107 / 302
第105話 協力
しおりを挟む鯱女王が動き出した同時刻。
──サンシャインビル最上階。
~461さん~
ジークが地上へ降りて少し経った頃。アイルに状況と作戦を連絡する。強く反対されたが、最後は俺の作戦に納得してくれた。納得してくれたが……声が震えていた。これは、意地でも生き残らねぇとな。
だが、これであの不死鳥をぶっ倒す策を実行できる。頼むぜアイル。
ふとミナセを見ると、彼女は倒れたユイの頭を膝に乗せ、その髪を左手で撫でていた。折れた右手がまだ痛むのか、時折顔を歪ませながら。
大剣を下ろし、その隣に座る。
「悪いなミナセ、戦ったばっかなのに手伝って貰ってよ」
「いいよ。カズ君が無事だったのも鎧さんのおかげだし。私ができることは何でもするよ」
「カズ君?」
「本名。鎧さんとアイルちゃんには伝えてもいいかなって」
カズ君……ジークも普通の名前があったんだな。なんか、アイツ見てるとジークって呼び方がしっくりくるというか……そんな気がするよな。
ミナセが俺の顔を覗き込む。
「鎧さんはアイルちゃんの本名知ってるの?」
「アイルの? そういや知らないな」
アイルも探索名だったな。失踪した親父さんが人の名前みたいな駅があると言ったから、目に止まった時分かるよう駅の名前を付けたって。
「ダメだよ~? ちゃんとアイルちゃんに聞いてあげて。リレイラさんは本名そのままなんでしょ?」
「何でそこでリレイラさんが出て来るんだよ?」
ミナセは、露骨にため息を吐くと「苦労するなぁ」とポツリと呟いた。
「ま、3人の問題だから私はこれ以上言わないけど、全部終わったら聞いてあげてよ。きっとアイルちゃん喜ぶんじゃないかな? 鎧さんが自分の本名知りたいって言ってくれたら」
「ふぅん……そんなもんかな?」
「そんなもんだよ。鎧さんニブすぎ。リレイラさんだけじゃなくて、アイルちゃんにもしっかり向き合ってあげてよ?」
何だかムッとする顔のミナセ。何だそりゃ。まぁ、落ち着いたら聞いてみるか。
……。
しばらく続く沈黙。ふと隣のミナセをみると、彼女は唇を噛み締めた。その視線の先には静かに眠るユイの顔。感情の増幅か……そんなデメリットを持つスキルがあるとはなぁ。
「絶対、この子を亜沙山に渡す訳にはいかないの。この子を助ける為には……」
亜沙山の誤解は解けたとしても、今度はユイを保護しなきゃならない。実行犯はユイだからな。ミナセが言うようにスキルを彼女の体から取り除くには、何としても亜沙山瑠璃愛の手に渡す訳にはいかねぇな。
「あ」
急に声を上げたミナセ。彼女はユイのスマホを起動すると、俺に差し出した。
「そういえば、ユイの日記に気になることが書いてあったの。モンスターを操る指輪のことが」
モンスターを操る?
ユイのスマホを借りて日記を見る。
……。
想像以上に九条商会はクズな組織みたいだな。だがそれよりも、ミナセの言う指輪は……。
ユイの日記の最後を見る。確かに書いてある「支配者の指輪」の存在。それに俺は心当たりがあった。
あの不死鳥の魔物ならざる動き。それも人によって操作されていたと思えば納得できる。
「なるほどな。だったら主犯格も池袋に……」
流石に支配していると言っても長距離から操るようなことはできないだろう。池袋周辺にはいるはずだ。
その時。
聞き覚えのある声がした。先程まで殺し合いをしていた相手の声が。
「おぉ。ソイツが双子の妹か。確かにこれは間違えるな」
通路の角から現れたソイツを見てミナセがユイを庇うように抱きしめる。
「……!? お前、亜沙山の!?」
強化魔法を発動するミナセ。それを止めてやって来た男に向き直る。それは亜沙山の探索者、式島だった。刀を持った初老の男は吸っていたタバコを携帯灰皿の中に捨てた。
「実行犯をよこしな。それで全部チャラにしてやる」
手を差し出す式島。そりゃそうだ。ヤツらはユイを手に入れたら目的を達成できる。俺もミナセの誤解を解く為に式島をここに誘い出す必要があった。ヤツを証人にする為に。
だが、今の俺達はユイを引き渡すことを……認められない。それが仲間の意思。俺は……それを守ってやりたい。こうなると、ミナセの誤解が解けたとしても、対峙することは必然だ。
「どうした? まさかこの後に及んで犯人を庇うなんてことしねぇよな?」
式島が刀に手をかける。ここで戦う? ボロボロのミナセと気絶したユイを庇って? それは流石に得策じゃないな。
横目でミナセを見る。あの顔……戦う気だな。
……ムカつくな。
俺達は、この詰将棋みたいな状況に放り込まれたんだ。それを仕掛けたのは誰だ? 九条のヤツらだ。なら、ここに投げ込んで来たヤツにはキッチリ返さないとな。
湧き上がる感情を抑えて、冷静な振りをする。式島には如何にも真実を告げるように振る舞わなければならないから。
「……まぁ聞けよ式島。これで俺が言った亜沙山が九条商会に利用されていたことが確定しただろ?」
「まぁな。で? お前は何を言いたい?」
式島の眼光が鋭くなる。俺がユイを渡す気が無いことを悟ったんだろう。下手なことを言えば一瞬で懐に飛び込んで来る可能性がある。落ち着け。話が通じない相手じゃないんだ。今は目的の相違があるだけ。
なら、その目的を修正してやればいい。
頭の中で九条の企みを解き明かしたシィーリアのことを思い出す。アイツならなんて言う? 頭をフル回転させてシィーリアの思考を、口調を思い出す。
「ヤツらはこのイベントでテロを起こす為にユイを使った。なら、お前らが瑠璃愛に差し出すべきなのはユイを使った黒幕じゃないか?」
……人を説得するなんて1番苦手なんだが。
ため息が出そうになるのを堪える。あくまで式島には俺が確信を持っていると思わせなければいけない。ユイの日記によれば黒幕は指輪でボスを操っている。なら、敢えて「黒幕」という言葉を使って亜沙山を誘導したい。ユイのことも、ソイツの責任だと思わせる為に。
「……」
考え込む式島。俺の腹の内を探っているんだろう。
「ユイのスマホを見れば分かるが、彼女は九条に洗脳されていた。お前達にしたこともそうだ。ユイは断る選択肢を奪われた状態で命令された。そんな被害者を亜沙山は犯人として扱うのか?」
「何?」
ヤツはひとしきり考え込むと、真っ直ぐ俺を見て口を開いた。
「……お前の目的はなんだ?」
「目的? そりゃあもちろん……」
ここでミナセの意思を尊重したいだとか、ユイを渡さないなんてことは言ってはいけない。この言葉が嘘とも捉えられるようになるからだ。昔やったアレを思い出せ。亜沙山は面子で動いた。なら、ヤツらの行動理念に従う言葉を使わないとな。
「ムカつくんだよ。俺らは九条商会にハメられた。だからよ、黒幕に思い知らせてやりたいのさ、俺らをハメた報いってヤツを。面子を潰されたアンタらにとってもそれが1番の結末だと思うが?」
突然、式島が吹き出した。見破られたか……?
「ははははは! いや、悪い。面白いヤツだと思ってよ。昔のヤクザみたいなこと言うヤツだ。いいぜ、協力してやるよ」
腹を押さえて笑う初老の男。そんなに俺が言うと面白かったのか?
まぁ、ヤクザの真似したからな。引きこもってた時、「⚪︎が如く」もプレイしておいて良かったぜ。
「それにしてもよぉ……全身鎧の野郎が面子って! はははははははっ!!」
……そんな笑われると傷付くんだが。
まぁいいや。
待ってろよ黒幕。お前が詰将棋に誘い込んだのなら、俺は使えるもん全部使って巻き返してやる。
◇◇◇
式島が461さんの元を訪れてから数十分後。
──サンシャインビル周辺区画。
~式島~
「式島さん。この区間のビルは全部確認しました」
「おぅ、じゃあ次の区画に行け」
「分かりました」
走っていく部下。それがさらに下の者達へと指示を出す。ジークリードにやられていたが、動ける者が多くて助かった。
……。
のびていた部下達を叩き起こし、九条の黒幕を探すように指示した。武史のヤツは戻った時にはいなくなっていたが……まぁアイツのことだ。心配は無いだろう。
黒幕か。どこかに潜伏しているとすれば……こんだけ広大なビル群があるんだ。その中に隠れるだろう。こっちには数がいる。舐めるなよ九条のガキが。
それにしても461のヤツ、うまい落とし所を提案してくれたもんだぜ。
もしこのまま俺達がユイという探索者に固執し、九条のテロが成功でもすれば、確実に俺達は魔族から目を付けられる。ここで461達に協力して被害者を装った方が俺達にメリットがある。ヤツらが九条のテロを防いだのなら協力した亜沙山の株も上がるだろう。
「面白いヤツだ。461というヤツは」
……全部終わったらお嬢も説得しないとな。そこは461達にも手を借りるか。いずれにしてもあのユイをお嬢の前に出さねぇとあの子は止まらねぇ……今のお嬢は完全に怒りに支配されてやがる。後で策を考えねぇとな。
「……」
タバコに火を付ける。散々時代に置いていかれても、ついぞ辞められなかった前時代の象徴を。
真理さん、すまねぇ。
危うくアンタの大事なお嬢に……娘に、道理を外れることをさせる所だった。一度外れちまえば待ってる先は九条のようなクズの集まり……それはアンタも先代も望む所じゃねぇ。
「ま、元ヤクザは甘っちょろい道理でヤクザごっこに専念するか」
俺達をハメた野郎にキッチリ地獄を見せてからな。
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる