461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第103話 お姉ちゃん。

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 ~ミナセ~


 スマホを閉じる。自分の手が震えてるのが分かる。ユイ、私のために狂乱マッドネスを……取ったのか。それであんな風に。

「ユイ……」

 落ち込みそうになって自分の顔面を本気で殴った。涙が出そうになるたびに殴った。私が!! 泣いててどうする!! ユイは……ユイは私の為にああなったんだ!!

「カズ君、シィーリア……」

 手を握って額に当てる。私には2人がいた。カズ君が救ってくれて、シィーリアが癒してくれた。新しい仲間もできた。だけどあの子はまだ1人。


 今もずっと暗い中で……もがいてる。


「私がユイを助けないと」

 ここに来るまで、ユイには何も奪わせないって思ってた。でも今は違う。私は助けなくちゃいけない。ユイからあのスキル狂乱を消し去る……っ!

 そのためには、まずシィーリアに会わせないと。そうすればきっと糸口が見えるはず。シィーリアなら、私の気持ちを分かってくれるはずだ。

 腰のカバンから眠り薬スレプト・ポーションを取り出す。今のままじゃわされるだけ。正面からユイと戦って倒す。それしかない。


 ──マイぃぃいいいッッ!!!


 聞こえる、ユイの声。


「お姉ちゃんが迎えに行くよ」


 全然ダメな姉だけど……もう何年も1人にして来た私だけど……迷ってばかりだけど……ユイのために、私の全部を賭けるから。


 魔力回復ポーションを飲む。物理防御魔法フィジカルシルドを2段階、物理攻撃魔法インクリズアタックを1段階、そして……速度上昇魔法クイックネスを1段階使用する。使い切った魔力を戻すため、もう1本の魔力回復を一気に飲み干した。

「ふぅ……行くか……」


 落ち着いて。怖がるな。ユイのために。


 扉の外をゆっくり確認する。外に出て十字の通路を抜けようとすると、死角からユイが現れた。


「やっと見つけたぁ……私のバッグ奪うなんてどういうつもり?」


「全部見たから……ユイにあったこと」

「あったこと? 何それ?」

 ユイは本気で分からないという顔をした。多分本当に分からないんだろう。あの日記の最後で、ユイは自分のこともよく分かってない感じだったから。

「まぁいいや、そろそろ遊ぶのもやめて本気で行くかなぁ~」

 ニタニタと笑いながらユイが「物理攻撃上昇インクリズ・アタック」と「速度上昇魔法クイックネス」を発動する。その瞬間、あの子の周囲にユラユラと黒いオーラのようなものが見えた。さっきは気づけなかったけど、アレが「狂乱マッドネス」の効果なんだ。


 だから、私よりもずっと強い。基本能力が底上げしているのに加えて、能力上昇魔法まで使っているから。


 さっきまで戦えていたのは、あの子が私を痛め付けようとしただけだから。普通に戦えば、あの子が本気で私を殺しに来たら、私に勝ち目はない。


 けど……。


 だけど。


「私は、勝たなきゃいけないんだ!!!!」


「ははっ!! いいじゃん!!! なら本気でぶっ殺してやるよぉ!!!」


 ユイが地面を蹴って飛び込んで来る。速い。私よりずっと速い。思い出せ。カズ君やシィーリアと訓練した時のことを。2人とも、今のユイと同じくらい速かった。


物理攻撃上昇インクリズアタック・ニ連《ツヴァイ》」


 私にとって5度目の強化魔法。初回の持続時間は30分。重ねがけする度、持続時間は半減する。

 これをかければもう2分弱しか強化魔法は持続しない。1テンポ遅れて光る体。2度の使用で物理攻撃30%の上昇。その為には、ユイの力も利用しないと。足りない部分は……私の全てで補うしかない。

 今までを思い出せ。忘れたい過去も、シィーリアとの訓練も。カズ君の、鎧さんの、アイルちゃんの……全部、全部!! 私の中にある物を全部使え!!


「死ねえええマイぃぃぃぃぃ!!!」


 飛び込んで来たユイが拳を振り上げる。どこを狙う? 急所しかない。同じ訓練を受けた。相手を壊すことだけを叩き込まれた私には分かる。

 あの飛び込み、角度、拳の位置。全てが顔を狙ってる。顔は急所の塊だ。一瞬で決めるならそこを狙えと言われたから。私はユイに散々殴られて来たから。

 掴め、位置は分かる。後はタイミングだけ。


「ユイィィィイィィ!!!」


 恐怖感を紛らわせるためにユイの名前を叫ぶ。アイルちゃんは怖いときに大声を出す。自分を奮い立たせる為だ。私も……怖い。だから叫ぶ。アイルちゃんみたいに。

「死ねえええぇぇ!!!」

 放たれたユイの拳。それを左手でいなし、手首を掴んだ。

「な……っ!?」

 シィーリアがやったようにその手を引く。バランスを崩したユイ。その顔に本気の掌底を叩き込む。ズンと腕全体に響く感触。それだけでユイの力の強さが分かった。

「があぁっ!?」

 ユイが仰け反る。右にステップしてその左頬に拳を叩き込む。

「う゛あ゛あああああ!!」

 ユイが壁面に叩き付けられる。彼女が激突した壁面にビシリとヒビが入った。

「やりやがったなあああああ!!!」

 怒り狂ったユイが再び殴りかかって来る。その拳の狙いを予測して咄嗟に体を捻る。鼻先を掠めたユイの拳は轟音と共に壁穴を開けた。

 ユイが焦点の合わない目をギョロリと動かして私を見た。

「なんでさぁ……なんでいなくなったんだよぉ……アタシを置いてったんだよぉ」

 泣きそうな顔。それを見て胸が苦しくなる。それがユイの本心だって分かるから。今のユイは感情がぐちゃぐちゃでコントロールできないみたいだけど……私の事には固執している。殺そうとしても、復讐しようとしても、私を求めてるってことだ。

「ユイを助けたいよ……だから一緒にシィーリアの所へ行こう? きっとなんとかできるから」

「うるさい!!!!」

 ユイが殴りかかる。昔の記憶を頼りにユイの攻撃を予測して、なんとか紙一重で避けることができた。

「アタシはぁ……お前のせいでこんなになっちゃったんだ!!! 分かんない分かんない分かんない!! なんでこんなに気持ち悪いんだよぉ!!」

 ユイが拳を放つ。それを避けようとして腕を掴まれてしまう。

「しまっ──っ!?」

「捕まえたぁ!!!」

 そのまま地面に叩き付けられる。全身に物凄い衝撃が襲いかかった。息が止まりそうになる。

「かはっ……っ!?」

 でも、生きてる。危なかった。防御強化を2段階かけてなかったら死んでた……なんとか動け──。


「あはははははははっ!!!」


 ユイの拳が私の顔を捉える。転がってなんとかその攻撃を避けた。ユイの拳がズガンという音を立てて床を殴り付ける。ひび割れる床の振動まで感じた。こんなのが当たったら……。

「オラオラオラ!! 死ねよマイ!! お前が死ねば苦しいのが消えるんだ!!」

 何度も放たれる拳。それを転がりながらギリギリで躱わす。正直、躱わせているのが奇跡だ。1秒でも動きが遅ければ死ぬ、少しでも予測が外れたら死ぬ。それくらいユイの攻撃は速かった。

「くっ!!」

 避けたタイミングで体勢を立て直す。両足で地面を踏み締める。ユイの追撃。それを迎撃しないと。


 両手に装備した籠手を構える。この装備なら再現できるはずだ。鎧さんのパリィを思い出せ。渋谷で見たことを思い出せ。

「ラァああああ!!」

  襲いかかるユイの拳。それが当たるタイミングを測って籠手で弾く。彼女に隙が生まれる。その顔に右の拳を叩き込む。

「う゛あ゛っ!?」

 よろめくユイ。彼女の脚を払って距離を取る。いける。これなら……。


 そう思った瞬間、強化魔法が消えてしまった。体がズシリと重くなる。防御魔法も消えてしまう。私の中で、一気に不安感が広がった。


「く、こんな時に……」


  私に残る魔力量なら、あと3回が限界。回復する暇もない。それなら……。

 ユイが大勢を立て直す前に攻撃上昇魔法インクリズアタックを3回発動する。私の全部を攻撃に回す。それしか、ユイに勝てる方法はない。


「クソがああああああ!!!」


 再び突撃して来るユイ。脚が震える。あれをまともに食らったら……私は死ぬ。


 ……。



 ずっと死ぬのが怖かった。私は死ぬのが嫌で嫌で仕方なくて、生きるために人を傷付けて来た。生きる為に逃げ出して来た。



 だけど。



 私の大好きな人は……ジークリードは絶対に恐れない。誰かを守る為なら、絶対にためらわない!!!



 私は……それを1番近くで見てきた。



 私は、今、ユイを助けたいんだ!!!!



「うあああああああああああああ!!!!!」
 

 覚悟を決めてユイのもとへ飛び込む・・・・


「マイイイィィィィ!!!!」


 叫ぶユイ。放たれた拳に自分の拳を重ねる。全体重を乗せる。


「ユイイイィィィィ!!!!!」


 目を離すな。怖がるな。避けられる。私なら避けられる……っ!!


「あっははははははははひひははははあははははは!!!!」


 絶叫のような笑い声。その中で、泣いてるユイが見える。分かる。私はユイのお姉ちゃんだから。ユイ、迎えに来たよ? 一緒に帰ろうよ? だから……。


「だから私は……負けないっ!!!!」


 目前に迫った拳に、さらに飛び込む。


 「な……に……っ!?」


 ユイの拳が頬を掠める。



「うわあああああああああああ!!!」


 彼女の顔にメキリと食い込む私の拳。その瞬間、自分の右手から嫌な音が聞こえた。ユイの方が速い。この子の力を利用するってことは、私の体にもダメージがあるということだ。


「う゛ぅっ!?」


 手首に衝撃が走る。折れてしまったのかもしれない。


 けど構うな。ユイを倒せるのは今しかない。

 左手を添えて、そのまま全体重をかける。


「あああああああああああああああああ!!!!」


 ユイを絡めとるように地面に叩き付ける。


「うあ゛ああぁぁぁっ!?」


 フロアを揺らすほどの衝撃。それがおさまった時、ユイは焦点の合わない目で私を見た。


「今までごめんね……ユイ」


「な……で……あやま……だよ……」


 ユイが私を見る。ずっとぼんやりとしていた彼女の視線が真っ直ぐ私を……そう思った時、ユイは静かに目を閉じた。ジンジンと痛む右手を押さえながら、妹の手を握る。

「おね……ちゃ……」


 私を呼ぶ声。それを聞いて涙が溢れた。


 ユイ……。


 絶対……お姉ちゃんが苦しいの取ってあげるからね。


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