461さんバズり録〜ダンジョンオタク、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまう 〜

三丈夕六

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第157話 矛盾した想い。

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 ~シン~

 ──新宿駅東口近隣。

 ビルの陰から駅ビル「ルミネエスト」の様子を伺う。その入り口には2人リザードマンが見える。

「シンくん、準備はいい?」

「うん」

 タルパちゃんの合図で腰のダガーを引き抜く。彼女は、コクリと頷くと行動を開始した。

夢想魔法レヴァリエ

 彼女が小声で魔法名を告げると、小さな魔法陣の中から1体の熊のぬいぐるみが現れた。そのぬいぐるみが何かに操られるようにポテポテとリザードマン達の前へ歩いて行く。

「グア! グア!」
「グアアア!!」

 ぬいぐるみに気付いたリザードマン達が槍を構えて走り出す。ぬいぐるみは驚いたように飛び上がると、遠くの家電量販店の方へと走って行った。

 門番リザードマン達が去ったのを確認してから、息を殺して入り口へ走る。

 中に入ってふと横を見ると新宿駅の地下に直接侵入できる階段があった。想像よりもずっと早く見つけてしまった駅の入り口。それを見た瞬間、救出の覚悟が揺らいでしまう。僕の目的とあの人達を天秤にかけてしまう。

 このまま階段を降りて地下に行けば……本当はさっさと行ってしまいたい。

 だけど……。

 脳裏に志村さん達が映る。あの人達と接したのはほんの少しだけど、殺されるなんてダメだ。それに、僕が諦めてもタルパちゃんは諦めないだろう。


 やるぞ。タルパちゃんのためにも。


 僕達は、ガラス扉を開けてルミネエストの中へと侵入した。



◇◇◇


「グギャ……フグッ!?」

 タルパちゃんが呼び出した人間大の熊のぬいぐるみ。それがリザードマンの口を背後から抑える。そのまま後ろへボスンと倒れ込んだ所でリザードマンの首筋をダガーで掻き切った。

「フグッ!? ……ウッ……」

 暴れていたリザードマンが大人しくなり、レベルポイントの光が僕達のスマホへ吸収される。ぬいぐるみがリザードマンを担ぎ、女子トイレへと投げ込んだ。

「はぁ……はぁ……これで、8体目……」

 ルミネエストの中を進み、遭遇したリザードマンはこうやって仕留めていく。幸い大声を上げられることなく5階までやって来ることができた。

「タルパちゃん大丈夫? どこかで休もうか?」

「いい……まだ行けるよ」

 タルパちゃんがバッグから魔力回復薬を取り出し、一気に飲み干す。極力魔力を温存させてあげたいけど、今の状況だとこれで手一杯だ。

 悔しい。

 自分だけじゃこの中は進めない。タルパちゃんに手伝って貰わなければ何もできない無力感に無性に腹が立った。


 ……。


 8階を通りすぎ、階段で屋上に出ると広い空間に出る。奥に祭壇のような建造物が設置された空間。その周辺には座席のような物も設置されていた。

 物陰から覗くと、祭壇の上に男女の探索者の姿が見える。志村さんとサリアさんがリザードマン達に羽交締めにされていた。

 彼らに向かって司祭のような服装をしたヤツがブツブツと何かを呟く。司祭もあのラムルザと同じ姿だ。深緑色の身体に頭のツノ……アイツも竜人のようだ。

 司祭が魔法を発動し、口元に魔法陣を出現させる。あの魔法……確か、ラムルザが翻訳魔法とか言ってたな。

「くそっ!! 離せ!!」

 志村さんが暴れると、押さえ付けていたリザードマンが彼の首を締め付ける。顔を真っ赤にして大人しくなった志村さんを見て、司祭は深くため息を吐いた。

「詠唱の邪魔をするな。にえ達よ、貴様らの運命は既に決まっておる」

「俺はそんな物には……」
「嫌ぁ……離してぇ……」

「貴様達はレベルポイントを溜め込んでおる。その能力、力、全て頂こう」

 そう告げると、司祭が両手を掲げて魔法名を告げた。

「レベルドレイン」

 志村さんとサリアさんの頭上に光の輪のような物が現れる。その光が2人を照らした瞬間、彼らの体からレベルポイント・・・・・・・の光・・が溢れ出した。

「ぐううぅぅぅ……」
「く、苦しい……」

 苦しみの声を上げる志村さん達、彼らは立っているのも辛いようで、地面に膝を付いた。司祭が冷たい眼で2人を見下ろす。

「これは……想像よりもずっと溜め込んでいたな」

 司祭の元に集まったレベルポイントの光。それが祭壇の上空へと飛んでいく。モンスターと同じように人間からもレベルポイントが取れるのか? にしてもあの量は異常だ。どう考えても数万ptは超えてる。

 上空に上がった光は、ウネリをあげて旧都庁の方へと飛んでいってしまった。

「はは。これで良い。我らがの復活はすぐそこだ」

 司祭が満足気に笑みを浮かべる。隣のタルパちゃんの体は、僅かに震えていた。

「な、何……あれ……なんでレベルポイントを……」

 タルパちゃん、怖いのかも……僕もだ、目の前で起きている事が現実なのか分からなくて、体が動かない。

 バタリと倒れ込む志村さん達。司祭がリザードマン達に向かって言い放つ。

「贄の役目は終えた。殺せ」

 マズイ。このままじゃあの2人が……!?

 必死に意識を引き戻してタルパちゃんの肩を揺らす。彼女が我に返ったように表情を変える。

「僕が気を逸らすからあのリザードマン達を」

「わ、分かった」

 タルパちゃんが両手に魔力を溜めるのを確認してダガーを構えた。考えろ。アイツらの中で司祭が1番立場が上のはず。アイツを狙えば……。

「ふぅ……行くぞ」

 覚悟を決めて飛び出す。

 座席を右に回り込み司祭に向かって全力で駆け抜けた。突然僕が現れた事で、奴らが面食らったような顔をする。自分が狙われていると気付いた司祭は慌ててリザードマン達に指示を出した。

「あ、あの小僧を捕らえよ!!」

「グア!」
「ググア!!」
「グアアグ!」

 よし、リザードマン達が志村さんから離れた!

夢想魔法レヴァリエ!!」

 タルパちゃんの声が聞こえた瞬間、前方に無数の魔法陣が浮かび上がった。その中から熊のぬいぐるみが射出される。高速で発射された無数のぬいぐるみが、リザードマン達を吹き飛ばした。

「グアアアア!?」
「ギャアッ!?」
「ググアアア!?」

「お、お前達何をやっている!?」

 司祭は完全に隙だらけだ。ヤツを人質にしてここから脱出してやる!

 ダガーを握りしめ、司祭に飛び掛かろうとした瞬間、頭の中に警告の声が鳴り響く。


 ──避げろ。後ろにいる。


 咄嗟に右に飛び退くと、先程まで僕が立っていた場所に剣が叩き付けられた。


「……!?」


「私がいない間に司祭を狙うとは……」


 目の前に現れた深緑色の肌に鱗。頭にある2本のツノに口元の2本の髭。リザードマンよりもずっと大きい体。ラムルザ……もう戻って来たのか。


「う……あ……」

 その右腕にはボロボロになったジャルムさんが掴まれていた。胸ぐらを掴まれたジャルムさんが逃れようともがく。しかし、ラムルザの強靭な腕は決してその手を離すことは無かった。

「ズィケル司祭。この男のスキルポイントもお使い下さい」

「おおラムルザ! 遅かったではないか!」

 ラムルザがジャルムさんを祭壇に放り投げる。助けに行こうとした所を、ヤツがロングソードで遮った。

「我らの邪魔はさせぬ」

 クソ……こうなったら、僕達に……。


夢想魔法レヴァリエ!!」


 タルパちゃんの声と共に大量のぬいぐるみがラムルザに発射される。その量は今までの倍以上だ。反射的に彼女の全力の一撃なのだと分かった。この量ならもしかしたらいけるかもしれない。

 しかし、僕の淡い希望は一瞬で潰えてしまう。


「くだらん技だ」


 ラムルザが剣を下段に構え、猛烈な魔力をロングソードに集約させる。

「ストルムブレイド!!」

 ヤツが剣を斬り上げる。放たれた斬撃。それはぬいぐるみ達を全て真っ二つに切り伏せ、タルパちゃんへと真っ直ぐ向かった。

「タルパちゃん!!」

「くっ!?」

 タルパちゃんが地面に飛び込む。その斬撃が直撃しなかった事に安心したのも束の間、彼女の頭上を通り過ぎた斬撃が突風を巻き起こし、彼女は屋上入り口の方へと吹き飛ばされてしまった。

「きゃあああああ!?」

「タルパちゃん!?」

「だ、大丈夫……まだ、やれる」

 立ち上がった彼女の脚は、ガクガクと震えていた。ダメだ。このままじゃ彼女まで……。

「貴様達はこの贄どもよりも弱そうだ。2人同時に向かってくるがいい」

 切先が僕に向けられる。先程から内なる声も「逃げろ」とだけ発していて、勝てる見込みがないのだと悟ってしまう。


 逃げるしか……。


 そう思った時、脳裏に昨日のタルパちゃんの顔が浮かんだ。秘密を打ち明けてくれた時の顔、似たもの同士だと言ってくれた時の顔が。


 ……。


「行けタルパちゃん!! ここは僕が何とかする!!」


 自分でも口にした内容に驚いた。僕も今すぐ逃げたいのに。だけど、僕の頭が必死に回る。どうやって彼女を逃すかを考え続ける。


「ダメだよ! シンくんだけ置いてくなんて私……」


 タルパちゃんは頑固で優しい。昨日だけでもそれは十分すぎるほど分かった。そんな彼女を逃す方法は……1つしかない。

 ラムルザを睨みつけたまま、彼女に向かって叫ぶ。


「僕達だけじゃ勝てないだろ!? 他の探索者を連れてきてくれ!!! 助けを呼ぶんだ!!」


「た、助け……?」


「地下だ!! 地下ルートをクリアした人がきっといるはずだ!! 頼む!! 行ってくれ!!」

 この数秒で彼女は判断するはずだ。地下の話は散々した。地上に他のルートが無い。なら、地下になら可能性がある……そう思わせないと。

「行け! この状況でタルパちゃんしかできないことなんだ!!」

 タルパちゃんに思考する時間を許しちゃいけない。冷静になってしまったら、僕が適当なことを言っていることに気付いてしまうから。


「みんなを助けたいんだろ!? 早く!!」


 タルパちゃんは一瞬黙り込んでしまったが、すぐに声を上げた。


「分かった。絶対……絶対戻ってくるから死なないで! シンくん……」


 彼女の走っていく音が聞こえる。これでいい。恐らく他に探索者なんていないだろう。タルパちゃんが逃げられれば、それでいい。

「……フン」

 意外なことに、ラムルザは僕らのことを妨害せずジッと見つめていた。

「己を犠牲に女を逃すか……中々肝が据わった小僧だ。貴様に免じてこの場は譲ってやろう」

「ならさ、その剣を納めて全員解放してくれないか?」

「馬鹿げたことを……あくまで貴様の覚悟を尊重したまでの事。貴様も、この場にいる物達も全員生かしては返さん。そのスキルは贄に、その命は我らが神へ捧げる」

「意味分かんないんだけど」

 ラムルザが僕を無視するように言葉を発する。

「貴様を殺した後、あの女を追う」

「なんだよそれ……あの子だけは見逃してくれよ」

「願いがあるなら奪うしかない。それがこの世の摂理。私から奪ってみせろ」

 ラムルザが剣を構える。ヤツの両眼から恐ろしい程の殺気が放たれた。全身にビリビリと電流が走る。内なる声が何度も逃げろと警告を響かせる。それを振り払って体勢を低く構えた。覚悟を決めろ。どのみちこのまま死ぬつもりはないんだ。


「やってやる。やるしかないんだ」


「本気で来い小僧!! 貴様が死ねばあの女は死の運命に囚われるだろう!!!」


 全身が震えるような声で、竜人の戦士ラムルザが咆哮する。


 勝てる見込みは無いはずなのに、僕は絶対に生き残らなければならないのに、僕はこの場に残っている。


 自分の中に矛盾を抱えながら、僕はラムルザへと踏み込んだ。
 



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