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第116話 ユイの決意
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~461さん~
ユイが助かり1週間が経った金曜日。ジークやミナセ達と冒険家Bで打ち上げをしようとアイルが提案してきた。
夕方までアイルは学校、リレイラさんやシィーリアも仕事なので夜まで暇だ。1人で過ごしていても落ち着かない……トレーニングを済ませた俺はユイやミナセ達の様子を見に行く事にした。ユイはシィーリアの屋敷に留まることになったようだし、主人が不在でもメイドのハルフェルさん達が屋敷にいるから入れるだろ。
……。
渋谷のシィーリアの屋敷までやって来て、転移魔法のついた扉を叩く。すると扉がゆっくりと開いた。そこを抜け、敷地内に入る。しばらく歩いて屋敷の前まで行くと、庭園に女が立っていた。あれは……ミナセ? いや、ユイか。
双子だからか、私服を着ていると流石に分からない。何となく物思いにふけるような彼女に声をかけてみる。
「よっ」
「……なんだ。鎧のヤツか」
この態度……ユイか。
「もうちょっと他の言い方あるだろ」
「うるせー」
ユイは正気には戻ったが態度はそんなに変わらないな。なんかヤンキー女みたいな……まぁ、この前まであんな感じだったんだ。仕方ないか。
「ミナセやジークは?」
「救出任務だってさ」
マジか……今ユイしかいないのかよ。気まずいな……様子を見に来たものの2人きりになるのは想定してなかったぞ。
「ユイは何やってたんだ?」
「花を見てた」
「花?」
「この前まではこういうの見るとグシャグシャに潰してやりたくなったんだ。その感覚が戻ってないか……心配なんだ。だから、毎日花を見てる」
……「狂乱」が消えても、その感覚はユイの中でトラウマになってるってことか。
「ブギィッ!」
ミニスキルイーターがユイの肩に飛び乗る。よく見ると、ユイの手には支配者の指輪が付けられていた。ミニスキルイーターは怒ったように体を震わせるているが、ユイに噛み付いたりはしなかった。
支配者の指輪によって支配権がユイに移ったのか、それともミナセの双子だからスキルイーターが勘違いしているのか……いずれにしても、ユイに懐いているのは間違いなかった。
「支配者の指輪、ユイが付けてるのか」
「アタシが持っている方がいいってシィーリアに言われたから。それに」
ユイが手のひらを向ける。スキルイーターがそこに飛び移ると、ユイはスライムの体を優しく撫でた。
「アタシのスキルを吸ってくれたんだ。キル太に感情があるかは分からないけど、せめて世話くらいはするつもり」
「名前付けたのか」
「そ、そうだよ」
なるほどな。スキルイーターだから「キル太」……か。
なんだか妙に可愛らしい付け方で苦笑してしまう。この態度だが、なるほどな。らしい所もあるってことか。
「イイ名前じゃん」
「うっせ! 名前無いと不便なんだよ! スキルイーターとか長すぎ!」
顔を真っ赤にして怒るユイ。こうして見ると少しミナセより幼い印象を受けるな。
「まぁ……アンタが来たならちょうどいいや。マイから聞いたけど、探索者歴長いんだろ? 教えて欲しいことがあるんだ」
「なんだ?」
「スキルツリーでさ、こういうことってあるのか?」
ユイは、深刻な表情で話し始めた──。
◇◇◇
その日の夕方。
──洋食屋「冒険家B」
「それでは、皆のハンターシティでの健闘と、ユイの救出成功に……カンパイなのじゃ!」
シィーリアのカンパイの音頭のもと、ハンターシティの打ち上げは和やかな雰囲気で始まった。事情を聞いたマスターが店を貸切にしてくれた。しかもナーゴまで呼んで大量の料理を提供してくれるという特別待遇……ありがたいよな。
アイルに聞いたところ、今回はユイがいるのでモモチーやパララもん達は呼ばないことにしたらしい。また彼女達とは別の席を設けるのだそうだ。
ユイが恐る恐る食事に手を伸ばす。一口食べると、彼女の顔は一気に明るくなった。
「ウマッ!?」
「そうかにゃ!? お口に合って良かったにゃ~!」
ナーゴがクネクネと動く。それを見たユイが苦笑する。初めて見る奴にナーゴは刺激が強すぎるかもなぁ。
よほど気にいったのかユイは無言でガツガツと料理を食べた。その勢いは凄まじく、食い散らかすと言ってもいいくらいだ。その脇でキル太もラルサーモンの刺身をモニュモニュと食べていた。なんかユイに似てないか……?
ミナセがユイの口元を拭く。そんな様子をジークが横から眺めていた。うっすらと微笑みを浮かべて。
「あれ?」
アイルが不思議そうに首を傾げる。
「なんだ天王洲? 俺の顔に何か付いているか?」
「いや、ジークがそんな顔するなんて珍しいな~って思って。ミナセさんとなんかあったの?」
「ハ?」
ジークがビシリと固まる。そして急に壊れたロボットのようにぎこちなく料理を口に運んだ。
「ナニモナイガ?」
「絶対なんかあったでしょその反応……」
どうしたんだジークのヤツ?
ミナセを見ると、彼女はイタズラっぽい表情を浮かべていた。
「何もないよね。ね? カズ君?」
「ソウダ。ナニモナイゾ」
ジークがギクシャクとした動きで料理を食べる。アイルが問い詰めようとすると、ジークの眼がギラリと光った。アイルが小さく悲鳴を上げ、慌てて目を逸らす。
「なんだよマイ。ジークリードとヤッ」
ユイが何か言おうとした瞬間、ミナセが彼女の頭をバシンと叩いた。
「痛ってぇ!? 何すんだよ!」
「ユイがデリカシー無いこと言おうとするからだよ!!」
「叩くことないだろ!!」
「うるさいっ!! よりにもよってなんでみんなの前で言うのさ!」
そのうち姉妹喧嘩が始まってしまう。止めに入らないジークの様子から察するに、見慣れた光景らしい。この1週間で姉妹の関係は少しずつだけど元に戻っているみたいだな。
急に左腕がクイクイと引っ張られる。隣を見ると、リレイラさんが俺の顔を覗き込んできた。
「よ、ヨロイくん……わ、わわわわわ私達も、その、あの、ジーク君達も、あの、ああみたいだし……」
「? どういうことですか?」
答えた瞬間、アイルが露骨にため息を吐いてリレイラさんに小声で何かを話しかける。
(苦労するわね……)
(アイル君もだろう?)
(そ、それは……その……)
(大丈夫。友達じゃないか)
(リ゛レ゛イ゛ラ゛っ!?)
なぜか急にアイルが号泣し、リレイラさんにヒシッと抱き付いた。それを抱きしめるリレイラさん。彼女もうっすらと涙を浮かべている……なんだ? なんで2人とも……。
ふと見ると、シィーリアとナーゴが俺のことを見ていた。シィーリアは哀れみの表情、ナーゴは着ぐるみの目がクッとつり上がり怒ったような表情で。
「ヨロイよ……オヌシ、大変じゃぞ?」
「どっちか不幸にしたらナーゴが怒るにゃ!!」
な、なんだその目……? 俺、何かやったか?
しかし、聞いてもシィーリアもナーゴも首を振るだけ。アイルもリレイラさんも2人の世界に入ってしまっている。訳が分からず頭を抱えていると、背中をバンと叩かれた。振り返るとそこには冒険家Bのマスター。マスターはニヤリと不敵に笑うと、俺に向けて親指を上げた。
「美女と美少女がお互いを認め合い、全力を尽くす……これこそ青春。芳醇なトキメキをもたらしてくれる。紳士なら何も言わずに受け止めてやるもんだぜ?」
マスターはよく分からないことを言った。
◇◇◇
打ち上げも終わり、みんなで片付けを手伝おうとしていた時、ユイが立ち上がった。
「あ、あの」
視線を合わせず俯くユイ。それを見て、昼間の話をするのだと反射的に分かった。ユイの質問には答えたが、それから彼女がどんな事を望むのかは分からない。黙って彼女を見ていると、ユイは深々と頭を下げた。
「アタシのこと、助けてくれてありがとう……その、この恩は絶対返すから……それと」
ユイが顔を上げる。その目は何かを決心した目だった。
「マイやみんなには悪いんだけど……アタシにもう少しだけ探索者でいさせて欲しいんだ」
「えぇ!?」
アイルが大きな声を上げた。ジークもリレイラさんも驚いたような顔……当然だろうな。キル太にスキルを食べさせたからといってユイから「狂乱《マッドネス》」が消え去った訳じゃない。キル太が死んでしまえばまたユイはあの性格に戻ってしまう。だけどそれでも続けたいと、ユイはそう思ったのか。
「なん、で……?」
ミナセが悲しそうな顔をする。
「昔、九条アラタに言われて散々マイのこと殴っただろ? アレって、アタシのスキルツリーに狂乱のスキルを出現させる為なんじゃないかって……そう、思うんだ」
ユイにそのことを聞かれていた。スキルツリーは各々の性格や資質に大きく影響を受ける。なら、「外的要因」によってスキルツリーを操作することもできるんじゃないかと。
俺も以前別の探索者から聞いたことがある。高所恐怖症の探索者が群馬の天空廻廊ダンジョンに2週間かけて挑んだ時、スキルツリーに恐怖耐性のスキルが出現したと。恐怖心を抱き続けた結果、それから逃れるようにスキルが出現したらしい。
なら、ユイにも同じことが言える。大切な者をワザと傷付けさせれば心に歪みが生まれる。その精神的負荷を与えることで、ユイの心は苦痛から逃れようとする。愛する者を傷付ける苦痛から逃れる為に、精神自体を変質化させるスキルが発生した……そう考えるのが自然だ。九条はユイに「狂乱」を植え付けたんだ。
「きっとアタシ以外にも同じような想いをしてるヤツがいるはず。だから……九条を潰すまでは、探索者でいさせて欲しい」
「そんな!! ユイはもう十分傷付いたじゃん! 九条商会を潰すなら私がやるよ!! 亜沙山だって協力してくれるし! だからユイはもう……」
ユイは静かに首を振ると、もう一度俺達を見回した。そして、もう一度深く頭を下げる。
「これは完全なアタシのわがままだ。だけど、どうしても、やらせて欲しい。アタシやマイのような想いをするヤツがこれ以上出るのは、嫌なんだ。みんな傷付いてるのに、アタシだけ見て見ぬフリして平穏に暮らすなんて……」
2人の様子を黙って見守る。ユイのことを1番助けたいと願ったのはミナセだ。ジークも、アイルも、リレイラさんも……シィーリアも。みんなミナセの答えを待っていた。
「私は……」
ミナセが視線を彷徨わせ、ジークとシィーリアへと目をやった。しばらく葛藤するように手を握りしめたミナセ。彼女は固く握った手を解くとユイの手を取った。
「しょうがないな……ユイが決めたことだもんね。私はもう、反対しないよ」
「マイ……ありがとう」
「でも! ユイは1人にさせないから! 私も手伝うよ。ユイのこと」
その言葉を聞いたジークが笑みを浮かべ、置いてあった愛剣を手に取った。
「なら、俺も手伝おう。ユイはミナセの妹だからな」
「ジークリード……」
静かに見守っていたシィーリアが膝をパンと叩く。
「よし。ならまずはユイとキル太がそう簡単にやられぬようしっかり鍛えてやらんとな」
「え!?」
「ブギ!?」
戸惑ったような顔を浮かべるユイ。彼女へ向けてシィーリアがニヤリと笑う。
「当然じゃろう? オヌシが負けたりキル太が殺されたら……ミナセの苦労は水の泡となるのじゃぞ?」
「そ、そうだよな……うん、やるよ」
「ブギ!? ……ブギィ!」
キル太のヤツ、気合い入れてるが……明らかに戸惑ってるよな? 「え? 自分もやるの?」みたいな感じで思ってるぞ絶対。
「私も何かできることを……」
リレイラさんがタブレットを取り出して何かを調べていく。チラリと横から覗くと、それは「ウォタク」の探索者情報サイト。リレイラさんも結構使ってるんだなこのサイト。開いたページにはアイテムの情報が並べられていた。
「まだ発見はされていないが……もしかしたら負の感情を抑制するアイテムもあるかもしれない。私も独自で調査してみよう」
「いいわねそれ! 当然、私達も協力するわよねヨロイさん!」
「当たり前だろ。ユイ、俺達も手を貸すからな」
「みんな……こんな私の為に、ありがとう」
ユイが涙目になり、再び俯いてしまう。
「みんなはね、私が九条でしてきた事を聞いても受け入れてくれたの。だからユイも大丈夫。私も、みんなもいるからね?」
「うん……」
涙をポロポロと溢すユイに、優しげに彼女の頭を撫でるミナセ。その様子が……なんかいいなと思えた。
……。
ユイの問題は解決した訳じゃない。九条を倒して引退するのか、それとも別の方法を見つけるのか……それはユイとミナセ、2人が決めていくことだ。
だけど、もう以前のような悲劇じゃない。きっと2人は大丈夫だ。
「ちょっとマイ……撫ですぎだって……」
「え~? 嬉しいでしょ~?」
こんなに仲の良い姉妹なんだから。
ユイが助かり1週間が経った金曜日。ジークやミナセ達と冒険家Bで打ち上げをしようとアイルが提案してきた。
夕方までアイルは学校、リレイラさんやシィーリアも仕事なので夜まで暇だ。1人で過ごしていても落ち着かない……トレーニングを済ませた俺はユイやミナセ達の様子を見に行く事にした。ユイはシィーリアの屋敷に留まることになったようだし、主人が不在でもメイドのハルフェルさん達が屋敷にいるから入れるだろ。
……。
渋谷のシィーリアの屋敷までやって来て、転移魔法のついた扉を叩く。すると扉がゆっくりと開いた。そこを抜け、敷地内に入る。しばらく歩いて屋敷の前まで行くと、庭園に女が立っていた。あれは……ミナセ? いや、ユイか。
双子だからか、私服を着ていると流石に分からない。何となく物思いにふけるような彼女に声をかけてみる。
「よっ」
「……なんだ。鎧のヤツか」
この態度……ユイか。
「もうちょっと他の言い方あるだろ」
「うるせー」
ユイは正気には戻ったが態度はそんなに変わらないな。なんかヤンキー女みたいな……まぁ、この前まであんな感じだったんだ。仕方ないか。
「ミナセやジークは?」
「救出任務だってさ」
マジか……今ユイしかいないのかよ。気まずいな……様子を見に来たものの2人きりになるのは想定してなかったぞ。
「ユイは何やってたんだ?」
「花を見てた」
「花?」
「この前まではこういうの見るとグシャグシャに潰してやりたくなったんだ。その感覚が戻ってないか……心配なんだ。だから、毎日花を見てる」
……「狂乱」が消えても、その感覚はユイの中でトラウマになってるってことか。
「ブギィッ!」
ミニスキルイーターがユイの肩に飛び乗る。よく見ると、ユイの手には支配者の指輪が付けられていた。ミニスキルイーターは怒ったように体を震わせるているが、ユイに噛み付いたりはしなかった。
支配者の指輪によって支配権がユイに移ったのか、それともミナセの双子だからスキルイーターが勘違いしているのか……いずれにしても、ユイに懐いているのは間違いなかった。
「支配者の指輪、ユイが付けてるのか」
「アタシが持っている方がいいってシィーリアに言われたから。それに」
ユイが手のひらを向ける。スキルイーターがそこに飛び移ると、ユイはスライムの体を優しく撫でた。
「アタシのスキルを吸ってくれたんだ。キル太に感情があるかは分からないけど、せめて世話くらいはするつもり」
「名前付けたのか」
「そ、そうだよ」
なるほどな。スキルイーターだから「キル太」……か。
なんだか妙に可愛らしい付け方で苦笑してしまう。この態度だが、なるほどな。らしい所もあるってことか。
「イイ名前じゃん」
「うっせ! 名前無いと不便なんだよ! スキルイーターとか長すぎ!」
顔を真っ赤にして怒るユイ。こうして見ると少しミナセより幼い印象を受けるな。
「まぁ……アンタが来たならちょうどいいや。マイから聞いたけど、探索者歴長いんだろ? 教えて欲しいことがあるんだ」
「なんだ?」
「スキルツリーでさ、こういうことってあるのか?」
ユイは、深刻な表情で話し始めた──。
◇◇◇
その日の夕方。
──洋食屋「冒険家B」
「それでは、皆のハンターシティでの健闘と、ユイの救出成功に……カンパイなのじゃ!」
シィーリアのカンパイの音頭のもと、ハンターシティの打ち上げは和やかな雰囲気で始まった。事情を聞いたマスターが店を貸切にしてくれた。しかもナーゴまで呼んで大量の料理を提供してくれるという特別待遇……ありがたいよな。
アイルに聞いたところ、今回はユイがいるのでモモチーやパララもん達は呼ばないことにしたらしい。また彼女達とは別の席を設けるのだそうだ。
ユイが恐る恐る食事に手を伸ばす。一口食べると、彼女の顔は一気に明るくなった。
「ウマッ!?」
「そうかにゃ!? お口に合って良かったにゃ~!」
ナーゴがクネクネと動く。それを見たユイが苦笑する。初めて見る奴にナーゴは刺激が強すぎるかもなぁ。
よほど気にいったのかユイは無言でガツガツと料理を食べた。その勢いは凄まじく、食い散らかすと言ってもいいくらいだ。その脇でキル太もラルサーモンの刺身をモニュモニュと食べていた。なんかユイに似てないか……?
ミナセがユイの口元を拭く。そんな様子をジークが横から眺めていた。うっすらと微笑みを浮かべて。
「あれ?」
アイルが不思議そうに首を傾げる。
「なんだ天王洲? 俺の顔に何か付いているか?」
「いや、ジークがそんな顔するなんて珍しいな~って思って。ミナセさんとなんかあったの?」
「ハ?」
ジークがビシリと固まる。そして急に壊れたロボットのようにぎこちなく料理を口に運んだ。
「ナニモナイガ?」
「絶対なんかあったでしょその反応……」
どうしたんだジークのヤツ?
ミナセを見ると、彼女はイタズラっぽい表情を浮かべていた。
「何もないよね。ね? カズ君?」
「ソウダ。ナニモナイゾ」
ジークがギクシャクとした動きで料理を食べる。アイルが問い詰めようとすると、ジークの眼がギラリと光った。アイルが小さく悲鳴を上げ、慌てて目を逸らす。
「なんだよマイ。ジークリードとヤッ」
ユイが何か言おうとした瞬間、ミナセが彼女の頭をバシンと叩いた。
「痛ってぇ!? 何すんだよ!」
「ユイがデリカシー無いこと言おうとするからだよ!!」
「叩くことないだろ!!」
「うるさいっ!! よりにもよってなんでみんなの前で言うのさ!」
そのうち姉妹喧嘩が始まってしまう。止めに入らないジークの様子から察するに、見慣れた光景らしい。この1週間で姉妹の関係は少しずつだけど元に戻っているみたいだな。
急に左腕がクイクイと引っ張られる。隣を見ると、リレイラさんが俺の顔を覗き込んできた。
「よ、ヨロイくん……わ、わわわわわ私達も、その、あの、ジーク君達も、あの、ああみたいだし……」
「? どういうことですか?」
答えた瞬間、アイルが露骨にため息を吐いてリレイラさんに小声で何かを話しかける。
(苦労するわね……)
(アイル君もだろう?)
(そ、それは……その……)
(大丈夫。友達じゃないか)
(リ゛レ゛イ゛ラ゛っ!?)
なぜか急にアイルが号泣し、リレイラさんにヒシッと抱き付いた。それを抱きしめるリレイラさん。彼女もうっすらと涙を浮かべている……なんだ? なんで2人とも……。
ふと見ると、シィーリアとナーゴが俺のことを見ていた。シィーリアは哀れみの表情、ナーゴは着ぐるみの目がクッとつり上がり怒ったような表情で。
「ヨロイよ……オヌシ、大変じゃぞ?」
「どっちか不幸にしたらナーゴが怒るにゃ!!」
な、なんだその目……? 俺、何かやったか?
しかし、聞いてもシィーリアもナーゴも首を振るだけ。アイルもリレイラさんも2人の世界に入ってしまっている。訳が分からず頭を抱えていると、背中をバンと叩かれた。振り返るとそこには冒険家Bのマスター。マスターはニヤリと不敵に笑うと、俺に向けて親指を上げた。
「美女と美少女がお互いを認め合い、全力を尽くす……これこそ青春。芳醇なトキメキをもたらしてくれる。紳士なら何も言わずに受け止めてやるもんだぜ?」
マスターはよく分からないことを言った。
◇◇◇
打ち上げも終わり、みんなで片付けを手伝おうとしていた時、ユイが立ち上がった。
「あ、あの」
視線を合わせず俯くユイ。それを見て、昼間の話をするのだと反射的に分かった。ユイの質問には答えたが、それから彼女がどんな事を望むのかは分からない。黙って彼女を見ていると、ユイは深々と頭を下げた。
「アタシのこと、助けてくれてありがとう……その、この恩は絶対返すから……それと」
ユイが顔を上げる。その目は何かを決心した目だった。
「マイやみんなには悪いんだけど……アタシにもう少しだけ探索者でいさせて欲しいんだ」
「えぇ!?」
アイルが大きな声を上げた。ジークもリレイラさんも驚いたような顔……当然だろうな。キル太にスキルを食べさせたからといってユイから「狂乱《マッドネス》」が消え去った訳じゃない。キル太が死んでしまえばまたユイはあの性格に戻ってしまう。だけどそれでも続けたいと、ユイはそう思ったのか。
「なん、で……?」
ミナセが悲しそうな顔をする。
「昔、九条アラタに言われて散々マイのこと殴っただろ? アレって、アタシのスキルツリーに狂乱のスキルを出現させる為なんじゃないかって……そう、思うんだ」
ユイにそのことを聞かれていた。スキルツリーは各々の性格や資質に大きく影響を受ける。なら、「外的要因」によってスキルツリーを操作することもできるんじゃないかと。
俺も以前別の探索者から聞いたことがある。高所恐怖症の探索者が群馬の天空廻廊ダンジョンに2週間かけて挑んだ時、スキルツリーに恐怖耐性のスキルが出現したと。恐怖心を抱き続けた結果、それから逃れるようにスキルが出現したらしい。
なら、ユイにも同じことが言える。大切な者をワザと傷付けさせれば心に歪みが生まれる。その精神的負荷を与えることで、ユイの心は苦痛から逃れようとする。愛する者を傷付ける苦痛から逃れる為に、精神自体を変質化させるスキルが発生した……そう考えるのが自然だ。九条はユイに「狂乱」を植え付けたんだ。
「きっとアタシ以外にも同じような想いをしてるヤツがいるはず。だから……九条を潰すまでは、探索者でいさせて欲しい」
「そんな!! ユイはもう十分傷付いたじゃん! 九条商会を潰すなら私がやるよ!! 亜沙山だって協力してくれるし! だからユイはもう……」
ユイは静かに首を振ると、もう一度俺達を見回した。そして、もう一度深く頭を下げる。
「これは完全なアタシのわがままだ。だけど、どうしても、やらせて欲しい。アタシやマイのような想いをするヤツがこれ以上出るのは、嫌なんだ。みんな傷付いてるのに、アタシだけ見て見ぬフリして平穏に暮らすなんて……」
2人の様子を黙って見守る。ユイのことを1番助けたいと願ったのはミナセだ。ジークも、アイルも、リレイラさんも……シィーリアも。みんなミナセの答えを待っていた。
「私は……」
ミナセが視線を彷徨わせ、ジークとシィーリアへと目をやった。しばらく葛藤するように手を握りしめたミナセ。彼女は固く握った手を解くとユイの手を取った。
「しょうがないな……ユイが決めたことだもんね。私はもう、反対しないよ」
「マイ……ありがとう」
「でも! ユイは1人にさせないから! 私も手伝うよ。ユイのこと」
その言葉を聞いたジークが笑みを浮かべ、置いてあった愛剣を手に取った。
「なら、俺も手伝おう。ユイはミナセの妹だからな」
「ジークリード……」
静かに見守っていたシィーリアが膝をパンと叩く。
「よし。ならまずはユイとキル太がそう簡単にやられぬようしっかり鍛えてやらんとな」
「え!?」
「ブギ!?」
戸惑ったような顔を浮かべるユイ。彼女へ向けてシィーリアがニヤリと笑う。
「当然じゃろう? オヌシが負けたりキル太が殺されたら……ミナセの苦労は水の泡となるのじゃぞ?」
「そ、そうだよな……うん、やるよ」
「ブギ!? ……ブギィ!」
キル太のヤツ、気合い入れてるが……明らかに戸惑ってるよな? 「え? 自分もやるの?」みたいな感じで思ってるぞ絶対。
「私も何かできることを……」
リレイラさんがタブレットを取り出して何かを調べていく。チラリと横から覗くと、それは「ウォタク」の探索者情報サイト。リレイラさんも結構使ってるんだなこのサイト。開いたページにはアイテムの情報が並べられていた。
「まだ発見はされていないが……もしかしたら負の感情を抑制するアイテムもあるかもしれない。私も独自で調査してみよう」
「いいわねそれ! 当然、私達も協力するわよねヨロイさん!」
「当たり前だろ。ユイ、俺達も手を貸すからな」
「みんな……こんな私の為に、ありがとう」
ユイが涙目になり、再び俯いてしまう。
「みんなはね、私が九条でしてきた事を聞いても受け入れてくれたの。だからユイも大丈夫。私も、みんなもいるからね?」
「うん……」
涙をポロポロと溢すユイに、優しげに彼女の頭を撫でるミナセ。その様子が……なんかいいなと思えた。
……。
ユイの問題は解決した訳じゃない。九条を倒して引退するのか、それとも別の方法を見つけるのか……それはユイとミナセ、2人が決めていくことだ。
だけど、もう以前のような悲劇じゃない。きっと2人は大丈夫だ。
「ちょっとマイ……撫ですぎだって……」
「え~? 嬉しいでしょ~?」
こんなに仲の良い姉妹なんだから。
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最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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