……。
アイルから受け取ったローブをモモチーが自分の体に巻き付ける。そして端の部分を持つと自分の身体の前でキツく結んだ。そして、反対の端をトラックのバンパーに括りつけ、ゆっくりと剣を抜いた。両手をトラックから離して、仁王立ちするように剣を構える。
「よ、よし。これなら攻撃できますわね」
括り付けたローブがピンと張る。ローブ装備は防御向上の為に特殊な異世界製の糸が使われている……そう簡単には切れないだろう。咄嗟の判断にしてはやるな。これで保険はよし。
もう一度、両足を軽トラの角にかける。仰向けになると、上空を飛ぶケープスフェニックスが良く見えた。これならよく狙えるな。
アイルの腰に手を回し、彼女が振り落とされないようにガシリと抑えた。
「俺が押さえててやる。お前は速雷魔法と火炎魔法でヤツを狙うことだけ考えろ。」
アイルがなぜか顔を真っ赤にする。
「このまま戦うわけ!?」
「両腕を使って攻撃するには支えがいる。俺が押さえてやるから集中しろ」
「う~!!」
アイルはブンブン顔を振ると、杖を構えた。
「ぜ、絶対離さないでよね!!」
「ああ!! 死んでも離さねぇから安心しろ!!」
アイルが速雷魔法を唱える。左手にバチバチと電撃のエネルギが溜まり、指先を上空の不死鳥に向けた。
「あの上空まで届く弾丸だと2発分の電撃エネルギーしか足りないわ!! 後は火炎魔法!!」
速雷魔法は左手に帯電した電撃エネルギーを放つ魔法。威力と射程を伸ばすにはその分1発に電撃エネルギーを多く割かなければならない。あの距離なら2発……火炎魔法を合わせて3発。なんとかなるか。
「それでいい! 頼む!!」
「よーし! やってやるわよ!!」
アイルが気合いを入れた瞬間、不死鳥がギロリとこちらを睨み付ける。
「キュオオオオオオアアア……ッ!!」
ヤツのクチバシに溜まる冷気。氷結ブレスのモーション。撃って来る気か。
「撃てアイル!!」
「発射《ショット》!!」
アイルが速雷魔法を発射する。通常なら3発分のエネルギーが込められた弾丸は回転しながら、ヤツの顔面に直撃した。
「ギュアアアア!?」
顔を振り、後ろへ下がる不死鳥。ヤツは軽トラの背後につくように低空飛行した。1撃の威力は十分か。十分ブレスモーションをキャンセルできる。
「ウェイ!! 池袋大橋を渡るぞ!! 曲がるから捕まってろよ!!」
高輪の声。それと同時に再び体に急激な重力がかかる。右に振られる体。甲高いタイヤの削れる音。アイルとモモチーの悲鳴。そんな中、軽トラのすぐ脇に氷の弾丸が直撃した。
「っぶないですわね!! 車に当たっていたら即死でしたわよ!!」
モモチーが悪態をつく。連続で放たれる氷の弾丸。重力が消えると同時に高輪が急加速して氷の弾丸を避ける。
「ウェイ! 後少し走れば高速道路の高架下に入る!! それまで耐えてくれ」
高架下? そこならヤツの攻撃を制限できるかもしれない。
「キュオオオオオオ!!!」
突撃して来る不死鳥。ヤツが氷の弾丸を発射する寸前、アイルが火炎魔法を発射する。回転して火炎魔法を避ける不死鳥。チラリと前を見ると、視界の端に高架が見えた。
「私のタイミングで撃たせて」
「分かった。他のことは俺とモモチーに任せろ」
軽トラが走る。あと数百メートル。不死鳥が一気に軽トラへの距離を詰める。視界の奥でヤツの爪先がピクリと動く、近距離攻撃が来る。
「モモチー!! 迎撃の瞬間にフレイムエッジ頼む!」
「分かりましたわ!!」
剣を構えたモモチー。次の瞬間、ケープスフェニックスが両脚を向けて突撃して来た。アイルを抱きしめて体勢を下げる。仰向きになった俺達の眼前を不死鳥の鉤爪が通り過ぎる。
「ウアアアアア!! やってやりますわよぉ!!」
モモチーがフレイムエッジを発動し、ヤツの脚に叩き付ける。炎攻撃だと悟った瞬間、不死鳥が反射的に脚を引く。その瞬間を見逃さず、モモチーは2度目の斬撃を放った。
「喰らいなさい!!」
「ギュアアアアアアアアアアアアアア!?」
苦しみの声を上げる不死鳥。ヤツが軽トラから距離を取り、低空飛行のままクチバシを開いた。そこに集中する魔力……それが冷気となっていく。
「またブレスが来ますわよ!!」
「分かってるわ!! 焦らせないで!!」
「ギュオオオオオオオオオオ!!!!」
集約していく冷気、血走った目、それがすぐ目の前に迫っていた。
「オオオオオオオオオ!!!!」
「まだよ……まだ……」
アイルの左手が震えているのが見えた。それを支えるように、彼女の左手に手を添える。
「ありがとう……ヨロイさん」
アイルの呟き。彼女の震えが止まる。アイルが、目の前に迫る不死鳥へと向け、真っ直ぐに手を伸ばす。
「ギュオ゛オオオオオオオオオオオオオ!!!!」
そして、ヤツのブレスが放たれる直前──。
「発射!!!」
アイルが電撃の弾丸を発射した。
直撃する電撃。怯んだ不死鳥。間髪入れずアイルが再び魔法名を告げる。
「火炎魔法!!」
電撃に続き、火炎魔法がヤツの顔面に直撃。ヤツに集約していた魔力が暴走し、不死鳥の目の前で弾け飛ぶ。
「ギャアアアアアァァァァ!!!?」
不死鳥が叫び声を上げて退く。ふとヤツを見ると、その目と視線が合う。ヤツの恨みと怒りが混ざった感情……それを感じた瞬間、俺達の乗った軽トラは高架下へと潜り込んだ。
──キュオオオオオオオオオオオッッッ!!!
悔しそうな鳴き声を上げながら、不死鳥の声は遠ざかった。速度を落とす軽トラ。急激に景色の流れが緩やかになっていく。
「た、助かりましたわ……」
「はぁ……助かった……」
あの目……あれは完全に俺達に狙いを付けた目だ。今も上空から狙っているはずだ。
それに……あれだけのダメージを受けてなおこの様子。相当な体力だ。致命傷をまだ与えられていない。
……リレイラさんに連絡しないとな。
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である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
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